337.魔女様、リリの奪還作戦開始! 思わぬ方法で宮殿に潜入するゾ
「なんで、私がこんなことを……」
潜入作戦はシンプルだった。
聖王様の宮殿に地下から侵入するっていう方法だった。
私たちは宮殿に一番近い宿屋に部屋を借りると、その地下室に潜む。
そして。
「あんぎゃああああああ!」
こうなりゃもうやけだ、とばかりに私の口が炎を放出する。
何をしているのかって?
宿屋の地下室からトンネルを掘っているのだ。
私の口から出る炎はどういうわけか土すら燃やす。
そんなわけで宿屋の地下室の壁に大穴を開けているのである。
宿屋のご主人、ごめんなさい。
あとでお詫びするからね。
「ふはははは! すごいぞ、これなら間に合う! 宮殿の地下通路に直行だ!」
作戦を考えたのは高笑いをするハマスさん。
彼女いわく、宮殿には地下通路があって、そこへなら例の魔法障壁に感知されずに侵入できるのではないかということだ。
「あんぎゃあああああああ!」
口から出ていく猛烈な炎。
正直、情けない。
私が本来の姿なら、熱円で一発なのに。
だけど、今、自分ができることを精一杯やるしかないのだ。
私が炎を放つと、直径2メートル程度の穴が開く。
理由はさっぱりだが、この火吹き能力だけは衰えなかった。
「ひぃいいいい、相変わらずでやんすぅうう」
私の様子を見た燃え吉はびっくり仰天みたいなことを言うが、あんたも私とかわんないでしょうが。
ちなみにこいつは前にダンジョンで戦った時のような、女の子の石人形の姿をしている。
その容姿はますます私そっくりであり、前回よりも顔の表情が豊かだ。
すごく違和感がある。
「おぉっしゃ! あっしたちにまかせてくれ。カルラ、ここを冷やしてくれっ!」
「りょうかい」
ドレスは地図を引っ張りだして、方向を微調整する係。
カルラは冷気で冷やして穴の補強をしてくれる係である。
なるほど、それなら効率的に穴掘りができるってものだよね。
そんなこんなで私たちは夜通し、宮殿までのトンネルを掘るのだった。
ハマスさん、もしこれでリリがいなかったら怒るからね!?
「おぉし、おそらく皮一枚で地下通路だな。ほら、隙間から向こう側が見えるぜ?」
ある程度、掘り進めて(?)いくと、ついに地下通路と合流するとこまで行きつく。
ドレスいわく、今ここに大穴をあけてしまうのはまずいとのこと。
「ほな、お楽しみは明日っちゅうわけやな。ふわぁあ、眠い」
メテオはふわぁと大あくび。
私はやっと穴掘り係から解放されて、しばしの休息を得ることができたのだった。
というか、眠い。
「ふぁあああ、リリ、もう少しだからね……」
宿の部屋に戻った私たちはしばしの眠りにつく。
目が覚めたら、聖王様の新生式である。
ハマスさんいわく、その場に必ずリリが現れるとのこと。
その瞬間をもって私たちは奪還に動くのだ。
うふふ、覚悟してなさい、聖王国の人たち。
純粋な聖王様をいいように担ぎ上げるなんて、私は許さないわよ。
◇
「おい、新生式の準備はできたか?」
「もちろんだ、盛大にお祈りさせて頂くぜ! それにしても眠いなぁ、昨日、夜通し花火が上がってたからな」
「あんまりにも盛大だったから、地響きがしてた気がするぜ」
朝になると、聖王国の人々は大慌てで何かの準備をしているようだ。
新生式とは彼らにとって大きなイベントであるらしい。
老若男女問わず、そわそわと浮足立っている。
新生式は宮殿に備え付けのホールで行うらしいのだが、入れない人たちのために特設会場もあるとのこと。
私が炎を吹いてもバレなかったのは、昨夜の花火のおかげらしい。
地響きについては聞かなかったことにする。
「それじゃ、作戦開始やな」
一方の私たちはというと、人々がいなくなったのを見計らってトンネルへ向かう。
昨日、堀った通路の長さは百メートル以上はあるだろうか。
我ながら、一晩でこんなことができるとは微妙な気持ちになる。
「いい? 新生式のあるホールに向かうグループと、宮殿に向かうグループの二手に分かれるよ?」
あと少しで地下通路という場所で、私たちは最後の作戦会議だ。
新生式でリリを奪い返すのが、私とハンナとシュガーショック、ついでにヒゲ助。
宮殿に向かって黒い水晶を破壊するのが、ドレス、燃え吉、メテオ、カルラである。
ハマスさんは宮殿に一緒に向かい、黒い水晶までの道案内をする。
戦力は十分。
きっと大丈夫。
私たちは負けない。
「それじゃ、行くぜっ? 燃え吉! アクロバットモードだ!」
「ぬはははでやんす! そおりゃっ、燃える拳!」
ドレスが号令をかけると、燃え吉は拳を構えるようなポーズをとる。
それから、ぎぃいいいんなどと音をたてると、猛烈なパンチを壁に繰り出した。
燃え吉の拳が真っ赤に燃える!
どごぉおおお!
などという音と共に、トンネルの最後の壁は崩落。
見事、地下通路とつながったのだった。
向こう側に誰もいなかったからよかったものの、非常に大きい破壊音である。
これでバレたら一巻の終わりだというのに、アホなのこの子たちは?
「くかかかか! これぞ戦闘に特化したニューバージョン燃え吉でやんす!
燃え吉は口をぱかりと開いて高笑いをする。
何もしゃべらなければ美しい顔をしているのだが、笑う時には子ども向け人形劇のように口が水平に開いてぱこぱこ動くのだ。
内側が妙に赤くて、正直、怖い。
私としては燃え吉に活躍してもらいたくないなぁ。
「カルラ、あんただけが頼りだよ、頑張ってね」
「わかった」
私は望みをこっちに来てから二回ぐらいしか喋らないカルラを激励するのだった。
頑張って燃え吉の蛮行を阻止してね!
「よし、ホールはこの地下通路をまっすぐ行って上がったところにある! 我々はこっちだ!」
ハマスさんは宮殿周辺の構造を理解しているらしく、道案内にはぴったりだ。
彼女の言葉に従って、私たちは二手に分かれる。
こちらのグループは私にハンナにシュガーショック。
聖王国の人たちはみんな新生式に参加しているのだろうか、地下通路には誰もいない。
「シュガーショック、元に戻っていいよ」
私はシュガーショックを狼の姿に戻すことにする。
万が一の場合には頼りにしてるよ。
「†やはり、ここに来たか。待っていたぞ、小娘ども†」
地下通路を進むと、上の階に向かう階段が見えてきた。
しかし、ここで思わぬハプニングが起こる。
誰もいなかったはずの地下通路の影から、真っ黒いいでたちをした男が現れたのだ。
「お、お前は!? シレン・ザ・ダークネス三世!?」
これに即座に反応したのが、ハンナである。
彼女は対抗戦の際にこの男に敗北を喫していて、いわば因縁のある相手だ。
それにしても、フルネームで呼ぶとすごい名前である。
かっこよすぎてびっくりするし、正直、ひく。
「魔女様、ここは私に任せて先に行ってください!」
ハンナは剣を抜いて私に合図を送る。
本当であれば、二人して戦わないと敵わない相手かもしれない。
それにクレイモアを傷つけてくれたお礼をしなきゃいけないのも確かだし、私だって戦いたい。
でも、今はリリに危険が迫っている状態。
ここで足止めを食っている場合じゃない。
「大丈夫です。私は勝ちます! 死んだクレイモアのためにも……!」
ハンナは私に自信に満ちた目で微笑む。
そう、彼女はあの男に負けてから、ずーっと修練に励んでいたのだ。
もはやあの時のハンナじゃない。
生まれ変わったのである。
ちなみにクレイモアは生きてるよ。
勝手に死んだことにしないでほしい。
「……わかった。シュガーショック、行くよっ!」
私はシュガーショックにしがみついて、階段へと向かう。
ハンナ、負けないでね。
絶対に、死んだりしたらダメだからねっ!
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