300.聖王アスモデウス様の受難:災厄の化け物を復活させてみたら、もっと災厄なやつが現れた件。なんでこうなる
「せ、聖王様! 奴がいます! 灼熱の魔女ですっ!」
それは私が世界樹の村へと到着したタイミングだった。
エルドラドを復活させるために前もって派遣されていた部隊が血相を変えて報告に現れる。
いわく、世界樹の村にあの魔族の巫女とともに現れ、我々の操る魔獣を追い出したとのこと。
私はその報告に胸が少しだけ高鳴るのを感じる。
灼熱の魔女。
それは私と同じように、もはや伝説と化した悪逆の魔女。
大陸の大部分を焼き払い、人間・魔族問わず大破壊をもたらしたと伝えられている。
……もっとも、それは歴史の断片にしか過ぎないわけだが。
「ふふふ、エルドラドを復活させて真の恐怖を見せてやろう」
私は単体で灼熱の魔女を殺せる自信がある。
しかし、目には目を歯には歯を、の格言のように、災厄には災厄をぶつけなければ無礼というもの。
あの女には私のかわいい魔獣たちを次々と葬ってくれた礼をしなければならない。
私のパズズ、私の黄金蟲の仇をとってやらなければ。
もっとも、これらを灼熱の魔女が倒したかどうかは分からない。
パズズは原因不明の破壊光線で死に、黄金蟲たちも勝手に爆発したものがほとんど。
魔女が倒したのかの確証がない。
しかし、もはやそんなものはどうでもいいのだ。
私の愛する魔獣たちは灼熱の魔女の勢力との戦いの中で命を落としたのだ。
弔い合戦をする必要がある。
「聖王様、こちらに」
魔力を整えていると、部下の一人が私を世界樹へと案内する。
時は明け方。
太陽が世界樹へと反射し、美しい景色を描いていた。
世界を滅ぼすにはいい朝だ。
「ここは私に任せて、お前達は二手に分かれて侵略を開始せよ」
私は部下たちにこの場所から去るように伝える。
それは連中をエルドラドに巻き込まないためではない。
私の本当の姿を見せないためだ。
万が一、灼熱の魔女との戦いで本気を出すことになれば、私は今の姿を保ってはいられなくなるだろうから。
「ははっ! 必ずや、沈めてまいります!」
部下たちは恭しく跪いて、それぞれの持ち場へと向かう。
一団は灼熱の魔女の村、そして、もう一団は第三魔王国へと。
そう、ここから私の覇業はスタートするのだ。
「禁断の大地の災厄、エルドラドよ! 私の前にその姿を現せ!!」
復活のために構築された魔法陣に手を置き、私はありったけの魔力を込める。
私の持つ、最高の術式、それはあらゆる状態異常を元に戻し、死をも超える回復魔法。
ありとあらゆるものを私の思いのままに捻じ曲げる、神をも超える力。
私の放った魔力は世界樹の封印を解き、その奥底に眠るエルドラドに向かうのだった。
どどどっどどどどっどどどどどど……
そして、エルドラドは現れる。
災厄の六柱のうち、最大最強の化け物にして、私の忠実なしもべが。
さぁ、契約通り、世界を終わらせよう。
この大陸が終われば、次の大陸へと向かわなければならない。
しかし、私はここから予想外の出来事に直面することになる。
化け物が現れたのだ。
一人は剣聖のクレイモア。
私の操るエルドラドとまともにぶつかっても、折れない鋭い剣の達人。
ぶつかればぶつかるほど、その剣は激しさを増す。
それはまるでかつて私の隣に立っていた、剣聖と呼ばれる男とそっくりの太刀筋だった。
力だけなら聖王国でも太刀打ちできるものは少ないだろう。
彼女の剣は攻撃の間も成長し続け、まさに化け物と呼ぶのにふさわしい人材だ。
だが、足りない。
巨大なエルドラドの前ではハエのようなものだ。
所詮は人間、圧倒的な質量の前にはなすすべもない。
それを叩き潰したと思った時に出てきたのが、もう一人の化け物だった。
もともとは黒髪だったであろう髪の毛に赤い筋が浮かび上がっていた。
「ふははははは、これではまるで本物の灼熱の魔女ではないか!」
遠隔視で彼女を見た私は、腹を抱えるほど笑ってしまう。
古い言い伝えに言われる通りの赤い髪。
熱を操る災厄の魔女。
それは私の操るエルドラドの巨大な触手を一瞬のうちに、燃やしてしまう。
しかも、あろうことか、仲間たちをこの場所から逃してしまうのだ。
かくして、私と灼熱の魔女との戦いの火ぶたは切って落とされる。
私の持つ無尽蔵の魔力でエルドラドはいくらでも復活できる。
エルドラドは敵を前後左右どころかあらゆる方向から一気に攻めたてる。
「おのれ、おのれ、おのれぇえええええ!」
しかし、灼熱の魔女には効果がない。
奴はまるであの忌まわしいエルフの女王のように宙に浮かぶではないか。
さらには自分の身に迫ったエルドラドの触手をすべて燃やしてしまう。
真っ赤なドームを生み出し、その中にエルドラドの体を封じ込めてしまった。
尋常ではない熱だ。
無理やり動いても、触れたそばから燃え尽きていく。
この熱のドームは厄介だ。
私の回復魔法をかけたエルドラドでさえも無事で済むかは分からない。
それなら分厚い粘液を持つモンスターを生み出す。
いくら熱のドームと言えども、相性というものがある。
私は内心、ほくそ笑むのだった。
しかし、私は信じられないものを目にする。
奴の目から四方八方いや、数えられない方角へと熱の光線が飛んだのだ。
それは私の生み出した巨大魚をズタズタに切り裂く。
一部は賽の目状に切り裂かれ、魔獣たちは一瞬の後に回復不能な状態に陥る。
くぅううう、熱のドームを崩壊させるはずが、この化け物が。
そこで私は術式を練り直すことにした。
エルドラドの姿をより完全なものへと進化させるのだ。
エルドラドは単なるモンスターではない。
これ一つが一個の大陸と成長する化け物なのだ。
伝承が確かならば禁断の大地の底に眠る力を吸い込み、巨大な山へと変化するはず。
灼熱の魔女と対話する振りをして、私は慎重に魔力を込め始める。
愚か者め、貴様との話し合いなど茶番にしか過ぎないのだ。
ここで、灼熱の魔女は予想外の攻撃を仕掛けてくる。
それは熱だった。
耐えられないほどでもないレベルの熱だ。
それは一過的なものではなく、一瞬の暇もなく私とエルドラドに襲い掛かる。
もちろん、熱など私にとっては些細なことにしか過ぎない。
状態異常攻撃など、私の回復魔法の前に無力なのだ。
しかし、それは違った。
まるで私の魂を震わせるかのように、私の体を熱く滾らせるのだ。
「ぐぬぉおおおおお!? くぅうううううっ、どうした灼熱よ、そんなものか!?」
額から汗が滴り落ちるのを感じる。
それはおそらく数十年ぶりのことだ。
あのリース王国の愚かな女王を始末した時以来の汗だ。
髪が皮膚に張り付き、私の視界をふさぐ。
歯がゆい。
苦しい。
そして、何よりも不快だ。
私は耐える。
なぁにエルドラドが完全体になるのは、もうすぐなのだ。
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「聖王様、逃げてぇえええ!」
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