291.ララさん、第三魔王の勢力を冷静に分析する。「エルドラドが復活しただと? 嘘をつくな」みたいになってますけど大丈夫?
「なんだとっ! エルドラドが復活した!?」
「それは本当なのか!?」
ここは第三魔王国の王都。
禁断の大地の北端に位置するその都市では、現在、喧々諤々の議論が行われていた。
その話題の中心は、世界樹の村のエリクサーの一報だった。
彼女は叫んだのだ。
「世界樹が崩壊し、エルドラドが復活した」と。
その言葉に王都の高官たちは色めき立つ。
そもそも、世界樹の下にエルドラドを封印したのは、魔王大戦以前の古い時代のことだ。
どんな姿をしているのかさえ、分からないものも多い。
「いくら巨大な化け物でも、エルドラドと考えるのは早計なのでは?」
「さよう。あの大地には我々も近づけないような化け物がうようよおりますぞ。見間違いではないのか?」
エルドラドは大陸全体を危機に陥らせる、災厄の化け物ということで知られている。
だが、そんなものが果たしてそう簡単に復活するのかと疑わしく思うものもいた。
そもそも、第三魔王国は第三魔王という偉大な指導者の下、百年近く平和を甘受してきた。
高官と言えども、平時を通常のものとして考えていたのだ。
一言で言えば、平和ボケしてしまっていたということになる。
「ええい、本当なのじゃ! 直ちに対策を講じないと大変なことになるぞ」
あんな化け物は見たことがないとエリクサーは力説する。
彼女は村を一つ潰されているのだ。
必死になる理由があった。
「世界樹の村のものの証言もお聞きください!」
「はっきり言って、世界樹の木よりも大きいのだ!」
ララとクレイモアの二人はエリクサーに加勢をする。
彼女たちは、ドレスがいざという時のために用意していた『魔族の角カチューシャ』をつけて魔族に変装しているのだった。
クレイモアは旅の剣士、ララはその付き人のメイドという設定である。
そのカチューシャはドレスの渾身の作であり、一見すると本物の角のように見える。
また、二人があまりにも堂々としているので、「人間ではないか」などと疑うものは誰一人としていなかった。
「な、何だ、この二人は……」
「う、美しい……」
魔族の中にはララとクレイモアの美貌に溜息をもらすものも多い。
しかし、今は緊急事態なのだ。
そんな声はもはや聞こえてはいなかった。
「エリクサー様とそのお連れ様、大広間へとお越しいただきたい!」
しばらくすると、城の中央にある大広間へと通されることになった。
いわゆる謁見の間と呼ばれるような天井の高い空間である。
しかし、そこにいるのは城を治めるはずの第三魔王ではなかった。
「よく来たな、エリクサー、久しぶりだ」
中央の玉座の隣に立つのはデューンと名乗る男で、高齢の第三魔王に代わって政務を取り仕切る人物だった。
エルフのような長い耳をした彼は青年の姿をしている。
切れ長に美しい瞳、銀色の髪の毛、少しだけ浅黒い肌。
まさに魔族の特徴を色濃く反映した、美しい外見をしていた。
「デューン様、お久しぶりにございます……」
エリクサーたちは跪いて、臣下の礼をする。
彼女はあくまでも辺境の村の巫女にしか過ぎない。
第三魔王から直接、大役を仰せつかってはいるが、位は遥かに下なのである。
「かしこらまずともよい。私とお前の中ではないか」
デューンはそう言うと、少しだけ柔和な笑みを浮かべる。
彼の外見は美青年と言ってもよいだろう。
並の魔族の女性であれば、その微笑みに心を奪われてしまう。
「おぉっ、そう言ってくださると嬉しいのじゃ! いやぁ、デューンの兄者も偉くなったものじゃなぁ!」
しかし、エリクサーはまだまだ全然子供であり、微笑みなどなんのそのである。
さらに言えば、彼らはもともと知り合い同士なのだった。
デューンはエリクサーの村の出身であり、ほとんど兄みたいなものだった。
「エリクサー殿! 代行の前で無礼ですぞっ!」
「ひぃっ!? こりゃあ、悪かったのぉ。昔の癖がつい出てしまったのじゃ」
とはいえ、デューンの隣に立つ、太った宰相はそれが気に食わないらしい。
彼は陰険な顔をして、エリクサーをにらみつけるのだった。
「それで……本当なのか? エルドラドが復活したというのは?」
「もちろんなのじゃ。世界樹の巫女として誓うのじゃ、あれはエルドラドだと! だから、あれを封印した時の資料が必要なのじゃ!」
エリクサーは拳に力を入れて、思いっきり力説する。
デューンさえ信じてくれれば、事態はうまく運ぶと信じていたのだ。
しかし、事態はそう甘くはなかった。
「わしは信じられませんぞ。そもそも、エリクサーは世界樹の巫女のはず。エルドラドが復活しようものなら、その身を捧げてでも封印に臨むべきではないのか? 職務放棄も甚だしい」
デューンの言葉を待たずして口を開いたのは、先ほどの宰相だった。
彼の言葉は決して間違ってはいない。
エリクサーに課せられた使命はその力をもって世界樹を通じて、エルドラドをなだめることだったからだ。
実際に彼女は自分の身を犠牲にしてでも、エルドラドを止めようとしていた。
それをユオやクレイモアが善意から助けてしまったのだ。
「まったくです! 世界樹をしのぐ化け物など信じられません!」
「そもそも、そんなものが出たのなら、どうして無事にここまで来れたのだ?」
宰相の取り巻きたちは口々にエリクサーの報告に反論する。
彼らの数は多く、まるでエリクサーの報告などなかったことにしたいかのようだ。
「どうやってと言われてもなのじゃ……」
エリクサーは口ごもってしまう。
エルドラドを足止めしてくれている人物がいると報告したら、どうなるだろうか?
それはそれで大変なことになるに違いない。
もしも、あの灼熱の魔女がそこにいると知ったら、魔族の多くは恐れをなすだろう。
あるいは、共倒れを願って、敢えて助けをよこさない可能性もある。
そもそも、灼熱の魔女などというのものはエルドラド以上に伝説の存在なのである。
一方の、デューンは騒ぎ立てる高官たちを遮るでもなく、ただただ黙って耳を傾けていた。
「エリクサーを助けたのは、あたしたちなのだよ! 危なかったから、ちゃちゃっと回収したのだ!」
硬直状態の空気を壊したのは、クレイモアだった。
彼女は余計なことを言わないようにララから釘を刺されてはいた。
しかし、何が余計で、何がそうでないかの区別はほとんどついていない。
ララはこういうべきだったのだ、「一言もしゃべらないでください」と。
しかし、それは後の祭りである。
「ぬはは! 聞いたか! そこらの旅の剣士ふぜいが災厄の化け物の相手になるものか!」
「大方、トレントと勘違いをしたのでしょう」
宰相の取り巻き達は、むしろクレイモアの言葉を好都合とばかりに嘲り笑う。
彼らは知らないのだ。
目の前にいる女剣士が魔族の天敵と呼ばれた剣聖であることなど。
その気になれば、この場にいる一同をすぐに斬ってしまうことなど。
それでもララは冷静だった。
デューンや宰相とその取り巻きを観察していれば、大体の力関係は把握できる。
議論は確かに悪い方向に流れているが、まだ挽回できると彼女は踏んでいたのだ。
しかし、ここで予想外の出来事が起こるのだった。
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灼熱の魔女様をお読みの方にはぜひぜひ、お勧めできる内容です。
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