326.魔幼女様、王都で大臣をおびき寄せるも、聞こえてはいけない言葉に王都を滅ぼしかける
「聞いたか、灼熱の魔女様はお忍びでこの国を回ってるらしいぜ!?」
「え、死んだって聞いてたけど、それ本当なのか!?」
「あぁ! この国の色んな所で奇跡を起こしているんだとよ!」
ララの流した噂はクサツ魔導公国にすぐに広まっていった。
それはあの灼熱の魔女は生きていて、この国で奇跡を起こしているというものだった。
私達一行は王都の酒場の陰に潜んで、人々の様子を観察しているのだ。
ちなみに、どんな奇跡かと言うと……。
「あの呪酸沼を無毒化して、おんせんとやらに変えてくださったらしいぞ!」
「ほ、本当なの!? あの土地は住むことができない呪われた土地だって言われてたのに!」
「まさに奇跡の天才魔女様! すげぇ人がいる時代に生まれちまったよ!」
そう、クサツ魔導公国の南部にある呪酸沼を無毒化したことを話題にしているのだ。
私はあれから一つ一つの沼に手を入れて、ほいほいと温泉へと変えていった。
結果、一日ぐらいでほぼほぼ全ての沼は温泉地へと変わってしまったと思う。
私としては当たり前のことをしたまでなのだが、褒められるのは正直くすぐったい。
奇跡とか天才とか言われるほどじゃないんだけどなぁ、くふふ。
「魔女様、嬉しそうでかわいいですの」
「本当じゃなぁ、魔女様、すぐに顔にでるのじゃ」
一人でほくほくしていると、ヨイヨイとエリクサーが私のことをからかってくる。
ちぃいい、子供に戻っているからか、どうしても表情筋のコントロールがうまくいかない。
嬉しい時には「嬉しいっ!」ってなってしまうし、正直、「嬉しいよぉお」と喜びを身体で表現してもいいかなとさえ思ってしまう。
恐るべし、子供の体。
「他にもあるぜ! 呪酸沼の周りにいた盗賊や魔獣なんかもやっつけたそうだ!」
「おぉ、すげぇ! あそこらへんは無法者のたまり場になってたから助かるぜ!」
これで終わればいいのだが、私のやっていないことまで手柄になってしまう。
いや、正確に言うと、盗賊や魔獣はやっつけたのだ。
村長さんとイリスちゃんが、そりゃもう盛大に。
場合によっては地形が変わるほど。
「すげぇなぁ、やっぱり破壊神だぜ!」
「あぁ、一度、ビンタされてみたい!」
「魔女様、万歳! 破壊神万歳!」
私についての噂が独り歩きして、しまいにゃ「魔女様ばんざい」「破壊神ばんざい」コールが酒場に充満する。
ひぃいいい、なんなのよ、これ!?
どうして破壊神とか言われなきゃいけないわけ?
今の私はもう温泉を熱くすること以外何もできない、か弱き幼児なのに。
「……いい感じに機が熟してきましたね」
「そうだな、そろそろ頃合いだな」
「よっし、大臣をおびき出すフェーズに入りますの!」
「わしも頑張るのじゃ!」
「くふぅ、腹が少しキリキリするのぉ……」
酒場の様子を見た、ララ、イリスちゃん、ヨイヨイ、エリクサーはお互い頷き合って、計画を確認している。
私はほぼほぼ蚊帳の外であり、村長さんのお腹の調子を心配するだけなのだった。
◇
「うぉおお! 国王一派をやっつけろー!」
「魔女様はどうなったんだー!」
クサツ魔導公国の王都、その王城の門のところには抗議の声をあげる人々が集まっていた。
私たちの噂が広まり始めたとはいえ、まだまだ噂レベルなのだろう。
彼らは私の姿を見るまでは抗議を続けるのかもしれない。
ララはこれからあの人たちの前で正体を現すって言うけれど、今の私は子供の姿なのだ。
大丈夫なんだろうか。
「お前なんか魔女じゃない」って言われるんじゃないだろうか。
私は魔女じゃないけど、一応、魔女ってことで歓迎されたわけで。
でも、今の私はその魔女の時の姿とは違うわけで。
ええと、だんだんややこしくなってきたよ!?
「皆様、これより灼熱の魔女様が奇跡をお見せいたしますの!」
ヨイヨイは王城の前に演説用の台を作ると、居並ぶ民衆の前で大きな声をあげる。
それはその場にいた人々の怒号をかき消すほど、よく通る声だった。
彼女の背筋は凛として、彼女もここ数日で成長したように思える。
「灼熱の魔女だと!?」
「本物だろうな!?」
ヨイヨイの声に鎮まる民衆がほとんどだけど、それでも一部の人は心ないヤジを飛ばす。
もしかしたら、大臣に雇われている人もいるのかもしれない。
「本物ですのっ! 証拠もありますのよっ!」
しかし、それでもヨイヨイはたじろぐことはない。
彼女はさっきよりも通る声で、「証拠がある」と断言するのだった。
「ふふん、往生際が悪いですぞ! ヨイヨイ様!」
ここで小太りのおじさんがヨイヨイに食ってかかってきた。
高そうな衣服に身を包み、卑しい目つき。
どことなく、昔、サジタリアスで大暴れしたあの人に似ている。
「どうせ、偽物や影武者でも連れてきて魔女だとでも言い張るんでしょう!」
彼はそう言うと高笑いをする。
いかにも性格悪そうな顔である。
ふぅむ、どうやらヨイヨイたちにとどめを刺そうと思って出てきたらしい。
「いいえ、違いますの! 本人ですのよ! さぁ、魔女様、こちらへどうぞ!」
「ひ、ひぃいいぇええ!?」
そして、私は人々の前に連れてこられるのだった。
ララに抱きかかえられて。
ちょっとぉおお、そんなんじゃ威厳もへったくれもないじゃないのよ!?
せめて、下ろしてほしいんだけど!
「おいおいおい、どうしたぁあああ!? 子供じゃねぇか!」
「魔女様に顔つきは似てるが、こんなガキじゃねぇぞ!」
「灼熱の魔女様はいろいろ子供っぽい所もあったけど、一応、大人だったぞ!」
「そうだそうだ! 魔女様はペチャ……、えーと、小さいほうだろうけど子供じゃないわ!」
私が登場するや否や、人々からはブーイングが飛んでくる。
いわく、子供、ガキ、偽物だ、である。
まぁ、こうなることは最初から分かってたから、頭に来たりはしない。
「おんのぉれ、貴様らぁああああ」
しかし、何人かが悪意たっぷりなことを言うのが耳に入る。
怒りに我を忘れそうになる私。
いくら何でも言っていいことと悪いことがある。
特に最後の方のは聞こえちゃいけない言葉であって。
人の体型をあーだこーだ言うなんて、最低!!
ヨイヨイには悪いけど、今ならこの都市を火の海に変えることだってできそう。
体の奥に感じる熱い塊がどどどどと押し寄せてくるのを感じる。
「ご主人様、いくらなんでも国ごと滅ぼしちゃダメです!」
「ひぃいいい、魔女様、怒っちゃダメですのぉおお!?」
ララとヨイヨイは悲鳴のような声をあげて私をなだめてくれる。
私の怒りに気が付くなんて、すごく気配りのできる二人である。
危ない危ない。
口の中から、何だかものすごく熱いものがこみ上げてきそうだった。
私はふぅーっと息を吐いて、心を落ち着かせる。
ここで感情に任せて動いてはいけないのだ。
計画通りにやらねば。
「ヨイヨイ様、あなたは証拠があると仰いましたよね? だったら、それを見せてください!」
大臣の男の人はニヤニヤ笑いながら、「証拠だ、証拠」などと声をあげる。
その取り巻きと思わしき人たちも一緒に「証拠を出せ」とコールする。
人間って性格の悪さが顔に出るんだなぁと私は感心する。
「ふふん、これを見てくださいですの! あれをお持ち!」
ヨイヨイが指をぱちんと鳴らすと、衛兵の人たちが台車で桶を運んでくる。
「な、なんだぁ!? うわ、臭い!」
「じ、地獄みたいな匂いがするわっ!?」
「これはまさか!?」
そう、ヨイヨイが運ばせたのは呪酸沼の水である。
それも私がまだ処理を行う前のもので、ちょっと邪悪なにおいがする。
ララの指示で空間袋に入れておいたのだ。
人々は呪酸沼の水を忌避しているらしく、桶の周りからざざぁっと遠ざかる。
なるほど、あの水ってそれほどまでに嫌われてたのね。
「この呪われた水をこの魔女様が奇跡のお湯に変えてしまいますのよ! さぁっ、お願いいたしますの!」
「見ててください!」
ここで一歩踏み出すのが私である。
ヨイヨイの求めに応じて、この桶の水を温泉のお湯へと変化させるのだ。
なぁに難しいことではない。
手を水の中に入れて、ゆっくりと熱を伝える。
この水が本来の力を発揮できるようにと念じながら。
「おぉおおお、ゆ、湯気が上がったぞ!?」
「水の色も変わった!」
「匂いも違うぞ! き、奇跡だ!」
間近で見ていた何人かはすぐさま大きな声をあげる。
そりゃそうだ、私の作るお湯は最高なのである。
何のとりえもない私だけど、お湯を温めることだけにはプライドを持っている。
「魔女様は公国の呪われた水をお湯に変える仕事をされておりましたの!」
人々の反応を見て、ヨイヨイが得意そうな顔をする。
鼻息がふふーんとしているのが目に浮かぶようである。
「こ、こんなのはインチキだ。そもそも、なんでその子供が魔女なのだ! 本物は美麗で儚げで溜息の出るような絶世の美女だったはずだ。かけ離れているだろうが!」
大臣はそれでも私の力を信じないと声をあげる。
その理由はやはり外見の変化だ。
そりゃそうだよね、本物は美麗で儚げで溜息の出るような絶世の美女だもの!
うふふふ、大臣、あんた、わかってるじゃん!
いや、絶世の美女って言われるほどかなぁ?
それほどでもないと思うけどなぁ。
「魔女様、嬉しそうですの……」
「どうしても顔に出てしまうようですね」
訝しげな顔をするヨイヨイとララ。
だけど、しょうがない。
嬉しい時には顔がゆるむものなのだ。
私は当初の目的を忘れて、大臣は実はいい奴なんじゃないかとさえ思ってしまう。
大臣、あんたとは敵対したくなかったなぁ。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「魔女様は小さいってわけじゃない! 大きくないだけ!」
「コミカライズ版は結構大きいのではないかね?」
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