304.魔女様、まさかの援軍にドン引きする。そして、ついに疾風伝説へ
「テメー、“ベコベコ”にしてやる!」
それは毒の灰が世界樹の大地を覆おうとしているタイミングだった。
真っ白い塊に乗った少女が颯爽と現れる。
彼女は爆音を響かせながら、オレンジ色のオーラを放つ!
……その音、どこから出てるんだろう?
「リリ!?」
そう、それは私たちの村の聖女様、リリだった。
今日は細長い布をおでこに巻いての登場である。
♨マークもついている布で、髪型がちょっとアレンジされててかっこいい!
「“好き勝手”やってくれたみてーだナ!? あたしの“マブダチ”によォッ!!」
リリは叫び声をあげながら、癒しのオーラを一気に展開!
それは毒の灰を次々と分解していく!
「毒が消えていきますよ!」
「おぉっ! すごいのだっ! さすがは爆音聖女リリ様なのだ!」
ララたちもリリの活躍に声援を送る。
うちの村から援護に来てくれたリリには感謝してもしきれないよ。ありがとう!
「さぁ、あんたの企みもこれで終わりよっ! 誰だか知らないけど、ちょっとは反省してもらうからねっ!」
火山の噴火をなんとか片付けた私は例のピンク髪の少女に勝利宣言をする。
いや、お仕置き宣言と言ってもいいだろう。
さっさとエリクサーを返してもらわなきゃ、私は本気で怒っちゃうよ。
「い、今のはまさか聖女か!? ふははははは!」
しかし、彼女は笑っていた。
その口から出てきたのは、まるで話の噛み合わない言葉だった。
もともとすれ違い気味だったと思うけど、今はかなりやばい。
ぐぅむ、まともに相手をしてちゃいけない感じなのかも。
「……私にもツキが向いてきたようだ。エルドラドよ、餓えた蟲どもを生み出し、大地を覆うのだっ!」
彼女は山に向かって何かの魔法を放つ。
すると、地響きがして、ワラワラとあふれ出るではないか。
虫が。
虫が、すっごいたくさん。
「ひぇえええええええ!?」
茶色い奴に、赤い奴に、斑点がある奴……。
とにかく、いろんな種類の虫型魔物が溢れ出す。
どれもこれもとにかく大きいのである。
うっそぉ、最悪なんだけど。
戦いたくない。
「し、死にますこれぇえええ!?」
しかも、である。
リリはさっきまでの気合バリバリモードが終わったらしく、いつもの彼女に戻っていた。
シュガーショックに乗っているとはいえ、これはかなりまずい。
どうしよう、私はエリクサーを助けに行かなきゃいけないっていうのに。
しかし、事態は少しだけ好転する。
森に現れた巨大な虫に複数の触手が突き刺さり、ずずず……きゅぽん……と嫌な音がする。
明らかにモンスターの魔石を吸い込んだやつである。
そんなことができるのは奴しかいない!?
振り返ると、燃え吉がそこに立っていた。うわぁ、やっぱり。
「燃え吉、参上でやんす!」
今日の燃え吉はいつぞやの頭の大きなボディから手足が生えたバージョンである。
なぁるほど、リリと一緒に来てくれたわけね。
助かったし、来るなとは言えないけど、そのデザインで大暴れするつもりかしら。
はぁ、憂うつ。
「クレイモアさん、リリアナ様の守護を! ハンナさんは燃え吉と協力して世界樹を守ってください!」
「りょーかいしたのだっ!」
「任してくださいっ!」
「ぐはは、任されたでやんす!」
ララはこちらの戦力を上手くまとめ上げ、世界樹を守り切ると宣言。
クレイモアもハンナもそして、燃え吉も、動きがきびきびしている。
どれもこれもララの的確な采配によるものだ。
すごいよ、ララ、あなたにはそんな力があったんだね!
「無駄だ、無駄だ! この蟲どもはエルドラドの化身! 無限に湧き出て大陸を食い荒らすっ!」
これなら大丈夫と思っていた矢先、ピンク髪の女の子は嫌なことを叫ぶ。
この虫たちには大量に在庫があるとか言うのだ。
最悪である。
正直、焼き払いたいし、村に帰りたいし、温泉に入って忘れたい。
とはいえ、エリクサーを取り返していない以上、勝手なことはできない。
そもそも、虫はわらわらと現れて、クレイモアたちでさえいっぱいいっぱいなのだ。
「ふふふ、聖王アスモデウス、甘いのはあなたの方ですよ。我らが皇帝陛下ユオ・ヤパン様がそんなことも分からないと思いましたか?」
しかし、ララはこんな時でも冷静だった。
彼女は私の名前を無理やり引き合いに出し、何だか悪役めいたセリフを吐く。
「ララ、どういうこと?」
「もうそろそろですよ、ご主人様」
それはララに尋ねた直後のことだった。
どぎゅううううううんっ!!
森を覆っていた虫たちが何者かから攻撃を受けているではないか。
それも一発ではない。
何発も、何十発も、である。
えぇえええええ!?
誰かが助けに来たってこと!?
「ユオ様、頼もしい援軍の登場やでぇえええ!」
「メテオ!? クエイクも!?」
森の向こう側からやってきたのは、メテオたちだった。
鎧を付けた巨大なトカゲに乗って、とても元気そうである。
えーと、どういうこと!?
「詳しい話は後や! とにかく、第三魔王様もうちらに協力してくれるっちゅうわけやでっ!」
「第三魔王様!? 味方になってくれるってこと!?」
「せやで! ほら、あの飛んでる毛目玉みたいな、けったいなやつが魔王様!」
メテオはびしっと宙を指さす。
そこには確かに何者かが浮かんでいた。
コウモリのような翼に、まんまるのボディにはふっさふさの毛が生えている。
そして、大きな目玉が一つだけらんらんと輝いている。
それだけのデザインだった。
口も手足もないらしい。
あれが第三魔王様なの? シンプルすぎない? ほとんど毛玉じゃない?
あと、いくらなんでもメテオは普通に不敬だと思う。
「久しぶりだな、ラビよ。……いや、今は聖王アスモデウスとかいうのだったか? 貴様の雑兵など、この第三魔王ミミンガが滅ぼしてくれる!」
第三魔王はそう言うと、強力な破壊光線を出現させる。
その勢いたるやすさまじく、どかぁあん、どかぁあんっと虫たちを攻撃。
「ぬははは! 燃えろ、燃えろ! この駄虫どもがぁああ!」
世界樹のことなんぞお構いなしに攻撃を仕掛ける魔王様。
すごいんだろうけど、見た目とのギャップがひどい。
あと名前がかわいい。
「魔王様、やるやん! まるで誰かさんみたいな攻撃!」
「お姉ちゃん、そんなこと言うたら魔王様に失礼やで! 誰かさんは口からも出せるし!」
相変わらずの毒舌でやかましい二人である。
その様子を見ていた私の背筋は確かに凍り付いていた。
そう、モフモフ目玉こと第三魔王は目から破壊光線を生み出すのだ。
うわぁ、やだやだ。
私、あれとかぶってるって思われちゃうよね?
ほとんどモンスターじゃないの、それじゃ。
魔王様の大活躍に今後の身のふりを考えざるを得ない。
とにかく、目とか口から破壊光線を出すのだけは止めないとヤバい。
「灼熱の魔女様、お初にお目にかかります。私はデューンと申します」
「は、はいっ!?」
ショック状態の私だったが、声をかけられて我に返る。
振り返ると、そこにはエリクサーと雰囲気のよく似た美形の男性が跪いていた。
ララが「デューン様は第三魔王様の下で補佐を行っていらっしゃる方です」と教えてくれる。
「灼熱の魔女様にお願いがあるのです」
自己紹介もそこそこに、彼は真剣な眼差しで語り始めるのだった。
あわわわ、せめて立ち上がってから話してほしい。
「エリクサーを救っては頂けないでしょうか。あの子は地下深くにあるエルドラドの核と格闘しているはずです。しかし、我々では近づけないのです」
彼は私の瞳をじっと見つめて、それから深々と頭を下げる。
それは誠心誠意、心のこもった態度だった。
きっと彼はエリクサーのことをとても大事に思ってくれているのだろう。
「……わかった。やってみます」
私は彼にゆっくりと頷き返す。
正直、虫の相手をするよりもよっぽどましだし!
「ご主人様、魔王様をはじめとして第三魔王国からの援軍もありますし、ここは私たちに任せてください。……あの勘違いしたバカ女をぎったぎたのべこんべこんにしてみせます」
「わ、わかった。……あんまり乱暴しちゃダメだからね?」
ララの言葉に一抹の不安を感じながらも、私は空へと飛び立つ。
さぁ、どうやってエリクサーを探そうか。
デューンって人はエリクサーは地中深くにいるって言っていたけど……。
ここから土の中までつながっているような場所があるだろうか?
「アレがあるじゃん!」
そんな時、私はごっぽごっぽと例の山頂が溶岩をたたえているのを発見する。
私の理解が確かなら、溶岩はそのまま地中深くへと繋がっているはず。
それからエリクサーを探せるかもしれない。
「えーいやっ!」
私は大きく息を吸い込んで、煮えたぎる溶岩の中にダイブした。
◇ 【悲報】リリはハンドルを握ると性格変わる奴でした
「よぉっしゃ、これに乗っていけばOKだぜっ!」
さかのぼること一時間ほど前。
敵を撃退したドレスは奇妙なものを村の外れに持ってきていた。
それは繭のような形をしているが、長さが2メートル近くもある。
前面にはユオそっくりの顔が細工されていた。
上側に人が座れるようになっており、掴まる場所もある。
ドレスの言う通り何らかの乗り物であるようだ。
「こ、これに乗るんですか?」
世界樹の村に行くことを志願したリリであるが、面食らってしまう。
一体全体、これが何かなのかさえ分からない。
「ふふふ、まずはカルラが道を凍らせるだろ? そしたら、その上をこのΖ燃え吉が魔導原理で進むのさ。あっしの計算が確かならば、ユオ様のもとにひとっ飛びだぜ!」
「くははっ! 安全快適な旅をお約束するでやんす! 一応、速度調整の操縦かんもあるでやんすよ!」
ドレスの説明に燃え吉は言葉を合わせる。
リリは「ひぇええ、これって燃え吉さんだったんですか!?」と驚きを隠せない。
とはいえ、ここで躊躇している時間はない。
これでいくしかないと言われたら、リリには反対する術はないのだ。
「準備オッケー。ユオ様のところ……私も行く……」
カルラは世界樹の村までの道を一気に凍らせると、自分も行くと言い出す。
彼女もついてきてくれると頼もしいことこの上ない。
リリは少しだけ不安が取り除かれる様な気がした。
だが、ドレスいわく、「悪いなカルラ、こいつは一人乗りなんだよ」とのこと。
「……わかった」
カルラは相変わらずの無表情でさっぱりと諦める。
内心はひどくがっかりしているのだが、一切表情に出ないのはさすがである。
「そ、そんなぁ~」
リリはカルラの手を握りしめると、子犬のような悲しい声をあげる。
先ほどの安心感は完全にぬか喜びなのであった。
「ベルトをしっかりしめるでやんす! 俺っちの運転に任せるでやんすよ!」
「ひぇえええ、お手柔らかにお願いしますぅう」
ぶぉん、ぶるん、どどどっどどどどどっ!
魔石機関によって尋常でない推進力を獲得した燃え吉は爆音を響かせる。
そして、リリは世界樹の村までとんでもないスピードで進む。
圧倒的な速度は彼女の覚醒を促し、燃え吉をマニュアル操作でさらに加速。
「……行こうぜ、ピリオドの向こうへ」
「向こう!? それってどこでやんすぅううう!? ひぃいいい!?」
スピードを出し過ぎた燃え吉は世界樹の村を前に空中分解。
投げ出されたリリはシュガーショックがナイスキャッチ。
燃え吉のボディの大半は破損するも、結果として、ユオ達のピンチを救うことになるのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「第三魔王様、かわいいやんけ……!」
「カルラ、かわいそう……」
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