293.ララ、魔族の皆さんを挑発して「賭け」に出る
「まったく、がっかりですよ。あなたたちには。それでも魔族ですか! そんなことではすぐに崩壊してしまいますよ」
大勢の魔族が怒り狂う中、ララは口を開く。
その声色はいつもと同じように冷静で、そして挑発的だった。
彼女は声を強化し、その場にいる誰よりも通る声で話す。
「な、なんだ、この女……」
「おのれ、メイドの分際で生意気な……」
そのしっ責に圧倒された魔族たちは、すぐに彼女の方を振り向く。
ララはメイド服を着たままであるが、その眼光はこの場にいる誰よりも鋭い。
しかも、その隣に立つ剣士はひょうひょうとした表情ながら、ただならぬ圧力を発する。
魔族の高官たちは「ぐぬぅ」と唸り声をあげる。
「お初にお目にかかります。デューン様、ララと申します。私たちは禁断の大地の偉大なる首領、魔地天国温泉帝国のユオ・ヤパン皇帝の使いとして参りました」
ララの声は静かだった。
しかし、圧倒的な使命感が彼女の声にはあふれていた。
それが声の力を増幅させ、聞かざるを得ないような迫力を持っていた。
「こ、皇帝の使いだと?」
「禁断の大地の蛮族の分際で……」
ララの威圧的な態度に歯噛みする幾人かの高官たち。
一同の視線は彼女に集まる。
「ま、魔地天国温泉帝国と言えば……」
「あ、あの灼熱の魔女を名乗る勢力のものか!?」
魔族の高官たちはララの言葉に戦慄を覚える。
彼らのいる第三魔王の王都は禁断の大地の近くに位置している。
直接の交流はないが、禁断の大地の勢力については意識せずとも入ってくるのだ。
彼らは知っていた。
灼熱の魔女を名乗る邪悪な女が禁断の大地を侵略しているということを。
過去の魔王大戦の英雄の一人、ベラリスが完膚なきまでに叩きのめされた相手であることを。
その名前はユオ・ヤパン。
禁断の大地の皇帝を僭称し、世界征服の野心にあふれた稀代の悪女である。
どんな技を使うのかは分からないが、非常に危険な存在であることがささやかれていた。
「ララと言ったな。それで禁断の大地の皇帝が我々に何を伝えたいというのかな?」
デューンは少しだけ視線を鋭くして、ララに尋ねる。
いつも冷静な彼であっても、エリクサーの従者が人間だったことには心を動かされる。
「エルドラドはエリクサー様の村を潰し、この第三魔王国にも必ず向かってきます。それを防ぐためにも、私たちに手を貸して頂きたく存じます」
ララは静かな声で、しかし、確信に満ちた声でデューンに向き合う。
彼女は魔法を使うとはいえ、所詮は人間である。
その魔力の量は小さい。
デューンがその気になれば、すぐに消し炭に変わるだろう。
しかし、ララは瞳をそらすことはない。
彼女は自分の役割を熟知していたし、自分の命をもってしても、この交渉を達成しなければならないと確信していたからだ。
「ふふ、たいした覚悟だ。しかし、解せないのだよ、あなたたちはなぜそこまで必死になるのだ? エリクサーは魔族だ。停戦中とはいえ、人間族と魔族は水と油の存在。それは分かっているだろう?」
デューンは少しだけほほ笑みながら、ララに質問をする。
それもまっとうな質問を。
どうして、魔族のエリクサーのためにそこまでするのか。
いかに凶悪な魔物が生まれたとしても、余計なお世話なのではないか。
「ふふふ、面白いことをおっしゃいますのね。デューン様」
しかし、ララはそんな質問を笑い飛ばす。
「我々、魔地天国温泉帝国にとって魔族であるとか、人間であるとか、そんなものは一切どうでもよいこと。皇帝陛下が助けたいならば、誰であっても助ける。そして、その範囲にはあなたがた、この第三魔王国も含まれているのですよ」
ララは自信たっぷりに自国の方針について述べるのだった。
それは確かにユオのこれまでの行動を反映した言説ではある。
彼女は自分が守りたいと思ったなら、勢力の垣根を越えて力を貸してきた。
古くはサジタリアス辺境伯の領地。
ついで、ザスーラ共和国、ドワーフ王国、エリクサーの村といった具合だ。
ララの言葉はユオのこれまでを映してきたともいえる。
しかし、それは第三魔王国にとって、あまりにも不遜な物言いだった。
なにせ、誇り高き魔族に向かって、「お前の国も守ってやる」というのだから。
「何を言うか! 蛮族の分際で出しゃばりおって!」
「魔族を人間である、お前達が守るだと! 言語道断だ!」
「ええい、エリクサーともども牢に入れよっ!」
ララの言葉に魔族の高官たちは激高し、怒声をあげる。
あるものは怒りのあまり、魔法の詠唱を始めようとしていた。
それはもはやこの場で処断しかねないほどの空気を醸し出すのだった。
「デューン様、もうそれほど時間がありません。エルドラドが復活し、まもなく禁断の大地から魔物が溢れてくる頃合いのはずです。奴らは境界に引いた魔物除けの結界など容易く破壊して侵入してくるでしょうね」
ララには高官たちの罵声は一切耳に入ってはいない。
彼女が交渉しているのは、あくまでもデューンである。
彼であれば良い交渉相手になると、彼女は踏んでいたのだ。
そして、ララはしっかりと把握していた。
エルドラド復活後に何が起こるかを。
あの邪悪な女は言っていたのだ、禁断の大地の村と第三魔王の領地、どちらも侵入して見せると。
「な、なんだとぉっ!」
魔族の高官たちも、これには驚きを隠せない。
この第三魔王の王都も禁断の大地からの魔物にはいつも苦しめられているからである。
ララの予言じみた発言は彼らの恐怖心を煽るのに十分だった。
「そこで、私と賭けをしましょう。私たちがあなたがたの盾になれるかどうか、その覚悟をお試しください」
ララは少しだけ笑みを浮かべてデューンにそう伝える。
彼女は見逃さなかったのだ。
デューンのもとに何人かの使いが立て続けに現れたことを。
それは明らかに非常事態のサインだった。
「……何もかもお見通しというわけか。いいだろう。それでは、この王都を守ってみせるがよい。一時間、守り切ることができたなら、話を聞こうではないか。ただし、我々は手を貸さん」
デューンはララの言葉に口元をほころばせる。
無表情ぎみの彼にしては珍しい笑顔だった。
その顔を見た魔族の高官たちは顔を引きつらせる。
そう、デューンの笑顔を見たものは死ぬとまで言われるほど、不吉なことの前兆として知られていたからである。
「クレイモア様、エリクサー様、参りましょう」
ララは颯爽と大広間から出ていく。
魔族の高官たちはもはや何も言えず、彼女の背中を見送るのみだった。
そして、彼らはこのタイミングで知らされることになる。
禁断の大地からモンスターが溢れ出し、こちらに向かっていることを。
「よぉっしゃ、出番なのだなっ! 新技もあるし、楽しみなのだよっ!」
クレイモアは不敵な笑みを浮かべ、戦いに臨むことを心待ちにする。
「でぇええええ!? わしも防衛戦に参加するのじゃああ? ええい、デューンよ、見ておれ!」
一方、不測の事態に悲鳴をあげるエリクサーである。
とはいえ、彼女も覚悟十分にデューンに宣言するのだった。
かくして、ララ、クレイモア、エリクサーの大勝負が始まろうとしていた。
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