315.魔女様、魔族どもを仲良しにさせ、クサツ行きを決定する。一方、その頃、聖王アスモデウス様の野望も動き出す
「もう一度、確認だけど、うちの村では出身地とかそういうので相手をバカにしちゃいけないからね。わかった?」
「はぁいなのじゃ……」
「ごめんなさぁいですのぉ……」
「くっ、この上級魔族の私が説教を受けるだと!?」
エリクサーの一言から始まった諍いをなんとか抑えた私は、三人に対してお説教をする。
エリクサーとヨイヨイは反省した声をあげる。
しゅんとしている様子は大変愛らしい。
だが、パティシエ姿のハマスさんだけは不服がある様子。
彼女はこちらに視線を合わせず、ちょっとだけ反抗的な態度。
「ご主人様、あの魔族、いつもみたいに燃やしましょうか?」
「燃やさないよ!?」
ララがそっと耳打ちしてくるも、燃やすわけはない。
っていうか、私は人を燃やしたことはないのである。
「生まれとか年齢とか、人種とか、自分の変えられないことで他人からどうのこうの言われるのはフェアじゃないでしょ! むしろ、相手と自分の違いを愛でるようにしなきゃ! ハマスさんの尻尾みたいに」
自分が人にとやかく言える人間じゃないってわかってるけど、私はハマスさんに念を押す。
人を変えられないことそれはこの村を治めるうえでも、とても大切なことだと思う。
みんな違って、みんないいってことを大切にしてほしいっていうわけなのである。
「き、貴様、私の尻尾のことなどここで言うことか!?」
そんなわけでハマスさんの例を出したのだが、彼女は嬉しいのか顔を赤くし始める。
あらら、私ってばハマスさんの心の琴線をかつーんと弾いちゃったのかも。
「ぬぬ、ハマスの尻尾とは何だ? こやつは尻尾のない魔族でないのか? ふぅむ、ユオ殿が褒めるとはどんな形をしておるんじゃ?」
「ハマスに尻尾があるんですの? どんな形をされてますの?」
魔族にとって尻尾の形と言うのは大切なものらしい。
エリクサーとヨイヨイは先ほどの反省した顔から一転して、ハマスさんに詰め寄る。
確かにハマスさんは普段は尻尾を服の中に格納しているのよね。
それもあって普通にしてたら人間族に見える。
「や、止めろ! 何でもないのだ! 今のは忘れろっ!」
尻尾について興味津々攻撃を受けたハマスさんは防御一辺倒になる。
なんだかよく分からないけど、ちょっと焦ってる雰囲気。
とはいえ、ここで尻尾の見せっこをするわけにはいかない。
あくまでも執務室だからね。
だったら、あそこにヨイヨイを案内しちゃおう!
そんなわけで私は話を早々に切り上げて、ヨイヨイを世界で一番素敵な場所へと案内するのだった。
◇
「にゃーはっはっはっ、ハマス! かわいいのぉ、本当にハマスはかわいいのぉ」
「うふふ、ハマスさん、口では強がってますけど、尻尾は素直なんですのぉ」
「くっ、殺せぇええええっ!」
そう、ヨイヨイを案内したのは温泉である。
ひと悶着あったエリクサーとハマスさんも一緒に連れてきて、完全に仲違いを解消するつもりだったのだ。
しかし、どうも雰囲気がおかしい。
脱衣所のところで、エリクサーとヨイヨイの明るい声が響いてきたかと思うと、ハマスさんの悲壮な絶叫も響いてきたのだ。
彼女は心から反省して、お菓子職人の道を歩み始めた村のホープ。
死なれちゃ敵わないわけで、私は様子を見に行くことにした。
「……あんたら何やってるの?」
脱衣所につくと、ハマスさんは床に転がり荒い息を吐き、エリクサーとヨイヨイは腰に手を当てて高笑いをしていた。
三人とも全裸である。
エリクサーとヨイヨイは子供だからまぁ許すとして、ハマスさん、あんた何やってるのよ!?
「尻尾合わせじゃ。魔族の女子のたしなみというものじゃな」
「ほら、こうやって尻尾同士で競わせるんですの」
私の問いかけにエリクサーとヨイヨイは実演して見せてくれる。
それは平たく言えば、尻尾で行う腕相撲みたいなやつである。
エリクサーいわく、魔族の若い女性に大ヒット中なのだとか。
こんなものがうけるだなんてカルチャーショックである。
まぁ、速い話、ハマスさんはその競技でエリクサーにもヨイヨイにも敵わないとのことらしい。
子供に負けてしまうなんて、ハマスさん、立つ瀬ないだろうなぁ。
「ほら、ハマスさん、いつまでもくよくよしないの! 尻尾競わせが弱くても、あんたの尻尾は素敵だし、かわいいよ! エリクサーもヨイヨイも、温泉に入るの!」
とはいえ、温泉の本懐は入ること、それに尽きる。
温泉に入る前に盛り上がったってしょうがないのだ。
「ぬふふ、わしは温泉大好きなのじゃ!」
「ひぇえええ、白濁してますのぉおおお」
エリクサーとヨイヨイはもう仲良しになったのか、二人そろって温泉へと入っていく。
二人の尻尾の形はそれぞれ個性的で、なかなかにカワイイ。
「ふ、ふん、貴様の顔をたててやろうではないか……」
ハマスさんは何やらぶつぶついいながら、温泉へと浸かり始める。
その様子は慣れた手つきであり、あきらかにベテランの風格さえある。
ララが言うには、ハマスさんは毎日、村人との共同温泉に入っているのが目撃されているとのこと。
実はちゃっかり、大好きになってくれたのかもしれない。
「ひぇえええ、これはいいですのぉおおお。ふぅむ、最高の泉ですの。最初見た時は茹で殺されるかもって思ったですのぉ」
ヨイヨイは首までお湯に浸かり、快感の声をあげる。
ちょろっと本音が出てるけど、聞かなかったふりをしよう。
どうして、皆、温泉を殺人の道具だとか思うんだろうか。
その後、ヨイヨイは温泉を堪能。
エリクサーとハマスさんもこれ以上は喧嘩をすることもないのだった。
ふぅ、やれやれである。
◇
「ユオ様、この度は私に過分なおもてなし、本当にありがとうございますの! ぜひ、クサツ魔導公国にも使者を派遣してくださいまし! 私どもも最高のおもてなしさせていただきますの! いつかユオ様にもいらして欲しいんですの!」
温泉から上がった時のこと。
古代人の民族衣装に身を包んだヨイヨイは私に跪いて、感謝の言葉を口にする。
その瞳にはちょっとだけ涙が浮かんでいて、感情が思いっきりあふれ出ている様子。
きっと本心から言ってくれているのだろう。
使者についてはもちろん、礼儀正しい人を派遣しようと思っていたところだ。
順当にいけば、ララとクエイク辺りかしら。
私は領主の仕事が立て込んでいるので、行かせてはもらえないだろうけど。
「クサツでは美味しい海の幸もありますし、何よりキラキラと輝く海をご堪能いただけますの!」
ふぅむ、海があるのかぁ。
海が、あるのかぁ。
ここで私の脳裏に素晴らしいアイデアが浮かぶ。
いつぞやのように温泉の水を持って行って、現地で簡易温泉を作ってしまえばいいのだ。
すなわち、即席露天風呂である。
もちろん、海を眺めながら入る。
うしししし、こりゃあもう最強だよね。
私の内側になんだかすごく熱いものを感じる。
「……ヨイヨイ、私が行くわ」
「ひ、ひぇええ、魔女様が自らいらっしゃってくださるのですの!?」
驚き焦るヨイヨイであるが、私の頭の中は海をどんな風に眺めながら温泉に入るかだけで埋め尽くされていた。
海、待ってなさいよ!
◇ 一方、その頃、聖王アスモデウス様は?
「あの灼熱の魔女を殺さなければ、私は終わりだ……」
聖王アスモデウスは怒りに震えていた。
ドワーフ王国侵略に始まり、様々な計画が頓挫していたからだ。
極めつけは、この大陸を滅ぼす覚悟で復活させた、災厄の六柱エルドラドを粉砕されたことだ。
あろうことか、エルドラドの核を持っていかれてしまう結末となってしまった。
聖王国の国民はいまだに聖王に心酔していた。
しかし、度重なる連戦の割に決して豊かにならないことに少しずつフラストレーションをため始めていた。
もともとが人間族と魔族の入り乱れた国家である。
少しの傷が大きな亀裂につながりかねない。
そのことは聖王自身が十分に自覚していた。
どうにかしなければ、この聖王国自体が崩壊してしまう。
何十年という時間をかけて作り上げた、世界征服の仕組みまでも。
聖王は奥歯をぎりぎりと噛みしめ、その美しい顔を歪ませる。
そして、彼女は大きく息を吐いて、自分の意志を固める。
自分は大陸を制覇しなければならない。
何に代えても。
「国民にこれから三日間、大聖石の前で祈りを捧げるように伝えよ」
大聖石とは聖王国の国民が信仰の対象としている石である。
聖王は王国の数か所にそれを設置し、教会を作らせていた。
そして、聖王は部下を一人残らず人払いさせて、玉座の裏にある小部屋へと入る。
そこには真っ黒い水晶柱が魔法の力で宙に浮かんでいた。
「さぁ、暗黒のケダモノよ、存分に喰らうがいい。貴様にありったけの慈悲を与えてやる」
聖王はゆっくりと息を吐く。
そして、全身の聖なるエネルギーを、いや、国民から届けられる祈りのエネルギーを真っ黒い水晶柱へと届けていく。
禍々しい光を放つ水晶はゆっくりと回転を始める。
辺りにうめき声のような不気味な音が響き始めるのだった。
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