319.ユオ様、リースの女王が来るも、アレのおかげで記憶を取り戻すかも
「ユオ、きてやったぞ!」
ユオの屋敷に現れたのは、リース王国の女王、イリスだった。
彼女は大陸の重鎮であるが、相変わらずアポイントなしで行動する性質らしい。
ララもメテオも彼女が来ることなど、微塵も知らされていなかった。
「ん? なんだ、このユオっぽい子供は?」
イリスはユオを見ると、ふぅむと首をかしげる。
彼女もすぐに目の前の子供をユオそっくりだと見抜いたのだが、ユオ本人とは思っていないらしい。
「ふぅむ、これはどこかで見たことのある気がする女の子だのぉ」
イリスと一緒にやってきたサンライズもユオの顔を見ていぶかし気な表情だ。
彼はどうやら幼年時代のユオと面識があったようだ。
「実はこういうことがありまして……」
ややこしいことになりそうだと思いながらも、ララはイリスとサンライズにわかっている範囲のことを教えるのだった。
好戦的な女王のことだ。
ユオが傷つけたクサツ魔導公国と戦争をするべき、謝罪と賠償を求めるべき、と息巻いてもおかしくはない。
ララはそれをどうやって止めるべきかを考え始めるのだった。
「ふぅむ、ユオが子供になってしまったとは……。しょうがない、わらわとサンライズの養女として育てよう」
しかし、イリスの口から出てきたのは予想外の一言だった。
彼女はユオを引き取って育てるというのだ。
「いくらなんでも、それはあかんのとちゃいます? 女王様だって子供やし」
「確かに訳がわからへんで……」
不敬であることは分かっていても、ツッコミを入れるべき時には入れるのがメテオとクエイクの本分である。
引き取ると言った女王であるが、彼女の姿は十歳前後の子供なのだ。
どう見ても姉妹であり、母子には見えない。
「ふむ、わらわは魔力で体の形を変えられるのだ。普段は最も魔力が安定している姿になっているに過ぎぬ」
そういうとイリスの体が光り始める。
数秒後、メテオたちの前に現れたのは、いつぞやの凱旋盗との戦いで現れた、イリスの母親そっくりのエルフの女性だった。
息を吞むような美しさであり、体型的にも大人の女性そのものである。
「う、美しすぎるやん……」
「この世のものとは思えへんで……。胸でかっ……」
これにはメテオもクエイクも口をあんぐり空けるほかない。
「よし、これで決まりだな。ユオよ、わらわが大切に育ててやる」
そういうと女王はユオを抱きかかえようとする。
「お待ちください。それとこれとは話が違います!」
女王に待ったをかけたのはララだった。
確かに、女王が大人の姿になれるのなら養女にしてOKというわけにはいかない。
ユオはこの村の統治者であり、心の支えなのである。
リース王国に連れ帰られては大変なことになる。
それに、イリスの養女になるということは、ここがリース王国の一部になるということでもある。
ユオのこれまでの歩みからして、それを受け入れるとは思えなかった。
「ほほぉ、わらわに意見するか。ユオのメイドの分際で生意気に」
イリスは沸点が非常に低い人物である。
自分の邪魔をするものは味方であっても容赦はない。
彼女はララをぎろりと睨みつけ、ララの前に一歩歩み出る。
「ひぃいいい、息が、息ができな、わっぷ」
一方のララは一歩も引くつもりもなく、女王の前にぐんと胸を突き出す。
当然、その間にいたユオはイリスとララの胸に埋もれてしまい、再び呼吸困難になってしまうのだった。
「なんやわからへんけど、うちらビビッド商会も参戦やで! いくで、クエイク!」
「ひぇええ、そんなん聞いてない!」
さらにはメテオとクエイクもララたちの戦いに参加。
リース王国の女王、禁断の大地のメイド、大陸随一の商会を率いる姉妹と言う、三つどもえの争いが起きようとしていたのだった。
サンライズはイリスに「お前も相変わらず、アホじゃのぉ」と言うが、彼女は聞く耳を持たない。
負けられない戦いがそこにはあるのだった。
「おーい、ユオ様、流れる温泉の件だけどデザインを見てくれよ! ……って、何してんだ、あんたら?」
四人にもみくちゃにされているユオを救ったのはさらなる来客だった。
その名前はドレス・ドレスデン。
ユオの村の凄腕エンジニア大工である。
彼女はユオに新しい仕組みの温泉を開発するように命じられており、そのデザインのことでユオのもとを訪れたのだ。
屋敷に来たドレスを待ち構えていたのは、ララとメテオとクエイクとエルフの女性が黒髪の少女を取り合っている様子だった。
「ちょっと、この子が危ねぇだろ?」
由々しき事態であることを見抜いた彼女はとりあえずユオの体を引っこ抜く。
バランスを崩した四人は前のめりに倒れこむのだった。
彼女は王位継承権こそ返上したが、もとは王族である。
それがゆえに、リース女王に対しても恭しく接することはない。
どこまでも自然体の女なのであった。
「ドレス様、実はその子は……」
我に返ったララは今までの経緯をドレスにも話すのだった。
ユオが幼女化したこと、記憶を失ってしまったことを。
「ふぅむ、よくわからねぇけど、ユオ様ったら温泉だろ! お湯に浸かっちまえば、少しは反応するだろう。よぉし、ユオ様とあっしと温泉に行こうぜ!」
「おんせん? なにそれ、美味しいの?」
「ユオ様が大好きな場所だよ! 気に入ると思うぜ!」
「へぇええ、楽しみ! お姉ちゃん、好き!」
一部始終を聞いたドレスはユオを床に下ろすと、まさかの一言。
それは何はともあれ温泉に入るという、これまで通りのユオの行動様式を反映したものだった。
この緊急事態に何を言っているのかと思うも、ユオは温泉と言う言葉に強い反応を示す。
一番、意外だったのは、ユオが一番簡単に懐いたのがドレスだったことだ。
爽やかな性格のドレスは思いの他、好印象だったのだろう。
「くぅうう、男前キャラには姉も母も勝てへんってこと!?」
「いや、めちゃくちゃにするからやん、あんたらが……」
仲良く温泉へと向かうドレスを見て、メテオが悔しそうな声をあげる。
クエイクのツッコミはもっともだったが、おそらくは届くことはない。
◇
「ひぇええ、これがおんせんなの!? このお湯に入るの?」
「ふくく、そうじゃぞ。気持ちいいのじゃぞ。わしが手本を見せてやろう」
屋敷に付属する温泉へと連れられてきたユオは皆の手伝いもあってすぐに服を脱ぐ。
そして、エリクサーと手をつないで温泉へと向かう。
年の近いエリクサーとはやはり打ち解けるのが早い。
「二人とも足元気を付けろよ、滑っちまうから。ゆっくり入んな」
「はぁい!」
「わかってるのじゃ!」
ドレスはそれを見守りながら、余裕の一言。
母性の暴走しがちなララよりも、よっぽど母親らしい振る舞いに見える。
「ふぅぃいいいいい、これがおんせん! 気持ちいい!」
ユオは温泉にゆっくりと浸かる。
お湯に身を沈めた彼女は嬉しそうな顔である。
ユオは肩まで湯に浸かり、お湯の熱気を体に取り入れる。
その様子はいつものユオと瓜二つなのだった。
記憶を失っても、温泉のことは本能で覚えているのだろうか。
ララは温泉に浸かるユオを微笑ましく思う。
ついでになぜかよだれも垂れそうになる。
「お……ん……せん……、さいこぉ……」
そして、事件は再び起こる。
ユオの言動が明らかにおかしくなっているのだ。
「ユオ様!?」
それは温泉と反応したからなのか、それとも、単にのぼせているのか。
異変を察知したララはユオのもとに駆け寄るのだった。
◇ 魔女様、格闘の果てに
暗闇の中、私は何度も何度も息が詰まりそうになる。
柔らかくて、温かな、その感触。
心地よいはずのそれは私の呼吸を奪い取るのだ。
それになんだかすごく腹立たしい。
大きいのがいいってわけじゃないけど、なんだかすっごく腹が立つ。
私は必死にもがく。
そして、暗闇の中、私は体が温まっていくのを感じる。
この熱のことを私は覚えている。
そう、温泉だ。
この温かさは、このぬくもりは、温泉の熱。
暗闇に現れた熱の源に私は手をかざす。
私はここに閉じ込められるわけにいかない。
入らなきゃ、温泉に!
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