318.ユオ様、目覚める……も、ララさんの母性本能が暴走します!
「ララさん、ユオ殿が目覚めたのじゃっ!」
村に戻ったララたちは秘密裏にユオを屋敷へと運び込む。
今のユオは村人たちの心の支えだ。
それが倒れたと知られてしまうことは問題が大きい。
村に戻って数時間後、寝かせていたユオがついに目を覚ましたという。
「目覚めたは目覚めたのじゃが、なんというか、様子がおかしいのじゃ」
その時に看護していたのは、エリクサーだったのだが、彼女の顔は多少ひきつっていた。
ユオの身に何かが起こったのかと、ララは急いで寝室へと向かう。
「ユオ様、どうかご無事で……!!」
ララにとって、ユオの命は自分の命そのものだ。
自分はユオのためだけに存在していると信じていた。
主人の危機にララはぎゅっと奥歯をかみしめるのだった。
「おじいさまぁああっ!? ここどこぉ!?」
寝室に駆け込んだララは目を見開く。
ベッドの上にはユオがいた。
しかし、その姿は年齢にして五、六歳ぐらいのユオである
彼女の黒い髪、顔の特徴、右目の下のほくろ。
どこからどう見ても、ユオであるが、十歳ほど若返ってしまっているのである。
「ユオ様!? ど、どうして幼く!?」
冷静沈着なララであるが、これには軽くパニックを起こしてしまう。
村に戻ってきたときにはまだいつもの姿だったはずだ。
自分が目を離したあたりで、変化してしまったというのか。
「これには驚いたのじゃ。起きる寸前にすすーっと縮んでいったのじゃ。わしよりも小さいユオ殿はなんとかわいらしいことか」
エリクサーは一部始終を見ていたらしく、その様子を教えてくれる。
つまり、自分たちの目の前にいる少女は紛れもなくユオなのである。
ララはふぅーっと息を吐く。
これまで幾度も危機を乗り越えてきたが、彼女は困難に直面すればするほど愉快さを感じるタイプだった。
未曽有の危機であってもユオであれば解決してしまうと確信していたからだ
しかし、この時ほど彼女を混乱させたことはなかった。
なにせユオが幼女化しているのである。
ララがラインハルト家に奉公に来たのは今から5年程度前のことだ。
その時点ではユオはもう十歳を超えていた。
つまり、目の前にいる幼いユオはララさえも見たことのない年齢なのである。
「ユオ様、こちらがお召し物ですので、お着替えをしましょうね」
衣服のサイズがあわなくなってしまったので、急いで子供の用のものを準備することにした。
ユオは泣きながらも、おとなしく服に腕を通す。
お嬢様育ちが板についている証拠だった。
「ひぇええ、ひょっとして、ユオ様!? めっちゃ小さいやん!」
「うっそぉお、どうして!? 若返ってん!?」
その後、別室で待機していたメテオとクエイクの姉妹も部屋に入ってくる。
彼女たちも幼女化したユオを発見して、大慌てである。
「そもそも、お姉さんたちは誰なの!? ここはどこなのぉお!?」
しかも、厄介なことにユオはララをはじめとして、いつもの面々の顔を見ても怯えるようなそぶりを見せるのだ。
それは冗談という様子ではなく、明らかに「知らない人」に対する態度である。
「へ? うちのこと覚えてるやろ? ユオ様の最愛の人、メテオやん! 将来を誓い合ったパートナーやん」
「お姉ちゃん、鬱陶しいでそれ、ほんま……」
こんな時でも軽口を叩くメテオ。
言っていることは嘘ではないのだが、少々厚かましい物言いだ。
それにジト目でツッコミをいれるクエイク。
「ふぅむ、しゃあない、ユオ様が小さくなった理由はわからへんけど、とにかくうちの妹として育てるしかないやん、姉として! ほら、ユオちん、こっちにおいで。うちがなでなでしたるから」
メテオは怯えるユオに笑顔を見せて、腕を広げる。
確かにユオの仲間の中で姉属性を持っているのは彼女だけだった。
「ひぃいい、この猫耳の人、なんだか怖い! 絶対に悪いことを企んでるよぉっ!?」
しかし、当のユオはメテオの抱擁の合図に拒否反応を示す。
彼女は本能で自分の危機を見抜いたのだった。
「メテオさん、ユオ様が怯えているではありませんか! この子は私が守ります!」
「わぷっ!?」
ユオが怯えているのを感じ取ったララは、すかさず彼女のもとに駆け寄る。
そして、何を思ったのか、自分の胸の中にユオを埋めたのだった。
それはまるである種の動物が母性本能で我が子を自分の体の中に隠すような行為だ。
「ふむむ、胸で、胸で、溺れるうぅうう」
とはいえ、抱擁がきつすぎたのか、抱きしめられたユオはピンチを迎えていたのだが。
ララはお構いなしである。
「ひぇええ、ララさんの母性本能が暴走気味やん……」
「うちの姉本能も負けてられへんわ……」
これにはクエイクもメテオもツッコミを入れざるを得ないのだった。
というか、早い所、解放してあげないと危険なのである。
◇
「ふぅむ、おぬしの名前は何というのじゃ」
「私の名前はユオ・ラインハルト。好きなものはおじい様で、嫌いなものはお父さま! いじわるな兄様たちも嫌い!」
「おじい様とな?」
「そうよ! おじい様は辺境を冒険するすごい人なの!」
結局、溺れかけたユオを救ったのはエリクサーだった。
彼女はユオにもう一度、自己紹介をするように言う。
なんとか機嫌の治ったユオであるが、それでも記憶は過去のままであることが分かる。
「なんやわからへんけど、過去退行って奴ですかね。昔の記憶になってしまうやつ。ぐぅむ、どうしてなんやろ」
「そのようですね。うぅむ、どうしたことでしょうか」
エリクサーと話しているユオを横目にララたちは現状をどう把握すべきか話し合う。
原因として真っ先に考えられるのは、先日のクサツ魔導公国への訪問だ。
彼の地で何らかの計略をユオだけが受けて、現在の姿になってしまったのだろう。
クサツ魔導公国で何が起こったのかは必ず解き明かさなければならないが、今は犯人捜しよりも大事なことがあった。
それはユオの記憶を戻すことだ。
もしも、彼女の記憶が戻らなければ、この村は空中分解してしまうかもしれない。
ララはユオをじっと眺める。
だが、すぐにその表情はほころんでしまう。
「……それにしても、愛らしいですねぇ。もう一度、抱っこしてきます」
「うちも、うちも、黒髪がつるつるやん、もぉおお」
「ララさん!? お姉ちゃんも!?」
そう、ララもメテオも幼いユオの可憐さに夢中なのである。
特に泣き止んでからは機嫌よくパンを食べたり、エリクサーと話したりなどしており、その様子はかわいいの一言。
エリクサーと並んでいると、よくできた人形のようである。
「ひぇええ、お姉ちゃん達、くすっぐったいってば!」
ララもメテオも鼻息荒くユオに近づき、もみくちゃにするのだった。
その光景は普段とそれほど変わってはいないのかもしれない。
「ユオ、わらわが来てやったぞっ!」
そんな折、彼女たちのところに来客が現れる。
扉を勢いよく開いたのは、リース王国の女王、イリスだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「魔女様が幼女様に……!」
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