278.魔女様、領地経営の基本に立ち返り、人材を広く集め始める。おっと、誰か戻ってきたようだ
「うぅぅう、一人当たりのお土産支出額を平均二千ゼニーとしたら、月に……」
メテオが倒れたと聞いて来てみたら、なんと彼女はベッドの上でも何やら計算をしていた。
顔色は明らかに悪いし、喉もガラガラ、働いてたらダメなやつである。
私は即座に仕事を止めさせて、リリとエリクサーを呼んでくるように伝える。
それから、こうなった経緯を聞きだすのだった。
「だってぇええ、クレイモアのお土産で莫大な売上が望めるんやもん、逃せるかいな、このビッグウェーブを! めっちゃすごいんやで、お土産関連産業のビッグウェーブだけで屋敷が立つわ!」
ビッグウェーブ、ビッグウェーブと口角泡を飛ばすメテオである。
「うるさいわ、黙って寝とけ」とクエイクに制止される始末。
言いたいことはわかるけど、さすがに頑張り過ぎでしょうよ。
「メテオ、お金よりもあんたが一番大事なの。無理な仕事は絶対にしないで」
「ぐむぅ……、わかっとるけどもぉ」
メテオに釘を刺すも、納得しきってはいない表情である。
そりゃあ、自分が働けばお金が入ってくるっていう状況だと焦ってしまうのは分かる。
だからと言って、仕事と生活のバランスを崩すというのはいただけない。
私の村は人が癒される場所であり、働いている人も楽しく生きる場所だからだ。
「お待たせしましたぁ!」
そうこうするうちにリリが到着し、テキパキと回復魔法をかけたりなど、応急処置をしてくれる。
当初は怪我の治療専門の彼女だったけれど、今ではオールマイティに何でも回復できるようになった。
まさに聖女様なのである。
「ちょっとずつ楽になってきたわぁあ、ひぃい、気持ちえぇわぁ」
回復魔法を当てられたメテオは心底気持ちよさげな表情。
リリの発する暖色系のオーラは見ているこちらも癒されるよ。
「メテオ殿、助けに参ったのじゃ!」
さらにはエリクサーも到着。
彼女はリリのように回復魔法を使うのではなく、森の果実から採れた成分で薬を作ってくれるのだ。
それがまた効果てきめんなものばかりで、村人の健康を守るのに大きく貢献してくれている。
リリとエリクサーの二人はまさにうちの村の天使なのである。
ただし、エリクサーの作る薬には一つだけ欠点があった。
「げげっ、リリちゃんの回復魔法でだいぶ楽になったら、エリクサーのお薬は十分やで? ほら、めっちゃ元気やし」
メテオはベッドから立ち上がると、力こぶを作ったりして回復をアピール。
そこはかとなく顔色が悪く、本調子ではないことがよくわかる。
「無理はいかんぞ。病み上がりこそ、わしの薬じゃ。クレイモア殿、おさえつけておくれ。」
「りょーかいしたのだぞ!」
エリクサーはクレイモアを使ってメテオを確保させる。
はっきり言って、この超暴力に勝てる相手など、この村には存在しない。
メテオは「うち、お薬、嫌や!」などと子供のように暴れる。
「たんとおあがりなのじゃ、体の芯から温まるぞい」
「や、やめて、ほんまに……んぐ、ごふっ、んがふ……」
そして、エリクサーの特製内服薬を口に注ぎ込まれるのだった。
メテオは「にぎゃああ、にがっ、まずっ、えぐっ、水!」などとベッドの上をのたうち回り、ばたばたと足を動かした後、白目をむいてぱたりと眠りにつくのだった。
……正直、ちょっと不安な鎮まり方である。
「ふぅむ、リリアナ殿の回復魔法とわしの薬があれば、どんな病もたちどころに治るのじゃな! メテオ殿、お大事にじゃぞ!」
エリクサーは満足感からか嬉しそうに笑うと出ていってしまった。
無邪気な性格はまさしく天使なのだが、彼女の作る薬、特に内服薬はとんでもない味がする。
正直、その薬を飲みたくないから、しっかりと体調管理をしているという説まであるぐらいだ。
◇
「とはいえ、メテオ達にもスタッフを増やして仕事を分けなきゃダメだね。アリシアさんの冒険者ギルドは上手く回るようになったんでしょ?」
「はい、皆様、テキパキと仕事をこなされていますよ」
アリシアさんは先日、冒険者ギルドの仕事が激務すぎると泣きついてきたのだが、人材を補充したことで業績を伸ばしているとのこと。
「統治の原点は人ってことか。領地経営って難しいんだねぇ」
「そうですね、個人が優秀であることと、チームが優秀であることは違いますからね」
村が小さかったときは、一人で何でも仕事を回せるということが優秀さの証だった。
でも、村が大きくなってくると、仕事を分けたり、与えたりできることが優秀さなのだと気づくようになる。
メテオはうちの村の財政だけではなく、その他一切の商売を預かっているわけで、その負担は大きい。
加えて、あの何にでもしゃしゃり出る性格である。
儲かるとなれば、どんどん仕事を抱え込んでしまうのだ。
メテオの優秀さは理解しているけど、山積みの仕事に潰されてしまっては元も子もないわけで。
「とりいそぎ、人材を集めてメテオのところにも配分できるようにして、それと、フレアさんのところに手紙を書こうかしら。こちらで働きたい人はいないかって」
「フレアさんと申しますと、あのメテオさん、クエイクさんのお母様のですか?」
「うん! これまでも色々とお世話になってるし、同じ猫人の人だと気も合うだろうし」
ここで私が思いついたのは、人材をどどんと集めることだ。
そして、できれば猫人の皆さんもスカウトしてみたい。
ノリが軽くてとても楽しい人達だったのを覚えているし。
「さすがです、ご主人様。では各方面に伝達しておきますね」
ララはそう言うと、さっそく仕事にとりかかろうとする。
頼もしいけど、時間はもう夕方だ。
そろそろ、仕事終わりにしたほうがいいよね。
「ララ、今日は外でご飯を食べよ、温泉も一緒に入るよっ」
「ええっ!? そこまでお気遣いいただかなくても!?」
そして、もう一人、働き過ぎの懸念のある人物が一人いるのである。
それは私のメイドであり、この領地の実質的支配者のララである。
彼女はメテオと一緒に財務を担当しているし、法律・防衛に始まり、トラブルの仲裁まで担当している。
優秀過ぎてありがたいけど、無理をさせちゃってないかとても心配なのだ。
これまでずーっと変な人達と戦ってきたおかげで、村は有名になったし、人が集まって発展した。
平和になった今のタイミングだからこそ、領地経営の地盤をちゃんと固めなきゃいけないよね。
「もぉっ、最高ですよ、ご主人様! 世界の支配者への階段を今日ものぼりましたねっ!」
「の、のぼってないし、のぼらないよ!?」
ララは私に抱き着いて喜んでくれるも、なんとなく嬉しくない。
別に私は世界征服のためにこの領地を発展させているわけでもないし。
「ふふ、照れなくていいんですよ?」
「照れるとかじゃないよっ!?」
いつになく笑顔のララである。
いつになったら、この人は私が野心家じゃないって分かってくれるんだろうか。
「ユオさまぁあああ」
そんな風にララとじゃれ合いながら歩いていた時のことだ。
誰かの声に振り返ると、向こうから猛烈な勢いで走ってくる人がいる。
「ひぃひぃ、ただ今、戻りましたぜいっ!」
わうわうっ!
そこにいたのはドレスとシュガーショックだった。
彼女は一緒にレミトトさんのところに行っていたのである。
おおぉっ、待ちに待った人物の到着だよっ!
「ひぃひぃ、ひどい目に遭いましたぜ。シュガーショックがレミトトさんの塔に体当たりをかましてくれて……」
わうわわん!
ドレスは涙目になって、散々な目にあったのだと解説してくれる。
シュガーショックがレミトトさんの防衛兵器と戦っている間は死ぬかと思ったそうだ。
もっとも、私の使いだと知ったら誤解がとけて内側に入れてくれたそうだけど。
シュガーショックにはちゃんとした入室の仕方を教えてあげなきゃいけないね。
それにしても、シュガーショックがちょっと自慢気な表情のはなんでだろうか。
「それで、どうだった。何か進展はあった?」
そして、一番の気がかりは、彼女に託した「あるもの」の復活なのだった。
それは凱旋盗の人の魔石をどうにかできないかというもの。
できれば復活させて古文書の情報を聞きだしたいのだが。
「それが、そのぉ……こんなん出ちゃいました」
ドレスはそう言うと、背負っていたカバンから真っ黒な球体を取り出す。
なんだろうか、これ。表面はすべすべしてきれいだけど、石の類いだろうか。
「ええと、ぽちっとな」
ドレスはそう言うと、その石の中央を押す。
どういう原理になっているのか分からないが、スイッチになっているらしく、少しだけ凹むのだった。
「けけっ、3.14159265358……」
そして、その球体は笑うような声をあげた後、突如として謎の数字をつぶやき始める。
な、なんなの、これ?
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「黒い球体に、謎の数字、まさか……GANTZなのか?」
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