288.魔女様、古文書を引っこ抜こうとするも邪魔が入ります。いや、邪魔っていう次元じゃない
「こんなの簡単なのだ、引っ張っちゃえばいいのだよっ!」
「やめてぇえええ!」
パジャマから着替えて、皆に古文書のことを伝える私なのである。
そう今回の標的はこの世界樹の幹の隙間に挟まった古文書なのだ。
これをどうにかこうにか回収したいと、私たちは知恵を出し合っていた。
とはいえ、クレイモアのアイデアだと、びりぃっとちぎれてしまうのは必然。
せっかく見つけた古代文明の遺産なのだ。
慎重に扱わなければならない。
「ふぅむ、ご主人様のお持ちの古文書とは異なるもののようですね……」
ララは古文書の端っこ部分をチェックしながら、素晴らしい結論を出す。
ひへへへ、すごいよ。
これがあれば、うちの村はもっともっと発展するんじゃないかしら。
「さくっと斬っちゃえばいいのだ! 皆、そこをどくのだよ」
クレイモアはそう言うと、剣を構える。
確かに、それが一番、ダメージが少ない気がする。
世界樹は大きいのだし、クレイモアに斬られても大したダメージはないだろう。
よぉし、やっちゃえ、クレイモア!
ゴゴゴゴゴゴゴ!
そんな風に意気込んだ瞬間だった。
突如として、猛烈な地震が発生する。
それもただの地震ではないのだ。
世界樹が猛烈な勢いで揺れ始めていた。
まるで、古文書を取り出そうとしたことに怒りの声をあげるかのように。
「ひぃいい、ごめんなさい! ユオ様のちょっとした出来心なんですぅう!」
ドレスが懇願するようにそう言うが、あんただって興奮してたでしょうに。
「ユオ様! 避難してください! 何か異変が起こっております!」
そうこうするうちに村の魔族の人が私たちのところに駆けよってくる。
どうやら、この地震は普通のことじゃないみたい。
そりゃそうだよね、だって世界樹がぐわんぐわん揺れているんだもの。
「ええぇえ、もっと見ていたいのだ! 何か起こりそうなのだよっ!」
クレイモアはここに残ると言うが、そんなわけにはいかない。
あたりには世界樹の枝が落ち始めていたし、太い枝の崩落でも起きたら危険極まりない。
そもそも、あんたはここにお菓子作りの材料を調達するために来たんでしょうが!
彼女の手を引っ張って、私たちは駆けだすのだった。
◇
「な、なんなの、あれ!?」
村はずれの小高い丘に避難した私たちが見たものは目を疑う光景だった。
リース王国の王都にある城のように巨大な世界樹、それを背中に生やした亀の甲羅が現れたのだ。
頭は確認できないけど、その甲羅はバカみたいに大きい。
うちの村より大きいかもしれない。
「亀だよね、あれ? あんなのいる?」
世界樹はそれはそれは大きい大木である。
それを甲羅に生やしているだなんて、にわかには信じられない。
「おぉおお、この間のドラゴンよりも大きいのだっ! わくわくなのだね!」
クレイモアはやたらと盛り上がるが、ララもドレスも顔を青くする。
そう、普通の精神を持った人間には恐怖以外の何物でもない。
何なのよ、あれ。
生きてるの?
まさか動き回るんじゃないでしょうね。
おろろぉおおおおおん……
しかも、である。
その亀の甲羅からはやたらと大きな雄叫びが聞こえてくるのだ。
亀が鳴くなんて初耳である。
「お、おしまいだ、エルドラドが復活してしまった」
「どうして復活するんだ!? ずっと封印してきたはずなのに!?」
私たちと一緒に逃げてきた村人たちは顔を青くして震えている。
エルドラドって、エリクサーが言っていた、あのやばいモンスターのことだっけ。
「大変だっ! 巫女様がエルドラドの背中の世界樹に閉じ込められているぞっ!?」
「地震を鎮めるって仰っていたが、そのまま取り込まれたらしいぞ!」
私たちのところに避難してきた村人が大声で叫ぶ。
それも、悪いニュースだ。
彼らが言うには、エリクサーはぎりぎりまで世界樹を鎮めようと、例の窪みに入っていたらしく、そのまま閉じ込められたとのこと。
エリクサーの責任感が裏目に出てしまったらしい。
村人たちは多少の魔法は使えるものの、あんなに「おろろーん」などと絶叫する亀に近づけるはずもない。なんなのよ、その叫び声は。
「クレイモア、シュガーショック、行くわよっ!」
そうなれば、私たちが行くしかない。
エリクサーは私たちの村を出るとは言ったけれど、大切な仲間なのに変わりはない。
助けないなんて選択肢は万に一つもあり得ないわけで。
「にゃはは! あの亀の首を落っことしてやるのだよっ!」
クレイモアは物騒なことを言うも、あいつは別にまだ悪さをしているわけじゃない。
確かに村はひどい目に遭ってるけど、もしかしたら自然の動物なのかもしれないし。
「え? 首?」
「ほら、にょきっと出てきてるのだ」
しかし、甲羅から首が出てるなんて初耳である。
クレイモアの指さす方向を見ると、確かに甲羅からにょいっと出てきている。
できれば穏やかな顔をしていて、人畜無害でのんびり屋さんの亀だと嬉しいんだけど。
「ご主人様! エルドラドは不死身と言われています! お気を付けて」
ララのアドバイスを背中に受けて、私たちはいざ出発する。
目指すはあのでっかい亀の背中!
絶対にエリクサーを見つけ出すんだから!
◇
「なのじゃあぁああああ!?」
大変なのかと思ったが、エリクサーは案外簡単に見つかった。
世界樹の幹の中に鉄格子みたいになったところができており、そこで大声で泣き叫んでいた。
「クレイモア、お願い!」
「任されたのだっ!」
シュガーショックに乗ったまま、クレイモアは格子状になったところを斬り落とす。
「ぬぎゃあああ!? 生温かいのじゃぁあああ!?」
コロンと飛び出してきたエリクサーをシュガーショックが優しくキャッチ。口で。
エリクサーはどろどろになったけど……、まぁ、命よりも大事なものはないよね。
よぉし、これで一旦は何とかなかったかなと思いきや、そんなことはない。
私の目の前にぬぅっと現れたのだ、亀の頭が。
しかも、よぉく見たら、それは亀ではない。
花のつぼみ、なのである。
甲羅は確かに亀の形をしているのだが、そこから生えているのは花なのだった。
花のつぼみには大小さまざまな斑点が浮き出ていた。
一見するとかわいいとさえ感じるも、あまりにも禍々しいデザイン。
「やれっ! エルドラド!」
誰かの声が響いたかと思うと、そのつぼみはゆっくりと花弁を開く。
「ひぃいいい!? 何が起こるってわけ?」
「中身が気になるのだ!」
「もはや冥土の土産なのじゃぁあああ!?」
さっさといなくなれば良かったのだが、ついつい見入ってしまう私たち。
クレイモアは楽しんでるようにさえ思えるけど。
ぎぎぎぎ……
妙な音を立てて、花弁の中から現れたのは、大きな口だった。
粘液をねとねと出しており、明らかに良からぬ雰囲気。
あ、これ、食虫植物ってやつじゃん。
王都にいた時に見たことがあるよ。
もっとも、こんなバカみたいに大きくはなかったけど。
「よぉし、かかってこいなのだ! あたしにお前の全力を見せるのだよっ!」
クレイモアはシュガーショックに仁王立ちして、そんなことを叫ぶ。
えええ、ちょっと待て!
私とエリクサーを下ろしてからにしてよ!
そんな私の叫びもむなしく、クレイモアは巨大な口と交戦状態に入る。
彼女は巨大な剣を振りかざし化け物に突進!
「よぉし、ここはクレイモアに任せて、一旦、退避するよっ!」
とはいえ、好機到来である。
私はエリクサーを逃すべく、ララたちのいる方向にシュガーショックをジャンプさせる。
古文書を回収するはずが、なんでこんなことになったんだろうか。
「巫女様! よくぞ、ご無事で!」
「ひぃいい、なんだこのねとねとは!?」
エリクサーを解放すると、村の人達が駆け寄ってくる。
彼らはエリクサーの惨状に驚くが、犯人は化け物じゃなくてシュガーショックだ。
「す、すごいですね……」
「伝説の化け物なんだろ、あれ?」
とはいえ、皆の視線は別のところに集中していた。
そう、大きな剣で格闘するクレイモアのところだ。
彼女は迫りくる巨大な口を剣で受け止め、さらには押し返す。
「そろそろ、もらうのだ! 激震激打!」
クレイモアの大剣がギラリと光る。
そして、次の瞬間!
化け物の首はごろんと地面に落下するのだった。
森の中に落下したそれは、あたりの木々をなぎ倒し、煙を吐きながら停止した。
「やったぁああ!」
「すごいぜ! クレイモア! 並の化け物じゃねぇな!」
丘の上から大歓声の我々である。
すごいよ、クレイモア。
まさかシュガーショックの援護がなくても倒しちゃうなんて!
いやぁ、災厄の化け物とか言ってたけど大したことなくてよかったよ。
さぁ、古文書を回収しなくっちゃ!
そんな風に意志を新たにしたタイミングで、私たちは信じられないものを目にすることになる。
先ほどの気持ちの悪い水玉模様のつぼみが、にょきにょきと地面から生えてきているのである。
しかも、複数。少なくとも10本以上。
ぎぎぎぎぎぎ……
そして、それはゆっくりと開花していくのだった。
私たちは呆気にとられながら、それが開くのを見ていた。
ちょっとぉおお、私の古文書はぁあああああ!?
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「なのじゃあああって叫び声なのか?」
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