284.魔女様、エリクサーの村に出発します! 一方、その頃、聖王アスモデウス様は野望に身をたぎらせていた
「わ、私が村長ですか!?」
六柱会の人達がいなくなったことで、ダンジョン村の治安は一気に回復した。
冒険者の人たちは温泉で回復することができるし、リリが治療院を設立したことで手当ても可能。
ダンジョン探索に対する命の危険はだいぶ低くなったようだ。
そうなると、後は誰を村長に据えるかということである。
村長っていうのは人の信頼を勝ち取れる人物じゃないといけないし、そもそも誠実じゃなければならない。
いざという時に逃げちゃうような人ではダメなのである。
「やっぱり、あの人に掛け合ってみるしかないよね」
「私もそう思います」
「うちも大賛成やで」
行政を預かる私とララとメテオで考えた結果、白羽の矢が立ったのは冒険者ギルドのアリシアさんだった。
そう、私たちは彼女をヘッドハンティングしたのだ。
アリシアさんは冒頭のように驚いていたのだが、冒険者の多いダンジョン村を取り仕切るには彼女しかいないこと、補助に好きなだけスタッフを募っていいこと等を伝えると引き受けてくれる。
「えぇっ! こんなにお給料もらえるんですか!? うわっ…私の今までの年収、低すぎ…?!? ……やります!」
村長としての権限とお給料を示すと、口に手を当てて驚いていた。
さすがに忙しい仕事なので、嫌々やってもらうわけにはいかない。
これでなんとか一安心である。
というわけで、次のお仕事である。
私の前にはとある女性が仁王立ちをして待ち構えていた。
「ユオ様、やっと出発できるのだ! エリクサーの村に行って、世界樹の実を持ってくるのだぞ!」
そう、我らが村の食材ハンター、クレイモアである。
彼女とはエリクサーの村で例の甘い木の実をとってくるという約束をしていたのだ。
メテオが倒れたり、ダンジョン村の治安を回復させたりで忙しかったので、だいぶ待ちぼうけをさせちゃってたね、ごめんね。
確かに、お仕事はあらかた片付いたし、そろそろ出発してもいいタイミングだよね。
「それでしたら、いっそのことそちらの村まで街道を作りましょう」
私がその旨を伝えると、ララがこれまた凄い計画を提案してくる。
街道、すなわち魔族の村とつながる道を作ろうということだ。
なるほど、確かにエリクサーの村までは森の中を突っ切っていくしかない。
これからあちらの村との交流を活性化させるなら、街道が必要ってわけね。
サジタリアスとだって街道がない期間はとっても不便だった。
街道が整備されて冒険者や商人、あるいは旅行者が殺到したことを考えると、やっぱり道って言うのはすごく大事なものだと実感したものだ。
「わしは賛成じゃぞ! 行き来が盛んになれば、魔族と人間族の仲も深まるじゃろう!」
肝心のエリクサーはどんな反応をするか不安だったけれど、もろ手を挙げて賛成してくれる。
彼女の村は田舎すぎるので交流があるのはありがたいとのこと。
確かに、もんのすごい山の中にあったものね。
「よぉし、後は黒髪魔女様が森をあれでどっかぁーんってやっちゃえばいいのだ! にゃはは!」
クレイモアは私にあれで街道を作るようにと言う。
そう、サジタリアスとの街道は私の出した熱円のせいでできあがってしまたのだ。
ついうっかりデスマウンテンの山々にとんでもなく長距離のトンネルを掘ってしまったのは、私にとって黒歴史である。
「ひぃいい、わしの村が滅んでしまうぅうう!? 世界樹も枯れてしまうのじゃああ!」
何が起こるかを察したエリクサーは青い顔をする。
そう、あの時の熱円は解除するのがもう少し遅かったら、サジタリアスの街を破壊していた可能性もあるのだ。
いくらなんでも、さすがに同じことはできないよ。
そんなに器用にコントロールできないしさぁ。
「ふぅむ、それならばわしに任せておくがよい! わしはこう見えても世界樹の巫女じゃからのぉ!」
エリクサーは何か妙案があるらしい。
彼女は見かけは子供だが、出まかせを言ったりなんかはしない。
ここは一つ彼女を信じてエリクサーの村までの街道を作っちゃおう。
◇
「ふくく! 世界樹の実を使った菓子を大量に作ってやるのだぞっ!」
準備を終えた私たちはさっそく、村の近くにある森へと移動する。
前回、彼女の村に行った時と同じスタート地点であり、ここを街道の出発点とするらしい。
禁断の大地の森は青々と茂り、「おろろーん」と不穏な声が漏れ出ていた。
今回、彼女の村に行くメンバーは食材開発のためのクレイモア、道案内をしてくれるエリクサー、街道を整備するドレスおよびドワーフの面々、そして、私にシュガーショック。
「ご主人様と一緒に旅をするなんてワクワクしますね!」
そして、もう一人、今回は珍しいメンバーがいるのだ。
何を隠そう、ララである。
これまで彼女はずーっと裏方としてお留守番をしてきてくれた。
サジタリアスに行くときも、聖域草の商売をするときも、そして、ドワーフ王国に行くときも。
いつだって私の身を案じて待っていてくれたララだけど、たまには一緒に旅行がしてみたい。
それに今回は世界樹の実を取るための数日間の安心安全な旅行である。
村の治安はだいぶ良くなったし、メテオたちもしっかりやっているし、大丈夫だろう。
それにたまには骨休めしてほしいからね。
「ご主人様、一生、ついていきますからっ!」
「うぷはっ」
ララは喜びのあまり私をぎゅーっとハグしてくれるのだが、お胸の圧がものすごい。
あやうく呼吸できなくなるので勘弁してほしい。
「そろそろ、じゃれあってないで出発するのじゃ! ふふふ、ユオ殿の村にはお世話になったのぉ。よぉし、とくと見よ!」
エリクサーはそう言うと、森の前で腕をばばっと広げる。
この間の凱旋盗の時にも活躍した、あの植物操作のポーズである。
「我がしもべの木々たちよ、世界樹の村への道を開くのじゃ!」
彼女がそう唱えると、森の木々はしゅばばばばっと動きだし、森の中に切れ目を作り出す。
ふへぇ、相変わらずすごいねぇ。
エリクサーって本当はすごい子だったんだなぁ。
「ふはは! これぞ、世界樹の巫女の力じゃ! すごいじゃろう!」
私たちが歓声をあげると、エリクサーは胸をどどんと張って喜んでくれる。
もっとも張っても揺れるものなど何もないけど、子供だし。
「おぉっしゃ、それじゃあ、この街道を地図にしていくぞっ!」
簡易的な道ができるとお次はドレス率いるドワーフ軍団の出番である。
彼女たちは特殊な計器をもって、地図作りを始めていく。
本当に何でもできる連中だね、この人達は。
モンスターが出てもクレイモアがやっつけられるし、エリクサーのおかげで平坦な道ができちゃうし、最高の旅だね。
と、まぁ、そんな感じで私たちはピクニック気分で世界樹の村に向かうのだった。
この時の私はまだ知らなかった。
その村で私が運命の出会いをするだなんて。
◇ エリクサー、世界樹の村を目指しながら、ため息をもらす
「道を示すのじゃあ!」
わしが森に手を広げると、木々は今日も言うことを聞いてくれる。
世界樹と波動を共有する禁断の大地の森はわしの手足と言ってもいいのかもしれない。
もっとも、モンスターは怖いし、手も足も出ないのじゃが。
「エリクサー、ありがとう! 私の村にいてくれて、これほど心強いことはないよ!」
わしの術を目にしたユオ殿は本当に嬉しそうにに笑ってくれる。
その瞳には嘘がなく、温かい。
彼女と一緒にいるだけで心がポカポカしてくる。
彼女やその仲間たちは魔族とか、人間とか、そういったものを超えたところにいる存在だ。
わしの生まれて初めての友人だと言っていい。
いつまでもあの温泉の村にいられたなら、それほど楽しいことはなかっただろう。
第二魔王様の命令とはいえ、数カ月だけでも滞在できたのは本当に幸運だった。
だからこそ、わしの内側からは自然とため息が溢れてくる。
ユオ殿たちと一緒に過ごせば過ごすほど、わしの肩に乗る責任の重さを痛感するからだ。
そう、わしは所詮は籠の中の鳥なのだ。
世界樹を鎮めるための巫女なのだから。
もしも、神様というものがいるのならば、わしをもっと普通の何かに生まれさせてくれればよかったのに。
そんな風に願ったりもする。
でも、それだときっとユオ殿と出会うことはなかっただろう。
わしはユオ殿とその仲間たちと一緒に過ごせた素晴らしい時間を噛みしめながら、森に道を切り開いていく。
世界樹の加護がこの世界のすべての善良な存在に与えられますように。
◇ 聖王アスモデウス様、堪忍袋の緒が切れたそうです
「また失敗したですって!?」
ここは聖王国の都。
聖王アスモデウスの居城である。
彼女は今日も金切り声をあげていた。
「ははっ、ハマスによると禁断の大地にこれ以上潜入するのは難しいとのことですっ!」
幹部の一人は平謝りに謝り、もはやその頭は床にめり込みそうである。
「もうよい! 貴様らに任せたのが間違いだ。災厄の六柱、世界樹のエルドラド、魔石喰いのラヴァラガンガ、七彩晶のセブンシンズは、私が復活させる」
聖王は怒りをあらわにしながら立ち上がる。
そう、いつまでたっても禁断の大地の攻略が進まないために我慢の限界を迎えたのだ。
「エルドラドは我が特務班が夜も寝ずに魔力を注入しております! どうか、彼らにチャンスを!」
珍しく腹心の一人が聖王の行動をいさめようとする。
しかし、聖王は知っていた。
部下たちはあくまで点数稼ぎのためにしか任務をこなしていないことを。
心のどこかで災厄の化け物を解き放つことを恐れていることを。
「ならぬ! 私の言葉は神の言葉と思え!」
聖王が一喝すると、その場にいる幹部たちはすべてひれ伏すのだった。
ここに聖王自らの「災厄の六柱復活作戦」が開始されるのだった。
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