295.ララ、思わぬ助っ人とともに危機を打開します!
「にゃははは! 暴れさせてもらうのだよっ!」
モンスターのあげる土煙に歓声をあげるクレイモア。
「すっごいのが来ましたね……」
ララも口元に笑みを浮かべてはいるが、その瞳は笑ってはいない。
相手はおびただしい数の魔物たち。
それも、禁断の大地の強モンスターたちだ。
「ぬぉおお、広がり始めたのじゃぞっ!?」
モンスターの群れは軍隊とは異なり、一切の統率が取れてはいない。
結果、怒涛のように押し寄せながらも、あちこちへと散らばっていく。
あるものは魔物除けに押し返され、あるものは、それすらも破壊し、眼前の光景はさらに無秩序なものへと変化していくのだった。
「ご主人様がいれば目や口から出るアレで駆除できるのですが……」
魔物が散らばっていくのを見て、ララは歯噛みをする。
一体一体を追いかけてモンスターを倒すことは現実的ではない。
しかし、敵が多方向からやってくるとなると厄介だ。
ならばどうするか?
「よぉし、わしが開発したアレをやるぞいっ!」
ここで打開策を打ち出したのは、エリクサーだった。
彼女は樹木に手を置くと、目を閉じて魔法の詠唱を始める。
その髪の毛にはまるでユオが能力を発動するときと同じように、緑色の筋が現れ始める。
「やはり、エリクサーさんも……」
ララはその光景を見ながら、エリクサーの中にも得体のしれない何かが備わっていることを確信するのだった。
「おぉおっ!? なんか出たのだぞっ!?」
エリクサーの植物操作魔法の結果、現れたのは巨大な花だった。
それはまるで子供の落書きのような姿かたちをしており、花の中央には顔までついている。
「ふくく! 見るがいい! これこそヘイトフラワーじゃあ!」
エリクサーがそう叫ぶと同時に、ララは異変に気づくことになる。
先ほどまであちらこちらに散らばっていた魔物たちがこちらに向かって突進してくるのだ。
なるほど、モンスターの敵意を引きつける花ということか。
ララはエリクサーの落書きのような花の威力に感心するのだった。
「いよっしゃぁあああ! 任せとけなのだっ!」
クレイモアは巨大な剣を掴むと、最小の動きで最大の攻撃に特化した剣技で魔物を制圧していく。
ぐがぁああああああ!!
魔物たちはまるで狂ったかのように、こちらに突進してくるのだ。
直線的な動きをする敵ほど御しやすいものはない。
「にゃははは! エリクサーのふざけた花があれば、楽勝なのだよっ!」
彼女はざしゅん、ざしゅんっと首をはね、死体の山を築いていく。
その動きには一切の無駄がない。
「な、なんだ、あの女は!?」
「化け物か!?」
クレイモアの絶技ともいえる技に魔族の高官たちは舌を巻く。
あまりにも人間離れした剣の技、タフネス、そして、闘争心。
一振りで複数の魔物を屠ってしまう、圧倒的な破壊力。
「皆、心して聞いて欲しい。あれが剣聖のクレイモアだ」
「け、剣聖……」
「あれが……」
デューンのこの言葉に魔族の高官たちは硬直してしまう。
剣聖とは魔族の天敵であり、そして、最も警戒すべき人間。
百年の平和を謳歌してきた第三魔王国の面々は、その膂力に恐れすら感じてしまう。
目の前で繰り広げられる技が自分たちに向いたとき、かなり厳しい戦いになることは容易に予想できることだった。
しかし、ここで再び異変が起こる。
「……ぐぐぐぐ」
巨大な花を通じて、モンスターのヘイトを稼いでいたエリクサーの魔力が尽きそうになっていたのだ。
彼女の髪の毛から緑色の筋は消え始めており、明らかにその出力は落ち始めていた。
彼女の操る巨大な花は徐々にしおれていく。
エリクサーは植物操作を得意とするが、それは決して無尽蔵なものではない。
ユオのように「いくらでも」というわけではないのだ。
「くっ、氷の壁よっ!」
ララは一旦、氷の壁を出現させて防御態勢を整える。
エリクサーにこれ以上の負担はかけられない。
魔力切れを起こすと失神することも多く、そうなれば命の危険すらあり得る。
敵の数は減りつつあるので、このままクレイモアに任せれば何とかなるかもしれない。
「大丈夫じゃ、わしだって二人と一緒に守るんじゃ! デューンに啖呵を切ったからのぉおおおお!!」
しかし、エリクサーは退くことを良しとはしない。
あくまでもここに残ってクレイモアと共に戦うという。
無理やりにでも引きはがして、退避させるべきか?
モンスターが突撃して来れば氷の壁は数秒程度しかもたないだろう。
ララはギリギリの選択を強いられていた。
「巫女さまぁあああああああ!」
それはララがエリクサーに「退く」と伝えようとした瞬間のことだった。
ララたちの後ろから、声がしてくるではないか。
「村のみんな、ここは危ないのじゃぞ!?」
そう、そこに現れたのは、一緒に避難してきたエリクサーの村人たちだった。
彼らは魔族であり、王都の中で待機していたはずなのである。
「いいえ、巫女様をおいて黙っているわけにはいきません!」
なんと村人たちはエリクサーのことが心配で命の危険も顧みず、救援に駆け付けたとのこと。
腕に覚えのある数十人の村人たちである。
だが、それでもララの顔は険しいままだ。
そう、圧倒的に足りないのである。
ある程度の魔法や、ある程度の剣技ではもはや太刀打ちできない状況なのだ。
怒り狂う魔物を前にすれば、足手まといにすらなる可能性がある。
ララがそう口を開こうとした矢先、年輩の男が号令をかける。
「よぉし、巫女様に魔力結合じゃ! 辺境の魔族の心意気をみせてみよっ!」
「おぉっ!」
「任せとけっ!」
「俺たちゃあ、兄弟だ!」
村人たちは号令を受けるや否や、一人一人が手をつなぎ始める。
さらに何らかの魔法を詠唱し始めると、彼らはじわじわと光り始める。
「巫女様! お手をお貸しくだされいっ!」
「うむ、なのじゃっ!」
輝き始めた彼らはエリクサーに手をつなぐ。
すると、どうだろうか、エリクサーの体が猛烈な勢いで光り始めるではないか。
さらには彼女の髪の毛には緑色の筋がどんどん現れ始める。
まるで緑色の髪の毛をしているかのようにさえ見えるのだった。
これぞ魔力連結という、魔力の波をシンクロさせて補充するという技術だった。
人間側でこれができるのは、かなり高位の魔法使いであろう。
世界樹の村でともに生きてきた村人たちとエリクサーだからこそ可能になったのだ。
「こんだけ魔力があれば大丈夫じゃ! 見ておれ! こういうのも、できるのじゃぞっ!」
エリクサーが叫ぶと、先ほどの落書きのような花はさらに巨大化する。
そして、彼女の合図とともに、その根っこ部分を地中から引っ張りだすのだった。
それはまるで花の形をした樹木型モンスター、トレントのような様相を呈していた。
「な、なんだぁぁあああ!?」
「花の化け物がうまれただとぉおお!?」
現実とも思えない光景に魔族の高官たちは叫ぶ。
ふぐごぉあおおおおおおおお!
モンスターたちはエリクサーの生み出した巨大な花に突進を仕掛ける。
ヘイト作用は未だに健在であるが、今度のそれはただ敵をひきつけるだけではない。
その巨大な葉をツルのように伸ばして、敵をからめとる。
さらにはモンスターの魔力を吸い取って、自身の栄養へと変えてしまうのだ。
それはエリクサーが作り出した、植物型の要塞とも言えるものだった。
子供の書いた落書きが要塞と化す。
モンスター側からすれば、悪夢以外の何物でもなかっただろうけれど。
「すごいのだっ!」
「さいっこぉですよっ!」
「巫女様、ばんざい!」
クレイモア、ララ、そして村人たちは歓声を上げる。
エリクサーの覚醒によって、モンスターの襲撃を防ぐことができそうだからだ。
もっとも、この場にユオがいたのなら、ドン引きしていたことだろう。
なにせエリクサーの生み出した花の化け物は魔物の死体に根っこを伸ばして、『何か』を吸いだしているのだから。
「防ぎ切っただと……!?」
「あの死体の山を見よ……、あれがあいつらの実力だ」
約束の時間である1時間を経過し、魔族の高官たちは自分たちが賭けに負けたことを悟る。
それも相手に実力を見せつけられての負けであり、大負けであるとも言える。
しかし、ハマスはそれでも歯噛みすることはなかった。
彼女の口元は未だにほほ笑んだままだ。
なぜならば、本当の破壊はこれから始まるからである。
ざわつく魔族の高官たちを抜いて、伝令がデューンのもとへと駆け寄り、大声で報告した。
「報告します! 魚型のモンスターの群れが現れましたぁあああああ!!」
「面白かった!」
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