299.魔女様、聖王アスモデウス様を「おもてなし」することに決める
「ははははは、さっさと消え失せろ!」
ララたちがいなくなって数時間の間、私はうんざりしていた。
とにかく、このヘンテコな亀生物とそれを操っている人が元気なのである。
どれぐらい元気なのかというと、数秒の隙もなくあの植物みたいなので攻撃を仕掛けてくる有様。
お腹が減ってないのだろうか。
とても心配だ。
ぼす、ぼす、ぼす、ぼしゅううううう……
化け物は私にかみつこうとするも、熱鎧のお陰ですぐに燃えてなくなる。
正直、こんなことをしてて飽きないのかとさえ思う。
ちょっと眠いし。
「おのれ、おのれ、おのれぇえええええ!」
ヘンテコ生物を操っている女の人の姿はまだ見えない。
しかし、かなり怒っているのはよくわかる。
なぜかと言うと、彼女の操る化け物はほとんど移動出来ていないからだ。
本当はうちの村や魔族の国を襲いたかったのだろうけど。
私が足止めしているのである。
どうやってるかって?
化け物を取り囲むようにして巨大な熱のドームを作り、そこに閉じ込めたのだ。
熱のドームなので触れると熱い。
いや、熱いどころじゃない。
じゅわーっと蒸発してしまうだろう。
「こんなものぉおおおおお!」
ずしゅううううううううう……
化け物は外にでて行こうと熱のドームに体当たりをする。
しかし、なすすべもなく、触れた場所が蒸発していく。
女の人は絶叫して化け物を操り、何度もドームを攻撃する。
だけど、そろそろ、無駄なことに気づいて降参して欲しい。
「あのー、そろそろ止めにしませんかー? お腹もすいてきたでしょー?」
相手は化け物を操っているとはいえ、人間であることは分かっている。
私は無駄に戦いたいわけではないので、彼女を説得することにした。
確かに彼女のしていることは許されることではない。
エリクサーの村を崩壊させるなんて言語道断である。
だけど、私の古文書を返して、謝罪してくれるって言うのなら少しは許してあげようと思う。
「ふはははは、たいした自信だなっ! 見よ、愚か者めっ!」
しかし、彼女は強気だった。
その強気には根拠があるらしく、化け物の足元には何十匹もの髭の生えた魚が生まれていた。
ものすごくぬらぬらとした魚である。
巨大であるが顔は結構まぬけで、ちょっと愛嬌がある。
「さぁ、この忌々しいドームに穴を開けてしまえ!」
彼女の号令を聞いた、沢山の魚はものすごい勢いで熱のドームに突撃。
ひぃいいい、焼き魚の大量生産になっちゃうよぉ!?
と心配したのだが、そうでもない。
なんとまぁ、全身から白い煙を上げて、何匹かは私の熱のドームを突破していったのである。
ありゃりゃ、びっくり。
もうちょっと高熱にしとけばよかったかな。
「ふははは、驚いて声も出せまい! あの化け物には貴様の熱すら効かぬっ!」
そして、彼女は現れた。
化け物の巨大な頭の上に乗って。
その姿は全くもって人間の女の人だった。
リリと同じような桃色の髪の毛だけど、一部だけ青い色が入っている。
特殊な髪の毛をしてるなぁ。
どうやってるんだろう、染めてるのかな?
体型はまぁ、何ていうか、ぼんとしてて、キュッとしてる感じである。
そう、シルビアさんが偽装魔法で変身している時みたいな感じ。
息を吞むような美人ではあるけど、目つきは鋭くて、何ていうか神経質そうな感じ。
「別にあんな魚、どうとでもなるわよっ!」
とはいえ、彼女の挑発に乗るつもりはない。
おそらく彼女はこう言っているのだ、この熱のドームを解消して魚を追いかけろと。
しかし、そんなことをしたら、このでっかい亀がいなくなっちゃうじゃん。
その手には乗らないよ、悪いけど。
「えーいやっ!」
ピンク髪の女の人の前でちょっとだけはしたないけれど、私は技を使うことにした。
いつぞやの熱視線、それも四方八方に飛び出すバージョンである。
当初は指先から出す予定だったのだが、もう諦めた。
口から出すよりはまだましである。
ずばばばばばばばばばばばばば
ずどどどっどどどどどどどおお
ざしゅざしゅざしゅざしゅ
何とも奇妙な音を立てて、赤い光によって切り刻まれていく魚たち。
ふぅむ、やっぱり魚は熱に弱いんだなぁ。
熱視線の熱はかなりの高温だし。
ぐがぁあああああああ!?
とはいえ、それでも何匹かの魚はそのままどこかにいなくなってしまった。
「この、この化け物がぁああああっ!」
大量の焼き魚を見ながら、ピンク髪の女の人は大きな声をあげる。
ぐぅむ、化け物が役立たずだって言いたいのだろうか。
まぁ、化け物だし、人の言うことなんて話半分にしか聞かないのだろう。
「ふはは、甘いな、灼熱! 貴様は重大なミスを犯した。貴様が逃がした化け物はエルドラドの化身! 時と共に成長し、貴様の村も、魔族の国もすべてを飲み込むぞ!」
とはいえ、この女の人はやたらとポジティブなのだ。
あの魚が国を亡ぼすとか物騒なことを言う。
確かに大きな魚ではある。
だけど、二、三匹ならクレイモアとかハンナがどうにでもしてくれると思うんだけど。
「甘いわね。あんな化け物、私の仲間がやっつけちゃうわよっ!」
私は彼女にばぁんっと言ってあげるのだ。
うちの村の連中のほうがよっぽど化け物であることを。
「仲間だと? 身の毛もよだつ言葉を久しぶりに聞いた。人間も、魔族も、いざとなったら自分可愛さに他者を切り捨てる愚劣極まりない生き物! 貴様がそんなものを信じているとはな」
彼女は私を心底、忌々しいといった瞳で見つめてくる。
あれ?
そういえば、この人、私のことを灼熱って呼んでない?
うっそぉおお、こんな素っ頓狂な人にまで私の噂が広まってるわけ!?
「信じられるのは自分のみ! 貴様にそれを教えてやろう! 舞い踊れ、死の蝶よっ!」
次の瞬間、辺り一面に黄金色に輝く蝶が現れる。
それも一匹二匹ではない。
数百匹どころか、数千匹いるかもしれない。
蝶は好きだけど、なんだかやだなぁ。
それに、私はこの人と戦いたいわけでもないし、古文書を取り返したいだけだし。
「悪いけど、失神してもらうよっ!」
そこで私は熱失神を繰り出す。
人間が失神してしまうレベルの高温の波を生じさせるのだ。
人の命を奪わずに無力化するのにちょうどいい技である。
熱の波が直撃したのだろう。
空間を埋めていた蝶たちはひらひらと地面に落ちていく。
その姿はまるで花びらみたいで、とってもきれいだった。
しかし。
「ふんっ、その程度の熱、私にもエルドラドにも効かんぞ!」
彼女は違った。
化け物の頭の上に乗りながら、平然とそんなことを言ってのけるのだ。
すごいよ、この人、熱失神に耐えきるなんて。
もしかして、すっごい熱耐性があるとかなのだろうか。
どうにか彼女の頭を冷やす方法はないだろうか。
かっかした頭を冷ますには?
温泉……だよね。
温泉のお湯なら空間袋に入っている。
だけど、お湯をかけるだけじゃ癒されはしない。
やっぱり浸かってはじめて癒されるものだよね。
結論。
私は決めた。
彼女を熱の空間でおもてなしすることを!
そう、熱空間に入って、常温で冷ましてを繰り返せば、頭がスッキリするのではないか。
この場にカルラがいてくれれば、とびきりの温冷浴ができるんだろうけど。
「じゃあ、お姉さん、この熱には耐えられるかしら!」
私は思いっきり熱を送る。
とはいえ、人が死ぬような熱ではない。
なんというか、体中の汗が吹き出してきて、すっきりするような熱を。
「ぐぬぉおおおおお!? くぅうううううっ、どうした灼熱よ、そんなものか!?」
彼女は耐えていた。
しかし、涼しい顔をしているわけではない。
私の熱をじっくり味わっているような、楽しんでいるような、そんな瞳なのである。
この人、ひょっとして熱いのが好きなの!?
思わぬ愛好家の出現に私はちょっとワクワクするのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「聖王様はお熱いのがお好き……! まさかの旧タイトル回収……」
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