332.魔女様、ハマスさんが思ったよりも活躍してくれるよ!
「そんじゃあ、シュガーショックでひとっ飛びしてもらおうや! にしし、まさか空から突撃してくるとは思わへんやろ」
出発前に聖王国入国チームは作戦会議をする。
まずはどうやって入国するかである。
潜入するわけなので、秘密裏に入っていきたい。
メテオはシュガーショックに任せればいいというが、果たしてそんなに簡単に行くだろうか。
シュガーショックはとてもいい子だけど、命令を中途半端にしか聞いてくれないのだ。
基本的に隠密で行動するってできそうにないというか。
「いや、それは無理だ。聖王国の周辺はこのように障壁が張られている。海から向かう方法もあるが、時間がないだろう」
ここで難色を示すのがハマスさんである。
元・聖王国の幹部にして、今ではクレイモア応援団の筆頭。
彼女は机に広げた紙に聖王国までの地図を描き始める。
西側を海に面した聖王国であるが、それをぐるりと取り囲むようにして障壁というもので取り囲んでいるらしい。
その高さはかなり高く、上から跳び超えることも難しいとのこと。
ふぅむ、空まで続く壁みたいなものなんだろうか。
それなら、人気のない所で燃え吉が穴を開ければいいんじゃないのかな?
「それも難しい。障壁は一種の魔道具で、常に監視されている。少しの異常があるだけでも見張りの魔物が飛んでくるようになっているのだ」
「す、すごい仕組みやなぁ。めっちゃ金と労力のかかるやつやん! 見直したで」
なんと恐るべきことだろうか。
障壁というのはただの壁ではなく、密入国者や出国者をシャットアウトするためのものだという。
これにはメテオも感嘆の声をあげる。
「ふくく、そうだろう! 現場監督は私だからなっ! ぬはは!」
「あんたさえおらんけりゃよかったんやけどなぁ」
「なぬ!?」
なぜそこまで詳しいのかと思っていたが、その障壁は彼女が指揮して作ったものだかららしい。
道理で詳しいはずだ。
褒められたハマスさんは嬉しそうな声をあげ、ついでメテオに掴みかかる。
メテオは「いやいや、褒めてるんやでぇ?」などと言うが、明らかにからかうのを楽しんでいる。
まじめな性格の人は、メテオにとって格好の餌食なのである。
「その障壁がある限り、聖王国への入国は厳重に取り締まられた関所を通るしかないのだ。それ以外は真っ正面から突入するほかないが、今回は却下だろう」
地図の上の数か所に、ハマスさんはマークを入れていく。
その場所だけに国への出入り口が設けられているらしい。
彼女いわく、入国のためには非常に厳しいチェックがあるらしく、ポケットの中まで検査されるとのこと。
鎖国しているって聞いたけど、管理はかなり厳しいようだ。
「しかし、それじゃ入国できないってことになるじゃねぇか。事は一刻を争うんだぜ?」
「分かっている。鍵になるのはお前達の飼っている、あの邪悪なる白い狼だ」
「邪悪なる白い狼……って、シュガーショックのこと?」
「そうだ、あれを使うしかない」
ここでハマスさんは意外なことを言い始める。
入国するのにシュガーショックを使うというではないか。
しかし、シュガーショックで直接突っ込むことはできないと聞いたのだが。
「シュガーショック、あんたの出番だってさ」
私の膝の上にいるシュガーショックのお腹をくすぐると、「わふぅ?」と声をあげた。
ふわふわの触感がとても心地よい。
「なんだその丸っこいものは? い、犬なのか?」
「いや、シュガーショックだけど?」
「は?」
ハマスさんは目を白黒させて、今さらなことを言い始める。
この犬は体の大きさを変幻自在に変えられるのである。
私も最初の頃はすっごく驚いたけど、今ではもう慣れた。
「なんだそれは? ハティでもそんなことはできないぞ……。いや、今はそんなことを言っている場合ではないか……」
ハマスさんは何やら独り言をつぶやいた後、咳払いをして言葉を続ける。
「まぁ、いいだろう。貴様ら、聖王様の乗っていた真っ黒い狼のことを覚えているか? 凶悪な暴力の化身、破壊の王者、ハティのことだ」
「もちろん、覚えてるよ! 黒光りしてモフモフしてるやつでしょ!」
聖王アスモデウスの乗っていた狼のことならよく覚えている。
最初に見たのは対抗戦の時だったけど、一番印象に残っているのは聖王との直接対決の時だ。
真っ黒い毛並みに、真っ黒くてつぶらな瞳。
シュガーショックを真っ黒に塗りつぶしたような勇ましい姿をしていた。
なるほど、あれの名前はハティって言うのか。
「あのハティだけは先ほどの関所をノーチェックで通れるのだ。あの狼、ふらふらっと国の外に出て、ふらふらっと戻ってくる。行ったかと思ったら、すぐに戻ったりと移り気で困っておるのだ……」
「へぇええ、シュガーショックと同じじゃん……」
ハマスさんいわく、ハティと言うあの狼には放浪癖があるらしく、国境を自分勝手に超えてしまうとのこと。
最初は障壁を破っていたのだが、なんとか説得して関所を通ってもらっているらしい。
少しは人間の言葉が分かるのだろうか。
「そんなん、閉じ込めておけばええやん?」
「無理だ。あれは聖王様のお気に入りなのだ。こちらが折れるしかない……」
「あー、なるほど、理不尽なボスを持つと大変やな。わかるわ、その気持ち」
メテオはハマスさんの肩に手を当てて、うんうんと共感していた。
え、ちょっと待って!?
それだと、私が自分勝手だってことにならない!?
「ふふん、あなたの言いたいことが見えてきましたよっ! つまり、シュガーショックを真っ黒く塗って黒い奴だって言えばいいんですね!」
先ほどまで難しい顔をしていたハンナであるが、素っ頓狂なことを言い出す。
いくらなんでも、シュガーショックを黒くしただけでバレないなんてことがあるだろうか。
ハマスさん、まさかそれが作戦だなんて言わないわよね?
「そのまさかだ」
「はぁあああ!? うっそぉ、バレるでしょ!?」
ハンナのアイデアを鼻で笑うかと思いきや、それがビンゴだった。
シュガーショックを黒く塗るって正気なのかしら?
「よし、この間、開発した特殊染料で黒く塗りつぶすぜっ! くふふ、マークIIにしてやる!」
ドレスは謎のやる気を出し始める。
えぇえ、嫌だなぁ。
シュガーショックの真っ白い毛並みがもったいないよ。
とはいえ、背に腹は代えられないのが現状なのだ。
不本意ではあるけれど、今は協力してもらうしかないのだった。
私たちは大急ぎで、シュガーショックの毛を染め上げる。
小さい状態で染めてみると、大きくなっても真っ黒いままだったのは嬉しい誤算だったけれど。
「よし、行くわよっ! みんな、用意はいいわね?」
私たちは真っ黒いシュガーショックの背に乗って聖王国の関所へと急ぐのだった。
◇ リリ、目を覚ます
「こ、ここは……」
私の名前はリリアナ・サジタリアスです。
つい先日、私は聖女のスキルを頂きました。
これからもユオ様のために頑張っていこうと思っていたのに、お父さまの城で襲われてしまったのです。
「ふん、目覚めたか?」
気づいた時には私の目の前に女性が立っていました。
彼女のことは見覚えがある気がします。
そう、先日、ユオ様と激闘を繰り広げた、あの女の人。
聖王国の指導者、聖王アスモデウスという人。
美貌の人ではありますが、その瞳は青紫色に光っていて、正直怖いです。
「…………」
緊張と恐怖で私はしゃべることはできませんでした。
なぜ私を誘拐したのか。
なぜ城を襲ったのか。
さっぱり分からないからです。
「立て」
彼女はぐいっと私の顎を掴んで、無理やり起こすような姿勢にします。
「誇りに思うがいい、リリアナ・サジタリアス。この私が貴様の体をもらうことにする。いや、貴様の祖国、サジタリアスもだ」
「な、何ですか、それは?」
彼女はキレイな顔を歪めて、すごく変なことを言い出します。
体をもらうと言っても、そんなことができるとは思えません。
しかし、彼女の確信に満ちた瞳が嘘を言っているようには思えませんでした。
「おい、地下牢につなぎとめておけ、見張りはハティにやらせよ」
「ははっ!」
それから私が連れてこられた場所は地下牢でした。
石造りの粗末な部屋で、石畳が冷たく光っています。
靴をどこかに落としたのか、私は裸足になっていました。
床が冷たくて、足が痛くて、すごく悲しい。
「ユオ様……」
牢獄に入れられた私は泣いてしまいました。
さっきまで皆と一緒にいたことを思い出すと、なぜこんなことになったのか分からないのです。
でも、どうすることもできないのです。
私の牢屋の前には真っ黒い狼の魔物がいて、私を見張っているのですから。
それはシュガーショックによく似ていましたが、違う生き物のようです。
せめて、小さくなってくれれば抱きしめて暖をとれるのに。
そんなことを考えてしまいます。
くぅん……。
すると、黒い狼は牢屋の鉄格子に体を押し付けて、鼻を鳴らしたのです。
まるで触ってもいいと言っているかのように。
正直、怖い部分もあります。
だけど、私は勇気を出して、そのモフモフに寄り掛かることにしたのです。
石畳の冷たさがいくぶんか軽減されたからでしょうか。
私はすぐに睡魔に襲われるのでした。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「ブラックシュガーショックになっちまった……!」
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