338.魔女様、いよいよリリの救出に向かいます! そこに現れたのはあいつだぁああっ!
「聖王様ぁあああああ!」
階段を上った先、私が目にしたのはとんでもない光景だった。
拳を振り上げ、歓声を上げる老若男女の人々。
その視線の先には、あの聖王様がいた。
しかも、フリフリの衣装の聖王様である。
ミニスカートから除く脚はすらっとしていて、健康的で美しい。
「みんなぁああ! ありがとぉおおおお!」
一方の聖王様はステージの上で歌って踊る。
彼女の歌声は想像以上に本格派。
人々は魔法にかかったかのように夢中で応援。
私は何を見せられてるんだろう。
「な、なにこれ?」
場違いな光景に絶句する私。
もっとこうドロドロした悪魔集会みたいなのをイメージしていたのだ。
観客たちは手にヘンテコな形の板を持っていて、それを聖王様に向かって差し出している。
いや、よく見てみると、「こっち向いて」、「バーンして」、「3秒彼女になって」など文言が書かれている。
もしかして、観客からのメッセージか何かなの?
私は周辺の熱気に溶け込むようにしながら、周囲を探ることにした。
ハマスさんが言うには、リリはおそらく聖王様の近くにいるはず。
とはいえ、警備兵がたくさんいて、なかなか近づけない。
シュガーショックに乗って強行突破する手もあるかもしれないけど、この人数の観客がパニックになったら危険だ。
どうにかできないかと策を巡らせる。
「みんなぁあああ! 第二部まで待っててねぇええ!」
五分ほど待機していると、ステージに幕がおりて休憩の時間になった。
この隙にどうにか入りこめないだろうかと、私は辺りをうかがう。
だが、かなり難しい。
この新生式は聖王国の一大イベントということもあって警備が厳重だ。
ここでちょっとしたトラブルでも起きてくれればいいのだが。
この際、シュガーショックを大きくして、その隙に忍び込む?
たくさんの人に迷惑をかけることになるけど、この際、仕方がない?
それは私が腹をくくろうとした、その時のことだ。
「非常事態発令! 非常事態発令! 侵入者だ、こっちに向かってるぞ!」
「どういうことだ!? 国境は封鎖されているはずだぞ!」
警備をしている人達がにわかにざわつき始める。
どうも、何かの事件が起きたらしい。
侵入者?
もしかして、メテオたちがバレてしまったとか?
いや、それだとこっちに向かってくる意味がないはず。
次の瞬間!
どがっしゃあぁあああああんっ!!!
とてつもない破壊音をたてて窓ガラスを割り、誰かがホールの中に入ってきた。
白い鎧に、巨大な剣。
「おっしゃああああっ! ついたのだ! よぉし、あの黒づくめのおっさんを出すのだよっ!」
叫び声をあげながら現れたのは、クレイモアだった。
ひぃいいいい、あの子、サジタリアスからやってきたわけ!?
しかも、どうやら正々堂々と厳重な警備を吹っ飛ばしてきたらしい。
私たちの隠密作戦が水の泡じゃん、これじゃ!
「おぉっ、魔女っ子様! あたし、あの痛いオッサンを探してるのだよっ! どりゃっ!」
彼女は殺到する兵士たちを、吹っ飛ばしながら私の方に直行してくる。
そりゃあもう気持ちいいぐらいの圧倒ぶりである。
人が小石のように跳ね飛ばされる。
「あのオッサンなら、地下でハンナと戦ってると思うけど……」
クレイモアをここに置いておくのは非常にまずい。
そう判断した私はハンナの方へ誘導する。
剣聖が二人で戦えば、いかにあのおじさんとは言え、勝てないだろうと思うし。
「にゃはははっ! らっしゃいなのだぁあああっ!」
クレイモアは大きな剣をぶんぶん振り回しながら、居並ぶ警備兵を全滅させる。
そして、怒涛の勢いで地下に続く階段を降りていくのだった。
「な、なんだったんだ!?」
「寸劇か?」
残ったのは失神する警備兵とポカーンとする観客たち。
あまりにも冗談みたいに倒れるので、サプライズ劇だと思われてもしょうがない。
その割には警報が鳴り響いているわけだけど。
「よぉし、今のうちに……」
そんなわけで私はシュガーショックを抱えて、ステージの向こう側へと向かう。
子供の体格だったので、物陰に隠れたらなかなかバレないだろう。
警備兵たちは「地下に行ったぞ!」「化け物だ!」などと慌てており、こちらに気づかないようだ。
「シュガーショック、リリの香りを覚えてる?」
ここで私の切り札はシュガーショックである。
シュガーショックは私の犬である。
犬ってことは嗅覚に優れ、色んな匂いをかぎ分けることができるのだ。
特にシュガーショックは賢い犬。
きっと、リリのいる場所を探してくれるに違いない。
「わふぅうう!」
床に降り立ったシュガーショックは、くんくんと鼻を鳴らしながら私を先導する。
今の私は熱探知も使えないし、色んな能力が使えない。
シュガーショックだけが頼みの綱なのである。
「ここ?」
「わう!」
そして、私がたどり着いたのは兵士が二人で警備している部屋の前だった。
シュガーショックが言うには、そこにリリがいるとのこと。
あまりにも威勢がいいので、逆にちょっと怪しい。
だけど、飼い主の私が信じてあげなくてどうするのよ!
「あのぉ~、迷子になったんですけどぉ~」
そんなわけで私は予め考えていた作戦を決行する。
題して、油断は禁物大作戦である。
簡単な話で、子供姿の私に油断した隙にシュガーショックがやっつけるというもの。
「な、なんだぁ?」
「ひ、ひぃいいい、化け物!」
だが、しかし。
シュガーショックが変身を解くタイミングが早すぎる!
大きくなったシュガーショックは兵士の人たちを見事に突き飛ばし、そのままドアを打ち破る。
内側からは「ひきゃああああ!?」という叫び声。
聞き覚えがありすぎる!
「……リリ、いる?」
ガレキだらけの入り口から、私はドアの向こうに声をかける。
お願いだから、無事でいて欲しいと願いながら。
「ユオ様!? ユオ様ぁあああああ!」
「うわっ!?」
リリはこちらに気づくと、一目散に駆け寄ってきて私に抱き着く。
いくらリリの体が細いからって、子どもの私よりは遥かに大きい。
感極まったとはいえ、私は後ろに吹っ飛ばされそうになるのだった。
シュガーショックが受け止めてくれたから助かった。
「助けに来たよっ! 一緒に行くよ!」
再会の感慨にふけっている場合ではない。
クレイモアのおかげで警報は鳴りっぱなしだし、こっちにも警備兵が来るかもしれない。
私たちの選択肢は「逃げる」の一択だけなのだ。
「そ、それが、あの、ハティちゃんが……」
私が手を引こうとすると、リリは泣きそうな顔をしていた。
「ハティって!? あの黒い犬のこと!?」
「ハティちゃんは私を助けようとして捕まってしまって……。私のせいで……」
どうやらハティという犬はリリと仲良くなって、味方になってくれたらしい。
リリはハティも一緒に連れて行けないかと言うことである。
正直言うと、それは厳しい。
私たちだけでも危ういのだ。
メテオたちと合流する時間も迫っているし。
だけど、瞳に涙を浮かべるリリの姿を見たら、むげに断ることもできない。
私は彼女の優しい心を知っているから。
こんな場面でも思いやれるって、すごい才能だと思うから。
「……分かった。それじゃ、一緒にいくよっ! シュガーショック、あの黒い犬の匂いってわかる? リリが一緒に連れていきたいって!」
私はリリに寄り添うことにした。
たぶんきっと、これは愚かな選択なのかもしれない。
だけど、心残りを持ったまま、聖王国を抜けることはできない。
ふぅむ、どうやらリリのハティへの愛情は凄まじいものがあるらしい。
捕まったっていうから聖王国の人に虐待されてなければいいけど。
「わぉふ!」
私がシュガーショックに頼むと、快い返事。
よぉし、こうなったら一気につき進むよっ!
「リリ、行くよっ!」
私はシュガーショックの体に乗って、リリを引き上げる。
この際、バレてもしょうがない。
最短最速でハティとやらを見つける方がいい。
「はいっ! シュガーショック、バリバリに行くぜっ!」
「はへ? え、ちょっとぉおおおおおお!?」
しかし、ここで非常事態が発生。
シュガーショックに乗り込んだ瞬間、リリが威勢よく号令をかけたのだ。
次の瞬間、猛烈なスピードでシュガーショックはフルスロットル!
私は悲鳴を上げながらシュガーショックにしがみつくのだった。
「待ってろよ、あたしの相棒!」
リリの叫びが辺りにこだまする。
後ろにはシュガーショックに跳ね飛ばされた警備兵の人たちの山が築かれるのだった。
「ひ、ひぃいいい……、着いたの?」
数分も立たないうちに私たちは先ほどのホールに到着。
そして、出会うことになる。
あの禍々しいほど真っ黒な狼に。
「おや、これはこれは飛んで火にいる夏の虫じゃないか?」
ついでにハティにエサをあげている、聖王アスモデウス様に。
そう、ハティは別に虐待とかされていなかったのである!
つまり、私たちはまっすぐに聖王様のところに来てしまったのである!
あああ、シュガーショックに聖王様と一緒なら止めてとか言えば良かった。
「フリフリ女、あたしの黒癒帝を返してもらうぜ?」
「な、何を言うか、ハティは私のものだ!」
リリはあろうことか、聖王様に啖呵を飛ばす。
ひぃいいい、黒い狼を巡ったバチバチの戦いが始まっちゃうの!?
それにしても、聖王様、よくブラックエンペラーって言うのが、ハティの呼び名だって分かったよね。すごい洞察力。
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