280.魔女様、借金返済のためにも、禁断の大地に二つ目の村を作ることに決める
「ひゃ、百億って……」
レミトトさんからの請求書に唖然とする私たちである。
「……せや、ユオ様がその大賢者とかの場所に行って、でっかいくしゃみしたらええんちゃう?」
「それや! いっそのこと爆発級のくしゃみで吹っ飛ばせばええやん!」
メテオとクエイクに至っては、私に何かを仕向けるようなこと言う。
っていうか、くしゃみで大爆発なんか起こせるわけないでしょうが!
私を何だと思ってるのよ!?
……起こせないよ?
「金額についてはイリス様に仲介交渉していただくこともできます。早まってはいけませんよ、ご主人様」
ララはこんな時でも至って冷静である。
ぐぅむ、確かにイリスちゃんのほうがレミトトさんには強気に出れそうだな。
「でも、強気に出るというのでしたら、大賛成です。やっちゃいましょう」
そして、少しだけニコッと笑って相変わらず物騒なことを言い出す始末。
ララが笑う時って大体がバイオレンスな時である。
私はレミトトさんにはお世話になったって思ってるし、恩を仇で返すことはできないよ。
ドレスが言うには、次の研究をするためにも1か月以内には補償して欲しいとのこと。
ひゃ、百億を1か月かぁ。
ぐむぅううう、分割払いできないか尋ねてみるのもありだね。
私の勘ではイリスちゃんに仲介を頼めば、半額以下になりそうだけど。
「お金を稼ぐということでしたら、やはりダンジョン村の整備でしょうね。あちらの村が今、てんやわんやだそうです」
場をとりなして、いったん、落ち着くことにした。
お金を稼ぐための議題に上ったのが、ダンジョンの周辺にできた「村」についてだ。
私たちの村から少し離れたところにある村で、最初は簡単な宿泊所程度だったのだが、現在では酒場に素材の買取所、果てには娯楽施設までできつつあるという。
便宜上は「ダンジョン村」と呼んでいるけど、あくまで仮称だ。
「どうしても目が届きづらいので、治安の悪化も心配ですね」
「まぁ、うちの商会でやってるところはきちっとしてるけど、冒険者は荒くれ者が多いからなぁ」
なるほど、ララの言いたいことが分かってきた。
ダンジョン村の方は冒険者の管理がどうしても行きわたらず、本来のポテンシャルを発揮できていないというのだ。
もしかしたら、不当な値段で素材が売買されていたり、あるいは犯罪まがいの行為が起きているのかもしれない。
禁断の大地を治めるものとして、これは由々しき事態だよね。
「申し訳ございません。私の管理不行き届きです……」
面目ないと言った顔で謝罪してくるララだけど、私はあわてて顔をあげさせる。
ララのせいじゃないよ。
こっちの村は村長さんという精神的な支柱がいるし、基本的には農業従事者が人口の大多数を占める。
一方、あっちの村は冒険者とそれを相手にする商人がメインなのだ。
行政区分が一緒って言うのもおかしい話だよね。
「よっし、決めた。ダンジョンの方も正式な村にしちゃおう!」
「正式な村にですか!?」
「ほんまに?」
私の提案に心底びっくりした様子のララとメテオである。
別にそこまで不思議なことを言っているつもりはない。
だって、リゾート地のこの村と、ダンジョン開拓のあっちの村じゃ求められていることが違うでしょうよ。
「ふぅむ、分かりました。となれば、村長を決めなければなりませんね。言っときますが、私は嫌ですよ? ご主人様のもとを離れるつもりはありません」
「うちもパス! 村長になると身動きとれへんやろうし、フットワーク軽い方が向いてるわ」
ララとメテオがびっくりした理由が分かるのだった。
なるほど、彼女たちは村長をやりたくないのだ。
それも、あっちの治安の悪そうな村の。
気持ちはわかるけど、ちょっと残念。
二人なら、しっかりやってくれるだろうに。
「う、うちは絶対に無理ですわ! 姉の補助で大忙しやし!」
「あ、あっしは工房の仕事が忙しいんだぜっ!? 爆発の古傷も癒えてねぇし」
クエイクとドレスに視線を送るも、勢いよく振られる始末。
ドレスは王女様だっていうのにこの体たらくである。
もっと協調性を持ってほしいよ。
「わかったわ、じゃあ、1日だけ私が村長をやってみる! で、問題をあぶりだしたら、誰を村長にするか決めるわ!」
とはいえ、問題の本質が見えないうちに人選をするのも考え物だ。
人には向き不向きがあるし、適材適所って考え方は大切だよね。
「ご主人様が!? ……ダンジョンを破壊しないでくださいよ?」
「ひぇええ、うちの商店、もっといい保険に入ってないとあかんやん」
私が殊勝なことを言ってるにも拘わらず、ララとメテオは失礼である。
この二人、微妙なところで気が合うんだよなぁ。
別に素行の悪い人達に注意するぐらいだし、私が問題起こすわけないじゃん。
……そんな風に 一日村長を甘く見ていた時代が私にもありました。
◇
「おらおら、道を開けやがれ! 魔女様公認冒険者のお通りだぞ!」
「ぎゃはは! 俺たちに逆らうやつらは魔女様に逆らうのとおなじだぞ!」
「魔女様公認のお守りやでぇ!」
次の日のことだ。
この間の屋台の一件の反省を生かし、私は変装してダンジョン村に繰り出した。
そこで出くわしたのは、もはや無法地帯と言える場所だった。
ある種の冒険者パーティは勝手に魔女様公認などと名乗り、他の冒険者を威圧する。
はたまた怪しい商店では怪しいお守りを私の公認などと言って売りさばく。
人々の目つきはリゾート地のそれではなく、大分血走っている。
治療所を作りたいとついてきてくれたリリは「ひぇええ」と悲鳴をあげる。
「とりあえず、壊してきますね、あの冒険者の手足」
「それはそれで止めて」
同じく変装したララが低い声を出す。
身長の高いララは男装も似合っていて惚れ惚れするけれど、考えていることは怖い。
ふぅむ、我々が温泉リゾートの復興に心血をそそいでいたために、こっちはかなりの無法地帯になっちゃったようだ。
反省だよ、まったく。
「……くそ、あの商会、うちのおかんの息がかかっとる奴やん!」
「あんのくされ女……、こっすい商売してからに」
冒険者風に変装しメテオとクエイクも声をあげる。
怪しいお守りを売っていたのは、いつの間にか入ってきたフレアさんの商店らしい。
さすがは抜け目がないというか、なんというか。
「ふふふ、簡単なのだ! 悪い奴はシュガーショックの口に放りこめばいいのだよ! それで一気に解決なのだ」
興味本位でクレイモアも男装してついてきたのだが、とんでもないことを言い出す。
シュガーショックはばっちいものは食べません。
それにしても、ララといい、クレイモアといい、男装がよく似合っている。
いつもはち切れそうなのに、どうやってお胸を収納したんだろうか。謎だ。
「それじゃリリ、頑張って!」
「ひぇええ、私がですか!?」
「絶対にすぐに助けに来るから、大丈夫」
「へぅうう」
そういうわけで変装したリリを使って、治安をチェックする。
とはいっても、危険なことをさせるわけではない。
そこら辺のお店でお買い物をしてもらうだけだ。
もしも、遵法意識が機能しているならば、ぼったくりなんてことは起きないだろう。
「ひぇえええ、果物ジュース一杯が五千ゼニーですかぁ!?」
「馬鹿野郎、このジュースには希少な魔法薬草がたんと入ってるんでぇ!」
しかし、その数秒後には絶句する事態に突入する。
ふらりと入ったお店からリリの叫び声が聞こえる。
さすがはリリである、なんていうか、悪い奴をひきつけるのが上手い。
お店の中に入ると、強面のおじさんがリリに凄みを聞かせている場面だった。
「な、なんだてめぇ!? 見世物じゃねぇぞ!」
おじさんはこちらに気づくと、やたらとつっかかってくる。
そして、言ってはいけないことを言うのだった。
「ここはあの恐怖の大魔王、魔女様公認の健全な店だぞ! 文句があるって言うのか!」
そう、またしても「魔女様公認」である。
私はそんなもの認めた覚えはないっていうのに。
それにしても、恐怖の大魔王って何なのよ。
「私のかわいいご主人様を……」
ララが「ビキィ」などと謎の音を発し、顔を引きつらせたのがわかる。
「クレイさん、後遺症が残らない範囲でやっちゃってください」
「任されたのだっ」
ララに指示されたクレイモアはおじさんの腕をロックして、ぎりぎりと締めあげる。
ひぃいい、穏便にね。
「店主、その魔女様公認っていうのは誰が言い出したんですか?」
「あうだっ、し、知らねぇよぉおお!? なんだ、お前たちは!?」
「クレイさん、もっと欲しいようですよ?」
「おぐっ、六柱会の男どもが言い出したんだぜっ、本当だよっ、俺だってクソ高いみかじめ料を払ってんだからよっ」
おじさんはひぃひぃ言いながら本当のことを話してくれる。
これまではぼちぼちやっていたのだが、1か月ほど前から六柱会という集団がダンジョン村を仕切り始め、無法なことをし始めたという。
法外なみかじめ料を請求された、おじさんはつい出来心でぼったくり酒場を始めたとのこと。おいおい。
それにしても、六柱会って何だろうか、そんなの聞いたことないよ。
「陰謀の匂いですね」
難しい顔をするララ。
「……うちら無関係やし、帰ってもええかな?」
「絶対、嫌な予感する」
「わ、私も帰りたいですぅうう」
速攻で帰りたいと言い出すメテオとクエイク姉妹とリリ。
「ろくちゅうかいをぶっとばせばいいのだよっ! それで、さっさと魔族の村に行くのだ」
暴れることしか眼中にないクレイモア。
果たしてこのメンバーでダンジョン村の治安を守れるのだろうか。
少々、不安になる私なのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「非合法の魔女様公認グッズ……?」
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