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340.ハンナ、クレイモア、それぞれの戦い。そして、あの奴らがやってくる



「†なかなかやるようになったではないか†」


 ここは聖王国の宮殿とホールをつなぐ地下通路。

 ハンナは黒ずくめの男と対峙していた。

 その名はシレン・ザ・ダークネスIII世。


 仰々しい名前を名乗っているが、その腕も一流。

 絶人の域に達した攻撃を見せるのだった。


「魔女様の聖戦士は、同じ相手に二度、負けることはないですからっ!」


 それに対するは先日、暁の剣聖として目覚めたハンナである。

 彼女は空間を超越した攻撃をギリギリのところでいなし続ける。


「†見事な身のこなしだ。しかし、逃げているばかりでは勝つことはできないぞ?†」

 

 ハンナの体さばきは見事という他なかった。

 常人であれば瞬時に輪切りになるであろう攻撃をひらりひらりと避けるのだ。

 

 しかし、シレンに攻撃を当てることはできないでいた。

 シレンはハンナの体術を褒めてはいるが、彼の使うスキルには遠く及ばない。


「ま、負けませんよっ! それなら、こんなのはどうです! 暁の閃光(モーニングブラスト)!」


 ハンナは態勢を低くとると、そのまま地を這うように駆けていく。

 下段からの急所を狙った直線的な攻撃。

 

 しかし、彼女の俊足と、全身からほとばしる光によって、その攻撃は不可避のものになる……はずだった。


「†くくく……、影がないのなら作ってやればいいだけのこと†」


 シレンは軽く呟くと、マントを宙に放つ。

 そして、その刹那、天井の黒い影の中に身を移動させるのだった。


 それは空間を断ち切る禁断のスキル。

 そのスキルはシレンの剣技をもはや誰も追いつけないものへと昇華させていた。

 

「†娘、消えるがいい。俺はアスモデウスを守らなければならない。それが俺の契約だからだ†」


 シレンはハンナと距離を取り、低い声で話す。

 彼は戦闘狂ではあるが、殺人狂ではない。

 誰彼構わず殺したいわけではないのだ。


 もっとも、彼の判断は、ハンナを逃げさせることでより強く成長させ、極まったところで勝利したいという気持ちが主であったが。


「こんなところで……」


 呼吸が荒くなり、ハンナの肩が揺れ始める。

 技を出し尽くし、こちらの攻撃のチャンスはあとわずかだ。


 一方のシレンの呼吸は開戦前と何も変わらない。

 剣士としての技量、経験、全てが上回っていた。

 


 どがぁしゃああああああんっ!


「見つけたのだぁああ! おっさん、尋常に勝負!」


 あわや決着かという時である。

 地上につながる階段の扉を破壊して、一人の少女が乱入してきた。


「ク、クレイモア!?」

 

 ハンナは目を丸くして驚いてしまう。

 土煙の向こう側には、クレイモアが立っていたからだ。

 

 圧倒的な膂力を誇る彼女であるが、シレンに敗れて負傷していたはず。

 それなのに聖王国に攻め込んでくるとは予想外の出来事だ。


「ハンナ、ざまぁないのだな! そのオッサンに負けそうなのだ! にゃはは」


「う、うっさいですよ! あなただって負けたじゃないですか!」


「ふふん、あたしは死ぬまで負けない女なのだっ!」


「ずるいですよ! それ、私と同じじゃないですか!」


 シレンのことなどそっちのけで言い争いを始める二人。

 そう、ハンナとクレイモアは相性があまりよくない。

 事あるごとにぶつかるし、いがみ合うし、取っ組み合う。

 これまではサンライズが手綱を握っていたのだが、今はほとんど野放しである。


「†悪いが、時間がない、消えてもらうぞっ? 業断カルマブレイク ―解き放たれた絶望(レ・ミゼラブル)―†」


 そんな二人に突如攻撃を仕掛けるのはシレンである。

 もっとも彼に二人の喧嘩が収まるまで待ってやる必要はどこにもなかった。

 

 彼は己の姿を分身させると、一気に勝負を畳みかける。

 自らの分身体を作り出す絶技によって、相手が二人に増えることは何の問題もなかった。

 シレン相手に数に頼む戦法は意味をなさないのである。


「クレイモア、一時休戦ですよっ!」


「ぐむむ、このオッサンを倒す方が先なのだっ!」


 ハンナとクレイモアは二人そろって斬りかかってくる剣士と戦う。

 シレンの攻撃はそれぞれが重い。

 膂力で劣るハンナはもちろん、手数で劣るクレイモアも防戦一方だ。


「……クレイモア、私、何よりも負けるのが嫌いなんです」


「奇遇なのだ、あたしもなのだよっ!」


 このままではまずいと判断した二人は目配せをする。

 お互いの意地を捨てて、連携をとらなければならない。


 それも、絶技も言える技に対応するための連携を。


 二人は背中合わせになり、お互いの背中を合わせることにした。


「ハンナ、攻撃はあたしが防ぐのだっ! カウンターは任せるのだよっ!」


 クレイモアはその大剣を活かして、シレンの攻撃を防ぐことが可能だ。

 どんな剣士も攻防が切り替わる一瞬に、集中力が途切れることがある。

 たとえ、シレンの集中力が尋常でなくとも、それは例外ではなかった。


「了解です! 癪ですけど、したがってあげますよっ!」


 その一瞬の隙を狙って、ハンナの剣が閃光のように繰り出される!


 結果は凄まじく、彼女たちは一体、一体とシレンの分身を葬ることに成功するのだった。

 お互いを信頼し、背中を預けた二人に敵はいない。

 そう思わせるようなコンビネーションだった。


「ふふふふ、黒ずくめさん、今度はこっちがチェックメイトする番ですよっ!」


「悪いけど、ぐーでぶっ飛ばすのだっ!」


 ハンナとクレイモアは分身体を全て斬られたシレンに剣をつきつける。

 彼女たちは確信していた。

 このまま、難なく勝てるということを。


「†ふっ、舐められたものだな。それなら貴様たちに本当の悪夢を見せてやろう†」


 しかし、シレンは一向にひるむ様子がなかった。

 彼は鞘に剣を収めると、両手を広げて、ゆらりゆらりと踊りだす。

 黒ずくめの男による、摩訶不思議な舞踏である。

 

「何やってるのだ? おっさん」


「命乞いの舞でしょうかね?」


 それは美しくもなく、そして、脅威も感じられないものだった。

 ハンナとクレイモアは首をかしげるばかりである。


「†ふはははは、愚か者めが! これぞ、俺の精神汚染スキル、暗黒記憶の舞(ダンサーインザダーク)! 貴様らのトラウマを掘り起こし、この場で体感させる絶技だ†」


 そう、シレンはただ酔狂で踊っていたのではない。

 彼の舞自体が一つの攻撃だったのだ。


 舞を見たものは回避不能な怒涛の精神攻撃。

 トラウマとなるような記憶を瞬時によみがえらせ、それを巨大化させてつきつけるのだ。

 

 人は生きていれば様々な悲劇に出会う。

 おしゃれな物語かと思っていたら、心をえぐってくる何の救いもないものだったりする。


 シレンの放つのはいつまでも心にトゲを残し続ける、トラウマを巨大化させる絶技だった。

 一般人であれば、頭を抱えて叫び、やがて失神するものだった。


「はて? 何ともありませんね?」


「あいつ、嘘ついてるのだ、きっと」 


 しかし、ハンナもクレイモアも一般人ではなかった。

 二人にはトラウマを形成するような、反省する心、後悔する心、過去を悔やむ心がなかったのだ。

 もっと言えば、トラウマを形成するような高尚な脳みそではなかったのだ。


「†な、なんだと!? そんなはずはない! 貴様らにはないのか、夜中にベッドの中でもだえ苦しむような負の記憶が!? こんなはずじゃなかったと奥歯を噛みしめる瞬間が!?†」


 これにはさしものシレンも驚きを隠せない。

 もっとも彼は気づいてはいない。

 今の彼自身が、相当、黒歴史そのものであるということなど。 


「とりあえず、黙っててください!」


「とりあえず、グーで殴るのだ!」


 二人はお互いに頷きあうと、舞を踊り続けるシレンに攻撃をくらわす。

 シレンは「†待て、俺にはまだ第二形態が†」などと言いながら、吹っ飛ばされるのだった。


 ハンナもクレイモアも知らない。

 相手が話し終えるまで待つことなど。


 かくして剣聖同士の対決は、不完全燃焼ながらもハンナたちの勝利となったのだった。



◇ あいつら、やってくる


「ひどい目に遭ったのぉ。貴様、どうして抑えられんのじゃ。おかげでわしまで指名手配ではないか!」


「しょうがないだろう。売られた喧嘩は買わざるをえないのだからな!」


「とはいっても、正規軍とぶつかるやつがいるか!」


「あのデューンとかいう魔族とやり合いたかったのに、貴様が邪魔をするから……」


 ここは魔族領の一角。


 剣聖のサンライズとリース王国の女王であるイリスは第三魔王国を旅していただが、イリスの暴発のせいで散々な目に遭っていた。

 イリスはそれでも暴れたりないと欲求不満の様子である。

 二人はやむなくクサツ魔導公国の方向に向かったのだが、そこで奇妙な一団と遭遇する。


「お、お前ら、何してるね? ……あんた、変装してるけど、サンライズなのね! そっちの怪しいダークエルフは何者なのね!?」


 吸血鬼のアリアドネが軍勢を率いて侵略を開始しようとしていたのだ。

 彼女は先日の先遣隊が敗走してきたのを受けて、十分な戦力を従えていた。

 

「……やってしまえ」


「ぬははは、ストレス解消にもってこいだ!」


 サンライズはイリスにゴーサインを出す。

 やにわにイリスはアリアドネに突撃をかますのだった。


「聖王国が何やらやっておるらしいのぉ」


「ふふふ、あっちで暴れてやる」


 イリスはにやりと笑うのだった。



◇ 胎動する暗黒蝶


これまでにたくさんの願いをかなえてきた。


だけど、私の願いだけはかなっていない。


私を誰かが解き放とうとしている?


少しだけ感じる温かい光。


いや、これは熱だ、誰かの。




「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「あの映画、まじで凹むっ……」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 黒歴史…模型作りながら誰に聞かせるわけでも無い解説(うんちく)を聴かれたりすることかな?
[一言] 少し前にクレイモアの仇って死んでもないのに言われたからクシャミでもしてるかと思えは(ʘᗩʘ’) 噂を聞きつけて本人がやって来たぞ(゜o゜;
[一言] >いや、これは熱だ、誰かの。 一体どこの魔女様なんだ…
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