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312.ハマスさん、まさかあの方がアイツだったなんて、と気づく


「こ、ここは……?」


 私の名前はハマス・ロンカロンカ。

 第三魔王国の旧家、ロンカロンカ家の長女にして、聖王国の元司令官の一人。

 聖王様の怒りを買い、彼女の雷撃を受けた私は死んでいたはずだった。

 しかし、目が覚めたのは、あの邪悪な村だった。 


 私がいくら聖王様に疑義を覚えたからと言って、村の蛮族どもにとって私は敵。

 おそらくこれから待っているのは死んだ方がましな拷問に違いない。

 体にはまだ痛みが残っていたが、私は病室から抜け出すことにした。

 

「まだ万全の体調じゃありませんよ、休んでてくださぁい!」

  

 私の救護をしていた桃色の髪の毛の女が何事かを言ってくる。

 この女、どこかで見た気がする……。

 しかし、誰であろうと、そんなものは無視だ。

 高等魔族の私がお前の命令に従うわけがない。


 こんな村からはさっさと出て行かなければ。

 そうでなければ殺される。

 一つだけ名残惜しいのは、あの金髪の男にもう一度だけ会いたかったということだ。

 ひょっとしたら、私のことを探しまわっているかもしれない。

 いや、おそらくきっと探しているだろう。

 あの時、私たちは確かに通じ合っていたのだ。


 とはいえ、今の私は寄る辺のない身。

 聖王国に戻ることは許されないだろう。

 あぁ、私はこれからどうすればいいのだ。


「ん? お前、この間の空から落ちてきたアホなのだ?」


 そんな時、あのクレイモアとかいう凶悪な女に出くわしたのだ。

 私の操っていた悪竜パズズを葬ったのを皮切りに、ありとあらゆる邪魔をしてくれた凶悪な女。

 脳の9割が筋肉でできている、凶悪な狂戦士である。


 くそっ、どうしてこんなところで。

 私の体力も魔力もまだ万全ではない。

 こいつをどう出し抜くかと私は歯噛みするのだった。


「クレイモア、その人を捕まえて! まだまだ休んでなきゃいけないんです!」


「りょーかいなのだっ! 赤髪の目つきの悪い女、かかってくるのだ!」


「何をこの!」


 目つきのことを言われて激昂したのがまずかった。

 私はこのクレイモアとかいう女に取り押さえられるのだった。

 

 じたばたもがくも、この女は馬鹿力で私をいとも簡単に抑えつける。

 そうこうするうちに私は大きな屋敷へと連行される。


「くそっ、いっそのこと殺せっ!」


「ダメなのだ、ララさんに連れてくるように言われてるのだ」


 奴は私を縄で縛ると、ひょいと担いでどこかへと運ぶ。

 私を誰かに会わせようとしている!?

 

 そう思った時にはもう遅かった。


 私の眼前にはこの禁断の大地の首領、灼熱の魔女が現れるではないか。

 見た目は華奢な女である。

 身長は私と変わらないし、別段、これと言って魔力は感じない。


 しかし、私は知っている。

 それはすべてカモフラージュなのだ。


 この女は嬉々として溶岩の中に突っ込み、無茶苦茶な攻撃でエルドラドを破壊し、さらには聖王様すらも撃退した人間である。

 いや、もはや人間であることさえ疑わしい。

 化け物だ。

 この世界に存在してはいけない類いの世界を滅ぼす災厄そのものなのだ。


「私の名前はハマス・ロンカロンカ! 栄えあるロンカロンカ家の長女にして筆頭! 貴様の拷問になど屈するものか!」


 私は奴に宣戦布告をする。

 聖王様さえ敵わぬ相手ではあるが、こうなったら一戦交えるしかない。

 ただで屈するわけにはいかない。

 さぁ、私の力を見せてくれるわ。



 しかし、魔女が提案したのは温泉という蛮族の風習につき合えというものだった。

 

 温泉。


 そう、それは忌まわしきヤパン村の風習。

 湯につかり、一日の疲れを落とすなどと言う迷信の産物。

 冒険者どもの話によれば、それに入るだけで体の痛みや疲れが一気に抜けるのだとのこと。


 そんなものに効果があるはずがない。

 汗を流したり、体を美しく保つためなら、浄化魔法をかければ一瞬なのだ。

 

 自身の力を過信した未開の蛮族め。

 自分の風習こそが世界一とでも思いあがっているのだろう。

 愚かすぎて溜息が漏れる。


 とはいえ、それに入れと言われて素直に受け入れることはできない。

 狡猾な女領主のことだ。

 どんな罠を用意しているかわからない。


 特に魔女の背後にいるメイド女は危険だ。

 いつでも私を殺せるというような殺気さえ漂わせている。

 まず、目が怖い。笑ってない。

 私がおかしな素振りをしたら躊躇なく殺しに来る女だ。


 奴はデューンを説得した策略家でもある。

 決して、隙を見せることはできない。


「ひぎゃあああ!?」


 そんな風に身構えていたのだが、私はあられもない姿にさせられてしまう。

 メイド女は私も反応できないスピードで服を脱がせてきたのだ。

 この私が反応できないだと!?

 何者だ、このメイド。


「うわっはぁああ、かわいいじゃん! 尻尾ぉおお!」


 しかも、である。

 この魔女の女、私の尻尾を見て、大きな声をあげるのである。

 大人の魔族の女にとって尻尾の付け根を見せるというのは中々、勇気のいることである。


 生涯を共にするパートナーにしか見せないぞと私は決めていた。

 できれば、あの金髪の御人に見せてあげるのだと決めていた。

 くぅうう、どうしてこんなところで。


 とはいえ、褒められることは少しだけ嬉しかった。

 私の尻尾は魔族の割に細く、なんというか力強さに欠けているからだ。

 角はなく、尻尾も貧弱。

 そのことをコンプレックスに感じていたのだから。


 

 そして、私は灼熱の魔女と勝負をすることになる。


 奴は言った。

 温泉に入って気持ちいいと言わなければ、私の勝ちだと。

 ふふん。


 聖王国の司令官になるために、私がどれだけの訓練を積んできたと思っている?

 ドラゴンの鼻先に立ったり、ゾンビがうごめく墓場に放り込まれたりなど、幾多の訓練を通じて私の胆力は練りに練り上げられている。

 温泉などと言う蛮族の風習になど負けるものか!



 私は鼻息荒く、その濁ったお湯の中に体を沈めていく。


 ぐはぁあああああああ!?


 な、なんだ、これは!?

 か、体がびりびりする。

 つま先から頭頂部まで、一気に熱が駆け抜ける。

 しかも、この珍妙なにおいが肺に入ることで頭もぼぉっとしてきた。


 体の中に感じる熱感。

 こわばった体がじわじわとリラックスしていくのが分かる。

 さらには体の奥に感じる魔力のくすぶり。


 なるほど、この村の連中が尋常ならざる力を発揮したのは、この温泉のせいでもあるのだろうか。

 なんという狡猾な奴らだ。

 こんな奇跡の泉のようなものを独占するとは!


「くっ、私は負けぬ! 貴様の温泉になど負けるものかっ! うひぃ」


 口では強がっていたが、私はとっくに限界だった。

 気持ちいいと叫びたかった。

 しかし、ここで負けたら終わりだ。


 ぐぐぐっと拳に力を入れて耐えに耐える。

 上級魔族の心意気を見せてやる!



 そう意気込んでいた時のこと。


 どっぼーんっと水しぶきが上がる。

 そう、あの蛮族の暴力女が湯の中にダイブしてきたのだ。


 なんという野蛮さ!

 なんという下劣さ!

 私がこんな風習に屈することなどありえない!


「うひゅ~、しみるのだぁ~」


 奴はざばっとお湯から上半身をあらわにすると、髪の毛を大きくかき上げる。

 そして、現れたのは……あの人の、あの方の横顔だった。


「うそ……ふが……」


 温泉でほぼ限界にまで追い込まれていた私の意識は一気にもうろうとし始める。

 まさか、私の憧れのあの人が、この暴力女だったなんて。

 現実と夢の世界が去来し、目の前が真っ白に変わっていく。


 あぁ、私はどうすればいいのだろうか。


 ……とりあえず、この村に厄介になろう。


「面白かった!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 有能な人材ホイホイの温泉を堪能した結果、とりあえず=定住なのだ!
[一言] 最初は蛮族の風習呼ばわり→実体験で効能抜群→芯から心まで暖められて→最後は奇跡の泉か(ーдー) チョロイ女だ( ´-ω-)y‐┛~~
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