323.魔幼女様、クサツ魔導公国に潜入するも思わぬ人物に出くわすよ!
「ユオ殿、そろそろクサツ領が見えるころじゃぞ」
子供化した私の体の謎を解くべく、クサツ魔導公国に向かった私たちである。
メンバーは私、ララ、エリクサー、イリスちゃん、村長さんの五人にシュガーショック。
「ふぅむ、狼の聖獣か。改めてみると雄大だな……」
イリスちゃんはシュガーショックの毛並みをなでながら、感心した様子。
頑丈な肉体に鋭い牙、だけどものすごく優しい心。
飼い主として、シュガーショックが褒められるのはすごく嬉しい。
「エリクサー様がいらっしゃって助かりましたね。こんなルートがあるとは」
「そうだね、私たちだけじゃ絶対に無理だったかも」
前回、クサツ魔導公国を訪問した時はヨイヨイの案内があった。
今回は私たちだけでの潜入である。
潜入という言葉からも分かるように、これは秘密のプロジェクト。
こっそり忍び込まなければならない。
つまり、ヨイヨイと同じルートで入国するわけにはいかないのだ。
そんなわけで頑張ってくれたのがエリクサーである。
彼女はクサツ魔導公国までのルートを考案してくれたのである。
もっとも最初に地図を描いてくれた時にはその絵の拙さに絶句したけれど。
「くふふふ、わしにかかれば簡単なことじゃぞ! ここら辺はわしの庭みたいなもんじゃから! ……今はもう見る影もないがな」
エリクサーは鼻息あらくそんなことを言う。
だが、言葉の最後では寂しそうな顔をする。
それもそのはず、前回の世界樹の下にいたやつの騒動のおかげで、村の周辺の景色は一変してしまったのだ。
魔地フジヤマと呼ばれる山が生まれてしまったし、エリクサーの村もなくなってしまった。
彼女からしたら、故郷が全部なくなってしまったのだ。
「エリクサーの村の復興も頑張るからね!」
「ユ、ユオ殿、大好きじゃぞぉおおおお!」
エリクサーをはじめとする魔族の村人には、うちの村に移住してもらっている。
しかし、やっぱり慣れ親しんだ土地を離れるのはつらいもの。
私たちはどれぐらいの期間になるか分からないが、世界樹の村の復興計画を立てているのである。
世界樹はクレイモアのお菓子の原料にもなるし、案外、早いかもしれないけど。
私は抱きついてきたエリクサーに圧倒されながらも、志を新たにするのだった。
◇
「おぉっ、見えてきたぞ、あれが呪われし最悪の沼、呪酸沼じゃ!」
私たちの目に入ってきたのは、巨大な沼だった。
しかし、それはただの沼ではない。
周辺が荒野と化していて、草一本映えていないのだ。
ふぅむ、かなり禍々しい雰囲気。
「なるほど、呪酸沼か。魔族の大地の中でも瘴気の濃い場所だと言われるが……これはひどいな」
沼を目にしたイリスちゃんは眉間にしわを寄せる。
彼女は膨大な魔力を持つ女の子である。
この沼の恐ろしさを一発で見抜いてしまったということだろうか。
ごぽごぽという変な音を立てて沸き立っているし、見るからに不気味。
ううぅ、早いところ、ここを立ち去りたいよ。
「ご主人様、入らないでくださいよ?」
「さすがに入らないよ!?」
ララは私の体をぎゅっと捕まえる。
いくらなんでも、呪いって名前がついている場所に入るわけないじゃん。
どう考えても呪われるんでしょ!?
「でも、温泉を発見した時は秒で入りましたよね?」
「うちの温泉は違うでしょ! 神聖な雰囲気があるじゃん!」
ララはいつぞやのことを持ち出してくるので、少々ムキになってしまう私。
荒野の中にある謎の不気味な沼と、山間にある神聖な泉。
そりゃあ、比べるのも失礼って感じがする。
とはいえ、この沼がどうして恐れられているのか私は知らない。
食べ物もそうだけど、食わず嫌いはよくないかもしれない。
お湯に入らずに、そのお湯のことを評価するのは私の主義に反することだし。
私は沼のお湯を眺める。
よーく見れば、別に淀んではおらず、一定の流れで川を形成しているようだ。
イメージ的に沼って呼んでいるだけで、これは泉なのかもしれない。
温めたら、どんな感じなんだろうか?
ひょっとしたら、いい感じかもしれないよね。
ちなみに私のお湯温め能力はそのままだった。
この沼程度なら、簡単に温められるかもしれない。
「ひきゃああああ!? あなたたち、なんですのぉおおお!?」
私が呪酸沼の水をじっと見つめていると、突然、悲鳴が聞こえてくる。
一瞬、私たちのことを発見して驚いているのかと思ったがそうではないようだ。
「魔女様、どうやら、あちらの岩陰のようですぞ」
「魔族であろうと無法者はいるものだな」
村長さんはいち早く気配を察知したらしく、悲鳴のあった方向へと向かい、イリスちゃんもそれに続く。
もちろん、私たちも急いで現場へと急行するのだった。
「ヨイヨイ・クサツだな! 貴様の命を頂く!」
「金目のものも頂くぜぇ!」
岩陰から覗いてみると、あら大変である。
ガラの悪そうな男たちに襲われているのはヨイヨイだった。
そう、私を先日、案内してくれたあのお姫様である。
「ご主人様、いかがいたしますか?」
「もちろん、助けるよっ! 村長さん、イリスちゃん、バレないようにお願い!」
ララは不安そうな顔をするが、私に助けないって選択肢はない。
こんな体になってしまったのは、ヨイヨイちゃんのせいじゃないって思っているし。
目の前で誰かが命を落とすのは絶対に避けたい。
「心得ましたぞ!」
「わらわに任せておけ!」
そういうと、村長さんとイリスちゃんはしゅばばっと強盗団のところへ急行する。
腕に自信のある二人である。
速攻で片付けてくれるに違いない。
ヨイヨイちゃんには悪いけど、二人のかっこいい姿が見られると思うと興奮してしまう。
なんせ、あの二人、昔は一緒に組んで悪い人たちをやっつけていたらしいし。
「……おろろぉ、どこじゃろうか、ここは? 若い衆、ここはどこらへんじゃったかのぉ?」
「こら、じいさんや、若い衆は取り込み中じゃぞい? おぉ、腰が痛いのぉ」
ワクワクしながら二人を見ていた私であるが、目に入ってきたのは、絶句するような寸劇だった。
どうやら、村長さんが道に迷った老人役を、そしてイリスちゃんがその妻役をやっているらしい。
いくらなんでも不自然すぎる。
イリスちゃん、腰が痛いとか絶対に嘘だし。背骨まっすぐだし。
「あれはもはや、おまえのようなジジィがいるかなのじゃあ!?」などとエリクサーは言う。
だいぶ失礼だけど、気持ちは分かる。
だって村長さんはムキムキだし、どう見ても不自然だ。
ほとんど子供のイリスちゃんが妻役って言うのも無理がある。
「なんだジジィ、俺たちは忙しいんだよ!」
「消えろ、この徘徊ジジイ!」
五人程度いる魔族の男たちは村長さんを口々に罵倒。
しかし、二人の不自然さに気づく人はいないらしい。
うっそぉ、バレないものなの!?
魔族って老人でもムキムキしてるとか?
「うちのじいさんをバカにすると許さん! 貴様ら、その死をもって償うがいい!!」
しかも、イリスちゃんは男たちの言葉を真に受けて、突如として魔法を発動。
ひぃいい、沸点に至るスピードが普通じゃない。
それにしても、馬鹿にされてないイリスちゃんがそこまて怒る必要ある!?
「拘束の蔓薔薇!」
そこから先は恐怖の一場面の始まりだった。
ごごごごごなどと大地が割れ、そこから桃色の薔薇がにょきにょきと生えてきたのだ。
それも人の頭ほどの大きさのある薔薇に、人の腕ほどの太さのある蔓である。
エリクサーは「ひぃぃいい」と悲鳴をあげる。
「ひぎゃあああ!?」
「なんだこれはぁあああ!」
薔薇のつたにぐるぐる巻きにされる男たち。
薔薇の花はそれ自体はキレイなのだが、目と口がついていて、ひたすら笑顔なのが怖い。
「何だお前ら、に、逃げ、ひぐっ!?」
「逃さん! けえ~~い!!」
幸運にも薔薇のツルを回避できた人もいたが、猛烈なスピードで迫りくる村長さんにふっ飛ばされる。
どう見ても老人の動きじゃない。
なんていうか、目が光ってたし。
「くふふふ、じいさんに免じて命だけは取らずにおいてやる」
「お前はちとやり過ぎるのぉ」
男たちが失神したのちもイリスちゃんたちは芝居を続行。
「最近は物忘れがひどくていかんのぉ」
「じいさん、何を言う、二百まで現役じゃぞ?」
この人達、このキャラで乗りこむつもりなのかしら!?
二重の意味でショックを受ける私である。
「ひぃいいいい、わたくし、徘徊老夫婦に殺されるんですのぉおおお!」
当然のごとく、悲鳴を上げるヨイヨイ。
そりゃそうだ、いきなりムキムキの老人と凶悪な魔法を使う自称老婆の女の子が現れたら死を覚悟するよね。
私は溜息をついて、どう説明したものかと悩むのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「おまえのようなババァもいない……」
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