335.魔女様、聖王国についに潜入するも、聖王様の「真実」に気づいてしまう
「なんだ、ハティか、さっさと入れ!」
「くそ、この忙しい時に迷惑な奴だ」
シュガーショックを黒く塗りつぶせば、聖王国の黒い狼に間違えるに違いない。
ハマスさんのそんな素っ頓狂な提案に乗った私は内心びくびくだった。
だって、どこからどう見てもシュガーショックとあの黒い狼は違う生き物だからだ。
シュガーショックの方が目がかわいいし、シュガーショックの方が柔らかそうに見える。
たとえ、黒く塗りつぶしたとしても。
しかし、聖王国の門番さんたちは違いなど一切見分けられない。
ノータッチでシュガーショックを通してしまう。
「うっしっし、見たか、これぞ元聖王国の参謀たる私の智謀!」
「ハマス、てめぇは黙ってろ!」
私たちと言えば、シュガーショックのもふもふの毛の中にいるのだった。
それにしても、門番の人たち、あの黒い犬のことを嫌っているようだ。
うちの村人たちはシュガーショックをすごく愛してくれているのに。
もったいないなぁと思ってしまう私なのだった。
「うひぃ、暑くて死ぬかと思ったわぁ」
入国したのち、私たちはひとまず森の中に姿を隠す。
人気がいないのを見計らって出てきたのだが、シュガーショックの中はとてもとても暑かった。
メテオが音を上げるのもうなずける。
「よし、王都まで進んでいくぞ? 変装はいいな?」
そして、私たちは旅の一団として行動することにした。
いつもの服は空間袋の中に入れて、ハマスさんの用意した聖王国らしい服装にチェンジ。
うふふ、いいじゃない。
いかにも、潜入捜査官って感じ!
「よぉし、皆でリリを助けるよっ! たぶん、あの子、泣いてるから!」
私は皆に気合を入れる。
何はともあれ、リリの奪還。
それから私の姿を子供にしてくれている、水晶の破壊。
最低限、この二つはしっかりやってあげなきゃ!
「おぉし、シュガーショック、これを身に着けてくれ!」
ドレスはというと、シュガーショックに服のようなものを着せていく。
彼女いわく、姿を隠すための魔道具だとのこと。
あぁ、そう言えば、いつぞやの時も姿を消して忍び込んだんだっけ。
それにしても、シュガーショックに服を着せるとすごくヘンテコだ。
モフモフ部分を無理やりに抑えつけているみたいになっている。
「めっちゃ高額なんやでこれ? 本当なら目ん玉飛び出るんやけど、うちが交渉したらなんと半額になってんで? すごいやろ? なぁ?」
メテオは自分がいかに安く買えたかについて説明して胸を張る。
そう言えば、この子、安く買うことに異様なまでの執念を燃やすよね。
私はとりあえず、彼女の頭をよしよしとしてあげるのだった。
子供の姿だけど、領主の務めだよね。
「す、すごいですよっ! シュガーショックが消えました!」
そして、その魔道具の効果は抜群。
シュガーショックの巨体が透明になっていき、後ろの風景が透けて見える。
「それじゃ、行くわよ! みんな、乗りこもう」
というわけで、手さぐりでシュガーショックに乗りこみ、疾風のごとく聖王国の中心都市へ向かった私たちなのだった。
◇
「聞いたか、聖王様がついにサジタリアスに攻め込むらしいぞ!」
「ついに人間の国を一網打尽だ! 我々の星!」
「さすがは聖王様だ! 世界征服も夢じゃないぜ!」
聖王国の中心都市である王都に到着した私はあることに気づく。
人々がところどころで集会し、喜びの声をあげているのだ。
その話題は聖王様がいかに偉大な指導者であるかについて。
国民の皆さんは聖王様のことをとても信頼していて、彼女のことを心酔している様子だった。
「ふぅむ、なんかどこかで見覚えある光景やな……」
猫耳をフードで隠したメテオはそんな人々をみてぽつりと漏らす。
いや、どこかで見たって言うか、これ、どこからどうみても、うちの村のデジャブである。
さっきの人たちの会話の「聖王様」を「魔女様」に変えても何の違和感もない。
つまり、聖王国の国民の人たちは聖王様を尊敬どころか、崇拝しちゃっているのだ。
うわぁああ、なんだか嫌だなぁ。
「ぐむぅ、我らが魔女様を差し置いて世界征服だなんて許せません! 狂信者の異教徒どもめ!」
ハンナはぎりぎりと奥歯を噛みしめて見せる。
いや、あんたのそう言うところも全く同じなんだけど。
魔女様を担ぐ、禁断の大地の村と、聖王様を担ぐ、聖王国。
この両者の国民はどう考えても相容れない。
このままじゃ、終わることのない宗教戦争が始まってしまいそうである。
「ううむ、情報収集ならば教会にいくべきだな」
ここでハマスさんは冷静な提案をしてくる。
私にとっては異様な光景でも、彼女にとっては日常風景なのだろう。
それにしても、教会って神様に祈りを捧げる場所でしょ?
そんなところで情報収集できるのかしら。
訝しげに思いながらも、ハマスさんに従って教会に向かうのだった。
「聖王様、ばんざぁあああい!」
「聖王様、大すきぃいいい!」
『教会』と書かれている場所は一言で言うと、酒場だった。
人々はお酒を片手に大声を張り上げていた。
お酒の名前は聖王様お水、略して聖水というものらしい。
そして、酒場の壁には聖王様が水着姿でお酒を持っている絵が描かれた紙が数枚貼られていた。
キャッチコピーは「今日もお仕事お疲れさま」である。
お胸もお尻もどどんである。
うわぁ、セクシーポーズが目に痛い。
健康的に日に焼けたものや、蠱惑的な表情のものもあって、ちょとドキドキしてくる。
「なんやねん、この痛い女……、悩殺村の村長やん」
「いや、美人は美人なんだけどなぁ。すげぇ勇気だぜ」
メテオとドレスも微妙な表情。
確かに聖王様は美人なんだろうけど、統治者がこんな真似していていいのだろうか。
ちなみに悩殺ポスターの隣には、「聖王様の癒しは世界一フライ」とか、「どきゅん♡聖王様大好き激辛ヌードル」などの謎めいたメニュー名が並ぶ。
ますます、デジャブを感じてしまう私。
うぅむ、潜入すればするほど、聖王様の立ち位置が分からなくなる。
恐怖で人々を支配しているのかと思っていたけど、違うのかしら。
「ふははは! 私も久々に聖王様コールをしたくなったぞ!」
ハマスさんはそう言うと、酔っ払いたちの輪の中に入っていく。
そして、皆と一緒に「聖王様、バンザイ!」をし始めるのだった。
「あほやん、あいつ、ぐびぐび」
「まったくだぜ、酒は上手いけどなぁ」
メテオとドレスは盛り上がるハマスさんを尻目にお酒を煽っていた。
いやいや、あんたら、お酒飲んでる場合じゃないでしょうが!
とはいえ、盛り上がる一団を見ながら、私は思うのだ。
あの聖王様、国民から愛され過ぎているんじゃないだろうかって。
それが悪いことだとは思わないけど、これはどう見ても異常だ。
どう考えても、聖王様が自分で望んで「聖王様バンザイ」を国民にさせているとは思えない。
もし、自分でやっているとしたら頭がおかしいってことになるし、正気じゃない。
彼女と相対して分かったけど、あの人は別に根っからの悪ではないと思う。
なんというか、悪を演じているというか、ヤケになっているというか。
ここで私は真実に至るのだった。
もしかしたら、彼女はただただ周りに担ぎ上げられて、聖王様を演じているだけなのではないかということだ。
確かに彼女はモンスターを操るとか、強いスキルを持っているのだろう。
だけど、ひょっとしたら、もしかしたら……。
彼女は普通の女の子なのかもしれないのだ。
私と同じように!
珍しいスキルを授けられたせいで周囲から担ぎ上げられ、無茶なことをさせられているのではないだろうか。
私と同じように!!
いわば、被害者である。
私と同じように!!!
彼女はきっと思っているのだ。
普通の女の子に戻りたいと。
だけど、それを許してくれない国民の人達。
だから彼女は先日の戦いの中で、自暴自棄になって聖王国なんかどうでもいいって叫んだのだ。
彼女を追い込んだのは、国民からのプレッシャー。
それもハマスさんみたいな狂信的な人たちからのプレッシャーは非常にはた迷惑である。
わかる、わかるよ、その気持ち。
村のみんなの変な期待が怖くて、私だって何度領主を辞めたいと思ったことか。
温泉がなければとっくに放り出していたかもしれないよ。
私は聖王様のヘンテコな毒みたいなのを飲まされて子供の姿に戻ってしまった。
早く元の姿に戻りたいとも考えている。
だけど、この姿に戻ったことで、少しだけ以前の普通だった時代を思い出したのだ。
それは自由で、気ままで、やすらぎに満ちていた。
「いや、口から炎を吹く普通の女の子っておらへんやん……? 一日に二回も温泉に入るし、十分に気ままやん……?」
「メテオ、黙ってろ、燃やされるぞ?」
私が腕組みをして、感慨にふけっているとメテオとドレスが何かをつぶやく。
もっとも、酔っ払いの歓声でかき消されてしまったけれど。
何はともあれ、私は聖王様に少しだけ感謝しているのだ。
だからこそ、私は思う。
彼女にも自由で気ままな普通の女の子を取り戻してほしいと。
「うふふふ、待っててね、聖王様、私が解放してあげるわ」
私は壁に貼られた聖王様の悩殺ポーズを見ながら、ニヤリと笑う。
そう、私が救うべき相手はもう一人いると気づいたから。
「ま、魔女様、さすがですぅうう! あの聖王を粛清するんですね! 私も頑張りますぅうう!」
ハンナは私の手を取って、うるうると瞳を濡らす。
その表情に何か不穏なものを感じる私なのであった。
ちなみにハマスさんは「聖王様、バンザイ!」コールの中で情報収集を進め、新生式とかいう儀式が明日、開催されることをキャッチ。
なんだかよくわかんないけど、でかしたよ、ハマスさん!
私たちは情報収集を進めながら、作戦会議をするのだった。
そういえば、サジタリアスをどうのこうのって言ってたけど、ララは上手くやってくれているだろうか?
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「居酒屋のあのポスター、ララさんのがほしい……!」
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