324.魔幼女様、ヨイヨイを味方につけるも、体調悪化。しかし、再び奇跡を起こす
「ひ、ひぇええ、ってことは、魔女様が子供になってるんですの!?」
殺されると騒いでいたヨイヨイをなんとか宥めた私たちである。
しかし、その数分後、彼女は大きな声をあげることになる。
なぜなら、私たちが事情を説明したからである。
イリスちゃんは「この女も敵の可能性があるのだぞ」と注意してくれる。
だけど、ヨイヨイは今回の事件に加担していないと思うのだ。
彼女と接した時間は多くはないけれど、嘘のつけない性格だ。
後ろ暗いことができるとは思えない。
まぁ、これは完全に私の勘なのだけれど。
それにヨイヨイは公国のお姫様でもある。
私たちが潜入するに当たって、協力者になってくれるかもしれない。
「しかし、どうしてこんなに小さくなってるんですの!? かわいいのですの! 手が小さいですの!」
ヨイヨイは目をキラキラさせて、そんなことを言う。
かわいいと言われて悪い気はしない。
だけど、私が子供になった理由はわからないのだ。
彼女の口ぶりだと、魔族の国でも一般的に起こるようなことではないらしい。
「我々は晩餐会の料理に仕掛けがしてあったように睨んでいます」
ララが現時点での私たちの見立てをヨイヨイに伝える。
私は晩餐会の最後の方で意識を失った。
それまで一切、体調の変化がないことを考えるに、晩餐会の料理が怪しいということになる。
シーフードはすごく美味しかったのに、とても残念だ。
「お料理ですの? しっかりと料理人を吟味して、毒見係も用意しておりましたのに……」
一方のヨイヨイは怪訝そうな顔をする。
彼女が言うには、王族とその客人のためにセキュリティは万全。
毒見係がその場に常駐して、全ての料理をチェックしたというではないか。
ぐぅむ、それなら、お料理は原因じゃなかったってことかしら?
「いや、そうとも限るまい。毒見係や料理人が買収されることはよくあることだ」
ここで口をはさんだのはイリスちゃんである。
なるほど、ヨイヨイには悪いけれど、裏切り者がいるって可能性もあるのだろうか。
「ば、買収ですの!? そ、そう言えば、当日の警護はビオル大臣がやっておりましたけれど……」
買収という言葉を聞いて、ヨイヨイの表情は曇る。
どうやらその大臣とはひと悶着あったような顔である。
「ビオル大臣と言うのは、長年、公国を支えてくださってる方なんですの。しかし、最近になって挙動がちょっとおかしいんですの。何ていいますか、変なお祈りを突然始めたりするんですの」
ヨイヨイはその大臣がやっているという祈りのポーズを実演してくれる。
地面にあおむけになったかと思うと、手足をバタバタとさせるというもので、何ていうか、シュガーショックがしょっちゅうやるやつに似てる。
「ビンゴだの」
「ビンゴじゃな」
これに反応したのはイリスちゃんと村長さんだった。
ビンゴ?
それってどういう意味?
「今のは聖王国の祈りの姿勢じゃぞい。聖王アスモデウスに完全服従を示しているのじゃ」
村長さんは難しい顔で、とんでもないことを言う。
つまり、それって……!
「さよう、その大臣とやらも聖王国に取り込まれておるのだろう」
「ひ、ひぇええですのぉおおおお!? あれって聖王国のやつだったんですのぉおお!?」
イリスちゃんの結論に悲鳴を上げるヨイヨイ。
そりゃそうだ、国で重用していた人物が実は敵対勢力に加担していたなんて最悪である。
「犯人の目星はついたようだな。まずは大臣の周りを張りこむとするか」
「うむ。そうすることになりそうじゃの」
イリスちゃんと村長さんはお互いに頷きあって、今後の方針を固める。
この二人、何もしなければ本当に頼もしい。
今回の問題も簡単に解決しちゃうんじゃないかしら。
「そう言えば、ヨイヨイはどうしてこんなところにいるの? ここって危ない土地なんでしょ?」
これから出発ということではあるけれど、ヨイヨイがこんなところにいた理由を確認しておくことにした。
このあたりは呪酸沼が広がっているので、地元の人でもあまり近づかないと聞いていたからだ。
「じ、実は公国は今、大変なことになっておりまして……」
「な、なんですって!?」
ヨイヨイは神妙な顔をして、ここに来た経緯を教えてくれるのだった。
いわく、彼女の国は動乱寸前まで来ていること。
その発端は私が国に速攻で帰ってしまったこと。
「動乱ですか? クサツ魔導公国は平和な国でしたのに意外ですね」
ララは先日訪問した時のことを思い出して不思議そうな顔をする。
確かに、クサツの人々は私たちを熱烈に歓迎してくれた。
あの笑顔は本当にいいものだったし、そんなに怒りが充満しているとは思えなかった。
「いいえ、聖王国に攻められてからというもの、国民の心は徐々に荒んでおりましたの。……私たちは魔女様を利用しようとしたんですの! 魔幼女様、申し訳ございませんですのぉおおおお」
ヨイヨイはそう言うと、土下座の姿勢になって頭を地面に打ち付ける。
ひぃいい、そこまでしてもらう必要ないよ。
利用するって言葉は悪いけど、私たちだって魔族の国と仲良くしかったわけで、ウィンウィンの関係って言えるのではないだろうか。
って、あんた、今、私のことを魔幼女って言ったよね!?
その呼び名は不本意なんですけど!
「それでは、できるだけ早くクサツの王都に戻らねばなりませんね。くふふ、私のご主人様をこんなにかわいくしてくださったこと、落とし前をつけてもらいますよ」
ララはちょっと悪い笑顔を浮かべる。
いやいや、怖いよ。
拷問でもしかねない表情じゃん、それ。
◇
「それじゃ、出発しようか! あ、あれ? ぐぅ……ううううう」
目標が固まったのでいざ出発という時のことだった。
私は胸のあたりに強烈な息苦しさを感じてうずくまってしまう。
呼吸が苦しいというか、何かが詰まっているというか。
「ご、ご主人様!?」
「ユオ殿!?」
皆は慌てて私を介抱してくれるのだが、楽な姿勢になっても呼吸は苦しいまま。
一向に良くならない。
心臓の音がどくんどくんと響き、呼吸をするだけでも辛い。
胸の痛みに奥歯を噛みしめてしまう。
「お、温泉。温泉に入らなきゃ……」
この感覚に私は覚えがあった。
以前、ダンジョンで虹ぃにょと戦った時のことだ。
あの子の呪いとやらで私は絶体絶命のピンチに陥ったのだ。
その時は洞窟温泉に薬草をがばがば入れて薬湯をつくり、それで助かったのである。
実をいうと、空間袋に温泉水は入れてきてある。
それを頭からかぶれば少しはましになるかもしれない。
だけど、それはお湯浴びであって、温泉ではない。
でも、そんなわがまま言ってられないよね。
しょうがない、ええと、空間袋を取り出さなきゃ。
「温泉って言っても、ここら辺には呪酸沼しかないぞ!? こんな水に入れないのじゃ」
エリクサーは空間袋のことなど忘れているのか、慌てふためいた声。
でも、その言葉は私に新しいアイデアをくれた。
そっか、呪酸沼か。
さっきちょっとだけ入ろうかなって思った水だ。
ひょっとしたら……!
「ララ、ごめん!」
私は力を振り絞ってララの介抱を解く。
そして、近くにあった呪酸沼へと転がり込む。
「ご、ご主人様!? 危ないですよ!」
ララの制止の声も聞かず、どぶんと水に入る。
それはほんのり温かい水だった。
不思議な水で、ちくちくと肌が痛い。
何かがしみ込んでくる感覚。
私を覆う悪いものを除去してくれるような感覚。
刺激の強い水。
だけど、耐えられないほどじゃない。
そう、これはいいお湯になれるかもしれない。
「ご主人様!?」
「ユオ殿!?」
「ユオ!?」
「魔女様!?」
私は皆の声を水の中で聞きながら、能力を発動させる。
この水が全部、お湯に代わりますようにって祈りながら。
口から火を噴くこと以外、私にはこの能力しかないのだ。
いや、口から火を噴きたくないし、この能力しか残っていないと言っていい。
だったら、その力をフル活用するだけで……!
沼の底にある大きな水の塊に私はアクセスする。
そして、祈るように熱を集めるのだ。
ちょうどいい温度になりますように、皆を笑顔にできますようにと願いながら。
「ひぃいいいい、死んじゃいますのぉおおお!? 呪酸沼は釘を入れておいたら、一晩で消えるほど使い道のない呪われた水で満たされておりますの! はやく引き上げますの!」
水中を漂う私にとって、ヨイヨイの声は遠くに聞こえる。
鉄をも溶かす強烈な成分を持った強い水。
確かにそれは役立たずの水かもしれない。
だけど、私が熱を加えれば呪われた水だって変わる。
世界で唯一の温泉に変わる!
誰にも役立たずだなんて、言わせない!!
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