321.魔女様、クサツ魔導公国に潜入捜査を行います! 一方その頃、クサツでは……
「攻め込むのはナシの方向で! そもそも、誰が犯人なのか分からないし!」
イリスちゃんは強硬に宣戦布告を主張するけど、そういうわけにはいかない。
戦争って言うのは一度始めたら、双方に大きな被害が出る。
おいそれと始められるものではないだろう。
「とはいえ、クサツで何かあったことは事実です。せめて、何が原因なのかを探らなければ、問題を解決できません」
ララの言うことももっともである。
私だって子供の姿でいるのは嫌だ。
それにまだ体調が完全にいいというわけではない。
なんというか、体の内側で何かがせめぎ合っている感じがする。
「ふぅむ、それじゃどうする?」
「簡単よ! 潜入して犯人を捕まえるのよ!」
ここで私の脳裏に浮かんだのが、潜入捜査である。
敵国に忍び込んで、情報を秘密裏に収集するというアレである。
子供のころ本で読んだことがあるけど、かっこいいことこの上なし。
「いいかもしれませんね。ただし、多少の危険は伴いますが……」
ララは賛同はしてくれるものの、険しい顔である。
クサツ魔導公国の魔族の人たちはいい人達ばかりとはいえ、人間が忍び込むのには危険があるかもしれない。
おそらく、私に敵意を抱いている人もいるだろうし。
即ち、どれぐらいの規模で向かうかが肝心になる。
あんまり大所帯で忍び込むわけにはいかない。
理想は一人とか二人なんだろうけど、土地勘がないので迷う可能性も高い。
「私が行くわ! ひょっとしたら、その場で問題を解決できるかもだし」
真っ先に手を上げる私なのであった。
ララは「ご主人様が!? そのお姿で大丈夫でしょうか?」などと言うが、「大丈夫」で押し切る。
彼女の心配はありがたいけど、村でのんびりと構えている気にはなれない。
「わかりました。そうであれば、私も同行します。この子は私が守ります!」
「ひゃっ!?」
ララは何故だか一人で盛り上がり、私にむぎゅっと抱き着いてくる。
子供扱いされるのはかなり恥ずかしい。
私、体は子供だけど、頭は大人なんだけど!?
「いいえ、ユオ様にこれ以上何かあったら困ります。あぁ、柔らかいほっぺた」
ララはそう言うと私の頬にすりすりしてくる。
ぐぅむ、ララってこんなキャラだったっけ。
メテオは「母性が暴走してるやん」などと言うが、さもありなんといった感じ。
っていうか、あんたら見てないで助けてよ。
「魔族の国に行くのなら、わしも同行しよう! 人間ばかりだとばれてしまうかもわからんからのぉ! 魔族のわしにお任せじゃ!」
次に同行を申し出たのはエリクサーだ。
魔族である彼女の同行はかなり助かる。
人間と魔族とじゃ、常識も生活様式も全然違うかもしれないからね。
ハマスさんにも話を振るか迷ったけど、あの人は思い込みが激しいので却下である。
「ふはは、楽しそうじゃないか! わらわも参加するぞ!」
ここで思わぬ人物が名乗りを上げる。
イリスちゃんである。
彼女はリース王国の女王様なのだが、そんなことをやっていていいのだろうか。
それに、彼女はかなりの有名人のはず。
さすがにバレてしまうのではないだろうか。
「なぁに問題はない。姪やミラク・ルーに政務は任せているのでな。……それに姿などいくらでも変えられるのだ。見ておれ」
イリスちゃんは不敵に笑うと、何らかの魔法を発動させる。
彼女の体が光ったかと思うと、次の瞬間、イリスちゃんのいたはずの場所に褐色の肌のエルフが立っていた。
年はイリスちゃんと同じぐらいで、顔立ちもそっくり。
しかし、目つきが違う。
なんていうか、魔王様っぽい雰囲気というか。
「イリスちゃんなの?」
「ふふ、わらわがダークエルフになるのはちと屈辱的だが、仕方あるまい」
褐色の肌になってしまったイリスちゃんはにやりと笑う。
彼女の話によると、魔王領にはダークエルフの集落がいくつかあり、それほど違和感なく溶け込めるとのこと。
イシュタルさんが魔王になれたのはそこらへんが関係しているのだろうか。
それにしても、肌の色を変えられるなんてすごいね。
まさか体型を変えられるわけはないと思うけど。
「ん? 変えられるぞ?」
「ほわわわわわ」
そういうとイリスちゃんの姿は私の目の前でぐにょんと変化する。
そして、現れたのはダークエルフのお姉さんだった。
きゅっと引き締まった腰!
しっかり張り出したお尻!
どどんと前に突き出したお胸!
でっかい、クレイモアと張ってるじゃないですか……。
うっそぉおおおお!?
魔法ってこんな、こんなに素晴らしいことができるの!?
だったらもう私にその魔法をかけてくれればいいだけじゃない!
うふふふ、イリスちゃんと友達になって本当によかったよ。
「いや、それはできんのだ。わらわのような魔力量をもってして、やっと保っていられるものなのじゃ。魔力ゼロのおぬしではな……」
「なるほど……、私には無理かぁ」
がっくりと肩を落とす私。
労せずしてナイスバディを手に入れられると思ったのだが、そんなに甘い話は存在しなかった。
魔法を維持するために膨大な魔力が要るとのことである。
そういや、シルビアさんもそんな感じのことを言っていた気がする。
「ご主人様、泣いてもいいのですよ?」
「な、泣かないよっ!?」
ララは私を抱きかかえたままの姿勢で頭をなでなでとしてくる。
うぅう、子ども扱いされてるなぁ。
別に泣きたいほどショックというわけじゃない。
元の体に戻れば、私だって成長していくのだから。
よし、とりあえず腕立て伏せ頑張ろう。
「それでは潜入するのは、ご主人様、私、エリクサー様、イリス女王陛下でよろしいでしょうか?」
「そだね、もうちょっと欲しいところだけど仕方ないかな」
ララの問いかけにこくりとうなずく。
本来であれば近接戦闘の出来る人材を連れていきたいところではある。
だけど、クレイモアはリリと一緒にサジタリアスに帰郷しているし、ドレスは温泉建築の仕事で手いっぱいだし、カルラは村の防衛の要だ。
メテオとクエイクはやかましいし、じっとしてられる性格ではないので、すぐにボロを出すと思う。
ハンナ辺りはいいかなと思うけど、彼女の言動からして魔族である設定をすぐに忘れそう。
「はぁーっはっはっ、この魔女様の生贄第一号のハンナの名前を覚えておきなさい!」などと言って、自分から素性をばらしそうである。
私達は潜入捜査官なのだ、さすがにバレたら終わりである。
「ふぉふぉふぉ、魔女様、一人忘れておるのではないですかな?」
そんな折、ドアにもたれかかる人物が一人。
何かとかっこいい登場である。
「あ、あなたは!?」
そこに現れたのは村長さんだった。
齢百歳近いが、いまだに現役の剣聖さんでもある。
最近はいろんな国を調査に回っていて、なかなか村に戻ってこれなかった。
「これをドレスから借りましてのぉ。これならバレませんぞい」
村長さんはそういうと、魔族の角っぽいものの付いたカチューシャをずずいと見せてくれる。
彼の白髪の頭部にちょこんとした角が映えわたる。
「……おぉう」
「……これはこれは微妙ですね」
「……あかんやつやん」
「か、かわいいぞ! サンライズ!」
百歳近いマッチョなおじいさんの頭に、やたらと可愛らしい角のついたカチューシャ。
どう見てもミスマッチであり、反応に困る。
っていうか、イリスちゃんの反応が変だ。
「なるほど、サンライズ様ならイリス様のストッパーになるかもしれませんね……。ご主人様、同行をお願いしてもいいのではないでしょうか」
ララは口元に手を置いて、しばし熟考すると、村長さんの同行に賛成する。
ふぅむ、村長さんには久しぶりに村に戻ってきたのだし、ゆっくりして欲しかったんだけどなぁ。
とはいえ、常識人は一人でも多い方がいいのは事実。
イリスちゃんは相当に危なっかしい人物だからね。
「それじゃ、村長さんも行きましょう! ちゃんと魔族の人の振りをして下さいよ!」
「任されたぞい! わしの寿命が尽きるまで戦い抜く所存じゃぞい!」
村長さんは両方の拳に力を入れて見せて不穏なことを言う。
いやいや、死んでもらったら困るよ、こんなところで。
盛り上がるイリスちゃんと村長さんに一抹の不安を感じるのだった。
のちに私はこの時の人選を大きく後悔することになる。
何気なく判断すると、深く、深く、後悔するのだ。
◇ その頃、クサツ魔導公国では?
「魔女様がすぐに帰国したのはどういうことですかっ!?」
「魔女様が死んだという噂が流れていますが、本当ですか!?」
クサツ魔導公国は古来より、公王と領民が仲睦まじく暮らす平和な国家だった。
領主を務める公王は野心を持たず、荒れた大地を改良することに腐心する人物だったし、その子息たちも心優しい人物が多かった。
そのため、領民は公王を慕い、反発することなどほとんどなかった。
しかし、ここ数年間、隣国の聖王国が激しい圧迫をしてきたため、次第に領民の心は荒み始めた。
そんな彼らの心を癒してくれたのが、灼熱の魔女ことユオの奮戦である。
彼女は少数精鋭を率いて伝説の魔獣を打ち倒し、さらには聖王に一撃を与えて撃退したと伝えられていた。
敵の敵は味方という分かりやすく単純なロジックで、クサツ魔導公国の領民は魔女のファン、いや信奉者になっていたのだ。
そして、公王側はユオと手を結ぶことで、国内の安定を取り戻すことができると踏んでいたのだ。
ところが、である。
公王の思惑は上手くいかなかった。
なんと、国に到着した次の日にユオたちが突如として帰国してしまったのだ。
国賓として招いた人物が急に帰国してしまったのである。
クサツ魔導公国側の困惑はかなりのものだった。
領民たちは次の日に行われる、各地の視察がキャンセルされたことに落胆を隠せない。
ユオの姿を見ようと、沿道には徹夜で待機しているものがいたとさえ伝えられていた。
そして、それから数日もしないうちに、怪しげな噂が公国内に広がっていった。
『晩さん会の後、ユオは毒を盛られて死んでしまった』という噂だ。
その犯人は国王一族。
ユオの人気をねたみ、その領地を奪い取りたいが故の犯行だという。
もちろん、そんな事実はなかったし、根も葉もない噂である。
しかし、ユオ達がいなくなったことに落胆していた国民たちは半信半疑のまま話を広めていく。
そして、領民の後押しを受けた一部の貴族が声をあげた。
公王一族にユオの件はどうなっているのかと問いただしたのだ。
それに扇動されるかのように、領民の一部は城の前へと押し掛ける。
「こ、これ、どうしたらいいんですのぉお?」
城の外で怒号をあげる領民たちを見て、ヨイヨイは青い顔になる。
領民たちは怒りに駆られて、城に攻め込んでこんばかりの様相であり、まさに国を揺るがす事態になっているのだ。
彼女は自分が再びユオのもとへ行くべきか、本気で考え始めるのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
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