339.魔女様、とんでもない所で裏切りに遭う。許すまじ! 一方、その頃、ドレスたちは
「貴様ら、私の、一世一代のステージを邪魔しおってぇえええ!」
「ほざけっ! カチ割ってやんゾ!? そのドタマぁ! それからしっかり癒してやる!」
黒い犬を助けようとしたら、一番会いたくない人に遭遇した件。
私の目の前には舞台を邪魔する私たちに激昂する聖王様。
それをものすごく陰険な目つきでにらみつけるのは、リリである。
威勢がいいのはいいことだけど、すごく口が悪い。
リリはシュガーショックに乗るとものすごく大胆になるみたいだ。
「まぁいい、探す手間が省けたというものだ! リリアナよ、おとなしく私のものとなるがいい! ハティよ、あの娘を捕獲せよ!」
聖王様が命令を下すなり、ハティはこちらに飛びかかってくる。
その動きはまるで黒い稲妻。
今の私では目視することさえできず、反射的に体をすくめるのみだ。
「シュガーショック、お願い!」
しかし、こちらにもシュガーショックという聖獣がついている。
白銀の体毛につぶらな瞳。
だけど、その体躯は何よりも力強い!
ごがぁあああああっ!
シュガーショックはハティの体当たりを真っ正面から受け止めると、そのまま乱戦に持ち込んだ。
「ひきゃあああっ!?」
リリはシュガーショックに乗っていたのだが、急発進にどうやら振り落とされたようである。
後ろの方で尻もちをついていた。
「リリ、この隙に逃げるよ!」
私は彼女を起こすために駆け寄る。
決定的な戦力がない以上、ここはシュガーショックに任せるしかないわけで。
「そ、それが、ユオ様、腰が抜けてしまって……た、立てないんですぅうう」
「ま、まじでぇ!?」
しかし、である。
リリはここ一番で元のリリに戻ってしまっていた。
目には涙を浮かべて、がくがくと体を震わせる。
子どもの私じゃ抱き起せないし、どうすりゃいいの!?
「ふははは、何だ? さっきまでの威勢はどうした?」
聖王様は高笑いをしながら、こちらへとやってくる。
「……ん? なんだ、この小娘は? あの灼熱の貧相な女とそっくりではないか?」
そして、この女、またも私のことをバカにしてくれたのだ。
貧相な女ですって!?
私、あんたのこと、ちょっとは同情してあげてたっていうのに!
少しだけ、イラっとしてしまう私である。
お行儀悪いけど、口から炎を吐いちゃおうかしら。
「そんな影武者など用意しても、もう遅いわ! ……暗黒水晶よ、私にサジタリアスの聖女を与えよっ!」
彼女は両手を大きく広げる。
その背後には真っ黒い渦巻。
前回、彼女と戦った時に見たものとそっくりなものであり、そこからにょきにょきと無数の黒い腕が伸びていく。
「ひきゃあああ!? た、助けて」
「リリ!? こんのぉおおおおっ! あんぎゃあああっ!」
私はリリの方向に伸びた真っ黒い腕を例の口から出す炎でやっつける。
しかし、いくら私の炎が強くても、それは一部の腕をかき消すだけだった。
聖王様の生み出した腕は無数ともいえる数だったのだ。
残りの腕はリリの方向へ一直線に向かう!
このままじゃ、間に合わないっ!?
「がうるぅううううううう!?」
その時だった。
予想もしていないことが起きた。
シュガーショックと戦っていたはずのハティがリリに覆いかぶさったのだ。
まるでリリをかばうかのような態勢で。
「貴様、まさか、灼熱の魔女かぁああああっ!? あの女を殺せぇえええっ!」
しかし、聖王様の攻撃には続きがあった。
そう、彼女は分かってしまったのだ。
私の正体を。
「ひ、人違いですよぉおお!? 他人の空似ですよぉぉおおお!?」
「嘘をつけっ! 口から破壊光線を放てる化け物が他にいるかぁああああっ!」
聖王様は絶叫しつつ、私の方にも黒い腕を伸ばす。
その目的は私の捕縛ではない。
私の抹殺だ。
この人、本当に性格悪い。
私のことを口から炎を出すだけで化け物扱いするだなんて。
も、燃え吉だって口から炎を出すんですけど! あいつは人間じゃないけどっ!
「シュガーショック!」
黒い腕の間を縫うように走ってきたシュガーショックに乗りこむと、私は聖王様としばし距離を取る。
このままじゃいけない。
ハティはリリに覆いかぶさったまま、身動きが取れないでいる。
どうにかあの黒い腕を崩壊させなきゃ、私がここに来た意味がないじゃん!
それに、私のことをバカにしてくれたお礼をしなきゃ!
「あんたなんかぁあああああっ!」
私の背骨に強烈な熱を感じる。
お腹からせり上がってくるのは異常な熱量。
次の一手は私にとっての最大の一撃。
お行儀悪いし、何が起こるか分からない。
だけど、あの黒い腕にはこうでもしなきゃ勝てる気がしない。
最悪、この宮殿ごと消し飛ぶかもだけど、そうなったら本当にごめん。
「させるかぁああああっ! 永遠の揺り籠!」
聖王様が叫ぶと、黄金色に輝く鳥の羽がひらひらと舞い踊る。
それはまるで夢のように美しい光景。
しかし、その羽に触れた矢先、私は私は不覚にも眠気を感じてしまう
あと数秒で点火というタイミングだったというのに。
そう、彼女が生み出したこの美しい光景は彼女の魔法か何かだったのだ。
私を沈静化させ、眠りの中に落とし込むような。
「ふはははは、この術は貴様が老衰するまで解けぬ! 眠りの中で朽ち果てるがいい!」
聖王様の高笑い。
シュガーショックでさえも眠気を感じるのか、ふわぁとあくびをするのが見える。
私がもしも本来の姿だったら、熱鎧でどうにか守れたと思う。
だけど、子どもの私は魔法防御力が極端に低い。
ここにおいて、決定的な弱点が顕わになってしまった。
「ユオ様? に、逃げてくださいぃ!! 私を置いて、すぐに!」
凄まじい眠気の中、リリの叫ぶ声が聞こえる。
見上げれば、彼女は黒い腕に掴まれて聖王様に差し出されていた。
黒い腕に掴まれた彼女は四肢を拘束され、身動きはもはやできない。
そう、それはまるで生贄のような扱いだった。
それなのに私の心配をするなんて。
「暗黒水晶よ、聖王国民の祈りを喰らい、我の願いを叶えよぉおおおおっ!」
聖王様が叫ぶと、真っ黒い腕は巨大な二つの手を形成する。
一つの手のひらにはリリを、もう一つには聖王様をそれぞれ立たせる。
そして。
ばちぃいいいいんんっ……。
変な音をたてて、その両手はぴたりとくっつく。
リリと聖王様をどっちもぺしゃんこにするかのような、そんな勢いだった。
だ、大丈夫なの!?
「う、うそぉ……」
聖王様の魔法が解けたのか、私はなんとか起き上がる。
だけど、目の前には巨大な両手が合わさった、なんとも不気味なオブジェクト。
シュガーショックは唸り声を上げて、それをにらみつける。
一瞬の静寂の後、その両手は光を伴って開き始める。
真っ黒な手の中のまばゆい光。
目がくらみそうになり、思わず腕で光を遮る。
「リリ? リリなの?」
光の中から現れたのは、リリ、だった。
桃色の髪の毛で、私の頼りがいのある仲間の女の子。
そして、村では私と一緒に数々のミッションに取り組んでくれる魂の姉妹。
「ふはははははは、成功だ! 今夜…… “たった今から”……“アタシ”が……“聖女”だ……!!」
しかし、その様子は明らかにおかしい。
口調の中に邪悪さがのぞいているというか。
それに何よりおかしいのは、彼女の姿が大きく変わっていたこと。
顔つきはいつものリリなのだが、何ていうかすごく大きかった。
腰は引き締まっているのに、胸もお尻もしっかりしていて、背もだいぶ高い。
まるでクレイモアみたいな体型と言うか。
リリ、すごく……大きいです……。
「……リリ、裏切ったっていうの?」
その姿に戦慄しながら、私はつぶやくのだった。
◇ ドレス一行、力を発揮して暗黒水晶を封じ込める?
「着いたぜ! ハマス、ありがとよっ!」
ここは聖王アスモデウスの宮殿。
ハマスの手引きによる効率的なルート作成と、クレイモアが攻めてきたことによる混乱。
その二つが重なって、彼女たちは難なく目的の場所へと到着していたのだった。
それは即ち、聖王アスモデウスの最大の秘密。
暗黒水晶の浮かぶ部屋である。
メテオは得意の鑑定の力を発揮して、さっそく宙に浮かぶ真っ黒い水晶の正体を探る。
これが一体どういうものなのか判明しない限り、破壊のしようがない。
迂闊に手を出すと、思わぬしっぺ返しを喰らうこともよくあることだ。
「鑑定結果が出たで! こいつは魔族由来の封印結晶や! こんなでかいの見たことないけど、ドレスのやり方で行けると思う」
メテオの鑑定結果は高位魔族による封印結晶。
どうしても倒せない敵を水晶の形にして封じ込めるというものだ。
「封印結晶だと!? ふざけるな、こんな巨大なものがあってたまるか!」
ここで声を荒げるのがハマスである。
彼女は過去に封印結晶を目にしたことがあった。
だが、その時に見たものは手のひらサイズであり、それが一般的なものとされていた。
それがどうだ、目の前にそびえるのは、高さ数メートルの真っ黒い結晶である。
結晶のサイズは封印された何ものかの魔力に拠っていることを考えれば、とんでもないものが封印されているのは嫌でもわかる。
「せやなぁ、こんなん市場に出したら偉い高値がつくわ」
メテオはいつもの軽口を叩くものの、その表情は硬い。
彼女もまた、目の前の異物に戦慄してしまうのだった。
「驚いててもしょうがねぇ! やるっきゃねぇだろ! 燃え吉、カルラ、作戦通りに行くぜっ!」
ここで気を吐くのがドレスである。
彼女たちには時間がないのだ。
ユオの姿を元に戻し、聖王アスモデウスの力を削がなければ自分たちに勝機はない。
「やるでやんす!」
「殺す気でやる……」
燃え吉とカルラは前もって決められた配置に立ち、ドレスからの号令を待つ。
それは即ち、暗黒水晶の破壊の合図である。
「メテオ、ハマス、やばくなったら二人だけでも逃げろよっ! 安全確認ヨシ! 燃え吉、カルラ、始めるぜっ!」
ドレスは大きな声で号令を出す。
安全確認などというが、安全の保証など一切ない。
「あっしからでやんすぅううううう!」
先陣を切るのは燃え吉だった。
ユオの姿を模したその人形は口から大量の炎を吐く。
それはかつてユオと戦った時に発した、地獄炎にも似た青い炎だ。
並みの魔物ならば一瞬で灰にしてしまうような、凶悪無比の炎である。
「よぉし、十分に熱されたぜっ! カルラ、やってくれっ!」
次の攻撃はカルラによる冷却攻撃だ。
彼女の攻撃は自身の膨大な魔力を冷気に変えて対象を冷やすこと。
温めて、冷やす。
ドレスの作戦とは非常にシンプルなものだった。
しかし、シンプルであるがゆえに、まず間違いなく、亀裂をいれられると確信していた。
亀裂が入ったら、後はどうにでもなると彼女は踏んでいた。
もっとも、水晶がいつ爆発してもおかしくない作戦だったが。
ぴし…………きし…………
過熱と冷却を何度か繰り返すと、黒い結晶が音を立て始める。
氷河に亀裂が入るような不穏な音だった。
「これならいけるぜっ!」
「もうひと踏ん張りやっ!」
ドレスとメテオの二人が声をあげた瞬間だった。
水晶に入った亀裂から、真っ黒い腕が現れたのは。
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