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【WEB版】灼熱の魔女様の楽しい温泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の温泉帝国を築きます~【書籍化+コミカライズ】  作者: 海野アロイ
第14章 魔女様の聖王国をぶっとばせ! Part 1 ついに聖王国との戦いの火ぶたが切られます。大丈夫なのか、聖王アスモデウス様!?
305/352

305.魔女様、誰も真似したくないエクストリームな入浴法を開発するよ&エリクサーの叫び

「てりゃああああ!」


 煮えたぎる溶岩にどっぼぉおんっと飛び込んだ私である。

 リリにならって気合は十分。


 だけど、潜ってみて気づいたことがある。


 それは溶岩の熱さではない。

 今の私からすると、むしろポカポカしていて温泉のように気持ちがいい。

 正直、いつまでも入っていられるような心地よさである。


 じゃあ、何に気づいたのかというと息ができないのだ。

 

 溶岩の中は思った以上に水みたいで、私はどんどん沈むことができた。

 しかし、肝心の呼吸ができないんじゃいつかは死んじゃうのではないか。


 ダイブして数秒後にはそんなことに気づく。

 あわわわ、これって結構やばい状況だよね。


 今から再浮上するのもアリだけど、一刻も早くエリクサーを助けたい。

 早く彼女のところに行ってあげなければ、命の危険さえあるのだ。 


 そのためにどうすればいい?


 必死になって考える。


 こういう時にこそ、私の能力は役に立ってくれるはず。


 ……そっか、熱探知だ!


 エリクサーの熱を探知すればいいんじゃん!


 私は自分の皮膚全てで熱を感じてみようと試みる。

 

 私はエリクサーの体温や体のサイズを思い描く。

 彼女の心臓がどう脈打っていて、どんな風に熱を全身に伝えていったかを。


 彼女の小さい体の中にある熱の塊を心の中にありありとイメージするのだ。



『ユ……殿たちと、本当は……はも……ちょっとだ……一緒にいたか……ったのぉ』


 すると、私の心の中にエリクサーの姿が浮かび上がってくる。

 彼女は何かに囚われた状態で、さめざめと泣いていた。

 私の耳に聞こえているのが、実際のものなのか、想像のものなのか、それは分からない。


 だけど、私は確信する。


 彼女はこの溶岩を抜けたところで待っているって。


『そぉれっ!』


 心の中で叫ぶと、私は一気に熱を放射。

 煮えたぎる溶岩の中を一気に進んでいく。

 その速度はすさまじく、魚になったような気分である。

 水泳をまともにしたことはないけど、ひょっとしたらこういう気分なのかも。


 うふふ、楽しい。



 どぎゅううううううんっ!



 私は目の前の分厚い岩を一気に打ち破る。

 そろそろ呼吸が危なくなってきた頃合いだった。



「ぷはっ!? つ、着いたのかしら!?」

 

 驚いたことに溶岩の下には薄暗い洞窟が広がっていた。

 かなり広い空間で、ひんやりとしていて心地がいい場所だった。

 どうやら足元は少しだけ凍っているようだ。


 空気もあるようで、私は大きく深呼吸をする。 


「エリクサー、ここにいるのっ!?」


 私の声は洞窟の中に響いていく。

 だけど、返事はない。


「……ユオ殿!?」


 熱探知に任せて進んでいくと、洞窟の奥からあの声が聞こえてくるではないか。

 うふふ、熱探知って便利だなぁ。

 薄暗い場所でも使えるんだから。


「エリクサー、一緒に帰るよ! ……うそ」


 洞窟の奥の方に彼女はいた。


 しかし、その姿は私の知っている彼女ではなかった。


 上半身はいつもの通りなのだが、腰から下は樹木の中にすぽっと埋まっているのだ。

 その顔色は悪く、いつもの元気な姿が嘘のようだ。


「ありゃりゃ、こんなところまで来るとは意外じゃのぉ」


「呑気なことを言ってないで帰るよっ!?」


 とはいえ、エリクサーは相変わらずの口調だった。

 まるで私がここに来たことが他人事のようにさえ聞こえる。


 彼女は私の言葉を聞くと、ゆっくりと首を横に振る。


「ありがたい話じゃが、それは難しいのじゃ。ここはわしらの一族の運命の場所なんじゃ。ほら、わしの隣にいるのがお母さまで、その隣がばあ様じゃ」


「これがそうだっていうの……?」


 薄暗くてよくわからなかったのだが、彼女の隣にはそれこそ何体も、いや、何十体も巨大な根っこの柱ができていた。

 エリクサーいわく、彼女の先祖たちはこうやってエルドラドの力をとどめてきたということ。

 

「わしはもう十分じゃ。ご先祖様たちと同じように職務を全うするのじゃ! せっかく助けに来てくれたのに、すまんのぉ」


 エリクサーはそう言うと、たははと笑う。

 そう、彼女はもう受け入れる気でいるのだ。

 自分がエルドラドの中に取り込まれることを。


「エリクサー、そんな運命なんてぶっ飛ばしちゃえばいいのよ!」


「えーと、ユオ殿、わしの話を聞いとったのか!? 相手は史上最悪の災厄なのじゃぞ? わしが生贄になれば数十年は持つのじゃぞ!」


「話は聞いたけど、だからって私の大事な友達が犠牲になるのを黙ってみていられるもんですか!」


 ひょっとしたらエリクサーは諦めているのかもしれない。

 自分のご先祖さまと同じ運命を受け入れるのが道理だと思っているのかもしれない。


 だけど、私は信じてるのだ。

 彼女はまだ私たちと一緒にいたいって本心では思っているって!!


「エリクサー、本当にこれでいいの? みんなに会えなくなってもいいの?」


 だから私はちょっと意地悪な質問をする。

 エリクサーの本音が知りたい。

 ご先祖さまとか、職務とか、そういう建前じゃなくて、裸の気持ちを知りたい。


「……ユオ殿、わしだって本当は……本当はもっと、もっと生きていたい! もっと一緒にいたいのじゃ! 世界樹の巫女の役目なんて大っ嫌いなのじゃああ!」


 私の心が通じたのか、エリクサーは自分の思いを叫ぶように伝えてくれる。

 溶岩の中で私が聞いたあの言葉は幻聴ではなかったのだ。

 彼女の魂の叫びだったんだろう。


「そうこなくっちゃ! その言葉が聞きたかったんだよ! よぉし、飛んで逃げるよ!」


「はぁ!? ええと、飛ぶのじゃ? どこに!?」


「飛ぶって言ったら、上でしょ!」


「ちょおっと待った! わしの下半身にエルドラドが絡みついておるのじゃぞ!?」


「まじで!?」


 ここで驚きの新事実が発覚である。


 エリクサーの下半身にはエルドラドの何かが絡んじゃっているとのこと。

 女の子の下半身にしがみつくなんて嫌な奴この上ない。


 ぐぅむ、このままエリクサーを抱きかかえて飛んだら、彼女の下半身が分裂してしまうかもしれない。

 それは絶対に避けなければ。


「よぉし、じゃあ、焼き切ってあげる!」


「焼き切るのじゃ? 何をなのじゃ!? ちょっと、えっ、どうして髪の毛が赤く!?」


 私はエリクサーの肩に手を置いて目を閉じる。

 彼女が何やら言っているけれど、今は精神集中しなくちゃだから待っててね。

 

 ゆっくりと息を吐いて、私は念じるのだ。


 私の発する熱がエリクサーに絡みついている奴を引きはがしていく様子を。

 もちろん、エリクサーには一切のダメージを与えないように細心の注意を払いながら。


 チリチリパチパチと紙や木の葉を燃やすような感触とともに、何かが剥がれ落ちていく。

 そんな感覚を手のひらに感じる。

 いい感じ、災厄だなんていうけど、やっぱり燃えるじゃん。


「おぉっ!? 体が軽くなってきたのじゃ!」


 そして、一分もしないうちにエリクサーは顔色を明るくするのだった。

 ふふふ、私の手ごたえ通り!


「それじゃ、行くよっ! こんな陰気な場所にいたんじゃ気が参っちゃうからね!」


「へぇえ、ちょっと、心の準備がぁあああ、うきゃああああ!?」


 私は彼女にハグをすると、ありったけの熱を込める。


 そして、そのまま天井を一気に突き破る。

 もはや溶岩の中を進む必要はないわけで、世界樹の森の辺りに昇れるはず。


「待……て……」


 そんな時である。

 エリクサーの足元から変な声がした。

 だけど、待ってなんかいられない。

 

 私はその声を無視して、一気に急上昇するのだった。




◇ エリクサーの見た夢



「エリクサー、あなたもまた巫女としての職務を全うするのよ」


 わしのお母さまはそう言って世界樹の中に沈んでいく。

 村の人々はその様子に涙を流し、口々にお母さまのことを称える。


 世界樹の巫女、それは世界樹の下に封印された化け物を鎮めるための人身御供。

 傍から見れば、辺境の魔族の残酷な風習なのだと思うじゃろう。


 だけど、わしは違った。

 世界樹の巫女として生まれ、その職務を全うすることを誇らしいと思っていた。

 わしらの一族が世界の平和を守っているという自負もあった。


 お母様も、おばあ様も、そのまたおばあ様も、みんなみんな、立派に務めを果たしたのだ。

 わしらは他の魔族のように長く生きることはできない。

 だけど、それでも素晴らしい役目を果たしているとわしは思っていた。



 そう、思っていた。


 ユオ殿たちと出会うまでは。


 わしは知ってしまった。


 友として、一緒に笑い合う喜びを。


 仲間として、一緒に何かを成し遂げる喜びを。


 その喜びはすさまじかった。


 わしがそれまでの人生で世界樹の巫女であることを一番大事なことと考えてきた。

 エルドラドを鎮め、世界を守る。

 それしかなかったし、それ以外に関心はなかった。


 それなのに、世界樹の巫女という役目を手放したいと思えるほど、村での生活は楽しかった。

 生まれて初めての感覚だった。


 生まれて初めて、世界樹の巫女に生まれたことを後悔した。

 わしは人知れず、ベッドの中で泣いたりもした。



 もちろん、世界樹の村の仲間は大好きじゃ。

 デューンも、それに第三魔王様も大好きじゃ。

 世界樹の巫女の役割の大切さも分かっている。


 だけど、わしは……ユオ殿たちともっと一緒に過ごしたかった。


 

 そうは思ってはいたが、エルドラドが復活した今、世界を救えるのはわししかいない。

 第三魔王様からのヒントをもらい、わしは決断した。

 自分の身をもって、エルドラドを鎮めることを。


 世界樹の中に半分身を埋め、わしの魔力はエルドラドに吸い取られようとしていた。

 このままご先祖さまと同じようにエルドラドを鎮める巫女になるのだ。


 自分の決断が間違っているとは思わない。


 だけど、わしの心は揺れ続けていた。

 わしは自分が思っている以上に生きることに執着してるようだった。


 そんな簡単なことに気づくのに、ずいぶん時間がかかった。


 もっともっと皆に親切にしてあげればよかった。

 もっともっと森の木々の素晴らしさを教えてあげればよかった。


 色んな記憶が現れては消え、意識が薄れていくのを感じる。


 そんな時、わしの名前を呼ぶ声が聞こえる。


 それはユオ殿の声じゃった。


 まさかこんなところに来るはずがない。

 エルドラドは無限の化け物製造機。

 それを押さえるだけで精一杯のはず。


 でも、ひょっとしたら、ユオ殿ならあるいは……。




「エリクサー、一緒に帰るよ!」


 その期待の通り、彼女は現れた。


 まるで太陽のように微笑みながら。


 わしは人生の終わり際に彼女に会えたことに少しだけ感謝する。

 ユオ殿に看取られて死ぬのも悪くないなんて思ってしまう。


 

 だけど、ユオ殿は違った。

 わしのことを諦めてはくれなかったのじゃ。


 彼女は言う。


「エリクサー、本当にこれでいいの? みんなに会えなくなってもいいの?」


 わしの目をじっと見つめて。

 そんな風に言われたら、わしは本心を言うしかないじゃろうが。


 わしは叫んだのじゃ。

 本心を。

 思いのたけを。


 世界樹の巫女なんて大っ嫌いなのじゃって。


 そしたら、ユオ殿は笑った。

 その瞳には少しだけ涙が光っているように見えたけど、それでも笑っていた。

 

 思いのたけをぶちまけて、わしはすごくスッキリしていた。

 本当はずっとずっとそう叫びたかったのだ。


 わしの運命を勝手に決めるなって!


 

 そして、ユオ殿はわしの体に絡みついたエルドラドを焼き切る。

 あれだけわしを縛っていた鎖が嘘のように消えてしまった。


 わしはユオ殿と一緒に上昇していく。

 すさまじい速さに息が詰まる。


 去り際にわしはつぶやく。


「お母様、おばあ様、ご先祖様、役目をはたせず申し訳ないのじゃ。だけど、エルドラドはわしらがやっつけてみせるのじゃ」


 と。


 そう、世界樹の巫女という不幸な連鎖は食い止めなければならないのじゃ。

 わしとユオ殿と仲間たちの力で。




【魔女様が発揮した能力】

溶岩浴:溶岩、それは文字通り高温で融解した岩である。普通人にとって、その中に身を沈めることは死を意味するが、魔女様にとっては「ちょうどよい湯加減」だったりする。魔女様以外は即死するエクストリーム入浴法である。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「まさかのシリアスなエリクサー……!」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シリアスもいい [気になる点] 溶鉱炉に沈んでいく場面が浮かんだ....(T_T)
[一言] アイルビーバック(いい湯だな)
[一言] いよいよゴジ○並みになってきたな(ʘᗩʘ’) 温泉の放射能(魔力)をタレ流し、口からは熱戦を吐き、溶岩すら泳ぎ、古い体制をぶっ壊す破壊神ゴ○ラ(↼_↼) いかん(٥↼_↼)何処にも否定でき…
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