277.魔女様、エリクサーの持ってきたブツに舌鼓を打つとクレイモアが発奮。しかし、一方、その頃、メテオは
「これを見て欲しいのじゃ!」
エリクサーは私の屋敷で私たちを待ち構えていた。
自信満々の時によくする、ドヤ顔が今日もかわいい。
「これを?」
テーブルの上にあるのは縞模様の入った果物らしきものである。
ほとんど球形に近い果物で、リンゴの二倍ぐらいの大きさ。
しかし、かなり見たこともないフルーツである。
いや、もしかしたら野菜の類かもしれないけど。
「こんな奇怪なもの見たことないで?」
「……化け物の卵やったら、うち、帰るんやけど」
メテオは腕組みをして首をひねり、クエイクは変な想像をしてクレイモアの後ろに隠れる。
ほとんどの商材を知っている猫人姉妹さえ、この正体がわからないらしい。
ふぅむ、一体、全体、何なのだろう?
「ふふふ、ララさん、お願いしますなのじゃ」
「はい、どうぞ。切り分けたものです」
エリクサーに合図をされたララは一口サイズに切り分けたものをサーブしてくれる。
その果肉は赤い褐色と言った感じで、粒々がぎっしり詰まっている。
豆っぽい雰囲気がするが、なんともヘンテコな果物である。
「さぁ、食べてみておくれ。びっくりするのじゃぞ」
エリクサーは私たちにそれを食べるようにと促す。
しかし、見たこともない食べ物である。
さすがに毒が入っているわけじゃないとは思うけど、美味しいかどうかはわからない。
誰が一番最初に行くか、チキンな私はとりあえず場をうかがうのだった。
「それじゃ、あたしが食べちゃうのだよ。うぉ、甘い! 甘いのだ、これっ! うひょおぉお」
ここで先陣を切ったのはクレイモアだった。
さすがは恐れ知らずの女の子である。
彼女は謎のフルーツの果肉をぱくぱくと食べて、「うひぃい、美味しいけど、お茶の欲しくなる味なのだぁ」などと言う。
ララはささっとお茶をサーブし、クレイモアはそれをごくごくと飲む。
「……お、美味しいの!?」
「ほんまに?」
「罠やないの?」
クレイモアのリアクションに半信半疑の私達。
しかし、料理人である彼女の味覚はこの場にいる誰よりも正確なのは確かである。
すなわち、この変なフルーツ、美味しい可能性が高いのだ。
私はごくりとつばを飲み込んで、フォークをで果肉をぶすりと刺す。
それから赤紫色の果肉にがぶっとかぶりつく。
「う、うそっ!?」
ほろっと果肉が崩れ落ちた刹那、口の中に広がる、あまぁいお味!
なんなのこれ、甘い、甘いよ、甘すぎるよ!
正直、これ単体で食べるのが難しいぐらい甘い!
「ほ、ほんまや! 甘く煮た豆みたいな舌触りや!」
「案外、いけるわ、これぇ! ひぃいい、甘い! お茶ください」
私が食べたのを皮切りにメテオたちも口々にそのフルーツを評価する。
いやぁ、びっくりだよね、こんなに甘い果物があるなんて。
「ふくく、これこそ世界樹の実なのじゃ。まぁ、世界樹の気が向いたときにポコポコ実るんじゃがの。故郷から送ってきたからおすそ分けなのじゃ」
「世界樹の実!?」
「あのでっかい木にこんなんなるん!?」
世界樹とはエリクサーの村にあった、あの山のように大きな樹木である。
魔族の悪い人になんだかんだ細工されていたけど、無事に生きているらしい。
それにしても、驚いたよ、あんなものに木の実がなるなんて。
「しかし、それにしても甘いですよね。私は甘党ではありませんのでお茶がなければ、とてもじゃありませんが食べきれませんよ」
ララは一つつまんで食べると、眉一つ動かさずに「甘い」と言うのだった。
表情筋が死んでるのかというぐらいのリアクションである。
「ぬはは、驚いたじゃろう。わしらの村では毎年、この木の実を使って盛大な祭りを行うんじゃぞ。久しぶりに食べたけど、美味しいのぉ、故郷の味じゃ」
エリクサーはそう言うと、むしゃりむしゃりと世界樹の木の実を食べ始める。
その勢いたるやすさまじく、この子、相当に甘党らしいと気づくのに時間はかからなかった。
「昔はよくわしの婆さまと食べたものなのじゃ、懐かしいのぉ」
激あまフルーツをほお張るエリクサーのその笑顔は何よりも優しいように見えた。
それにしても、お婆さまね。
エリクサーの話し方はおばあちゃん譲りなのだろうか。
「……これなのだぁああああ!」
ここでいきなり叫びだすのはクレイモアだった。
タイミング的にメテオ辺りが「これは使えるで」などと叫びそうなものだが。
クレイモアはギラギラした瞳で木の実を掴む。
「これっ! これがあればできるのだっ! にゃははは!」
どごがんっ!
彼女はそう言うと、うちの屋敷のドアを破壊したまま外に駆け出すのだった。
な、な、なんなのよ、一体!?
◇
どごがぁあん!
「できたのだぁああ!」
「うひゃああ!?」
次の日のことである。
クレイモアが私の屋敷のドアを突き破って、不法侵入してきた。
ちょうど、湯上りのまどろみタイムをむさぼろうとしていた頃合いである。
驚きのあまりベッドから転がり落ちる私。
「な、なんなのよ!? 心臓が止まるかと思った」
「できたのだ、これを食べてみるのだ!」
クレイモアの呼吸は荒く、まるで散歩前のシュガーショックみたいに目をきらきらさせて喜んでいる。
彼女が差しだした先には、このあいだ作っていた異民族のお菓子が乗っているではないか。
しかし、皮が茶色くて、ちょっと渋い感じである。
「ひひひひ、寝ずに考えたのだよっ! とにかく食べるのだっ!」
「むごが!? ……もぐもぐ」
目の下にクマを作ったクレイモアは私の口にそれをねじ込む。
なんていう危険な食べさせ方だろうか、よい子は真似しちゃダメな奴である。
しかし、口の中に広がる甘いお味に私はびっくりしてしまう。
「美味しいじゃん……」
ほろりと崩れる生地の美味しさもさることながら、この具材に使った甘いものとのコンビネーションが絶妙なのだ。
この味、この触感って、世界樹の実のやつじゃん!
そう、クレイモアは作ってしまったのだ。
世界樹の実を使った世界で初めてのお菓子を。
彼女いわく、この世界樹の実には無限の可能性があるとのこと。
異民族の色んなお菓子を再現したいというではないか。
「あとは食材のちょうたつなのだ! あたし、エリクサーの村に行ってくるのだよっ! にゃははは!」
クレイモアは嬉しそうにそういって、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
未知の食材に出会った喜びは分かる。
だけど、そう簡単に行かせるわけにはいかない。
そもそも、彼女がいきなり魔族の村に現れて、「ヒャッハー、世界樹の実を出せぇ」なんてやったら、外交問題になるだろう。
ちゃんと付き添ってくれる人が必要だ。
「ええい、ちょっと落ち着きなさい、クレイモア! あんたはまだ仕事をちゃんと引き継いでからよ!」
「ぐぅむ、分かったのだよぉ」
第一、彼女は村の防衛の要でもある。
ふらりと旅に出られたら非常に困ったことになるのだ。
なんせ毎日のように大きな獲物をやっつけてくるのだから。
「でもでも、ぜったいに近日中に行くのだよっ! じゃなきゃ、あたし一人で走っていくのだ」
しぶしぶ納得するクレイモアである。
エリクサーの村も久しぶりだし、楽しそうかもしれない。
スケジュールを合わせて、私もまた行ってみようかしら。
「ひぃ、ドアが壊れとるわ」
「クエイク、どうしたの?」
「あのぉ、ユオ様、お姉ちゃんがぶっ倒れましたぁ」
そんな折である。
壊れたドアからクエイクがひょっこり顔を出す。
彼女の顔色は明らかに悪く、何かネガティブな事件の発生を思わせる。
メテオが倒れた?
ひぇええ、息つく暇もないよ、全く。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「悪魔のたべもの、あんバタートーストができるぞ」
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