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28.ラインハルト家の受難:ガガン、ドワーフのドレスを召し抱えようとしたが無下もなく断られ、女王陛下の椅子になる


「ガガンよ、わらわの玉座の修復はどうなっているのだ?」


 ラインハルト家の当主、ガガンは女王への敬意を示すために玉座の修復作業を申し出たのであった。

 内心、女王に敵意さえ抱いている彼にとって、この作業は苦痛以外の何ものでもなかった。


 しかし、王室転覆のための動きを察知されないためにも、あえて羊の皮をかぶろうと考えたのだった。



「ははっ、神の匠と名高い、ドレス・ドレスデンに依頼を出しております」


 そして、彼が依頼を出したのが、国境を越えて名の知れた名工、ドレス・ドレスデンのドワーフ旅団だった。

 ドレスは特定の工房を持たず、行く先々で様々なものをつくると言われていた。


 現在は辺境を旅しているが、その後にはリース王国に入ってくるという話をガガンは事前に聞いていたのだ。



「おぉっ、あのドレスか! それは素晴らしい。しかし、あのドワーフはなかなか見つからないと言われているが大丈夫なのか?」


「ははっ。たっぷりの予算をかけておりますゆえ、受けるに決まっております。必ず女王様のもとに最高の玉座をお届けいたします」


 とはいえ、ドレスは風変わりな性格でも知られており、なかなか捕まらないことでも有名だった。


 しかし、ガガンは今日も自信たっぷりだった。


 なんせ数百万ゼニーの予算の依頼を出していたからである。


 いくら神の匠と言えども、所詮は野卑なドワーフ。


 金を目当てに裸足で駆け出してくるはずだ。



 ガガンはそのように考えていた。



「私の玉座には金銀どころか、巨大な翡翠魔石なども配置してもらおうか。うふふ、数十年ぶりの修復か」


 女王は機嫌良さそうに笑う。


 彼女はハーフエルフであり、その見た目は少女の姿から老いることはない。


 何も事情を知らない人が見れば、たんに幼い美少女が喜んでいるだけに見えるだろう。



「もしも、ドレスが依頼を受けない場合には、それ相応の対応をしてもらわねばのう」


 しかし、女王の本質は腹黒だった。


 彼女は少しだけ邪悪な笑みを浮かべて、そんなことを言うのだった。




「な、な、なにぃっ!? 辺境に定住するのでリースに来るのをやめるだと!?」


「ははっ、手紙にはそのように書かれております!」


 ガガンが手紙を開くと、職人らしい大きな文字で、


 『無理。定住地を見つけたので。依頼はお断り。そもそも玉座とか無理』とだけ書いてあった。


 その手紙を持ったガガンの手はぶるぶると震える。



「ななななっ、ラインハルト公爵家からの栄えある仕事をふってやったというのに、この態度はなんだ!」


 ガガンはうぉおおおおおと声を上げ、奥歯をぎりぎりと噛みしめる。


 相手が数百万ゼニーの依頼を断ったこと、そして、この自分の仕事を断ったことに激しい怒りを感じていた。



 通常であれば貴族からの依頼を断ることはあってはならない。


 たとえ、受けるつもりがなくても、依頼を受けられるまでの待ち時間を告げるものである。


 しかし、手紙には謝罪の二文字もなかった。



 もはや貴族社会に対する反逆といっても過言ではない。


 ガガンはどうにか手を尽くして、ドレスを捕縛しようと考えるも、居場所が一切わからないのだった。





「ところでガガンよ、わらわの玉座の仕事はどうなっておる? 聞くところによると、ドレスは一切の仕事を受けておらぬそうだが」


 とある日、女王に呼び出されたガガンはさっそく玉座の件について切り出された。


 女王は王族のつてで、ドレスが仕事の受注をやめたことを耳にしたのだった。



「そ、それが、あの不敬なドワーフが一方的に依頼を断りまして、その……」


 ガガンは身をよじりながら言い訳をする。


 胃がきりきりと音を立て、頭痛さえしてくる。


「わらわも言っていたではないか、あのドワーフはなかなか捕まらないと! このたわけ者が!」


「ひぃいいい」


 女王は一気に魔力を解放して、ガガンを一喝する。


 彼女は膨大な魔力を有しており、リース王国最強とさえ恐れられていた。


 心身ともに弱っていたガガンはその圧力に気圧されてしまう。


「しかし、ですよ。女王陛下。これはあのドワーフが全て悪いのです! 栄えある女王様の仕事を断るなど、あってはならないことです! そうです、あの上下関係を知らない不敬者をひっ捕らえてまいりましょう!」


 ガガンはなんとか踏みとどまり、この場を切り上げようと格闘する。


 貴族社会では身分が全てである。


 ドレスはいくら大陸の王侯貴族に愛されているとは言え、しょせんは平民。


 不敬なふるまいをしたのなら、罰してもいいはずだった。



「ならぬ。あやつはドレープの孫娘じゃ」


「ドレープ? あ、あのドレープ王ですか?」


「他にドレープがおるか! あやつの口は悪いが、れっきとした王族だぞ!」


 しかし、女王から返ってきたのは信じられない言葉だった。


 ドレープ王、それは遥か西にあるドワーフの国の王の名前である。


 歴戦の勇士で、世界中で素材を探し回ったことから、素材王というあだ名で知られていた。



「つ、つまり、ドレスもまた……」


 王の孫娘ということは、ドレスもまた王族ということになる。


 確かにドワーフは子沢山で、たくさんの王族がいることは知られている。


 ドワーフの職人気質は身分に関係なく受け継がれているものであり、ほとんど職人として働いている王族がいてもおかしくはなかった。


 ガガンは開いた口がふさがらずに呆然としていた。



「つまり、不敬者はお前というわけじゃ、ガガンよ」


「ひひっ……!? いや、しかし、その、あの」


「お前には、もう一度、上下関係を叩き込まなければなるまいのぉ」


 女王は笑顔に戻ったが、その圧は変わらない。


 ガガンの目前まで迫ってきたため、彼は平伏してしまう。



「ガガンよ、今日はわらわの椅子になれ」


「は? あ、いや、椅子ですか!? あの座る椅子ですか?」


「それ以外に椅子があるか、このたわけめ」


 気づいたときには、ガガンは1日、女王の椅子をやらされていた。


 背中で女王を支えるため、背骨がぎりぎりと痛む。

 さらには女王の客人や家臣全てにその光景を見られてしまう。




『ラインハルト様はどうされたのだ!?』


『それが女王様に無礼を働いたそうですよ! 玉座の仕事で大言壮語したそうな』


『なんと不敬な! 自信過剰過ぎたのですよ』


『ラインハルト家もどうなるかわかりませんな』


 女王は数時間で『座り心地が悪い』と飽きてしまったが、女王の家臣たちは大いに噂することになった。



「おのれぇぇええええええ!」



 今回の屈辱はガガンのプライドを大いに傷つけるのだった。


 しかも、それだけでなく、ラインハルト家の権勢さえも傷つける結果となったのだった。



 ◇



「ユオ様、見てください! これがあっしらの工房です!」


 一方、そのころ、ドワーフのドレスはユオの村で工房づくりに明け暮れていた。


 彼女は自分が生きる目標を見つけたことで、誰よりもワクワクしていた。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「女王の椅子がわりだと……!」


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