306.魔女様、正体を見せたエルドラドをアレにしてしまいます
「ふぅっ、やっと地上に出た!」
「なのじゃぁあああ!?」
エリクサーを抱きしめた私は一直線に地表へと向かう。
その速度たるや半端なものではなく、数秒というべきものである。
エリクサーに何かがくっついていたような感覚があったけど、どうやら途中で焼き切れたようだ。
「ご主人様、ご無事なんですね!? 」
地上に降り立つと、ララとデューンさんが駆け寄ってきた。
ラッキーなことに彼女たちの近くの位置に脱出できたらしい。
「もっちろん! エリクサーを返してもらったよ!」
「なんとか無事なのじゃぁああ」
「おぉっ、エリクサー! 無事だったのか!」
「なぬっ!? デューン、どうしてここに来ておるのじゃ!?」
私がエリクサーの無事を伝えると、ララの隣にいたデューンさんはすごく嬉しそうな顔をしていた。
心底、心配していたのだろう。
「よし、これなら私も安心して暴れられるというものです!」
エリクサーと再会し、大喜びしたのもつかの間、彼はすぅーっと空中に浮きあがる。
この間のサジタリアスに現れた魔族もそうだったけど、魔族の人たちは空中浮遊が得意なのかもしれない。
……第三魔王様は翼で飛んでるっぽいけどね。
「絶界魔方陣 術式がその三、天地破断!」
彼はそのまま巨大な魔方陣を空に作ると、そこから紫色の光を出現させる。
その光はデューンさんの爽やかさとは対照的にかなり禍々しい。
ゴゴゴゴゴゴゴ!!
紫色の光に触れた場所には巨大な地割れができて、虫たちを飲み込んでしまう。
あわわ、なんて大がかりな魔法なんだろう。
ここら辺の地形が変わっちゃうよ。
かなり強力な魔法使いらしく、お顔も美形でかっこいい。
これじゃ女の子の心を鷲づかみにしちゃうことだろう。
第一魔王様と一緒に歌劇とかやってくれないかな。
「おぉーっ、さすがはわしの姉上なのじゃ! かっこいいのじゃ!」
「は? あれが姉? うっそ……」
「ふぅむ、正確に言えば、デューンは性別が安定していないのじゃ! 植物系魔族じゃからのぉ!」
私がデューンさんの活躍に感心していると、まさかの一声。
うっそぉ!?
エリクサーいわく、性別がころころ変わる人物であるとのこと。
「聖王アスモデウス、よくも第三魔王国に攻めこんでくれたなぁあああ! あはははは、私を楽しませなさい!」
しかも、どうやら攻撃的になると女性に変わるらしい。
彼女の声は女性そのものであり、まるで女王様みたいに高飛車な雰囲気。
「うっそぉ……」
ショックを隠し切れない私である。
「ぐはははは! 吾輩の目玉は世界の目玉ぁああ!」
私が一人、愕然としている間にも、戦いは続く。
第三魔王様は空中から目玉光線攻撃をどかんどかんと炸裂させていた。
エリクサーいわく、魔族界の後期高齢者という話らしいけど、やたら元気である。
今度、村長さんに会わせてあげたい。
「クレイモア、あんな毛生え目玉に負けてられませんよっ!」
「もちろんなのだっ! 強い目ん玉と一緒に戦うのは楽しいのだっ!」
ハンナやクレイモアだって、もちろん、大活躍である。
自分の体の何倍も大きなモンスターをざしゅんざしゅんっと切り倒していく。
二人とも思いっきり不敬なんだけど、私の監督不行き届きってことにならないよね?
「ヒャッハー! 魔石マシマシ、ニンニク抜き、カラメでやんすぅううううう!」
そして、燃え吉の活躍もすさまじい。
モンスターの魔石をどんどん取り込んで、敵を無力化していく。
沢山の触手を操るためか、燃え吉は複数の敵を相手にするのが得意みたいである。
「今日のあっしの触手はバリカタでやんすぅうううう!」
暴走気味らしく謎の呪文みたいなのを連呼する燃え吉。
あわわ、ドレス抜きで大丈夫なんだろうか。
胴体が膨らみ始めているし、どこかで爆発しないか心配だ
まぁ、破裂してもいいけど、別に。
「ユオ様、勝てるでぇ!」
皆の活躍を眺めていると、メテオとクエイクがやってきた。
先ほどと同様に大きなトカゲに乗って、勝ち戦の気配に嬉しそうにしている。
「よかったなぁ、お姉ちゃん。ユオ様が負けたら、温泉帝国全部やるって魔王様に言うてもうたし」
「……クエイク、それ言わんくてもよくない?」
「……あ、お姉ちゃん、そろそろ素材集めの準備に入らなあかんやん!」
「そやな! ほな、おあとがよろしいようで!」
二人はわいわい騒ぐと、そそくさとどこかに行ってしまう。
途中で、おあとが全然よろしくないこと言ったような気がする。
次、何かの大勝負があったら、メテオの全財産を賭けることにしよう。
「ひぇえええええ!? そろそろ降りますぅううう!」
一つだけ意外なことがあるとすれば、シュガーショックだけは戦闘に参加していないことだった。
シュガーショックは虫たちの攻撃を華麗によけるのみである。
何かを警戒しているのか辺りをチラチラと見ていた。
リリはシュガーショックに必死にしがみつき、今にも振り落とされそう。
私は急いでシュガーショックを呼んで、リリを助けるのだった。
◇
「おのれぇえええ!」
皆の活躍を眺めていた時のことだ。
私とエリクサーが出てきた穴から白い蛇みたいなのが這い出てきた。
白い蛇には小さな手足がくっついて、にょろりと長いヒゲが生えている。
背びれみたいなのもあるし、蛇というよりはトカゲに近い生き物なのだろうか。
モンスターかと思いきや、言葉を喋っているところからして燃え吉と同じ類いだろうか。
何だか怒っているようだけど。
「貴様らぁああ、許さんぞぉおお!」
トカゲは私たちの姿を見るや否や、いきなり水を飛ばしてくる。
魔法の類なのか、大量の水はまるで剣のように鋭い。
「何、あんた?」
とはいえ、水ごときにひるむ私ではない。
熱鎧を発現させると、その水をすべて蒸発させてしまう。
水と私とじゃ、相性が悪すぎでしょ。
「このモンスター、何がしたいわけ?」
「なんでしょうね、この謎生物?」
私とララが腕組みをして考えていると、隣にいたエリクサーが震え始める。
「こ、こやつはエルドラドの本体じゃあああ!」
「はぁ? あの山をこいつが動かしてたってわけ?」
これにはびっくりである。
このひょろひょろトカゲが山の主であるというではないか。
そして、エリクサーの一族の仇敵だとも。
「ぐははははは! 気づいた時にはもう遅い! 生贄もろとも死ぬがいい!」
トカゲは下品な笑い声をあげながら、こっちに水をじゃぶじゃぶ飛ばす。
私、こんなのと水遊びしてるわけには行かないんだけどなぁ。
そんなわけで、低温熱空間を発動。
「わ、わしの水が奪われる。鉄をも切り裂くわしの破壊の水がぁあああ」
真っ赤な熱の箱が奴を取り囲むと、その内側にある水分を奪い始めた。
次第にトカゲは姿を変えて、髭の生えた魚にチェンジした。
どうやらこれが真の姿だったらしい。
「おのれ、おのれ、おのれぇえええ!」
「あれ? 黒いのが出てきた」
奴の後ろには真っ黒い渦が出現。
どこかで見たデザインだよね。
そういえば凱旋盗の人の後ろにもこういうのがあった。
ひょっとして、こいつもこの黒い渦に操られているとか何だろうか?
「えいっ!」
そんなわけで、私は熱視線で黒い渦を片付けることにした。
私の目から飛び出した高速高温の光は真っ黒い渦に直撃!
ぎぎぎゃぁああああああ!?
ヒゲ魚のものとは異なる、少し高めの叫び声をあげると、それは消え失せてしまう。
ふぅむ、黒い渦にも熱視線が効くとは……。
「ひ、ひぃいいい!? 貴様ら、何なんだぁ。わしは大地の精霊エルドラドだぞ、水を操り、大地を割る災厄なのにぃいいいい」
黒い渦を失ったヒゲ魚は水を発生させることもできないらしい。
びたびたと地面をのたうち回りながら大変悔しそうである。
何者だなんて言われても、辺境の一領主にしか過ぎないんだけどなぁ。
とはいえ、このヒゲ魚を放置するわけにはいかないわけで。
「……エリクサー、この魚どうする?」
私はエリクサーに処遇を尋ねることにした。
彼女の一族は、ずっとこいつのために苦しめられてきたのだ。
村を崩壊させたのも、この化け物だと思う。
煮魚にするなり、焼き魚にするなり、好きにしたっていいのかもしれない。
「……こやつのせいでわしらは……今のわしはこいつを許せん」
「ひぃ、ひぃぃいいいい!?」
エリクサーは醜態をさらすヒゲ魚を睨みつける。
気持ちは分かる。
相当怒りが溜まっていたんだろう。
私はふぅっと息を吐いて、熱空間を発生させる。
エリクサーがもしも、処断しろって言うのなら、私が代わりにやっつけるしかない。
正直、幼い彼女に何かの命を奪うなんてことをしてほしくないし。
「……じゃから、こいつには罰を与えようと思う。温泉で魔族も人族も楽しませ続けるという罰を与えるのじゃっ!」
エリクサーはヒゲ魚を指さし、びしっと処断を下す。
それはまるで私みたいな、甘い甘い罰だった。
「温泉? なんだそれは?」
もちろん、ヒゲ魚は目を白黒させる。
温泉なんてものをこいつは知ってるはずがないからだ。
「ふふふ、後でじっくり教えてあげますよ、災厄の化け物さん。あなた水回りのお仕事が得意なんですってねぇ。ふふふ、働かざる者、食うべからずですよ」
ララがすかさずヒゲ魚の教育係に立候補する。
ふぅむ、こいつは水を操れるとか言っていたし、思わぬ拾い物だったかもしれない。
「ひぃいいい!? なんだこの女は!? 嫌な予感がするぅううう」
ヒゲ魚はララの不穏な雰囲気にやたらとびくついていく。
とりあえず、呼びやすい名前と口調は考えておかねばならないね。
「よし、あんたの名前は今日からヒゲ助よ! 語尾は「がんす」で喋ること!」
「は、はぁ? ヒゲ助? がんす?」
「ヒゲ助、返事は? がんすでしょ?」
「は、はいでがんす……」
そんなわけで、ヒゲ魚改めヒゲ助も村の仲間になったのであった。
ララは「ご主人様は相変わらずですね」などというが、「ぐははは」みたいに笑う魚を村にいれるのはちょっと無理だよね。
よぉし、これで災厄のナントカは片付いたよっ!
あとはあのワガママな女の子に引導を渡すだけだね!
【魔女様の手に入れた人材】
大地の精霊エルドラド:大地に蓄えられた魔力を吸収し、火山活動さえ引き起こすことのできる精霊。災厄の六柱の一つ。人々の持つ山への畏敬が生み出した存在だと言われている。
本日の更新でついに100万字を超えました!
1年近くの連載で100万字を超えることができたこと、とても嬉しいです。
これも皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「これで災厄の化け物、三匹ゲットだぜ!」
と思ったら
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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
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