298.聖王国の悲劇:アスモデウス配下の将軍、村を自信満々で侵攻した結果
「そぉいうわけで、この村はあっしたちだけで守らなきゃいけないぜっ!」
「おぉっ!」
時間は少しさかのぼる。
世界樹の村からシュガーショックに乗って、魔地天国温泉帝国に戻ったドレスたちは皆に防衛体制を固めるように伝える。
彼女は焦っていた。
ハンナや燃え吉、カルラといった面々はいるものの、人を指揮するのには慣れてはいないのだ。
この村の実質的な政務を預かるララはいない。
そして、最高戦力であるユオもいない。
果たして自分が人々を束ねられるか、自信がなかったのだ。
「いやぁ、困ったわぁ」
「ほんと、ほんと、うちら文官は楽でええけどもぉ」
ドレスたちがバタバタと防衛の準備に入っているものの、メテオとクエイクは涼しい顔だ。
彼女たちは交渉には強いが、いざ戦いとなると役には立たない。
相手がモンスターならばなおさらである。
「クエイク、暇なら、シュガーショックに乗って戦うっちゅうのはどう?」
「あほか! ほんまに死ぬよりもひどい目に遭うんやで!?」
メテオの提案にクエイクは本気で拒否するのだった。
先日のドワーフ王国での戦いの記憶はいまだにトラウマものだったのだろう。
「ドレスさん、冒険者の皆さんを集めました!」
こんな時に頼もしいのが、新しい村を任されたアリシアである。
彼女は初めての大仕事ということで、やる気を見せていた。
彼女を通せば冒険者との連携もスムーズにいくようだ。
「できるだけまんべんなく警戒するように伝えてくれ。弱そうなところはあっしらが受け持つから!」
世界樹の村から逃げかえる際に、ドレスは敵の巨大な姿を見ている。
あれと同じものが来たら敵わないかもしれない。
彼女にできることは最大火力で迎え撃つこと、それしかなかった。
「ドレスの旦那、俺っちらもOKでやんす!」
「準備できましたわっ!」
ここで活躍するのが、ドレスが新規開発した精霊立像である。
それは燃え吉と虹ぃにょが連携して力を発動することで未曾有の力を発揮する魔導兵器だった。
もちろん、村の中央にあるユオの石像を流用したものである。
「モンスターが押し寄せてくるぞぉおおっ!」
そして、彼女たちの戦いの火蓋は切って落とされる。
まずはエルドラドに圧迫されたモンスターたちの討伐だ。
村の近くで戦闘するわけにもいかないので、ドレスたちは前もって敵を盆地に誘導することにしていた。
この時に役立ったのが、虹ぃにょ、旧名セブンシンズの魅了の力である。
モンスターたちはまるで操られているかのように吸い寄せられていく。
「くかかかかか! 俺っちの新規装備を見るでやんす!」
突撃してくる敵に燃え吉が炎の息を吐きかける。
今日はたっぷりと魔石をエサにもらい、魔力のストックも十分。
冷却装置も万全であり、いつぞやのように暴走する気配もない。
ぼごぉおおおおおおおお!
ユオの石像の口から吹き出される、その炎はかなりの高温である。
モンスターたちはなすすべもなく燃やされていく。
「ひぃいいい、さすがは災厄の魔女の子分だぜ……」
「ばか! 魔女様が相手だと、こんなもんじゃすまないぞ!?」
脇を固める冒険者たちは燃え吉らの活躍に舌を巻く。
ユオそっくりの石像が動くことは、彼女に思わぬ風評被害をもたらしたのだった。
◇
「しょ、将軍、モンスターどもは早々にやられましたっ!」
一方、村に攻め込んだのはモンスターだけではない。
エルドラドを操る聖王率いる聖王国の面々もその軍勢に加わっていたのだ。
彼らは決戦とばかりに千を超えるモンスターを誘導し、村を徹底的に破壊するつもりだったのだ。
将軍と呼ばれた男はまさかの事態に歯がみをする。
しかし、今回の作戦は聖王自らが出陣する、いわば聖戦である。
最大級の戦力で倒さなければならない。
失敗は許されない。
「ええい、問題はない。村の防備が薄い所から侵入してやればいい。内側に入りさえすれば、こっちのものだ!」
将軍は手勢の魔獣使いたちに命令を下す。
それは村のあらゆる角度からの侵入である。
先日の凱旋盗との一件で分かったのは、単に物量にものを言わせても勝てないということだ。
敵の弱点を見極め、ピンポイントで突いていく。
将軍は見た目には平凡な男だったが、なかなかに頭の切れる男だった。
しかし、それは相手がまともな戦力を持っている場合のみ通用する話である。
「しょ、将軍! 村の周囲に氷の壁が張ってあります!」
「非常に硬く、破壊する間に敵の冒険者や白い狼がやってきます!」
「ば、化け物です!」
村の警備の薄い場所をあぶりだすために派遣した面々が、泥だらけになって敗走してくる。
彼らいわく、村を囲むように氷の壁が張り巡らされており、突破にもたついている間に攻撃されるとのことだ。
ご察しの通り、この氷の壁とはカルラとシルビアの生み出したものである。
彼女たちは村の防御のために二人で協力したのだった。
「ええい、それならば、エルドラドの化身を出せっ!!」
将軍は聖王からは村を一気に破壊するようにと伝えられている。
こんなところで足踏みをしているわけにはいかないのだ。
彼はエルドラドの化身、巨大なモンスターを出すようにと叫ぶ。
それは魚型のモンスターで粘液に覆われていた。
「くははは! こいつの粘液はどんな攻撃も通らんぞ! エサにしてやるっ!」
その威容を前に将軍は高笑いをする。
かくして、そのモンスターは放たれるのだった。
だが、彼の笑いはすぐに掻き消えることになる。
「凍りましたぁああああああ!」
「しかも、凍ったのを一撃で粉砕されましたぁあああ!」
勝負はあっけないものだった。
エルドラドの化身である魚の化け物は冷気に弱かったのだ。
本気を出したカルラとシルビアの冷凍攻撃に加え、ハンナとシュガーショックによる一撃粉砕。
相性が悪いと言えば、それまでだが呆気なさすぎる結末である。
「な、な、な、何だとぉおおおおおお! くそぉおお、聖王様はまだか!? 我らが本隊は!?」
将軍は絶叫する。
その顔は青白くなり、脂汗が浮かんでいた。
彼は聖王アスモデウスが自らエルドラドの本体を操って出てくると考えていた。
しかし、どういうわけかこれ以上の援軍は送られてこない。
聖王に何かあったのかと嫌な予感が彼を支配する。
「よぉっしゃあああ、後は押し出すぞっ!」
敵の勢いが弱まったのを確認したドレスたちは掃討戦へと打って出る。
かくして、村の防衛戦はあっという間にカタがついたのだった。
「よぉし、それじゃユオ様のところに行くメンバーと、ララさんのところに行くメンバーで分かれるぜっ!」
ドレスは村の精鋭たちを二か所に分けて派遣することになる。
その選択は第三魔王国の未来、そして、世界樹の村の未来の両方に大きな影響を与えることになるのだった。
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