322.魔幼女様、能力がアレになって灼熱の魔女を卒業します!
「それじゃメテオ、村の守りにだけは気を付けてね」
私はメテオたちに今後の方針を伝えていく。
ひとまずは村の警備の強化である。
どこかの悪い人たちが村の平和を脅かすかもしれないからね。
「そこら辺はハンナちゃんとかアリシアと一緒に頑張るから、任しとき。しかし、ユオ様を行かすの抵抗あるなぁ。どう見ても子供やし」
「そやで。そもそも、ユオ様って今、能力使えるん?」
メテオとクエイクは村の防衛については自信があるようだけど、私が忍び込むことについては反対の様子。
言われてみれば、能力って使えるのかしら。
子供の体に戻ったんだし、能力も小型化してたりして。
「ご主人様、念のため、確認しておいた方がいいのではないでしょうか」
「そだね」
そんなわけで村の近くの森で、私の能力をチェックすることにする。
さぁ、どうなるか。
まずは熱視線である。
目に力をぎゅっと入れれば高熱の光がしゅばっと飛ぶ奴である。
本当はシュガーショックのお肉を切るための家庭的な技なのであるが、今では色んな敵をやっつけるのに使われてきた。
「……出ない」
いくら頑張っても、出てこない。
いつもなら森を破壊してもおかしくないぐらいに力を入れているのに。
「てか、そもそも、手のひらも熱くならないし」
薄々感じていたのだが、私が熱を発するときの体の感覚が一切ないのだ。
凱旋盗の時は暗示みたいなものだったらしいけど、今は違う。
体の奥でくすぶってはいるけど、現れてくれないって感じである。
「ゆ、由々しき事態やで……」
「うちの村の最強戦力が……」
「おいたわしや、ご主人様……」
これにはメテオとクエイクも、ついでにララも眉間にシワを寄せて渋い顔である。
「うわぁ、びっくりだね……」
これまで数々の悪い人たちをやっつけてくれた私の能力であるが、ここにおいて、完全に沈黙している。
驚くべきことでもあり、今後の方針に大きく影響を与えることだろう。
しかし、しかし。
私は思うのだ。
……これで普通の女の子に戻れる、と。
普通の女の子は熱の力で地面を爆発させたりしない。
普通の女の子は熱の力で空を飛んだりしない。
普通の女の子は目から熱線を飛ばしたりしないのである。
温泉の熱さは今まで通りみたいだし、塩だって生産できているみたいである。
うちの村にはハンナやクレイモアやカルラがいるし、燃え吉や虹ぃにょだっている。
防衛戦力は十分なのだ。
何も私が表立って戦う必要はない。
くふふ、私、魔女を引退できるってことだよね!?
私、灼熱の魔女を卒業して、普通の女の子になります!
そもそも、最初から魔女じゃないけど!
ララに乗せられてただけだし!
「ご主人様、なんだか喜んでませんか?」
「ほくそ笑んでたで、この幼女」
「内心、ほっとしとるんちゃう?」
私の内心を見透かすように、三人はジト目で反応する。
いやいや、残念に思ってるよ!?
今さら思えば口から超高熱の何かをぶっとばすのは懐かしいとさえ感じる。
うふふ、あの頃の私、若かったなぁなんて。
「今のご主人様は若返ってるんですよ? むしろ、逆では?」
ララはさらに突っ込んでくるけど、聞こえないふりである。
魔女はもう引退したのである。
これからは第三の人生だよ。
ユオ・ヤパンは普通の領主として温泉スローライフに邁進いたします!
「てか、今さらやけど口から出すやつってどないなってたん? なんか勢い余って出てくるん?」
「そういえば……」
過去に何度となく敵をやっつけてきた、口から出るアレであるが、まともに考えたことはなかった。
もう出てこないだろうけど、どんな仕組みになっていたのだろうか。
「えっとねぇ、喉の奥に力を入れて、お腹の中がメラメラするのを感じて、背中がしびびっとしたら……、あんぎゃああああ!」
ここで私は恐ろしいものを目にすることになる。
私の絶叫とともに、口から青白い炎が飛び出したのだ。
一メートルぐらいしか長さはないのだが、ちょうど近くにあった木は一瞬で燃え上がる。
「あらあら、かわいらしい炎ですね」
そんな様を見てララはうっとりした様子。
いや、全然、可愛くない。
可愛くないよっ!
「……幼女の背中が光ったで? 幼女怪獣やん」
「……灼熱の火吹き魔幼女やな」
様子を見ていた猫人姉妹は本当に失礼なことを言い始める。
誰が火吹き魔幼女ですってぇええ!?
「ひぃいい、クエイク、お前、燃やされるで!?」
「本当のことを言っただけやのにぃいい!?」
二人はぎゃあぎゃあ言いながら、屋敷の方に逃げていく。
ちぃっ、逃げ足の速い奴らめ。
「ご主人様、これでいざという時はお望み通り、敵を燃やせますね! 一安心です!」
ララは不穏なことを言いながら嬉しそうな表情。
そういやこの人、私が破壊活動をするたびに喜んでるんだよなぁ。
燃やすことなんて、望んでないっていうの。
とはいえ、これではっきりした。
私の能力はまだ残っている。
口から出す奴は少なくとも使えるようだが、「あんぎゃああああ!」っていう叫び声は嫌だ。
元・公爵令嬢としても、領主としても受け入れられないし、人間として絶対に使いたくない能力である。
「ご主人様、灼熱の魔幼女としてこれからは頑張りましょうね! まだまだ魔女は卒業させませんよ! 魔幼女様は永遠に不滅です!」
ララは嬉しそうに抱き着いてくるが、さっさと卒業したい私なのであった。
いや、何そのネーミング!?
永遠って何よ!?
◇ 一方、イリス女王とサンライズは?
「イリス、何か分かったのかの?」
ユオ達が森の中で能力を確かめているのを、イリスとサンライズは静かに眺めていた。
最初はユオ達の和気あいあいとした様子に笑顔だったイリスであるが、その表情は次第に曇っていく。
「……ユオは母上と同じだ。おそらく、何かに憑りつかれているようだな」
ユオの様子を特殊な魔法で観察していたイリスは一つの結論に落ち着く。
それはユオが能力を発動させようとしたとき、足元から禍々しいオーラが現れるのだ。
おそらくは能力の一部を抑えつける作用があるらしく、ほとんどの能力は無効化されてしまう。
口から出す破壊光線はその威力の高さゆえに、ある程度、発露できるのだろう。
だが、その力は限定的であるようだ。
「浄化魔法は使ったのか?」
「やっておるわ」
イリスは密かに浄化魔法、光の薔薇を試みてはいた。
だが、幾重にも積み重なったそのオーラには干渉することができない。
光り輝く薔薇が彼女に当たっても、すぐに黒ずんで枯れてしまうのだった。
「クソが……、一枚上手ということか」
イリスは歯噛みをしてそう呟く。
自分ほどの術者を子ども扱いするような術式であり、彼女は内心、腹立たしさを感じる。
そして、ユオの様子はイリスが伝え聞いていた、彼女の母親の晩年と酷似していた。
稀代の魔法使いとして知られていた母親は魔力の大半を失い、病死したのだ。
もっともそれは本当に「病死」だったのかどうか明らかではなかったが。
イリスはユオと一緒にいることで、母親の死の謎を解明できると踏んでいた。
しかし、彼女は思う。
今、最優先すべきは母の死の謎を解くことではない、と。
一番大事なのはユオの命、ユオの存在なのである。
そのために彼女は魔族の国に行くことにしたのだ。
「ユオは絶対に死なせんぞ、サンライズ」
「分かっておるわ、わしの命に代えてもお守りせねば」
イリスとサンライズはユオに忍び寄る影を感じ取る。
そして、決意するのだ。
絶対にユオを守ると。
もう大事なものを奪い取られはしないと。
【魔女様の発揮した能力】
熱線放射(小型):魔幼女様が力むことで発することのできる火炎放射攻撃。背中が青白く光り、口からはかわいらしい青白い炎を放射。その炎はモンスターや人間ならば即座に焼き尽くす。小型ながら、なかなかの威力を誇り、直撃すれば死ぬ。即死技。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「せっかく卒業宣言したのに……」
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