313.魔女様、古文書に鼻息を荒くしていたら、次なる使者がやってきたよ!
「え、ちょっと待って、これを見てよ!」
移住したハマスさんはクレイモアのお菓子工場で働くようになり、村には平和が訪れた。
しかし、私は内心、穏やかではなかった。
なぜかって言うと、なぜかって言うと、古文書の中に発見してしまったのだ。
この間の水路の温泉と同じかそれ以上にインパクトのあるものを!
「ご主人様、あんまり慌てると威厳が無くなりますよ? もっと恐怖の大王としての自負を持っていただかなければ」
「恐怖の大王になんかなった覚えないけど!?」
ララは私の態度に眉をひそめるけれど、騒がずにはいられない。
すっごいものが描かれているのだ。
私は古文書をがばりと開き、皆に見せてあげることにした。
「なんやねん、これ? 海を見ながら温泉に浸かってはるけど」
「せやな。海を見ながら、お湯に入ってるみたいやわ」
私が古文書を開いて、大騒ぎしているのに、メテオもクエイクも連れない返事である。
彼女たちは理解していないようだ。
私が何にびっくりしているかについてを。
「何言ってるのよ!? 海を見ながら温泉に入ってるのよ? さいっこぉに素敵でしょうが!?」
そう、古文書の中の女の子はお湯に入りながら海をのほほんと眺めているのである。
海は子供のころに何度か見たことがあったけれど、心が安らぐ風景である。
それを見ながら温泉だよ、こりゃあもう、最高に決まってるじゃん!
拳に力を入れて力説しまくる私である。
「おん? 別にうちの村の温泉から魔地不死山が眺められるしええやん」
メテオは「ふぅ、やれやれ」みたいな表情でそんなことを言う。
そりゃあ、あの優美な山を見ながら温泉に入るのは最高だよ。
だけど、温泉にはいろんな種類があるのだ。
みんな違って、みんな最高。
それが温泉なのである。
「いいなぁ、海が欲しいなぁ」
古文書を眺めながら、ふぅっとあふれ出てくる溜息。
地図から見ても分かるように、うちの村には海はないのだ。
こればっかりはどうしようもない。
「ご主人様の温泉貪欲病にも困ったものですねぇ」
「温泉どんよくびょう……」
温泉の魅力を伝える私をララは珍しくいさめてくる。
そりゃあ、私だってうちの村の温泉を愛している。
しかし、うちの村には海はない。
結論から言えば、海を眺めながら温泉に入るってことはできないわけである。
ぐぅむ、この温泉愛好家の私であっても達成できないことがあったとは。
古代人に負けた気分でもあり、かなり悔しい。
それにしても、温泉貪欲病呼ばわりはひどい。
私はただ温泉に夢中なだけなのに。
「それにご主人様、いや、皇帝陛下が海が欲しいなどと気軽に仰るのは危険ですよ」
「せやで? うちの村の血気盛んな若いもんが、さくっと暴発するかもしれんからな」
さらに、である。
ララとメテオのお説教は続く。
うぅう、血気盛んな若い者に心当たりがあり過ぎるよ。
そうだよね、ハンナとかクレイモアとかが妙に発奮しちゃったら困るよね。
頼むから隣国に無断で攻め入るとかしないでほしいよ。
それと、シュガーショックとかもいい子なんだけど、注意が必要だよね。
言われたことを素直にやっちゃうからね。
「ご主人様、温泉だけに目を向けていてはいけませんよ。魔地温泉帝国はまだまだ黎明期です。内政に外交、やるべきことは沢山あるのですから」
「はぁい、うぅう、領地経営も楽じゃないのね」
こんな風にララに上手く丸め込まれる私である。
現状ではドレスがあの水路みたいな温泉を作ると息巻いているわけで、それ以外の温泉プロジェクトを走らせるわけにはいかない。
くぅうう、どこかに海と温泉が落ちてないかなぁ。
「ユオ様、ちょっとよろしいでしょうかぁ」
割と真面目にお仕事をしていたら、ドアをノックする人がいる。
その喋り方ですぐにわかる。
ドアの向こうにいるのはリリ、そして、クレイモアだった。
「あのぉ、私とクレイモアなのですが、来週から十日ほど実家に帰らせていただきたいのですが」
「サジタリアスに? うん、もちろん、OKだよ。何か用事でもあったの?」
リリの要件は彼女の実家のサジタリアスに帰りたいので、許可が欲しいとのことだった。
リリは教師だけでなく、治療所や癒しどころのマネージャーもやってくれている得難い人材である。
彼女のおかげで、怪我人や病人が出ても大事に至らないでいるのだ。
ララが言うには新人の教育も上手くいっているみたいだし、好きな時に好きなだけ休暇をとってほしい。
とはいえ、一応、用事の内容を聞いておくことにする。
もしかしたら、緊急連絡があるかもしれないし。
「は、はい! 私、スキル神殿で儀式を受けておりませんでしたので、この度、受けることにしたんです!」
「スキル神殿で? あぁ、あれかぁ……」
リリの言葉を聞いて合点がいく私である。
そう、この世の貴族や有力商人の子女は十六歳を超えると、スキル神殿でスキルを得ることができるのだ。
もっとも、お金次第で誰でも受けられると聞いたこともあるし、クレイモアみたいに十六歳を待たずしてスキルが勝手に開眼する人もいる。
クレイモアも一緒に休暇が欲しいって言うのは、護衛のためってことだね。
「はい! いいスキルが得られればいいのですが、ちょっと不安です」
リリは少しだけ不安そうな顔をする。
しかし、心配はいらない。
彼女はもう何度なく色んな国を救っているのである。
間違いなく聖女様なんだと思う。
いいなぁ、リリは。
私なんか、ヒーターだよ。
今となっては感謝してるけど、辺境送りなんて散々な目に遭わされたものなぁ。
「ふくく、爆音聖女とかだったらいいのだ!」
「あー、なるほど!」
ここでクレイモアが無邪気な笑みを浮かべて、リリのスキルを予想する。
爆音聖女、確かに、リリっぽいよね。
彼女はピンチになると、がぜんやる気どころか、爆音を上げて癒しの力を発揮するのだから。
どるん、どるんと音が響いてくるのもかっこいいよね。
「私は暴走聖女と書いて、レディースと呼ぶのを推しますね、シンプルに」
「レ、レディース!? 暴走する淑女ってこと?」
一方のララはなんだかよく分からないスキル名を予想する。
しかし、何ていうか暴走聖女っていうのもいい感じである。
リリがシュガーショックに乗って疾風になるのは、一部では伝説になっていると聞く。
まさに疾風聖女伝説である。
「ひぇええ、なんですかぁ、それ!? 私、普通にヒーラーとかでいいですぅ」
一方のリリは私たちの予想に軽く悲鳴を上げる。
どうも彼女としては爆音とか、暴走とか、そういうのは嫌だと思っているらしい。
しかし、ヒーラーっていうのは普通過ぎるよね、今となっては。
と、まぁ、そんな感じで私はリリとクレイモアの休暇受付をするのだった。
クレイモアがいなくなるってことは、お菓子工場とかも調整しなきゃだよね。
あぁ、忙しい、忙しい。
◇
「ご主人様、魔族の国から使者の方がいらしております」
そんなある日のことだ。
ララが遠方から使者の人が来たことを教えてくれる。
ふぅむ、使者ってことは、公式な訪問ってことだよね。
魔族の国ってことは第三魔王国あたりかしら?
毛むくじゃらの目玉こと、ミミンガ魔王様は元気なのかしら。
もちろん、我々は魔族の国とも仲良くする方針だ。
何よりうちの温泉をアピールしておきたい。
さっそく執務室に通してもらおう。
「ふむ、メテオ様、そろそろ謁見の間が必要かもしれませんね。ご主人様はお優しいので、勘違いされかねませんし」
「さすがララさん、ナイスアイディア! やっぱ威厳っちゅうもんが必要やんな!」
どんなお客様がいらっしゃるのかなとワクワクしている私を尻目に、二人は何やら話し込んでいる模様。
変なことを画策しないでほしいなぁ。
「皇帝陛下様、お初にお目にかかります! クサツ魔導公国のヨイヨイ・クサツと申しますぅうううう! お会いできて光栄至極に存じますぅううう」
そして、現れたのは小柄な赤髪の女の子だった。
年はエリクサーと同い年ぐらいだろうか。
クサツだなんて魔族の人の家名はちょっと面白いなぁ。
私はそんな風にのんびりと構えていた。
彼女との出会いが私のその後の運命を左右するなど、その時はまだ知らなかった。
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