282.魔女様、ダンジョン村にも温泉リゾートをオープンさせると案の定、やつらがやってくるよ
「さぁさぁ、寄ってらっしゃい! ダンジョン村にも温泉ができたでぇ!」
「本日はオープン記念日で無料で入れるでぇ!」
ダンジョン村に温泉を造ろうと計画した次の日のことだ。
なんと温泉はもう出来上がってしまったのだった。
それもこれも計画を相談したとたんにドレスがやる気になり、「そぉいう無茶ぶりを待ってたんだよ!」などと叫んで、ドワーフ仲間を引き連れて作ってしまったのだ。
新しくできた温泉の外観は小ぶりの温泉リゾートという感じであり、あの古文書に出てくくる建物そっくりである。
温泉の源泉はダンジョン近くから湧きだしていた、あの温泉水。
聖域草の群生地から、お湯をどうにかこうにか持ってきたらしい。
もちろん、ちょっとぬるかったので、温める細工をしている。
「ま、魔女様の温泉だぜ、これ!」
「ついにこっちにもできたの!」
「ダンジョンで汚れたりするから助かるぅ!」
冒険者の皆さんは新しくできた温泉に喜びの声をあげてくれる。
大型の温泉リゾートの存在は誰もが知っていることだし、温泉自体についての知識もあるのだ。
おそらく、入ったことがある冒険者だっているはず。
彼らは「地獄の匂いだなぁ」なんて言うこともなく、意気揚々と温泉へと入っていくのだった。
食堂に休憩所もあるから、お楽しみに!
「ぐむむ……」
しかし、である。
腑に落ちないのだ。
できあがった真新しい温泉をみて私は軽く唸っていた。
確かに一晩で造り上げたとは思えないほど見事な温泉である。
温泉以外の施設も充実していて、その点については何も文句は言えない。
「それにしても、魔女様、こういうデザイン好きだよなぁ」
「あぁ、一発で魔女様の温泉だって分かるからいいけどな」
冒険者たちが笑いながら温泉に入っていくのだが、その入り口が再び化け物のお口なのである。
どう見ても、例の大きなトレントの顔なのである。
えぇええ、お化け屋敷のデザイン再びじゃん!
私、こういうデザイン、好きでもなんでもないんだけど!
「いやぁ、先日、辺境伯からこいつの顔だけ買い取ったんだよ! こういうこともあるかと思ってさぁ!」
ドレスは明るく笑うも、その笑顔に軽く殺意を覚える。
そう、こちらの温泉に使われているモンスターの顔は、先日のサジタリアスで倒された怪物の顔なのである。
なんていう悪趣味なんだろうか。
「ナイスなサプライズやで! ドレス! うちが頑張って値切った甲斐があったわぁ!」
「まったくだぜ! ユオ様、こういうの好きだから!」
メテオが現れ、ドレスの仕事をたたえる。
この二人、先日のあれから全然学習していないらしい。
私がいつ、こういうのが好きって言ったのか。
……よし、爆破しよう。
なんならメテオがいるときにやっちゃってもいいんじゃないかな。
あの子、ちょっとやそっとの爆発でもぴんぴんしてる気がするし。
「ご主人様、目つきが悪いですよ?」
危ない妄想に浸っていると、ララが私を正気に戻してくれる。
おっと、危ない、危ない。
そうだよね、いくら何でも仲間を爆破するのはいけないことだ。
「冒険者の皆様も温泉好きになれば、あちらの胡散臭い石に頼らずとも済むでしょうし、素晴らしいアイデアですよ。さすがは、ご主人様です」
ララは私の計画を褒めてくれる。
いつものことではあるのだが、内心、私はドキドキしてしまう。
普段の彼女はメイド服なのだが、今日は先日同様、男装しているのである。
この人、顔は抜群にいいので、それだけ見たらかなりの美男子である。
ララだってわかっているのに、この破壊力である。
そして、男装していると言えば、クレイモアだ。
彼女は守衛として温泉リゾートの前に無言で立っているのだが、その姿が勇ましい。
そもそもが整った顔をしている彼女であり、身長も男性と同じぐらいに高い。
「うわっ、誰、あの美形? やばくない?」
「ちょっとぉお、話しかけてみなよ!」
結果、彼女の隣を通る冒険者のお姉様がたは頬を赤らめるのである。
クレイモアに「黙って見張りをして」と言ったのは功を奏したようだ。
私だって油断していると、今のクレイモアには見惚れちゃうものね。破壊力すごいよ。
しかし、二人ともあのお胸をどうしまい込んでるのだろうか。謎。
「おい、お前ら、六柱会に断りもなく何をやってる?」
冒険者さんたちの波が少し落ち着いて来た頃合いである。
ガラの悪そうな男の人二人と、例の女ボスが現れるではないか。
この女ボスの人、どこかで見たことあるんだけどなぁ、うーむ、誰だっけ。
「あらぁ、昨日の六柱会の会長さんやないのぉ!」
「昨日はどうもお世話になりましたわぁ!」
客寄せ係のメテオとクエイクは絡まれているにも関わらず、笑顔で対応する。
二人の胆力にはちょっとびっくりする。
まぁ、クレイモアもいるし、下手なことはできないって思ってるんだろうけど。
……あれ、クレイモア、今、休憩に入っちゃってない?
「貴様、あれほど六柱会に入れと言ったのに生意気だぞ! この村は我々のものだ! 叩き潰してやる!」
しかし、女ボスは問答無用にわぁわぁわめきたてる。
嫌だなぁ、こういうの。
営業妨害になるんじゃないのかな。
それに、村での商売は商業ギルドに加入すれば誰でもできるわけで、文句を言われる筋合いはないはず。
「ぎへへ! 待ってましたぜっ!」
「荒事は俺たちの出番だな! 出てこい!」
向こうの顔に傷のある、おじさんたちは二人で大きく腕を振る。
いったい何なのだろうと思ったけれど、次の瞬間、私たちは悟ることになる。
ふしゅるるるるるる……
そう、彼らの背後に牛の頭を持った化け物、ミノタウロスが現れたのだ。
相変わらずの鼻息の荒さである。
しかし、だんっ、と言う音と共に、目の前の化け物は両断されてしまう。
「……で?」
そう、クレイモアがささっと駆けつけて、片付けてしまったのだ。
その眼光は鋭く、剣の切っ先はさらに鋭く。
言葉少なに活躍する、その姿は剣聖そのもの。
うひゃあ、かっこいい、胸がドキドキしてるよ。
「ひ、ひぃいいい、俺の、俺たちのミノタウロスが!?」
「な、な、なんだ、こいつ!?」
もちろん、脅そうとしてきた男の人達はオロオロし始める。
顔色は悪くなり、明らかに分が悪いと判断したのだろう。
「くっ……あなたたち帰りますわよっ!」
女ボスの人はモンスターがやられたからなのか、あっさりと踵を返す。
諦めが早いのはいいことだけど、悪いことをするのなら村からでて行って欲しいんだけど。
「心配には及びませんよ、この温泉には見回りの詰め所も兼ねていますので。それに、あの女たちが帰る場所なんてなくなっていますから」
「帰る場所がない?」
「ええ、ふふふ」
ララは珍しく嬉しそうに笑う。
彼女が笑うってことは、明らかに邪悪なことが進行しているということでもある。
私はその詳細を聞くことはせず、ただただあの女ボスたちがひどいことされませんようにと願うのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「ハマスさん、頑張れ……!」
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