290.魔女様、敵が温泉をも人質に取っていると気づき、対策を講じることにします!
「ふぅむ、いい香り。だけど、どうしよっか……?」
温泉の香りに包まれながら、私はしばしリラックスタイムを味わう。
しかし、気づいてはいた。
このままじゃよくないと。
この熱ドームの中は何とか無事だけど、このまま籠っておくのはまずい。
あの性格の悪い女の人が言っていることが本当ならば、うちの村も危ないし、他の魔族領も危ないのだ。
そもそも、である。
あのヘンテコ生物をどうやって退治すればいいのかさっぱりわからないのだ。
いや、まぁ、私が全出力で無茶苦茶に攻撃していいって言うのなら、倒せなくもないのかもしれない。
しかし、そうなると古文書が無事ではすまないんだろうなぁ。
できたら、何事もなく回収したいなぁ。
自分のワガママさに辟易とする私である。
「なるほど、ご主人様は私達を守りながら戦わなければならないため、本気を出せないということですね?」
「なるほど、さすがはユオ殿じゃ!」
「ユオ様、さすがあっしの見込んだ女だぜっ!」
「そうよ、そんな感じ……!?」
ララたちが思いっきり勘違いして前向きに捉えてくれたので、私はそれに乗っかることにした。
ありがとう、ララ!
ありがとう、みんな!
古文書があるから全力を出せないなんてバレなくて良かった。
「ふははは! そんなものに隠れても無駄だ、このエルドラドは禁断の大地の地獄の水を吸って、いくらでも毒を吐けるのだ!」
性格の悪い女の人は私たちが避難しているのを見て、高笑いを続ける。
しかも、その言葉に私は背筋が凍る思いがする。
そう、あの人は言ったのである。
禁断の大地の水を吸っている、と。
ってことは、あいつをやっつけないとうちの温泉がやばいってことじゃない?
「ふぅむ、あのように巨大化したのは温泉の影響かもしれませんね」
ララが腕組みをして、とんでもない推論をしてくれる。
「そんなの冗談じゃないよ! もうあいつを蒸発させてくる! それしかない!」
私は苦渋の選択をすることにした。
あいつを倒して古文書を失うのか、それとも、あいつを野放しにして温泉を失うのか。
そりゃあ、古文書は大事だ。
きっと素晴らしいことが書かれているに違いない。
しかし、だからと言って温泉に危害を加えられるわけにはいかないのだ。
「ご主人様、お待ちください!」
今からでも飛び立とうとした私をララはがちっとホールドする。
そして、彼女は冷静な声で言うのだった。
「アレを攻撃すると、私たちの温泉まで干上がるかもしれませんよ。だって、つながっているのですから!」
ララの言葉に絶句する私である。
確かに、干上がるは極論にしても、私の熱が影響しないとは言い切れない。
ぐぬぬ、なんてやつ。
古文書だけではなく、温泉まで人質にするとは絶対に許されない。
あいつを止める方法があるのだろうか。
「そういえば、奴を封じ込めた記録が第三魔王様のところに残っていると聞いたことがあるぞ! どうにかなるかもしれん」
私たちが難しい顔をしていると、エリクサーが耳寄りな情報を思い出す。
あの化け物を封印するという一筋の光が見えてきた感じだ。
よぉし、そうなったらその記録とやらに頼るしかない。
私は運がいい。
きっと、今回だって大丈夫なはずだ!
「ララ、クレイモア、エリクサーと一緒にその魔王様のところに行ってくれない? そして、あれを封印する方法を調べてきて!」
ここで白羽の矢を立てたのはララとクレイモアの二人だ。
エリクサーは身分的には上だろうけど、やはり子供は子供である。
いきなり喚きたてたら嘘つき扱いされかねない。
ララならうまくとりなしてくれると思うし、クレイモアなら護衛役を完璧にこなしてくれるだろう。
「了解いたしました。私の命と引き換えにしてでも、封印法を調べてまいります!」
「分かったのだよっ! 魔王領なんて楽しみなのだっ!」
二人は快い返事をしてくれる。
彼女たちはエリクサーの操る植物に乗って、魔王様のところに向かうとのこと。
「よぉし、村の皆も一緒に行くのじゃ!」
エリクサーが言うには、植物を操れば、村人達も運べるらしい。
これは結構助かったよね、人を守りながら戦うのは難しいし。
「ドレスたちはうちの村に戻って、万が一のために防御を固めといて!」
「りょーかいだぜっ!」
そして、次の指示はドレスたち、ドワーフの皆さんの処遇。
敵は親切にも私の村まで攻めてくるなんてことを教えてくれたのだ。
彼らにはシュガーショックに乗って、村まで戻ってもらうことにする。
ドレスたちなら、首尾よく防御を固められるだろう。
「それじゃ、いっくよぉ! えいやっ!」
方針が固まったところで、私は上空の黄色いガスをかき消すための熱波を放つ。
一瞬とはいえ、超高熱の波である。
いくら毒があるとはいえ、分解されないってわけでもないだろう。
真っ赤な熱の波が広がっていくと、有毒ガスは瞬時に掻き消えていく。
想像通り!
「それじゃ、行ってくるのじゃぁあああ!」
「村の防備は任せといてくれよっ!」
エリクサーたちと、ドレスたちはこのタイミングを利用して駆けだしていく。
頑張ってね!
おろろぉおおおおおん!!
皆が逃げ出したところで、例の亀は再び動き出す。
いつの間に変異したのか、その甲羅からはドラゴンの頭のようなものが生えていた。
さぁて、どうやってこいつを足止めしようかな。
私は難しい顔をして、巨大な化け物に相対するのだった。
※8月25日木曜日の正午より、海野アロイの新作が始まります! 灼熱の魔女様同様、女の子主人公のわちゃわちゃファンタジー系です! よろしくお願いいたします。
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