302.魔女様、ついにアレをゲットだぜっ! しかし、崩壊の足音は着実に近づいているようで
「うっそぉ、噴火するつもりなの!?」
化け物は山に変化し、嫌な音を立てて、揺れ始めていた。
これは単なる地震ではない。
おそらく、あの山は噴火しようとしているのだ。
実際、私の熱探知は山の奥底にとんでもない熱量を感じていた。
「ふはははは! お前も、お前の仲間たちも、全てが終わりだっ! エルドラドの火山灰は毒の灰! 大陸をすべて汚染してやるっ!」
桃色の髪の女の子は邪悪な顔をして笑う。
「残念だったな、灼熱の魔女よ! 確かに貴様のわけのわからない霧には驚かされた。エルドラドの大きさも想定よりは小さい。だがな、もう無駄だ!」
私に指をびしっとつきつけて、高笑いをする。
この人、とんでもないことをしようとしてるじゃん!?
どうしよう、あの山を吹っ飛ばしちゃえばいいんだろうか?
しかし、下手に穴をあけたら、そこから溶岩が飛び出してきそうだ。
それに火山の中には世界樹の木があって、その中には私の古文書があるわけで……。
ええい、今さらそんなこと気にかけてどうするのよ。
肝心なところで煮え切らない私に嫌気がさす。
古文書なんかどうでもいいのだって、とっくに割り切ったはずなのに。
「あれ?」
ここで私は意外なことが起きていることに気づく。
私の足元にいつの間にか青々とした森が広がっているのだ。
しかも、その木の種類には見覚えがある。
そう、あの巨大な世界樹の木が森を形成しているのである。
ひょっとしたら、あの化け物が変化した時にこっちに移植されたのかもしれない。
世界樹の森はまるで海のように山の裾に広がっていた。
ごごごっごごごごっごごごごご!
化け物が変化した山は小刻みに揺れ始める。
何かが放出されているのか、山頂付近の雲はパチパチと音を立てて雷を生じさせる。
おそらく、あと10分もしないうちに噴火活動に入ってしまいそうだ。
そんな時だった。
わぉおおおおおんっ!
「ご主人様! 戻りましたっ!」
「ユオ殿! 帰ってきたのじゃぞぉおっ!」
「ユオ様、待たせたのだっ!」
「魔女様、お待たせしましたぁああっ!」
とんでもない勢いで白い塊が飛び跳ねてくるではないか!
それはシュガーショックと、それに乗ったララ、エリクサー、クレイモア、ハンナ。
魔族の国から戻ってきてくれたのだ。
「エルドラドの封印方法が分かったぞ! わしの村の世界樹の木を探すんじゃ!」
エリクサーたちはあの山をどうにかする方法を聞いてきたという。
詳しい説明は省くとして、とにかく村にあった世界樹の木を見つけ出すことが鍵になるとのこと。
「村の世界樹を見つけ出す!?」
再会を喜びたいけれど、課題がまたしても増えてしまった。
世界樹の木は山のふもとに海のように広がっているのだ。
おそらくは数千本以上の世界樹の木である。
どれが本物なのかなんてさっぱりわからないわけで。
「簡単なのだ! 全部、切り倒して固い奴がそれなのだっ!」
「なるほど! 強い奴が生き残るアレですねっ!」
難しい顔をしている私たちをよそに、クレイモアとハンナは謎理論を展開。
弱肉強食のことを言っているのかもしれないけど、そんな問題じゃない。
そもそも、ここの世界樹を全部切り倒すとか時間的にムリ。
「エリクサー様、お願いできますか?」
「お安い御用なのじゃっ! 村の世界樹はわしと一心同体なのじゃよ」
エリクサーは地面に降り立つと、そこらへんの木に手をついて何やら念じ始める。
彼女の周りには緑色の魔力が集まり、ただならぬ雰囲気。
ぐごがぁあああああ!
集中する彼女を狙うようにして触手の化け物が現れる。
だけどハンナとクレイモアがそれをガード。
エリクサーを守る二人の騎士って感じで、いかにもかっこいい!
「よぉし、わかったのじゃっ!」
そして、1分も立たないうちに、エリクサーはお目当ての世界樹の木を見つけ出す。
ものすっごい早業だけど、今はもう種明かしを聞いてる場合じゃない。
さっさと、火山の化け物を止めないと。
「行くよっ!」
私は熱でぶぉんと飛び立ち、他のみんなはシュガーショックでその場所に向かう。
心の中でアレが無事であることを祈りながら。
そして、私は目にするのだ。
あれを!
世界樹の木の幹に!
「無事だよっ、私の古文書がっ!」
そう、世界樹の木の幹には未だに古文書が埋まっていたのだった。
なんだかよく分からないけど、世界樹の木が守ってくれたのだ。
よくやった! 感動した! あんたはエライ!
私は世界樹の木に抱き着いてしまう。
「ご主人様、はしゃぎすぎですよ……」
ララは私を白い目で見るが、だってしょうがないでしょ。
この古文書を回収するために、私はずーっと本気を出さずにいたのである。
「ハンナ、クレイモア、取り出してちょうだいっ!」
「「えーいやっ!」」
二人はほとんど同じタイミングで世界樹の木に斬りこみを入れる。
結果、古文書を挟んだ木材がすぱぁんっと切り出されるのだった。
私は「ひゃあっほぉおおお!」などと叫びながら、それを空間袋の中に入れる。
よぉっし、よぉっし、古文書ゲットだよ!
大興奮である。
小躍りしたい。
緊急事態だけど、ガッツポーズをする。
「わしはエルドラドを止めに行くのじゃ! ユオ殿、楽しかったぞ! ありがとう、さらばなのじゃ!」
「……は? え? エリクサー!? ちょっと待って!」
直後、私は信じられない光景を目にすることになる。
エリクサーが世界樹の木に手をつくと、しゅるりと飲み込まれてしまったのだ。
まるで世界樹の木に食べられたみたいに忽然と姿を消してしまった。
「えぇえ、ちょっと、何これ!? どうなってるの!?」
混乱のあまりパニックになりそうな私である。
うそ、まさか、エリクサーが自分の身を呈して火山を止めるっていうわけ!?
こんな簡単にお別れってこと!?
「……これがエリクサー様が第三魔王から教わった方法なのです。世界樹とあの化け物は地下でつながっていて、エリクサー様の特殊な魔力をもって敵を止められるのだと」
ララは私の目を見て、ゆっくりと話す。
その瞳は涙で潤んでいた。
エリクサーは覚悟の上でここに戻ったのだと知ったのだった。
確かにエリクサーは言っていた。
いつか自分の身を捧げる日も来るかもしれないと。
彼女の一族はみんな、そのために存在しているのだと。
エリクサーは去り際に「楽しかった」なんて笑っていた。
それは本心だったのかもしれない。
魔族の村を出て、いろんな冒険を一緒に繰り広げたのだ。
彼女は十分に自分の人生をまっとうできたなんて思っているのかもしれない。
……だけど。
だけど!
だけど!!
私は十分じゃない。
全然、足りないっ!
あの不憫な女の子の成長を眺めていたかった。
一緒にもっと笑いたかった。
私にはもっともっとできることがあるっていうのに!
ごごごごごっごごごごおおお……
愕然としている私たちを地響きが包む。
森が激しく揺れ、地面が震え始める。
私は受けるからいいけど、普通の人じゃ立っていられないだろう。
山の方角に巨大な熱を感じる。
それはまるで蛇のように蛇行しながら、上昇を続けていた。
重くて、どろどろした溶岩が吹き出しそうになっているのだ。
「何をやっても無駄だっ! エルドラドはもはや止められぬわっ! くははは、死ね! すべて滅んでしまえ!」
あの性格の悪い女の子の声が響いていくる。
あの子、本当に本当に性格が悪いよね。
こんなことを引き起こすなんて。
正直、私はイライラしていた。
エリクサーとこんな簡単にお別れをしたことを。
そして、あの桃色の女の子の身勝手さにも。
「ララ、みんなと避難してて!」
「ご主人様!? 相手は火山ですよっ!?」
体の中の熱を全出力して、激しく震え始めた山頂を目指して飛行する。
急げ、急げ、急げっ!
山頂には真っ赤な溶岩が噴き出し始めていた。
そして、数秒もいないうちに。
どぉっかぁああああああああああんん!!!
猛烈な溶岩が私めがけて吹き出す。
とんでもない風圧に吹き飛ばされそうになる。
膨大なエネルギーの発露。
赤々と燃える溶岩は巨大な蛇のように口を開き、私を飲み込もうとしている。
灼熱の塊に向かって、私は思いっきり腕を開いた。
【魔女様の手に入れたもの】
第二の古文書:謎の超古代文明の産物。まだ中を確認していないので詳細不明。
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「続きが気になる、読みたい!」
「溶岩直撃……!?」
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