311.魔女様、ハマスさんを温泉に沈めるも攻略できず。しかし、意外なところから……
「私の名前はハマス・ロンカロンカ! 栄えあるロンカロンカ家の長女にして筆頭! 貴様の拷問になど屈するものか!」
捕虜の人、改めハマスさんはわぁわぁじたばたと暴れまわる。
クレイモアに縄で拘束されたままなのに、すごいガッツ。
拷問だなんだと言っているあたり、明らかに何かを勘違いしているようだ。
それにしてもロンカロンカ家ってすごくカワイイ響き。
いいなぁ、ラインハルトなんかよりロンカロンカの方が私は好きだ。
「いや、温泉に入るだけだよ?」
「お、温泉だと!? 蛮族の野蛮な風習に私が屈服するものかっ!?」
私は彼女と一緒にお湯に浸かろうと思うのだが、彼女は嫌らしい。
野蛮な風習ねぇ。
言ってくれるじゃないの。
温厚で知られる私だけど、温泉のことを否定されると内心穏やかではない。
ちょっとだけ奥歯がぎりっとなってしまう、ちょっとだけ。
「ひぃいいい、焼き殺さないでくれ!!」
そんな私の怒りを感じ取ったのか、ハマスさんは悲鳴じみた声をあげる。
顔が真っ青で、なんだか怖いものを見たような表情。
やだなぁ、本気で怒ったわけじゃないって。
「よし、温泉に入っちゃおう!」
私はクレイモアに頼んで、彼女を屋敷のプライベート温泉へと運んでもらう。
彼女は「何だこの匂いは!? 汚らわしい! やめろぉおお」などと叫ぶが無視である。
いや、さすがに汚らわしいはないよね。
ちょっとショックだよ。
そりゃあ、確かにララも最初に温泉を見た時は「不吉な水たまり」って呼んでたけどさぁ。
「ララ、やっておしまい!」
「はいっ!」
そんなわけで私はララにおなじみの瞬間早着替えをお願いする。
これまでにメテオやドレスなど、そうそうたるメンバーを脱がしてきた早わざである。
ハマスさんなど相手にもならない。
「ぬはぁ!? どうして裸に!? 貴様、私をもてあそぶつもりか!?」
ハマスさんは早速悲鳴を上げる。
もてあそぶだなんて酷いなぁ。
しかし、魔族の大人の女の人の裸は初めてである。
エリクサーはまだまだ子供なのだが、ハマスさんは20代前半ぐらいだろうか。
身長は私と同じぐらいで細身だと思っていたのに、なかなかになかなかである。
ふぅむ、魔族の人ってプロポーションがきれいなのかなぁ。
それに私はあるものに目が釘付けになっているのだった。
「うわぁあああ、かわいい! ハマスさんの尻尾、かわいいじゃん!」
そう、尻尾である。
彼女のお尻の尾骨の部分から、ムチみたいな尻尾が伸びているのだ。
まさに絵に描いたような魔族。
小悪魔って感じですっごくキュートである。
「私のしっぽがカワイイだと!? ふざけるな、貴様……」
私がやいのやいの言っていると、彼女は顔を赤くして怒ってくる。
ふぅむ、バカにしたつもりはないんだけどなぁ。
かわいいものはかわいいし。
「それじゃ、お湯に浸かってみてよ! エリクサーの村の人も入ってるし、魔族の人にも安全だよ? ほらほら」
とはいえ、人のお尻をずーっと眺めているわけにはいかない。
私は彼女の心を解きほぐすべく、温泉に浸かることを提案する。
まずはこちらに敵意がないことを示すために、私はしゅばばっと温泉に浸かる。
温かな湯が私の体を包み、体全体を温める。
うぃいいい、気持ちいい。
仕事終わりの温泉はさいっこぉお!
「そ、その手には乗らんぞ! 私がその湯に浸かった瞬間に、私の体を触手か何かでもてあそぼうというのだろう!? いや、水責めという手もありうる! いや、ひょっとすると、私にだけ効き目のある媚薬である線も……!」
ハマスさんは相変わらずの勘違いを発動させ、お湯の前で猛烈に抗議をし始める。
触手だとか、水責めだとか、どうしてそうなるのか。
私、そんなことできるような女の子じゃないっていうのに。
「……そう言えば、ご主人様は以前、ベラリスとかいう魔族にお湯をかけて退治したことがございましたね? あれをされようとしてるのですか?」
「ちょぉっと、ララ!? なんてこと思い出してくれてるのよ!?」
私がハマスさんに人畜無害であることをアピールしようとしたら、ララが横やりを入れてくる。
いや、あれは別に水責めとかじゃないからね?
結果として、あの人(?)が苦しんだだけで。
「じゃ、ハマスさん、勝負をしようじゃない。このお湯に浸かって十分間、気持ちいいと思わなかったら、あなたの勝ち! 思ったら私の勝ちってことで」
ここで言い争っていても埒が明かないので、私は彼女を勝負に誘うことにした。
この人はおそらく負けず嫌いの性格とみた。
おそらくきっと、私との勝負に乗ってくるはず。
「ふ、ふん! 私が負けを認めると思ったか! 灼熱の魔女よ、貴様の下劣な策に乗ってやろうではないか!」
彼女はそういうとお湯の中にどぼんと入ってくる。
お行儀はよくないけど、計画通り!
後は肩まで浸かってくれればこっちのものだ。
「……ぬ、う、こ、これは!?」
湯に浸かった彼女は唸り声みたいなものをあげる。
その顔は赤く上気して、明らかに頬が緩んでいる様子。
うふふ、気持ちいいらしい。
こういう時は自分の感覚に身を任せて、大きく息を吐いて「うひ~」とか「気持ちいい~」とか言っちゃえばいいのである。
そしたら、もっともっと温泉の良さが身に染みてくるはず。
「ほぉら、気持ちいいでしょ? 気持ちいいって言っちゃえば楽になるわよ? ほらほら、どう?」
私は彼女の二の腕をつんつんしながら、降参するように促す。
「ユオ様、うちに似てきたな……」
そんな私を見て、メテオがぽつりとこぼすけど無視である。
別にメテオの真似をしているわけではない。
相手の本音を引き出そうと、必死なのである。
決して、楽しんでいるわけじゃないし、ふざけてるわけでもない。
「くっ、私は負けぬ! 貴様の温泉になど負けるものかっ! うひぃ」
だが、しかし。
ハマスさんは強靭な精神力で気持ちいいと言わないのである。
明らかに目はとろんとしてきているのに、なんて強情なんだろうか。
温泉と言う世界の奇跡を共有して、一緒にリラックスするのが目的なのだが、余計こわばらせてしまった。
このままではいけない。
ふぅむ、困った。
「にゃはは! あたしも入るのだよっ!」
私が腕組みをしていると、どっぼーんっと豪快な水しぶきがあがる。
空中に舞う着衣。
ひぃいい、これはどう考えてもクレイモアである。
何べん言ってもお行儀が悪いことこの上なし!
「うひゅ~、しみるのだぁ~」
クレイモアはお湯にいったん浸かると、ざばぁっと浮上する。
彼女のド迫力ボディによって、大きな波が立つ。
しみるのだ、じゃないわよ、あんた!
「温泉って最高なのだよ! 髪の毛もなぜかサラサラになるのだ」
クレイモアには一切のお説教は効かない。
彼女は笑顔のまま髪の毛を書き上げてオールバック状態にする。
そうすると、この間、男装した時みたいにイケメン女子の完成である。
ふぅむ、首から上だけ見れば、かっこいいわ、あんた。
「うそ……ふが……」
「……ん? どうしたのだ?」
ここでとんだハプニングが起こる。
なんとハマスさんが気絶しているのである。
彼女は天を仰ぎ見た姿勢のまま、口をあんぐり開けて白目を向いていた。
「ひぇええ、こんな湯あたりって初めて見たよ!?」
まさか10分かそこらでのぼせてしまうとは。
私たちは急いで彼女をお湯から上げるのだった。
追記。
失神した次の日、彼女は普通に目を覚ました。
そして、何だかよく分からないが、村に移住を申し込んできた。
クレイモアのお菓子工房で働きたいとのこと。
何で?
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「ハマスさん、村でがんばれよ」
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