341.魔女様、新生アスモデウスに例のものを盛大にぶちまけるっ!
「貴様とはもう“終わり”だぁああっ! いい加減、“ケリ”をつけてやるぜっ!」
リリがまさかのナイスバディに変身して、私を襲ってきた件。
一瞬、裏切られたとは思ったけれど、私には分かる。
彼女は本物のリリじゃない。
リリの体を聖王様が乗っ取ったのだ。
「聖女の力を得た私は“無敵”だぁあああ! だらぁああアッ」
聖王様はそう言うと、彼女の背後に大量の黒い腕を出現させる。
その威力はさっきまで戦っていたから分かる。
私の今の力ではちょっと太刀打ちできそうにないんだ、あれは。
「シュガーショック!!」
私はシュガーショックに飛び乗ると、少しだけ間合いを開ける。
慎重に行かなければならない。
あの黒い手に絡めとられたら、死んでしまう。
それにしても、そろそろメテオたちが水晶を破壊する頃合いなんだけど。
ひょっとして、あっちでも何か起きたのかしら?
「貴様が生きていることには驚いた。しかし、テメーも分かってるだろ? もうあたしには勝てないって! そんな“シャバ僧”の姿じゃなぁッ!」
聖王様は勝ち誇って、こちらに挑発的な言葉を投げかける。
しかし、その口調はかなり妙だ。
聖王様とリリの口調が混ざっているというか。
先ほどの儀式みたいなのに不具合でも生じたんだろうか。
「そんなのやってみなきゃわかんないわよっ!」
私は聖王様をきっと睨み返す。
真っ向勝負じゃ負けるのは分かっている。
だけど、気持ちで負けたら終わりだ。
それに、私に勝算がないって誰が決めたの?
「ほざけえぇえええええっ! 生まれてきたことを後悔するがいい!」
激昂と共に、黒い腕がどんどん伸びてくる。
シュガーショックにしがみついた私はカバンに手を伸ばす。
そして、あるものをむんずと掴み上げるのだ。
「ヒゲ助、出番よっ! あの女にぶちかましちゃって!」
そう、うちの村の温泉プールの開発技術者、ヒゲ助である。
髭の生えた魚のような形状だが、水の精霊らしくて水の管理が上手い。
暇そうにしていたので連れてきたのだが、ここで役に立ちそうだ。
「ひぇええっ!? あの女でがんす!? あ、あれって仲間じゃないでがんす?」
「いいから、いいから! 焼き魚にするわよっ!」
「ひぃいい、やるっきゃないでがんすぅううう!」
ヒゲ助は混乱しながらも、私の命令の意図は分かったらしい。
すぐさま、彼(彼女?)はカバンの中からあるものを飛ばす!
しゅどぉおおおおっ!
ものすごい勢いの水流が聖王様に直撃するのだった。
「き、貴様、これは!?」
ずぶ濡れになって、なんともセクシーになった聖王様がうろたえた声をあげる。
彼女の周りにはしゅおおおっと湯気が立っていて、いかにも温かそうである。
そう、私は彼女にぶつけたのだ。
うちの村の温泉のお湯を!
私は過去に魔族がミラク・ルーの体を乗っ取ったことを覚えていた。
その際にこの温泉のお湯を使うことで引き剝がすことができたのだ。
うちの村の温泉はものすごい力を持っている。
シルビアさんの変装も解いたし、色んな魔法を無効化するのだ。
きっと、これでリリが戻ってくるはず!
「……ぐ、ぐぅううううう! こ、こんなものぉおおおっ、暗黒水晶の前には無力だぁああああっ!」
しかし、彼女の周りに黒い腕がどんどん絡みついていき、その体を黒く染め上げる。
それはまるで彼女を守るかのような振舞い。
いや、温泉の効能をかき消すような振る舞いだった。
「な、なんて人なの!? せっかくの温泉のお湯を無駄にするなんて!」
私は憤慨していた。
温泉のお湯にはすごい力があるのだ。
それを敢えてはねのけるなんて、絶対にやっちゃいけないことである。
「ほざけえぇえええええっ! あたしに“上等”コクんだら“10万年”早ぇーんだよ!!」
聖王様はお返しとばかりに巨大な腕を出現させる!
まるで私とシュガーショックを羽虫のように叩きつぶすような、そんな一撃を放つのだった。
シュガーショックは全力で回避行動に出る。
でも、これはもう間に合わない!?
うがぁあああっ!
私が恐怖に身をすくめた矢先、横から大きくて黒いものが飛び込んできた。
シュガーショックはそれに弾かれるようにして、直撃を免れる。
そして、私が目にしたのは床にぐしゃりと潰された、ハティの姿だった。
「う、噓!?」
そう、ハティは私をかばってくれたのだ。
それもおそらく、最後の力を振り絞って。
「愚かな駄犬がぁああっ! 貴様などもういらぬわっ!」
聖王様は自分の愛犬を手にかけてしまったというのに人でなしみたいなことを言う。
ショックを受けることさえないなんて、そんなの絶対におかしい。
「あんたねぇ……!!」
正直、私はその言葉に自分の内側の大切なものがキレるような感覚を覚える。
ハティはきっと聖王様を止めようとしたのだ。
それなのに。
そもそも、犬を殴って躾けるなんて絶対ダメ!
暴力は絶対にダメ!
「ぐ………!?」
怒りを爆発させて、聖王様にいい感じの一撃を与えようとした矢先、私は胸の苦しさを感じる。
これは、この感覚はクサツ魔導公国で意識を失った時と同じような感覚。
歯を食いしばって耐えるものの、身動きができない。
「ははは、力尽きたか! やれぇええええっ!」
目の前に迫りくるのは真っ黒い腕、それも尋常じゃない数。
私は口の中から火炎を吐こうともがく。
だけど、もう遅い。
これで私の歩みも終わりなのかな。
意識がもうろうとする中、私の心にあきらめの言葉が浮かんでくる。
「ぐ…………」
黒い腕が私の体を掴み上げる。
呼吸が止まり、全身の骨が砕けそうだ。
その時だった。
私は確かに聞いたのだ。
「ねぇ、私を殺して? あなたを出してあげるから」
そんな言葉を。
◇ ドレスたち、危ういながらも善戦します!
「燃え吉、カルラ、一旦、あの気持ち悪い腕をやっつけてくれっ! メテオは安全な場所に退避しろっ!」
ここはドレスたちのいる暗黒水晶の間。
水晶の破壊工作を任された彼女たちであったが、思わぬものに遭遇する。
ヒビの入った水晶から無数の黒い腕が現れたのだ。
ドレスは水晶の破壊をいったん止めると、黒い腕の排除を伝える。
「ヒャッハー! 喰らうでやんすぅううううう!」
「死ね」
相手の力がどんなものかわからないが、炎と冷気を操る二人に死角はない。
黒い腕はあるものは燃え尽き、あるものは凍り付き、その数をどんどん減らしていく。
「うっそやん、何あれ?」
しかし、彼女たちは目にするのだ。
黒い腕が集まり、巨大な腕を形成するのを。
直径数メートルの悪意の塊。
それはまるで魔神の腕のように黒光りしていた。
「地獄炎!」
「氷の監獄!」
燃え吉とカルラはそれぞれの最大火力で腕を攻撃する。
これまでの黒い腕ならば、消し炭も残らないはずの技だった。
しかし、効いている様子はない。
それはまっすぐにドレスへと向かう。
彼女が司令塔だと理解しているかのように。
「ドレス、逃げな!」
「ボス、避けるでやんす!」
メテオと燃え吉の絶叫が響く。
ドレスの目の前には黒々と光り輝く巨大な手。
もはや逃げられまいとドレスは死を覚悟する。
「お待たせですっ!」
「にゃはは、楽しそうなのだっ!」
そんな時だった。
二人の剣士が、がきぃんっと黒い腕をいなすではないか!
「ハンナ! クレイモアも!?」
ドレスを間一髪助けたのは、ハンナとクレイモアの剣聖コンビだった。
魔地天国温泉帝国の破壊の二大巨頭。
人呼んで、爆剣姉妹の登場である。
「暁の光よっ! 邪悪な敵を打ち倒せっ!」
「にゃははは、激々打破!」
二人は黒い腕との猛烈な打ち合いへと移行する。
先ほどまでは傷一つつけられないと諦めていた黒い腕も、徐々に削れていく。
特にハンナが光を放つと黒い腕はもろもろと崩れていく。
「燃え吉、カルラ、作業再開だっ! やっちまえっ!」
ドレスはここを勝負と大声で叫ぶ。
剣聖二人が黒い腕をひきつけている間に水晶を破壊するのだ。
この時しかない。
ここで失敗したら、全てが終わる。
「ひぃいいい、頼むでホンマ」
「クレイモア様……」
その様子を愕然としながら眺めるメテオ。
クレイモアの活躍に頬を赤らめるハマスなのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「温泉のお湯が効かないだとっ……!?」
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