296.ララ、さらなる助っ人の登場で魔族の人達どころか、王都の住民を震え上がらせます
「ぐぬぅっ、にゅるにゅるしてるのだな……」
それは巨大な魚の群れだった。
地を這いながら、突進してくるそれは大地を泳ぐ魚型モンスターで、二本の髭を生やしていた。
その皮膚は粘膜に覆われ、クレイモアの鋭い剣を鈍いものに変えてしまう。
ぐぎぃいいいいいい!
魚たちは、カチカチと顎をならす。
その奥には尖った歯が見え、攻撃は即死につながることをララは予感する。
エリクサーは植物を使役して捕縛しようとするも粘膜で滑って難しい。
このままいけば劣勢に陥ることをララはすぐに理解する。
「それならっ!」
クレイモアは戦い方を一気に変える。
彼女は剣を地面に刺して、拳を使って攻撃をする。
「爆裂拳!」
そう、いつぞやの対抗戦でも見せた、あの技である。
圧倒的なスピードで放たれた拳は炎を巻き起こし、魔物は次々と焼き魚に変わっていく。
剣聖のクレイモアの面目躍如の活躍だった。
しかし、ここで異変が起こる。
動きを止めたと思われた魚たちはしばらくすると、ゆっくりと動きだし、さらには一か所に集まっていくではないか。
魔物の一つ一つは怪しく光り、一種のオーラを放っているかのように見える。
その光にエリクサーは見覚えがあった。
「こ、こやつらはエルドラドじゃぞっ!?」
そう、その魚はエルドラドの一部だったのだ。
もしも、それが本当なら次に起こることは……。
そこまで考えたララの背中に悪寒が走る。
エルドラドの一部であれば、そう簡単には死なないのである。
「が、合体しおったぞおぉおおおお!?」
一か所に集まった魚は巨大化し、もはや小型の城ほどの大きさへと成長する。
このまま突進されれば、魔族の城壁など木っ端微塵になるサイズである。
「な、なんだあれは!?」
「あんな魔物見たことがないぞっ!?」
「ボボギリより大きいぞっ!?」
魔族の高官たちは悲鳴にも似た絶叫をあげる。
彼らがかつて使役していたものよりも遥かに大きな魔物なのである。
このままでは王都が蹂躙されてしまう。
「来たのじゃあああああ!?」
魔物はのたうち回りながら、エリクサーの花に体当たりを仕掛ける。
ぬらぬらと濡れたその皮膚はもはや竜のウロコ以上の耐久性を持っていた。
「どぉりゃっ!」
クレイモアはそれでもモンスターに拳を叩きつけ、その勢いを押し戻す。
しかし、相手が大きすぎる。
分厚い粘膜によって、爆裂拳はほとんど無効化されてしまう。
「ララさん、こいつはあたしに任せるのだっ! 逃げるのだよっ!」
彼女は分が悪いことを瞬時に理解し、退くように伝えるのだった。
一難去ってまた一難。
あと少しなのにとララは歯噛みをする。
その時、それは現れた。
「はーっはっはっはっ! クレイモア、情けないですねっ! それでも剣聖ですか!」
「だからスピードやばいやろぉおおおおお!」
「死ぬわぁああああ!」
どんよりと曇った空のもと、そこに現れたのは真っ白い狼、それも小屋ほどに大きい狼だった。
そう、ユオの聖獣、シュガーショックである。
それに乗って現れたのは、ハンナとメテオとクエイクだった。
「ハンナさん!?」
思わぬ援軍にララは驚いてしまう。
自分たちの村にもエルドラドの手勢は迫っているはずだからだ。
最高戦力の一人であるハンナをこちらによこしていいはずもなく、予想外の人選だ。
「うぐぐ、ララさん、あっちはあらかた片付いたでぇ」
「片付いたって、もう終わりそうなんですか!?」
同じくシュガーショックに乗ってきたメテオの言葉に驚きを隠せない。
とはいえ、これは非常にありがたい援軍だ。
ハンナとクレイモアが組めば、まだまだ勝機はあるはず。
「よぉし、ハンナ、どっちが先にあれを倒せるか勝負なのだよっ!」
「ふふん、甘いですね。私はあれを倒す方法を編み出してたんですよっ!」
さきほどまで疲れた顔をしていたクレイモアであるが、ハンナが来たことで闘争心に火がついた。
二人は笑顔のまま巨大な魚へと向かっていく。
勝てる確信はないものの、あの二人ならばと思うララなのであった。
「しかし、お二人までいらっしゃるとは驚きましたよ」
ハンナが来てくれたことも意外ではあったが、それ以上に驚いたのは猫人姉妹までもついてきたことだ。
ここは第三魔王の司る、正真正銘の魔族領。
世界樹の村のような辺境の平和な場所ではない。
非戦闘員である二人がやってくることは考えられないことだった。
「ふくく、クレイモアとララさんが乗りこんだ言うことは、ビジネスチャンスやん! もう絶対に武力で脅して交流を図るつもりやん!」
そんな問いかけにメテオは興奮した面持ちで返事をする。
彼女の狙いは第三魔王領の魔族との交流とのこと。
さすがに利にさといメテオである。
ぎりぎりの戦場にやってくることにララは苦笑してしまうけれど。
「うちはお姉ちゃんが暴走せぇへんようについてきました……」
一方のクエイクはまともなことを言う。
なるほど、メテオだけでは素材戦の時のように大変な事態を引き起こす可能性もある。
「なに言うてんねん!? 魔族領の名物料理食べたいとか言うてたやんけ!?」
「はぁあああああ!? そんなん建前やん! 魔族領のスイーツが気になるとか言うわけあるか!」
「言うてるやん!」
もっとも、その後、メテオとクエイクはわぁわぁと言い争う。
二人のかしましい姿にララは苦笑をするも、少しだけ心が軽くなるのだった。
「クレイモア、見てなさいよっ! これが修行の成果ですよっ! 三千世界!」
ハンナは高くジャンプすると、魚の上にどちゃっと着地する。
粘液質で足元が安定しないにもかかわらず、見事なバランス能力を見せる。
そして、彼女が繰り出したのは魚のところどころを突き刺すという技だった。
それはただただ、ぷすぷすと刺しているようにしか見えない。
クレイモアは「それだけなのだ?」などと首をかしげる。
ぴぎぐぁえぇええええええ!?
しかし、巨大な魚の化け物はハンナの攻撃にのたうち回り始める。
そう、ハンナの攻撃はただの刺突攻撃ではない。
敵の急所をピンポイントで突くという技なのである。
「とにかくどこでもいいからぶっ叩く、叩いてたら勝手に死ぬ」という戦い方のクレイモアには真似のできない高度な技術。
まさに暁の剣聖として開花したハンナならではの戦い方だった。
「にゃ、にゃにおなのだ! じゃあ、あたしはこうなのだっ!」
クレイモアも魚の上に着地すると、やたらめったらと大きな剣を振り回す。
彼女の攻撃は基本的には大剣を勢いよく振り回すのみ。
しかし、ハンナが来たことで気合十分。
先ほどよりも剣に力が入り、分厚い粘膜の上から怪物の骨をめがけて剣を振り下ろす。
最初は粘膜によって守られていた魚の皮膚であっても、どがぁ、ばきぃ、などと骨を折るような嫌な音が響くのだった。
「あほですか! めちゃくちゃに叩いても死にませんよっ! こうです!」
「肉を切らずに骨を断つのだっ!」
ハンナとクレイモアと競うように、エルドラドの化身に攻撃をしかける。
それはまるで魚をいたぶっているかのようなありさまだった。
「信じられん。あ、あの化け物を手玉にとっておりますぞ!?」
これには魔族の高官たちもびっくりである。
城壁を破壊しかねない化け物がやってきたと思ったら、それをいたぶる人間が現れたのだ。
ぐぴがっ!? ぎぐがっ!? ぼぎわっ!?
化け物は攻撃のたびにぴょんぴょん飛び回り、ずしんずしんと軽い地響きを起こす。
その哀れな声は王都中にこだまし、魔族の住民たちは震えあがるのだった。
余談であるが、このモンスター討伐は「剣聖の怪魚いびり」として後世まで語り継がれることになる。
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「爆裂拳を作者が覚えていたとは……」
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