287.聖王様、ついに侵攻作戦を開始する! この期に及んで聖王アスモデウス様の正体が明らかになる
「時は満ちた! これより、禁断の大地、解放作戦を決行する!」
「ははぁっ!」
ここは禁断の大地の西に位置する聖王国。
モンスターとの共生を謳い、実際にそれを使役する能力を有する聖王国には絶対的な王者が君臨していた。
その名は聖王アスモデウス。
美しく長い薄桃色の髪をもった、光り輝くような美貌。
多少、露出の多い神聖衣からは、若々しくはじけるような肉体が踊っている。
この聖王国において、彼女の年齢を知るものは誰もいない。
彼女はすでに百年以上を生きる存在であるが、いくつもの名を持っていた。
「よいか、まずは世界樹のもとに封印されているエルドラドの救出! そして、その力をもって、他の災厄を解き放つぞ!」
彼女の側近の一人は将軍たちに魔道具で作戦の流れを説明する。
それはひどく単純なもので、軍勢を全体で三つに分けるというものだった。
一つ目は世界樹のエルドラドを解き放つグループ。
もう一つは禁断の大地に先回りし、村を制圧するグループ。
そして、もう一つは魔王国からの干渉がこないようにするグループ。
これら三つのグループそれぞれに最適な人材と魔物を配置することによって、彼らは迅速に目的を達成できると考えていた。
その目的とはすなわち、災厄の六柱の獲得。
そして、それによる大陸の制覇だった。
「大魔王や第三魔王のおいぼれはともかく、第一魔王の介入もあるかもしれん。買収した魔族を使って、足止めをするようにせよ!」
「ははっ! 作戦はつつがなく進行させます!」
聖王国の強みは、人間族と魔族の両方に太いパイプがあることだった。
先の大戦以降、人間の諸国は魔族と交流しないように条約によって縛られていた。
しかし、この聖王国という新しい国においてはそれが適用されないのだ。
聖王国は魔族と交易をすることで、魔物の使役や魔法の技術を飛躍的に高めていた。
そして、数十年の交流によって、聖王国とのつながりを持つ魔族も増加。
聖王に感化された彼らは各魔王国ではなく、聖王に忠誠を誓うようになっていた。
「陛下、世界樹のエルドラドが復活したのちは、ラインハルトはリースを引き付けるとの約束も取り付けました!」
「ふはははは! それは頼もしい!」
そして、聖王国に協力する勢力は人間側にもいる。
リース王国から独立した、ラインハルト家が興した国家である。
正式には、『超スーパーウルトラ神神神ラインハルトと最強勇猛諸侯連合国』という長い名前があるのだが、誰もそれを正確には覚えてはいないようだ。
現在では単に「ラインハルト」と呼ばれるような、一地域の在野勢力とみなされていた。
とはいえ、彼らが参加することによって、リースの女王の介入を防ぐことができる。
「もっとも、今のラインハルト程度ではどこまで時間稼ぎができるか分からないけどね」
聖王はクスクスと面白そうに笑う。
彼女にとって、ラインハルトが協力するかどうか、あるいは、リース王国が攻めてくるかどうかはもはや問題ではなかった。
単に世界樹の下に潜む巨大な暴力を引きずり出せばいいのだから。
「文献によると、エルドラドは世界樹の数倍ほどもある巨体と言われております! それを操ることができれば、大陸など一月もあれば蹂躙できるかと!」
部下の一人はこれから実行される作戦に心を躍らせる。
ついに自分たち、聖王国が覇権を掴むのだという強い野望に心をたぎらせていたのだ。
そして、彼は新参国ゆえに他国から侮られてきた怒りを払拭できるとほくそ笑んでいた。
もっとも、作戦の成功は「操ることができれば」にかかっている。
彼らの目的はエルドラドを解放するだけではない。
それを安定的に操らなければならないのだ。
聖王国はそのためにありとあらゆる使役魔法を訓練してきたのだった。
「さぁ、行くぞ! お前達の力を存分に発揮するのだっ!」
聖王はいきり立つ兵士たちに最後の演説を行う。
その模様は魔道具を通じて、聖王国の王都中に配信され、市民たちは歓喜の声をあげる。
そして、大規模な派兵が開始されるのだった。
◇
「なに!? まだ、村が残っているだと? 愚か者めっ!」
「も、申し訳ございません……」
聖王は声を荒げる。
前もって世界樹の村を滅ぼすようにと伝えていたのだが、トラブルによって制圧が完了していなかったからだ。
とはいえ、聖王が来た以上、村を滅ぼすことは余興のようなものだ。
魔族の村に強力な戦士がいても、エルドラドの前には等しく無力だからだ。
彼女の目の前にある世界樹の力を弱めてしまえば、全ては終わるのだから。
「世界樹の呪いにとりつかれた、哀れなエルドラドよ目覚めるがよい……」
聖王は今は失われた浮遊魔法を通じて空中に浮かび上がると、幹に手を置いて念じ始める。
彼女の術式は特殊だった。
その手から広がっていくのは、淡い暖色の光。
すなわち、聖魔法なのである。
そう、彼女は正真正銘の聖女だった。
いや、それどころではない、彼女は歴史に大聖女として名前を残した人物だったのである。
「あらゆる呪いよ、我の前に朽ちていけ、そして、我のために命の全てを差し出すがいい」
聖王の両手がさらに明るく光り始める。
彼女は解呪の呪文を通じて、世界樹の下に封印されているエルドラドの体を解放していくのだ。
百年以上を生きても、未だに溢れてくる聖なるエネルギー。
大聖女でもなければ、そんなことは決してできないのだった。
ぴしっ、ぎしっ……
数時間の術式を経て、世界樹の幹には亀裂が走り始める。
世界樹が枯れ、封印術式の限界が近いというサインだった。
「ふはははは! 禁断の大地の者どもよ! そして、大陸の愚民どもよ、今こそ、我の恨みを思い知るがいい!」
亀裂が走っていくのを眺めながら、聖王アスモデウスは高笑いをする。
世界樹への解呪は想像以上に上手くいき、拍子抜けをしたほどである。
彼女は確信していた。
今こそ、新しい時代の幕開けであるということを。
そして、知らなかった。
その下で例の娘たちが「古文書の大発見だよぉおおおっ!」などと騒いでいることを。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「大聖女……ってどこかでこっそり出てきたよな……」
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※大聖女は9月1日に発売される、第二巻の範囲で言及されております! え、宣伝かって? ち、違いますけどぉおお? (違いません)






