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33.魔女様、肉を片手に辺境の犬を屈服(おすわり)させる

「ララ、肉を焼くわよ!」


 私の合図とともに、ララはワゴンから鉄板を取り出し、肉を豪快にどすんと置く。

 私はふぅっと息を吐いて、鉄板に一気に熱を通す。

 数秒もしないうちに、じゅうじゅうといい音を立てて、肉が焦げ始め、美味しそうな匂いをあげる。


 うん、これはかなりいいお肉じゃん!



「魔女様!? いぬがそちらに来ています!」


「ひぃいええええ!? 化け物がこっち来たでぇえええ!」


 私が無心で肉を焼いていると、ハンナの高い声が響く。

 続いて、メテオの大きな悲鳴。

 20メートルは離れていたはずなのに一気に間合いを詰められたのだ。


 そりゃあ叫びたくもなる。

 相手は人の家ほどもある大きな狼で、凶悪な筋肉の塊。


 ……だけど!



「おすわり!」


 はっ、はっ、はっ、はっ。


 私が号令をすると、涎をだらだらと垂らしながら、見事にお座りをするワンコ(巨大)がいるのだった。


 そう、私の読み通り、この子は明らかに人間に馴れていて、人を襲う意図など最初からなかったのだ。


 メテオの妹を追いかけてきたのも、じゃれているつもりだったのだろう。


「ふふふ、もうそろそろいいかしらね」


 私はきれいにお座りをしているワンコの目をじっと見つめる。

 その瞳は思った以上に優しくて、私に危害を与える素振りは一切うかがえない。

 いや、尻尾をぱたつかせているところからすると、むしろ好意さえ感じる。


「…それじゃ、お手!」


 犬の目の前にご飯を置いたのならするべきことは一つ。

 きちんと、食事の前のルーティンを守らせること。

 私の号令を聞くと、相手ははぁはぁ言いながらも、私の胴体ほどもある巨大な手をのっそりと前に出す。


「よぉし、次はおかわり!」


 私が命令を出すと、すぐさまそれをこなしてしまう。

 それどころか一人で勝手に『伏せ』や『矢に撃たれて死んだふり』までこなす。


 えらい!

 かわいい!!

 かしこい!!!



「さすがは魔女様! いぬを手なずけておるぞ! 辺境に住んで以来の珍事じゃああ!」


 村長さんはそんなことを言うけれど、この子はきっと誰かしらに飼われていた過去があると私は踏んでいる。


 じゃなきゃ、こんなことは普通できないだろうから。


 ひはっ、ひはっ、ひはっと嬉しそうに声を出す白い狼はご飯の時間を待ちきれないようだ。

 しかし、ここですぐにあげてはいけない。

 主従関係というものをわからせてあげなくっちゃ、犬だって不幸だ。


 私は目の前の「いぬ」の目をじっと見つめる。

 潤んだ愛くるしい瞳に私の顔がうつっている。

 そして、待ちきれないのかしっぽがものすごくパタパタいっている。


 うん、これは完全に犬だ。

 犬以外の何物でもない。


 2秒ほど待ってから、大きな声で「よし!」というのだった。



 ひゅごがっ!


 犬はなんだかよくわからない音を立て大きな肉にかぶりつく。

 お腹が減っていたんだろうか、すごい勢い。

 


「ふふふ、いい子、いい子」


 すっかり犬同然と化した狼を私は優しくなでる。

 ハンナと村長さんの刃を防いでいたその体毛は思っていた以上に、ものすごくふわふわでびっくりする。

 いや、もっふもふのふわっふわじゃん!


 野良犬らしいのに犬臭さすらなく、いつまでも触っていたい手触りなのだ。

 その犬は気持ちよさそうに目を細めて「くぅん」と鼻を鳴らす。


 どうやら完全になついてくれたようだ。

 ひへへへ、かわいいなぁ、もう。




「そんなん手なずけるなんてありえへん!」


「ほんまに考えられへん!」


 メテオとクエイクの姉妹は同じようなことを言いながら、遠くのほうでやいのやいの言って近づいてこない。

 猫人(キャットピープル)だから、この白い犬のことが怖いのかもしれない。

 こんなにかわいいし、賢いワンコなのにもったいないなぁ。


「……よし、シュガーショックに決めた」


 私の心の中にはとあるアイデアが浮かぶ。

 簡単な話、飼ってしまおうという単純なアイデアが、すとーんと降りてきたのだ。


 いぬ、かわいい、絶対に飼いたい。

 シュガーショックという名前は砂糖のように真っ白で強そうという第一印象から考えた。


「ご主人様? まさか、この凶悪なナニカを飼いたいとか言いませんよね? 生き物を飼うって言うことは責任が伴うことなんですよ? それとネーミングセンスが最悪です。白い暴力、ホワイトライオット、にしましょう」


 ララが近寄ってきて私の顔を覗き込んでくる。

 そして、王都に住んでいた時と同じようなお小言を受けるのだ。


 ネーミングセンスに関しては無視を決め込むし、ララの提案する名前も暴力的すぎる。

 シュガーショックって、かわいくて、かっこよさげだって思わない?



「ご飯は肉さえ確保できればいいんだしいいでしょ? あっ、散歩とかしつけは私がしっかりやるから! お仕事も大事だけど、生活に潤いも大事だしさぁ」


「……温泉で十分に潤ってませんか?」


「ん? なにか言った? とにかく、犬を飼うまではここを動きません!」


「……仕方ないですね、名前は白い暴力を省略してシロでもいいですよ?」


 私が駄々をこねると、ララははぁと溜息を吐いて受け入れてくれる。

 ふふふ、ララのこういうところがすっごい好き。

 私はものごころついた時から母親がいないから、特にそう思う。


 しかし、名前に関しては譲れない。

 私は一度決めたら貫く女なのだ。



「それと、このままの姿じゃ村人が卒倒すると思いますよ? もしくは、再び魔女様バンザイが始まると思います」


「……そりゃそうよね」


 ララの懸念はもう一つある。

 それはこの犬の大きさだ。


 確かに大きすぎるよね。



 この巨大な犬を村の中に連れていくと、


『ひぃいい、殺される』から始まり、


『さすがは、魔女様だ!』と何故か褒め称えられて、


『魔女様ばんざい』と、最終的には落ち着くことになるだろう。


『あんな巨大なモンスターを飼われるとは!』なんて風に、この巨大な犬は私の力や恐しさの象徴にもなるだろう。


 それはそれで非常にうっとうしいんだよなぁ。


 かわいそうだけど、村の外で番犬にでもなってもらうしかないだろうか。

 せめて私と同じぐらいの大きさなら村の中に連れていけるのだけど。




「……あれ? ち、縮んでない?」


 気づいた時にはさきほどまで「はっふ、はっふ、はっふ!」と口元から強烈な風圧を送り込んできたはずの巨体が、膝ぐらいまでの大きさに縮んでしまったのだ。


 しかも、やたらと寸胴になって毛糸の玉に足が生えたみたいになっている。


「えぇえええ? これ、どういうこと!?」


「羊みたいな犬ですね」


 あきれ顔になってしまう。


 だけど、これはこれでイイ。

 もふもふの塊だなんて、すごくイイ。



「こ、これは聖獣じゃあああ!? 若い時に一度だけ見たこたがあるぞい」


 その様子を眺めていた村長さんが近寄ってきて叫ぶ。元気。

 聖獣っていうのは、ほぼ伝説上の生き物で、体を自由に操作できる存在らしい。

 生き物って言うよりも神様に近いって言うけど、私から見たら妙な羊にさえ見えてくる。


 いや、どっちかというと、わたあめに近い。



「よっし、まぁ、とにかくこれなら村に入れられるよね!」


 とはいえ。


 私にとってこの子が聖獣なのかはどうでもいいことだ。

 小さくなれたんだし、大手を振って飼い犬として連れて帰れるわけで。


 ふふふ、あとで骨を投げて遊ぼう。




◇ 一方、そのころ村人たちは


「知ってるか! 魔女様が聖獣のいぬを手なずけたらしいぞ!」


「嘘だろ!? 聖獣なんて言うのは人に馴れるもんじゃないはず」


「いや、村長が言うにはあの羊みたいな犬が聖獣らしい。姿かたちを意のままに操るっていう話だ」


「本当は巨大なモンスターみたいになるらしいぞ?」


「ま、まじかよ!? 聖獣を手なずけるなんて、さすがは魔女様すごすぎるぜ……」


「魔女様、ばんざいすぎる!」


 ユオのあずかり知らないところで、村人たちはユオの噂をするのだった。

 その噂は尾ひれがついて、村人の間に拡大していくのだった。



【魔女様の発揮した能力】

・焼き肉:肉を熱して焼くシンプルな技。自動的に温度調整をして、好みの焼き具合にすることができる。人間には使いたくない。


【魔女様の人材】

・シュガーショック:禁断の大地をさまよう聖獣。人間にはなつかないことが多く、生態は謎に包まれている。魔力を持ち、体の大きさをある程度自由に変えられる。戦闘能力も強い。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「いぬ飼いてぇ……!」


と思ったら


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