286.魔女様、心痛に沈むも、運命の出会いはそんな時にやってくるものです
「ユオ殿たちにはそろそろ本当のことを話しておかねばならんな」
地響きが止まったのを確認すると、エリクサーはくぼみから立ち上がる。
髪の毛は再び元の通りに戻っていた。
彼女はきりっとした表情になる。
もとが整っているわけで、真剣な顔をするとびっくりするほどの美少女である。
いつもの温和な顔とは大違い。
私の喉がごくりとなる。
これから彼女はとっても大切なことを話し始めるのだろう。
「それでじゃな、なぜわしがこんなことをしておるのかということじゃ! よいか、大昔、とんでもない大きさのエルドラドという化け物がぐわぁーっと来てからな、わしのご先祖様がどがしゃーっとこう抑え込んで、ごがぁとパウンドをお見舞いしたんじゃ、そんでもってびびびびと……」
熱弁をふるうエリクサーだが、あまりにも身振り手振りと効果音が多い。
「うぉわ、ご先祖やばいのだっ!」
「なるほど、そこでたまらずローキックを出したんですか!?」
ララとクレイモアはふんふんと鼻息荒く聞いている。
一方の、私とドレスにはさっぱりである。
パウンドって何? パウンドケーキ?
「ふぅむ、よく分かりました。それでは僭越ながら私が要約いたしますね」
ララがコホンと咳払いをしてエリクサーの話をまとめると、次の通りだった。
・世界樹の下にはエルドラドという化け物が封印されている。
・その化け物は世界を滅ぼしかねない存在
・浄化力のある世界樹の力でその化け物を封印し続けるのが自分達の責務
・そのために巫女であるエリクサーは一生を捧げる
とまぁ、こんな感じである。
「ほぇ〜、さすがはララさんなのだ! 正直、良くわかんなかったけど、今、分かったのだ!」
クレイモアはララの話に目をキラキラさせる。
この子、さっきまでものすごく熱中して話を聞いてたと思うんだけど、あれは一体……。
いや、クレイモアにツッコミは無効だったわ。
だって、クレイモアだもの!
「へ? 一生を捧げる!? それって本当なのかい?」
一方、ドレスは驚いた様子で口を開く。
そうだよ、クレイモアの反応なんかどうでもいいんだった。
大事なのはエリクサーの話だよ。
一生を捧げるなんて本気で言ってるんだろうか。
「……そうじゃ。この間まではイシュタル様のおかげで、ユオ殿の村に滞在できたのじゃが、最近は活発化しとるらしいからの。世界樹の面倒を見るのがわしらの使命なのじゃ」
エリクサーは顔を曇らせることもなく、笑顔でそんなことを言う。
そんなことは何でもない、というかのように。殊勝なことを言ってのける。
この子、私よりも全然年下なのに、なんて責任感!
感心する一方で私は強烈な違和感を感じるのだった。
だって、それってモンスターのためにエリクサーたちが縛られ続けるってことでしょ?
「よし、いっそのことそいつを解放して、ぶん殴っちゃえばいいのだよっ! あたしがげんこつをくれてやれば、大体、黙るのだ!」
クレイモアは笑顔でそんなことを言う。
何事も暴力で解決するのは反対だけど、気持ちは分かる。
せっかく生まれてきたのに、その土地に縛られ続けるって何だか気に食わない。
それじゃまるで、昔の私みたいじゃん。
「ななな、何を言うか! エルドラドはめちゃくちゃな化け物なのじゃぞっ! 禁断の大地の森自体が奴の体から派生してるとさえ言われておるのじゃ! すごいのじゃぞ、人間もっ魔族もぐぱぁっとやっちゃうのじゃ!」
エリクサーは青い顔をして、その化け物がいかに強いのかを説明する。
その凄さはいまいちちょっとよくわかんないけど。
彼女の表情からするに、話し合いで言うことを聞かせるっていうのは無謀すぎるらしい。
ぐぅむ、難しい問題だなぁ。
しかし、私はどうも納得がいかない。
「ご主人様……、他人様の統治のあり方に文句はつけられませんよ」
ララは私を諭すように、そう言って首をゆっくり横に振る。
魔族の村には魔族の村の掟があり、しきたりがある。
ずっと守り続けたいものだってあるだろうし、それ自体は理解するつもりだ。
だけど……と心の奥にわだかまるものもあるわけで。
「ユオ殿、そう言ってくれて嬉しいぞ。おぬしらと一緒にいろんな場所に行けたこと、温泉に入れてくれたこと、全部、わしのいい思い出じゃ。礼を言うぞ」
エリクサーは強がっているのだろう。
その言葉は自信満々なものだったけど、それに続く彼女の声は震えていた。
「今日でお別れじゃ、ありがとう」
そう、まさかのまさか。
この瞬間をもって、彼女は私たちの村のメンバーではなくなる、というのだ。
無理に引き留めることができないのも分かっている。
だけど、彼女と一緒に過ごした楽しい日々を思い返すと、涙腺がじわじわと熱くなってくるわけで。
「な、なにをっ、そんな、ユオ殿が泣いてしもうたら、わしが我慢してる意味がないじゃろうがぁぁああ」
私の表情に気づいたエリクサーは、それこそ堰を切ったかのように泣き出すのだった。
魔族だとか、人間だとか、そういうのを越えて友達になれたと思っていたのに。
運命はなんて残酷なことをしてくれるんだろう。
泣いているエリクサーの髪の毛を撫でながら、どうしようもない現実に私は溜息を吐くのだった。
◇
どんどんどんどんっ!
「おい、ユオ様! す、す、すっげぇえもんが見つかっちまったぞ!」
名残惜しいというのもあって、エリクサーと一緒の部屋で寝ていた私である。
それなのにドレスのやかましいノックで目覚めさせられる。
窓の外を見ると、まだ朝日が出たぐらいの時間。早いよぉ。
「ふぁああ、どうしたのよ?」
お行儀の悪いことだけど、私の口からは大きなあくびが飛び出してしまう。
昨日はエリクサーと夜遅くまで話し込んでいたのだ。
まだちょっと眠いぐらいである。
「いいから! 来てくれよっ!」
ドレスは私の手を引っ張る。
私はパジャマ姿のまま慌てて、駆け出すのだった。
ひぃいい、せめて着替えぐらいはさせてぇえええ!
ドレスは悲鳴をあげる私のことなど構わずに、どんどん走っていく。
そして、辿り着いたのは……世界樹の根っこのところだった。
コブだらけの幹から、太い根っこが飛び出している。
「で、どうしたのよ。私まだ眠かったんだけどぉ」
とはいえ、私はやっぱり不機嫌だった。
そりゃそうだ、心地よい眠りを阻害されたのだから。
「ユオ様、いいか? これを見てくれ。これを!」
ドレスは私の目を見てから、世界樹の幹をゆっくりと指さす。
それは何の変哲もない木の表面だよね。
……いや、そこにはどういうわけか隙間ができていて、しかも、しかも、しかも。
「こ、こ、これって、別の古文書ぉおおおお!?」
そう、忘れもしない、あの古文書、それも表紙の違うバージョンが挟まっているのだ。
うっそぉおおおお!?
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
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