34.魔女様、メテオの妹の猫耳娘と対面する
「うちはメテオ姉の妹のクエイクっていいます。いやぁ、ホンマに死ぬかと思った! でも、うちの家訓は生きてるだけで丸もうけやし、結果オーライやんな!」
「よう言うた! お前の言う通りや! さすが、うちのかわいい妹!」
犬の騒動が一段落したので、私たちは場所を屋敷に移す。
目的はもちろん、メテオの妹さんであるクエイクとの歓談だ。
クエイクは猫人の女の子で、髪の毛はメテオよりも暗めの茶色。
それ以外の部分はメテオとそっくりで、話し方のアクセントから顔つきまでうり二つといっていい。
目が大きくてまつげが長くて、姉妹そろってかわいいって反則じゃん。
体型もメテオと似た感じで、出るところが出てて非常に羨ましい。
小柄なのにメリハリのある体型って猫人の特徴なんだろうか。まさに小悪魔。
仲良し姉妹らしく二人がじゃれ合っているのを見ると、非常になごむ。
かわいい。
「助けていただいて、ありがとうございました! ほんまに感謝してもしきれません!」
クエイクは「いぬ」から助けてもらったことを心底感謝しているらしく、私の手をぎゅっと握って感謝の言葉を伝える。
いや、そこまでのことはしてないけどね。
私は肉を焼いて食べさせただけだし。
とはいえ、こうもダイレクトに感謝されると、素直に嬉しい。
可愛い子にちやほやされるのは悪くないよね。
「……って、お姉ちゃん、あざがホンマになくなってるやん! どういうこと!? 移動したんか?」
「あがががが、ほっぺたひっぱるな! あざが移動するかアホ!」
クエイクはメテオのほっぺたを引っ張りながら、あざがどうのこうの言っている。
騒がしいのは姉妹とも同じらしい。
「だから、手紙で言うたやろ! ここの温泉に入ったらなくなったんやって!」
「うっそぉお! だって、あれって呪われた道具の特級の呪詛だったやん!」
呪い、呪詛……って、どういうこと?
詳しい話を聞いてみると、メテオのほっぺたについていたあのアザは普通の怪我ではなく、呪われた道具を不用意に開封したことで発生した呪いの跡だったらしい。
一般的に呪詛は教会にいるヒーラーさんや浄化魔法の心得のある人にとってもらう。
だけど、メテオについたアザは特殊な呪い、それも魔族由来の呪いだったらしく、どんな奇跡も受け付けなかったらしいのだ。
ふぅむ、呪いの解除ね。
うちの温泉にそんな力まであったとは。
ぐふふ、ビジネスチャンスのにおいがしてきたわ。
「あの時はお姉ちゃんがうちをかばってくれたんやよなぁ。ホンマによかった……」
「ちょっと、泣くとか、あかんって、うちもそういうの弱いんやから。ちょっとぉおお」
お金儲けにほくそ笑んでいる私の横で、姉妹愛を発揮してえぐえぐと泣きだす二人。
あのアザは二人にとって大きな痛みになっていたんだなぁ。
人様の役に立ててよかったと自分の温泉を少しだけ誇らしく感じる。
「……って、すみません! うちだけ話してしもて。恩人様になんて失礼なことを!」
「いーよ、いーよ。まずは二人とも積もる話もあるだろうし、長旅で疲れただろうから温泉に行ってきたら?」
泣きはらした目のまま、平謝りに謝るクエイクをみて、私はそう提案する。
おそらくは何かの用件のためにこの村に来たのだと思うけど、疲れていたら判断力も鈍る。
しっかりとリラックスするのも大事だ。
「おぉっ、ええな! そんなら、いくで、クエイク!」
「えぇっ、今から!? 大事な用件を伝えなあかんのやけど!? ちょっとぉおおお」
強引なのはメテオのほうが上らしく、クエイクはそのまま温泉に連れ去られていった。
◇
「温泉、最高でした! めっちゃ、におうから死ぬ、殺される、あの魔女の人と笑い女、許さんって思ったんやけど思い過ごしでした!」
「こらこら、言いすぎやで。卵の腐った臭いとか思ってても言ったらあかんで」
「だってぇ、最初はそう思っちゃうやん」
「どうしてこんな泥沼に入らなあかんねんとか、口が裂けても言ったらあかん。あと、お姉ちゃんのこと笑い女って呼んでるの素直にショックや」
お風呂上りにさっぱりとした顔つきになったクエイクが温泉の感想をまくしたてる。
明らかに血色もよくなって体力も回復したようだ。
先ほど以上に声にハリが出ていて、メテオと合わさるとちょっとうるさいレベル。
「それにしても、めっちゃ驚きました。まさか禁断の大地に村が残ってるなんて! 姉から手紙が届いた時には目を疑いましたもん。こんなん新手の投資詐欺やと思いましたから」
「こら、失礼なこと言わんとき!」
「だってぇ~、そんなん信じるほうが普通ちゃうやん、禁断の大地やで?」
「こんな辺境の土地は人間を超越した化け物しか住めへんとか、絶対言っちゃあかんで」
「いや、それは当たらずといえども遠からずやん? お姉ちゃんもモンスターみたいになってもうてんやん。ほら、耳と尻尾が生えてきてんで化け猫みたいに」
「って、誰が化け猫や!? クエイクだってそうやんか」
会食を始めると、彼女は勢いよく話し始める。
メテオはさきほどからツッコミを入れるけど、自分のほうがよっぽど失礼なことを言っている気もする。
化け物しか住めないわけじゃないし、私みたいに普通の人だってたくさんいるし。
村長さんとかハンナとかはちょっと人外寄りだけど。
「それで、お姉ちゃんに頼まれていた冒険者の手配やけど、辺境手前の街まで来てもらってるで。うちは先行して探索に来たっちゅうわけや」
「おぉっ、仕事が早いな! さすがは優秀な妹や! えらい、えらい」
「へへへ〜。もっと褒めてんか。褒めても減らんやろ」
「あぁ、かわいい妹やで」
「ぎゃぁあー、ちゅーとかしてくんな! せっかくお湯に入ったのに、ばっちいわ!」
本当に騒がしい二人である。
放っておくと何時間でもおしゃべりしてそうだ。
◇
「えー、ごほん。それでな、経緯を説明すると……」
メテオの話によると、村まで来てくれる冒険者を勧誘するために、郷里にすむ妹に手紙を送っていたとのことだ。
クエイクはメテオの話を信じて、10人程度の冒険者を辺境間際の都市に集めているとのこと。
10人ってすごいな、人口100人のうちの村からすると、かなりの人数に思える。
まずはその冒険者たちに辺境の村をアピールしようっていう作戦らしい。
「辺境間際といいますと、リース王国のヤバス地方ですか? それとも、ザスーラ連合国のサジタリアスでしょうか?」
「そりゃ、うちらはザスーラ出身ですし、サジタリアスです! そもそも、リースに入るには手続きがめんどいし」
ララはクエイクから辺境に入るまでの道順を聞きだす。
地図を広げてみると、たしかにリース王国から辺境に入るよりも、ザスーラを通った方が近いようだ。
サジタリアスって都市は行ったことはないけれど、比較的人口の大きい防衛都市だった気がする。
たしか有力な辺境伯が治めているとか。
「それにしても、ここは暖かくてびっくりしたぁ! ザスーラは全体的に冷夏でえらいことになってます。今年は食べ物が足りひんちゃうんかって。ひぃい、このトマト甘い!」
クエイクはテーブルの上に差し出された食べ物を片っ端から平らげていく。
キャットピープルなのに野菜も食べるんだなぁとちょっと感心する。
「せやなぁ、今年の冬は大変なことになるで。誰かさんはともかく、ホンマに気候だけはどうにもならへんからなぁ。実家のほうもきっついやろうな」
メテオはふぅと溜息を吐いて、本国のことを思い出している。
私は勘当されて未練なんてほとんどないけれど、彼女の家族は向こうにいるのだ。
食糧不足だなんて言われると、気にしない方がおかしいよね。
「うちの領主様は優秀やから、この村は農業もさかんやし、獲物も有り余るほど取れるんや。魔物の素材もめっちゃとれるから、冒険者にもそこんところよろしゅう言っといて」
メテオは私の顔を見て、ふんすと鼻息あらく胸を張る。
人前で優秀だなんて言われると、ちょっと恥ずかしい。
それほどのことをしてるつもりはないんだけど。
「まかしとき! この村のすばらしさを宣伝したる! にゃはは、ご飯が美味しい!」
クエイクはそう言うと再び、食事にかぶりつくのだった。
彼女は温泉で体調が戻ったらしく、一晩明けると、サジタリアスに冒険者を呼びに行くという。
うーむ、姉妹そろってすごいバイタリティ。
とはいえ、ちょっとおっちょこちょいな気がしたので、私は彼女に護衛をつけることにした。
【魔女様の人材】
・クエイク・ビビッド:猫人族の商人。メテオの妹で外見はよく似ているが、髪の色が異なる。人を見る目があり、人物鑑定を得意とする。禁断の大地に一人で出向くなど、バイタリティもある。
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