表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
331/352

331.魔女様、聖王国に狙いをロックオン! さぁ、リリを奪還しましょう!




「リリさんがサジタリアスで襲われて誘拐されました! クレイモアは負傷したみたいです!」


 屋敷の温泉で骨を休めていると、ハンナが駆け込んできた。

 彼女の知らせはとんでもないものだった。


 リリは辺境伯のところで厳重に警備されていたはず。

 クレイモアなら、どんな奴が相手でも撃退できると踏んでいたのに。

 彼女を傷つけるような化け物がいたってことらしい。


「ご主人様、急いで皆を集めましょう!」


 ララはいつになく真剣そのものといった表情。

 私は無言でそれに頷くのだった。





「村のみんな、永遠の聖女、リリたんがさらわれたでぇええっ! 心は青少年、体はオッサンの仕業やぁあああ!」


「目撃者によると、黒い狼もおったそうやで! 犯人は聖王国やん!」


 どういうわけか、温泉リゾートのホールにて会議がひらかれることになった。

 メテオのアジテーションに従って、村人や冒険者たちはヒートアップする。


「聖王国をぶっつぶせっ!」


「戦いの時間だぁあああ!」


「魔幼女様に逆らうものは地獄行きだぁあああ!」


 村のみんなは大きな声で怒声をあげる。

 メテオいわく、みんなのやる気をアップさせるためって言うけど、これやりすぎじゃない?


 あと、村人たちは私が子供になっているのを知ってるみたいだけど、驚いている様子はないようだ。

 ララが「魔女様にはよくあること」と説得したらしい。

 いや、簡単に納得しないでよ、そんなこと!


「えーと、とりあえずわかっていることを整理するわよ!」


 情報を整理すると、大体のことが見えてきた。

 狙われたのは、リリのスキル授与が終わった後の祝賀会だったとのこと。

 襲ってきたのは、あのモフモフの黒い狼、そして、対抗戦にも出てきた黒づくめの男と吸血鬼の女の子だったらしい。


 もっとも、襲撃を受けた部屋にいた人々はほとんどが失神していたらしい。

 私たちが聞いているのは、かろうじて意識のあったクレイモアの情報である。

 もしかしたら、他にも悪者がいたのかもしれない。


「あの男、許せません! 私が叩き切ります!」


 一番の怒りを見せていたのはハンナである。

 彼女は対抗戦であのオッサンと少なからず因縁を抱えている。

 自分のライバルとみなしているクレイモアへの狼藉に激しい怒りを感じているのだろう。


 戦闘狂のハンナにしては珍しい反応だ。

 彼女も少しずつ成長しているのかもしれない。


「しかし、正々堂々と誘拐しに来るって、相当、アホなんちゃう?」


「そやな、完全に自分たちの仕業やって言いたいんかも」


 メテオとクエイクが言うことは、もっともな話だった。

 誘拐って普通、バレないようにやるべきことなんじゃないだろうか。


「そうですね、まるで誘っているかのような行為です」


 ララは顎に手を当てながら真剣な表情で、言葉を続ける。


「犯人は聖王国であり、攻め込んで欲しいとでも言うかのようですね。もちろん、今回の犯人は聖王国ではあると思いますが、このままでは戦争が起きるでしょう」


 ララの口から出た、戦争の文字に背筋が急速に冷たくなる。

 それはおとぎ話ではなく、現実の話である。

 

 あの辺境伯はリリのことを溺愛しているし、激怒しているはず。

 この間と同じように、リリを奪還するために騎士団を派遣するだろう。


 しかも、相手は聖王国という大きな国を相手にするわけで、私たちの場合とは桁が違う。

 ザスーラ連合国全体から兵隊を募って、大規模に派遣する可能性も高い。


 つまり、ザスーラ連合国VS聖王国という戦争の危機が迫っているのだ。


 リリを奪われた辺境伯の悲しみと怒りはよく理解できる。

 だけど、このまま戦争が起きてしまうのは非常に危険だ。


「そんなん負けるに決まってるやん! あいつら魔物を使うんやで? 結果はどうあれ、人死にがめっちゃ出ることになるで」


「うわぁ、うちのお母ちゃん、棺桶屋にジョブチェンジするやろな」


 真剣そのもののメテオ。

 その空気を少しだけ茶化すクエイク。

 二人の表情は曇ったままである。


 彼女たちも戦争が近づいていることに気づいているのだ。

 そして、それはもう殆ど避けることができないということを。


「問題は、私たちはどうすべきかってことよね?」


 そう、他人がどう動くかについて考えることも大切だけど、一番は私たちがどう動くか決めることだ。

 私たちにとってもリリは大切な仲間であり、友達である。

 そんな彼女を失うなんてことは絶対に嫌だ。


「リリを取り戻すわよ! ついでに例の水晶を壊しちゃおう!」


 私は皆の前で今後の方針を宣言する。


 一つ目はリリの奪還である。


 そして、もう一つはハマスさんの言っていた、黒い水晶とやらを壊して、私の姿を元に戻すこと。

 いつまでも子どもの姿でいるのは嬉しいことじゃない。


 少数精鋭で忍び込むとはいえ、相手はかなり危険だ。

 もしかしたら、待ち構えているかもしれないし。


「ハマスさん、聖王国に詳しいのはあなたしかいないわ。一緒に戦ってくれる?」


 私はさきほどから黙ったままのハマスさんに声をかける。

 彼女は言わずと知れた聖王国の元幹部である。

 味方になってくれれば、大きな力になってくれるだろう。


 もっとも、あの聖王様を未だに捨てきれていない部分があるとは思うけど。


「……わかった。クレイモア様の仇、私が討たせてもらおう!」


 ハマスさんは重々しく頷き、少し涙に詰まりながらそんなことを言う。


 いや、クレイモアは死んでないよ?

 普通にサジタリアスの病院に入院しているらしいし。


「次は、ドレスとメテオ、二人は水晶の破壊工作員よ! 一緒に忍び込んで!」


「おうよ、仕事を途中で投げ出すのは心苦しいが、リリのためだ! やってやるぜ!」


「ひぃいいい!? なんで、うちがぁああ!?」


 水晶の破壊にはドレスとメテオの二人を任命する。

 彼女たちはいつぞやの魔族との戦いの時も、世界樹に取り付けられた魔道具みたいなのを破壊してくれた経験がある。

 ドレスは言わずもがなだけど、メテオの鑑定眼には一目置いているのだ。

 たぶんきっと、今回も上手くやれそうな気がする。


「頼りにされるのは嬉しいけどなぁ。さすがに二人は心もとないで」


 それでも渋い顔をするメテオ。

 確かに護衛がいないと危ないよね。

 さて、どうしようか?


「カルラ、出番よ。今回は一緒に行ってちょうだい」


「……ひ」


「大丈夫? 熱がある?」


「大丈夫、全部殺す」


 部屋の片隅でぼーっとしているカルラを発見した私は彼女に護衛役をお願いする。

 彼女ならば並大抵の敵はやっつけちゃうだろう。

 頑張ってもらいたくて手をぎゅっと握ったら、やる気を出したのか顔が真っ赤になった。

 別に殺さなくてもいいんだけどね。


「あとは燃え吉、ドレスと一緒に行ってね。頑張って」


「わ、わかったでやんす!」


 最後のメンバーは燃え吉だ。

 いつもドレスによって何だかよく分からない人形みたいなのに入っているけど、その力はまさに化け物級である。

 護衛役としては十分だろう。



「じゃあ、リリの奪還チームだけど、まずは私が出るわ。そして、ハンナ、頑張ってくれる?」


 次のメンバー分けはリリを奪還するためのメンバーだ。

 これはもう少数精鋭で行くしかない。

 黒い水晶を壊すのは力がいると思うけど、奪還チームは秘密裏に行動するわけで派手な動きはいらない。

 人数は少なければ少ない方がいい。


「もちろんですよっ!」


 ハンナは快い返事をしてくれる。

 とてもありがたい。


「ご主人様、私をお忘れですけど?」


 ララは真剣そのものといった表情である。

 確かにララがいてくれるととても助かる。


 だけど、彼女にはもっと大切な役割があるのだ。


「ララ、あなたはサジタリアスに行って、辺境伯を説得して! 戦争をなんとかして止めてちょうだい!」


「し、しかし、ご主人様、相手が話を聞くか分かりませんが」


 そう、彼女の役割はサジタリアス辺境伯の出兵をなんとしても食い止めること。

 このまま世界が戦争に陥るのは非常にまずい。

 ララにそのことを伝えるも、彼女は首を縦には降らない。

 戦争を止めるのは現実的とは思えないと彼女は言うのだ。


「そこをなんとかして。私が、いや、灼熱の魔女がリリは絶対に取り戻すって約束するって言っていいから!」


 そこで私はずーっと認めたくなかった、灼熱の魔女という名前を出すことにした。


 私は魔女じゃない。

 魔力ゼロだし。

 だけど、誰かの説得に使えるのなら、それで傷つく人を減らせるのなら、魔女にだってなってもいい。


「……分かりました。そこまで仰るなら身命を賭して、止めてまいりましょう」


 ララは私の決意を汲んで、了承してくれる。

 私だって彼女と一緒にいたい。

 離れ離れになるのは嫌だ。


 だけど、こんなことを任せられるのは彼女しかいないわけで。


「クエイク。あなたはフレアさんのところに行って、サジタリアスに防衛部隊を送るように説得して。きっと、聖王国が攻めてくるから」


「わ、わかりました! やったぁ、一番、平和そうな役割やん!」


 次の外交官はクエイクである。

 彼女はザスーラ連合国の有力者であるフレアさんの娘だ。

 任せておいて間違いないだろう。


 メテオが「えぇええ!? ここは長女のうちを信頼するべきちゃうん」などと言うけど、却下である。

 彼女はフレアさんと反目しがちだし。

 やっぱり日頃の行いがモノを言うのだ。


「最後にエリクサー。クサツに行って、ヨイヨイに守りを固めるように伝えて! その後は第一魔王国にも行ってくれると助かるわ」


「わ、わかったのじゃ!」


 そして、最後に声をかけるのはエリクサーだ。

 彼女には先日までお世話になったヨイヨイやデューンさんのところに行ってもらうことにした。

 

 特にクサツは聖王国に最も近い。

 もしかしたら、第一魔王様の国に攻めてくる可能性もある。

 あの聖王って人、本当に見境がないのだ。


 とにもかくにも、警戒してもらわなきゃいけない。



 水晶を破壊するチームが、ハマスさん、ドレス、メテオ、カルラ、燃え吉。

 リリを奪還するチームが私、ハンナ、シュガーショック。

 サジタリアスの説得にララ、フレアさんの所にクエイク、魔族の国にエリクサー。


 ふぅむ、リリの奪還チームがちょっと手薄かなぁ。

 せめてクレイモアがいてくれればよかったのだけど、怪我をしてるのなら仕方がない。

 それに彼女はサジタリアス騎士団の所属なのだ。

 元気になってもサジタリアスを防衛するって言う仕事があるはずだし。


 

「あ、ヒゲ助いるじゃん。あんたも来なさい!」


 村人を見回していると、ドレスの隣に水の精霊であるヒゲ助がいるのを発見した。

 水を自在に操る、ナマズみたいな奴である。

 化け物みたいになった時は厄介だったけど、今では流れる温泉の温泉職人なのである。


「ひぃいいい? おいらでがんす!?」


 突然、声をかけられたことにびっくりしたのか、ヒゲ助は素っ頓狂な声をあげる。

 この間まで温泉工事に参加してたみたいだけど、今回は頑張ってもらおう。


 あとは村の防衛だけど、虹ぃにょと冒険者チーム、そしてハンターさんに任せよう。

 村長さん、早く帰ってきてほしい。


「魔女様ぁああ、村の防衛は任せてください!」


「攻めてきたら返り討ちにしてやりますわぁああ!」


 村人たちからも頼りがいのある言葉が返ってきた。


 よぉし、このメンバーで乗りこむよっ!




「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「戦力が結構、欠けてるけど大丈夫なの?」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

メイドさんの活躍する新連載スタートです! 下のURLをクリックしたら見られます

https://ncode.syosetu.com/n0699ih/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

書籍版第三巻が発売中です。
l017cqekl6nkc64qf50ahkjj6dry_vk2_dc_ix_7qao.jpg

コミカライズ版第1巻が発売中です。

g2opjx6b84b9kixx3rlfe0tedyf_1b5q_dc_iy_2tr1.jpg
― 新着の感想 ―
[良い点] 遂に灼熱の名を大々的に世間へアピール(既にある程度済み)して国落としでお披露する時が来たか!!
[一言] やれやれ┐(´ー`)┌何時もながら、やられてからやり返す形でやって来たが(ʘᗩʘ’) 今度という今度は攻め戦に転じるのか(٥↼_↼) ユオが本調子なら火山に飛び込んで溶岩流をいじって温泉…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ