314.魔女様、クサツ魔導公国からの使者と打ち解けると思ったら、いらん奴がいらんことする
「皇帝陛下、あの聖王国の野望を阻止されたこと、感動しましたの! 公国の国民も、皆が魔女様万歳と言っておりますのぉおお!」
クサツ魔導公国からの使者こと、ヨイヨイ・クサツという少女は部屋に入るなり、私の手を取り、ぶんぶんっと振ってくる。
あまりの勢いに少し面食らってしまうけれど、どうやら先日の一件のことを言っているらしい。
えぇええ、あの出来事って他の魔族の人も知ってるの?
魔王様には内々に処理してって頼んだんだけど、ちょっと嫌だなぁ。
「はいですの! デューン様がしっかり教えてくださいました! 魔女様が災厄の六柱のエルドラドを破壊衝動のままに粉砕し、挙句の果てには溶岩にダイブ! 本当にすごいですの!」
ヨイヨイはキラキラした目でさらに私の手をぶんぶん振ってくる。
デューンさん、あんた何を教えてくれてんのよ。
その言い方だと、私が自分の趣味で化け物をやっつけたり、溶岩に飛び込んだりしたみたいじゃない。
破壊衝動なんて私にはないからね!?
「……お話を伺っております限り、クサツ魔導公国は聖王国とあまり仲がよろしくないのですか?」
ほとんど奇声みたいなものを挙げているヨイヨイなのだが、ララはそれでもしっかりと情報を拾いあげたようだ。
流石、ララだ。この場面で面食らってしまう私とは好対照である。
「も、申し訳ございませんですの……。取り乱してしまいましたですの! そ、そうなんですの。私どもクサツ魔導公国は聖王国に長年圧迫されておりまして……」
ヨイヨイはそう言うと懐から羊皮紙みたいなものを取り出す。
それは魔族の国々の地図だった。
ちょうど禁断の大地が南端になっていて、その北側にいくつかの区分けがされているようだ。
大陸の北半分は魔族の大地って言われてるけど、その通りなんだって感心してしまう。
ひぇええ、こうやってみると、この大陸って本当に魔族と人間族がすっぱりきれいに分かれて生活してるんだね。
「我らがクサツ魔導公国はここでございますの! で、これが憎き聖王国の国境線ですの!」
ヨイヨイはそういうと、禁断の大地から北西に位置する地域を指し示す。
続いて、聖王国の国境線も。
両者は隣り合っていて、しかし、面積は聖王国の方が何倍も大きい。
聖王国はなんせドレスの出身であるドワーフ王国の近くまで進出してるからね。
「聖王国の性格から言って、圧迫してこないほうが不自然な位置関係ですね……」
「せやな、めっちゃ苦労しそうな場所にあるやん……」
地図を見ながら、ララとメテオはふむふむと考え込む姿勢。
うちの村の方針はこの二人に任せておけばオッケーなので、積極的に考えてもらいたい。
「聖王国の野望を抑えてくださいました皇帝陛下にご挨拶に参った次第ですの! こちらは私の父であるクサツ公王からの親書ですの!」
ヨイヨイはそう言うと、さらに手紙を渡してくれる。
煌びやかな装飾のしてある、お手紙だ。
ぐぅむ、すごいよ。
ちゃんとしてる感じ。
私はさっそくそれを開いて読んでみようと思ったのだが、すぐに問題に直面する。
「……読めない」
そう、魔族の国の文字が読めないのだ。
なるほど、偉い人が手紙を書くときって、自分の第一言語で書いたりするものなのかも。
話し言葉は通じるのだが、書き言葉は違うのだろうか。
とはいえ、ちょっとこれはまずいよね。
うちの村で誰か魔族の国の言葉が分かる人を呼び出してもらおう。
◇
「ぬはははは! そんなことならわしに任せるのじゃ! 魔族界きってのユオ殿の大親友、このエリクサーに! ふぅむ、この手紙じゃな」
そんなわけで、執務室にエリクサーが呼び出されるのであった。
彼女は相変わらず陽気なことを言いながら、私の渡した手紙を音読する。
「ぬぉ、なんと装飾の多い文章なのじゃ! ざっくり言うとじゃのぉ、うちの国と仲良しになってほしいのじゃ! いらっしゃってくれたら、おもてなしするのじゃ! クサツ公王……とあるのじゃ!」
「なるほど……」
エリクサーの口癖に大分影響されている気もするけど、言いたいことはよく分かった。
つまりは、あちらの偉い人もうちの村と仲良くしたいってことらしい。
「ええやん、魔族の国のものは魔力多めのレア品が多いから高値でさばけるで!」
「そうですね、外交的にも遠交近攻と申しますし……」
メテオとララは私にポジティブな反応を見せてくれる。
ララの言葉の意味はよくわかってないけど、とにかく、仲が悪いより、仲がいい方が絶対にいい。
私は平和主義な領主なのだから。
「ヨイヨイ、素敵なお手紙をありがとう! 公王様にも遊びに参らせていただきますって言お伝えしてね」
私はヨイヨイにこれから積極的に交流を図っていこうと返事をする。
「あ、ありがたきお言葉ですのぉおお!」
彼女は目に涙を浮かべんばかりに喜んでくれるのだった。
うふふ、かわいい。
エリクサーと同い年ぐらいの女の子が使者だなんて反則だよね。
さぁ、後はおもてなしタイムに入ろうかしら。
執務室の中にほんわかとした、和やかな空気が充満するのだった。
しかし、それはエリクサーの次の一言で崩れ去る。
「ふぅむ、それにしてもクサツ魔導公国とはのぉ。とんだ僻地の荒れ地の魔族がやってきたものじゃのぉ」
「エリクサー!?」
そう、まさかのまさか、うちの村の永遠の孫娘であるエリクサーが皮肉めいたことを言ったのである。
えええ、ちょっと僻地とか、荒れ地の魔族とかそんなこと言ってもいいわけ!?
「んが!? んなにを言ってるんですの!? そっちだって木しか生えてないくせにですの!」
当然のごとく、怒り出すヨイヨイ。
明らかにエリクサーのことを知っていて、煽っている様子。
「何を言ってるのじゃ!? うちの村の木は世界樹じゃぞ。そんじょそこらの木と一緒にするなど、なんという唐変木じゃ! とうへんぼく! ぼくねんじん!」
対するエリクサーはすぐに引火。
自分からけしかけておいて、やいのやいの言い出すのはかなり意外。
エリクサーってこんな子だったっけ!?
あわわ、ひょっとして魔族の人って出身地とかで罵倒する習性でもあるのかしら。
その後も二人はお互いを田舎ものとか、海なしとか言って煽り合う。
「領主、話は聞かせてもらったぞ! クサツの田舎者が来たらしいな! 第三魔王国のロンカロンカ家の私が礼儀を教えてやろうではないか!」
エリクサーとヨイヨイが取っ組み合いをしそうなのを留めていたら、さらに乱入してくるもう一人の魔族。
そう、お察しの通り、ハマスさんである。
お菓子工房のエプロンと帽子がとってもカワイイ。
かわいいんだがセリフが非常によくない。
あんた、そういうところを直さないと村でやっていくのは難しいと思うよ。
「あ、あんたはハマス! 魔女様、こやつは何企んでいるか分からない女ですの! 聖王国と繋がっているかもしれない危険な奴ですの! それと、都会のやつの方が無礼者が多いのにムカつくんですの!」
ハマスさんが登場したことで、ヨイヨイはさらに言葉を荒げる。
そりゃそうだ、礼儀を教えてやるとか言われて怒らないほうが珍しい。
「ぬはは、クサツ魔導公国と言えば、あの聖剣をも溶かす呪酸沼で有名じゃからのぉ」
「ちょぉっとおおお! ばらさないで欲しいですのぉおおお!」
執務室がカオスの様相を呈し始めた頃合いで、エリクサーが何やら耳慣れない言葉を発する。
聖剣をとも溶かす呪酸沼?
名前からしてヤバそうなんだけど!?
「ぐ、ぐぅむ、呪酸沼ですって!?」
もちろん、人間族チームは知らないものと思っていたが、一人だけ険しい顔をする人物がいる。
ララである。
「し、知っているのね、ララ!?」
「えぇ……。呪酸沼とは過去の魔王大戦の記録に残っています。その中に聖剣を入れたところ、一晩で溶け去ったという伝説がある呪いの沼! その沼の周辺の土地は荒れ放題になっていると聞いたことがあります。まさかクサツ魔導公国にあるとは……」
さすがは博識なララである。
なんだかよく分からないが、ちょっと厄介な沼らしい。
ふぅむ、何でも溶かしちゃうなんて怖いねぇ。
「ひぃいいい、エリクサー、あんた、言っていいことと悪いことがあるんですの! この海なし田舎者ぉおおお!」
「ひぃぐ、止めるのじゃ、この赤毛」
本気になって怒り出すヨイヨイを私たちは何とか宥めるのだった。
あわわ、魔族同士のコミュニケーションにはルールが必要だね。
※クサツちゃんのお名前が変更されました。シルベスタも可愛かったのですが、どう考えてもスタローンだったので。申し訳ございません! 以後、気を付けまう!
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