297.ララ、ほとんど拉致してきたあの人を使ってとどめを刺します!
「ぐむぅ……」
ララは腕組みをして難しい顔をする。
確かに、剣聖二人によって劣勢は覆せた。
しかし、それでもなお決定打には欠けていた。
そもそも、ここで魔物を退治することは目的ではない。
あくまでも魔族を説得するための手段にしか過ぎないのだ。
彼女としては戦闘をさっさと切り上げて、ユオのもとに救援に向かいたいのが本音だった。
「あ、せやった!」
「あの人のこと、忘れてたやん!」
そんな折、メテオとクエイクは何かを思い出したかのように顔を見合わせる。
彼女はシュガーショックの中に腕を入れると、女性をずるりと引き出した。
「ふふふ、もう、死んでもいいわぁ」
そこから現れたのはサジタリアスの魔法使い、シルビアだった。
彼女はシュガーショックの被毛に包まれてほとんど酩酊状態だった。
実をいうと、彼女、もふもふ好きなのである。
「……この方、どうしたんですか?」
「いやぁ、偶然、村に観光に来てたんやけどな、ハンナだけやと色々不安やったからついてきてもらってん。もちろん、善意で」
「お姉ちゃんがシュガーショックに乗ってみますぅうう? みたいな感じで騙したあげく、拉致ってきたんやん!」
ララの問いかけに姉妹は全くもって正反対のことを言う。
「いやいや善意やで? 偶然、シュガーショックが走りだしただけで、他意はあらへんねん」
「いや、よーいドン言うてみ? とか、けしかけてたやん!」
メテオはなおも食い下がるも、ララは分かっていた。
クエイクの方が正しいことを。
とはいえ、ララも利用できるものは利用するタイプである。
どちらかと言わずとも、その思考のベクトルはメテオに近い。
せっかく来てもらったのだ、シルビアにも役立ってもらわなければ。
「シルビア様、シルビア様……」
「もふもふ、……はっ!? ここは!? 何あれ!? これ夢!?」
夢から醒めたシルビアは素っとん狂な声をあげる。
それも無理はない話だ。
シュガーショックに乗りこんだら、突然ものすごいスピードで気を失い、気が付いたら魔族領にいたわけである。
しかも、目の前には巨大な魚の化け物がのたうち回っている。
常人ならば気がおかしくなってもしょうがない事態である。
「シルビア様、どうかお力をお貸しください! クレイモアさんとハンナさんだけでは、どうしようもないのです!」
「えぇ!? クレイモアが? あいつら何やってんのよ」
「最後の望みはシルビア様しかおりません!」
しかし、ララはシルビアの御し方を心得ていた。
シルビアのプライドの高さをしっかりと踏まえてやれば、さくっと味方になると見通していたのだ。
「あんたたち、魔物をいたぶってどうすんのよっ! ここがどこだか分んないけど、みんなの迷惑になるでしょうが!」
シルビアは常識人のようなことを言いながら、二人の戦いに参戦する。
もっとも彼女は自分がどこにいるのかわかってはいない。
わかってはいないが、クレイモアがへまをしたらそこをツッコむのが彼女の流儀なのだ。
「永遠の吹雪よ、敵を氷柱に変えよっ!」
彼女は強大な氷魔法の使い手である。
その両手から巨大な魔法陣を出現させると、吹雪魔法で目の前の魚を氷漬けにしてしまう。
相手は弱っているとはいえ、城ほどの大きさの巨大なモンスターである。
彼女も魔法の腕を上げたのだった。
「もらったのだ! でりゃあああ!」
「私も! とぉりゃっ!」
そのタイミングを狙ってか分からないが、クレイモアとハンナの二人は凍った魚をバラバラに砕いてしまうのだった。
冷凍されたままの魚はもはや復活することはない。
かくして、荒野には大量のモンスターの死体が転がるのみとなるのだった。
「た、倒したぞ、あれを……!?」
「た、助かった……」
「ひぃいいい、あの化け物どもにどんな要求をされるか分からんぞ!?」
クレイモアたちの活躍に顔を青くする高官たち。
もっとも、彼らは知らない。
その後の猫人とメイドによる、あくどい交渉によって、百年近い中立状態が崩されてしまうことを。
◇
「な、なんだ、あいつらはぁああああ!」
エルドラドの化身の一体である、大地竜鯰が討伐されたのを見て、ハマスは驚愕していた。
分厚い粘膜で守られたその魚は第三魔王国全体を崩壊させるためのものだった。
魔族どころか、人間のような軟弱な生き物が倒せる代物ではないはずなのだ。
それをいとも簡単に討伐してみせた。
邪悪な灼熱の魔女どころか、その手下が完膚なきまでに叩きのめしたのだ。
その衝撃は半端なものではなかった。
「あやつら、化け物かぁっ!?」
「おぉおおお! すごいぞっ!」
魔族の高官たちはもはやもろ手を挙げて、クレイモアたちの活躍を称賛する。
最初は皮肉を飛ばしていた彼らも、自分たちを守るために奮闘するのを見て悪くいうものはいなくなっていた。
「……勝負は決したな。あの者たちと交渉に入るぞ」
第三魔王国の代理代表であるデューンは、皆を前にそう宣言する。
魔族の高官たちは黙ってうなずくのみとなる。
もはや誰も反対するものはいなかった。
彼らは賭けに負けたのだ。
ララが言うように、人間が魔族を守るという荒唐無稽な話を達成してしまったからだ。
「おのれ……」
ハマスは奥歯をぎりぎりと噛みしめる。
彼女の中には怒りの気持ちが沸き上がっていた。
しかし、それ以上に彼女の心を支配していたのは混乱だった。
人間も魔族も平気で他者を裏切る。
信じられるものは、聖王アスモデウスの無条件の愛しかない。
聖王以外の価値はすべて破壊すべきものなのだ。
そう彼女は信じていた。
生き抜くためには信じなければならなかった。
しかし、あのメイドは言った。
「魔族だろうが、人間だろうが、関係はない」と。
その言葉はハマスの心の中に波紋を呼び起こしていく。
「そ、それなら、人と魔族が手を取り合うことも可能だと言うのか……」
自分の内側にあった、人間への憎しみ、魔族への憎しみが少しずつ解けていく。
彼女は複雑な気持ちで討伐されたエルドラドの化身を眺めるのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「シルビアさん、久しぶりの登場なのに……」
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