308.エピローグ:魔女様、村に帰って祝勝会&温泉からはアレが見えて大満足!
「それじゃ、みんな無事に戻れたし、かんぱぁあああいっ!」
「かんぱぁーいっ!」
世界樹の村での戦いから一夜明けて、私たちは村に戻ってきた。
村を守ってくれたドレスとアリシアさんから話を聞くに、聖王国はこっちにもモンスターをよこしたらしい。
つくづく嫌がらせの得意な人である。
今度会ったら、きつく注意してあげなければならない。
しかし、それでも今の私たちは笑顔なのである。
なんせエリクサーは無事に村に戻ることができたのだ。
エルドラドとかいう化け物もヒゲ助になっちゃったし、彼女はすなわち自由なのである。
「ほぉら、これが皆の衆の住居なのじゃ! ユオ殿に礼を伝えるのじゃぞ!」
彼女は世界樹の村の仲間をこの村に移民させることにした。
村のあった場所は荒廃してしまったし、それが一番いいと思う。
「魔女様、ありがとうございます!」
「お世話になります! 魔女様!」
村人たちは私の手を取って涙目になってくれる。
私としては村人が増えることは大歓迎。
ただでさえ人手が足りないのだ。
手に職のある魔族の人たちが移住してくれるのは、村の発展にプラスだろう。
「さすがはご主人様です。人間や魔族という垣根を越えてこそ帝国ですよ! 世界征服の夢にまた一歩近づきましたね!」
ララは何を勘違いしたのか、不穏な方向からよいしょをしてくれる。
別にそんな野望なんかないからね。
私はただ善良な人たちが笑顔になる村づくりをしたいだけで。
そして、パーティが終わったなら、次は何をするか?
そりゃあ勿論、温泉だよねっ!
◇
「うわ、すっごいいい眺め! これは完全勝利だよ!」
「なるほど、いい山ですね」
温泉に入った私たちは感嘆の声をあげる。
その理由は屋敷の温泉から見える、とある山の眺めがとっても素晴らしいことにある。
うふふ、村の温泉全てからあの山を眺めることができる。
何に勝ったってわけじゃないけど、なんだかすごく雄大な気持ちになってくる。
「エルドラドと戦った副産物がこんなところで生きるとは……。さすがですよ、ご主人様」
ララが指摘する通り、ここから見える山というのは世界樹の村に出現した、あの火山のことなのである。
エリクサーを閉じ込めてくれたりと、嫌な思い出だってあるけれど、今は抜け殻状態。
その雄大な姿でお客様を楽しませてくれるだろう。
「ふぅむ、あの山だけでもビジネスチャンスがありそうやな」
「そやね。心があらわれてくるような気分になるしなぁ」
「よし、魔女様は不死身山って名付けよ!」
「ええなぁ、略すとマジフジヤマやな!」
二人で案の定、ワイワイと盛り上がる猫人姉妹。
あの山の名前は決まってなかったけど、マジフジヤマねぇ、悪くないかも。
すごく縁起がいい気がする。
「よぉし、第三魔王国からの使者にすごいの見せてやらな!」
「マジフジヤマ名物のお土産も用意しよ!」
二人は鼻息荒く、今後の商売について話し合う。
今度は第三魔王様の国とも交易を始める計画らしい。
いつもは暴走しがちなメテオだけど、今回、あの毛目玉の魔王を動かしてくれたのはメテオらしい。
何だかんだ言って、とっても頼りになる仲間なのである。
「今回も楽しかったのだ!」
「全くですよ。でも、魚に苦戦するなんてざまぁないです、くふふ」
「なぬぅ!? 最後はやっつけたからいいのだよっ!」
「なーはっはっはっ、今回は私の勝ちですね!」
温泉でわいわい言い合っているのが、うちの突撃部隊のクレイモアとハンナだ。
彼女たちは今回も大活躍だった。
クレイモアには世界樹の村だけじゃなくて、第三魔王国でも頑張ってもらったし、ハンナは三つの地域で転戦するっていう獅子奮迅の活躍を見せた。
ハンナは凱旋盗との試合でやたらと痛い剣士に負けたので心配していたのだが、完全復活である。
今のハンナなら、あんな十四歳みたいなおっさんに負けるはずがない。
二人以外にも、燃え吉やシュガーショック、リリにカルラだって頑張ってくれた。
もちろん、村のみんなも、冒険者の皆さんも。
ちなみにシュガーショックによく似た犬は、わっふわっふと走ってどこかに消えた。
捕まえとけばよかったなぁ、もったいない。
と、まぁ。
こうやって考えてみると、うちの村は人材の宝庫なんだなぁってしみじみと思う。
みんな、この温泉が大好きで、夢の温泉リゾート建設のために頑張ってくれているのだ。
すごいよ、温泉。
「ちょっと違いますよ。ご主人様のことが、みなさん大好きだからですよ!」
「わぷっ!?」
一人感慨にふけっているとララが私を抱き寄せてくれる。
相変わらずの大きなお胸である。
お湯越しなのに人肌の感覚がとても温かくて、心地よかった。
「ララ、ありがとね。ララのおかげで何とかやれてるよ」
今回の功労者は何と言ってもララだろう。
彼女のおかげで第三魔王国と正式に国交が結べたし、世界樹の森での活躍はまるでお話に出てくる司令官みたいだったし。
「もったいないお言葉……、これからも世界征服に向けて裏から工作じゃなくて、お支え致します」
ララは涙ぐみながらとんでもないことを言う。
せっかくの感動のシーンのはずが台無しだよ。
ま、それでこそララなんだけれど。
「これからも頑張るよ! 古文書も回収したし!」
「もちろんです。一生ついていきます、ご主人様!」
ララに感謝の意を伝えると、さらにむぎゅっとされてしまう。
なんていうか窒息しそうである。
とはいえ、当面の脅威の去った私がやることは一つ!
例の古文書を解読することだ。
ふははは!
世界は私の手の中にある!
新型温泉とか作っちゃうぞ!
「……ご主人様、今からでも魔王宣言しますか?」
「しないよっ!?」
一人で野望に燃えていたのがバレたらしい。
ララは真顔になって、とんでもないツッコミを入れてくるのだった。
最高の温泉作りのために頑張るぞっ!
「ユオ様!」
お湯の中で盛り上がっていると、リリが入ってきた。
彼女は服を着たままで、温泉に入るってわけではないらしい。
ちょっと涙ぐんでいて、何か事件でも起こったのだろうか。
「捕虜にしていた魔族の人が目覚めましたっ! 混乱して暴れています!」
「でぇえええ!?」
後から思えば、その知らせは次の戦いが始まるサインだったのかもしれない。
かくして私は大陸の地図が塗り替わる戦いに身を投じる、というか、巻き込まれるのである。
◇ ハマス、目覚める
「魔族と人とが融和する社会を作る。虐げられし者どもよ、ついて来るがいい」
人間族と魔族の間に生まれた私にとって、聖王様の言葉はまさに救い主の声だった。
魔族であれ、人間であれ、尊重される国。
それが聖王国。
実際に、彼女の作ったその王国は人間も魔族も等しく国民としての権利が受けられた。
魔族の数は少なかったが、私をはじめ要職に就くものも多かった。
聖王様のお考えは偉大過ぎて、私たちには分からないことも多い。
とにかく、国民の義務として聖王国を強大にすることだけにまい進してきた。
我々のモンスターを使役する技術は大陸一だ。
なんせ魔獣使いの人間がたくさん棲みついている。
モンスターを使役する仕事は世界中から引く手あまただ。
他国との取引に乗り出し、時に列強の貴族から大金を巻き上げた。
聖王国の成長に私は自分自身を重ねた。
そして、聖王様の美しい姿にいつも惚れ惚れとしていた。
そう、聖王様の近くにいるだけで、私はいつも魅了されてしまうのだ。
自分の考えが掻き消え、この人のために生きたいと願ってしまう。
そして、人間族であるとか、魔族であるとか、そんな区分を超えた聖王様の統治はとても素晴らしかった。
一つの理想に燃える私にとって、聖王国とは救いの国だった。
ある日のこと、聖王様が目を付けたのは禁断の大地だった。
そこのダンジョンには災厄の化け物が封印されているという。
モンスターを操ると言えば、聖王国だ。
災厄の化け物とはいえ、簡単に計画を達成できるだろうと踏んでいた。
しかし、聖王様の野望を阻むものが現れたのだ。
相手は灼熱の魔女が率いる禁断の大地の蛮族ども。
私たちの志さえ理解できない、温泉というものに現を抜かす愚か者どもだ。
さらには長い間、眠り続けていた第三魔王さえ現れる。
忌々しいことに、あのデューンも参戦。
いかに聖王様と言えど、多勢に無勢。
エルドラドを復活させても、劣勢は隠せない状態。
「魔王様、もう少し東に圧をかけてください!」
「ぬはは、わしに指示を出すとは面白いメイドだ!」
彼らは魔族とか人間族とか、そういった区分を超えて協力し合っていた。
まるで私が理想として描いたように、人間と魔族が手を取り合って。
私はなんとか聖王様を助け出そうと試みるが、敵の勢いはすさまじい。
二の足を踏みながら、なんとか反撃のチャンスを狙っていた。
そんな時だ。
彼女は高笑いをしてこう言ったのだ。
エルドラドを噴火させ、禁断の大地の周辺を死の大地に変えると。
聖王国など滅んでしまって構わないと叫んだのだ。
その言葉に私は愕然としてしまう。
確かに聖王様は王国の国母だ。
彼女なしには聖王国など生まれえなかった。
しかし、いくら何でも、聖王国さえ滅ぼしていいという言葉は受け入れられなかった。
私たちは、あなたを信じてここまで死地に赴いたというのに。
真意を問いただそうと私は鳥の使い魔に乗って聖王様のもとへと向かう。
言葉のアヤであってほしいと願いながら。
「国民だと? お前達など、私の駒にしか過ぎない。ハマス、魔王軍を足止めすることもできない役立たずが、私に偉そうに意見をするなっ!」
しかし、彼女は私を攻撃することに、なんの躊躇もなかった。
私は黒い稲妻にやられ、地面へと落ちていく。
あんなに近くに感じていたはずの聖王様がひどく遠くにいるように思えた。
聖王様にとって、私などまるで羽虫のような存在だったのだ。
墜落しながら、意識が遠くなっていくのを感じる。
耳鳴りがする中、私は自分に問いをつきつける。
私は、私たちは本当に正しかったのか?
モンスターを使って、ドワーフの王国や禁断の大地を攻撃してきた。
それが世界の平和を守ることだと信じ込んで。
それが自分たちの正義だと信じて。
言われるがまま?
いや、違う。
私はただ自分の頭で考えるのを放棄してきただけなのだ。
聖王様の寵愛を得ることだけに夢中になって、その過程で流される血と涙を見て見ぬふりをしていたのだ。
私は弱かった。
そして、周りの人々も。
地面と激突すればこの命は終わる。
つくづく何のために生まれてきたのか、わからないままの人生だった。
魔族にもなれず、人間族にもなれず、根なし草のまま、私は死ぬ。
それもこれも当然の報い。
いや、数多くの罪を重ねた聖王国の司令官の一人としては、まだ生ぬるいか。
私はゆっくりと目を閉じる。
聖王様の放った雷撃は私の全身を麻痺させ、意識を薄れさせていくのだった。
痛みを感じないことだけはまだ救いだったと言える。
意識が消える刹那。
私は温かなものに包まれたような気がした。
それは誰かの抱擁のよう。
その力強さに、私を生んでくれた人間族の母親のことを思い出すのだった。
そして、目覚めた。
そこは私の知らない場所だった。
こちらのお話をもって第14章は終わりとなります!
いやぁ、聖王様がすごくてどうなることかと思いましたが、無事にまとまってよかったです(まとまってない)
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