274.魔女様、村が平和になったのでリフレッシュ用熱空間を作り出すよっ! あわわ、皆がひからびていく……
「ひぃやぁあああああ!? し、死ぬぅぅううう!」
凱旋盗との戦いも終わり、村には再び平和が戻ってきた。
禁断の大地の皇帝に祭り上げられてしまった私は何をしているかというと、例の熱い空間づくりである。
村にいるドワーフの職人さんとあーだこーだ話し合い、なんとか「気持ちいい」熱さを模索する毎日なのだった。
「ユオ様に合わせてると、こっちは死んでまうで? 殺人兵器やでこれ!」
メテオは水風呂につかりながら、頭からしゅーしゅー湯気をあげている。
彼女の憎まれ口には理由があるのだ。
「いやぁ、ごめんねぇ」
私の温度管理が上手くいかず、なかなか適温を見つけられていないのだ。
ぐぅむ、難しいなぁ。
温泉ならさくっと適温が決まっちゃったのになぁ。
どうやら空間加熱というのはかなりテクニカルなものらしい。
「ドレスさんがいてくれればええんですけどねぇ。このままやと、うちらが干からびてしまいますわ」
制作に協力してくれているクエイクもへとへとである。
そう、この熱空間づくりが難航しているのには理由があった。
我らが村の職人筆頭にして、村づくりの天才ドレスがいないのである。
彼女は特別命令でレミトトさんのところに凱旋盗の修理をお願いに行ったのだ。
古文書のありかを探し出すためとはいえ、ちょっと早まりすぎたかな。
ドレスの穴は非常に大きく、熱空間づくりは二進も三進もいかないありさま。
っていうか、ドレスあっての禁断の大地の村だよね、まったく。
「でもでも、あとちょっとだけ下がればいい感じなのだよ。あたしはこれ好きなのだ! キンキンの水風呂に入ってからの熱空間は最高なのだ」
クレイモアは大迫力ボディをタオルに包みながら笑顔をつくる。
汗びっしょりで頬が赤く染まってるのが尚更セクシー。
しかし、その言葉こそが同志の言葉である。
彼女みたいな熱空間愛好家のためにも完成を急がねばなるまい。
「カルラも水風呂の協力ありがとね」
そして、隠れた功労者がカルラなのである。
熱した空間から出た先にある水風呂の温度を彼女が管理しているのだ。
さすがはなんでも冷やせちゃう人である。
私が思うに、この水風呂の温度もまた重要なのだ。
冷たすぎてもダメだし、温くてもダメなのである。
私は氷が浮かんでてもへっちゃらだけど、メテオなんか逃げ出しちゃうもの。
そんなわけでカルラと私は一心同体的な仕事をしているともいえる。
「……大丈夫」
彼女は無表情ながらぐっと親指を立てて見せる。
最近わかってきたことだけど、カルラはとっても感情表現が豊かな人物だった。
表に出すのが上手ではないだけで、きちんと喜怒哀楽を持っている。
ちなみに熱空間の作り方はとっても簡単。
密閉した部屋の中に皆に座ってもらい、私が熱をえいやっと放つ、それだけである。
難しいことのない簡単な原理なのに、どういうわけか失敗してしまう。
ぐぅむ、早く完成させたいのになぁ。
「ご主人様は気合が入り過ぎてしまうのかもしれませんね。かまどでも置いて、代わりに熱を発生させるのはどうでしょうか」
「なるほど……」
ここでララから飛び出したのは目から鱗が落ちる意見だった。
つまりは私の焦り過ぎが原因ではないかということだ。
確かに、皆にあの「ととのう」快感を知ってもらいたくて、熱を必要以上に放っているのかもしれない。
ララの言うように私の代わりに熱を発するものを見つけてきた方が効率がよさそうだ。
「かまどならあっしらでも余裕で作れますわ!」
ドワーフの女職人の人たちは資材を運び込み始める。
さすがに熟練した人たちで、小一時間もすると部屋の中にかまどが出来上がるのだった。
熱を発するものとして、ララがいくつかの石を用意してかまどの上に置いてくれた。
「……ぐぅむ、さぁ、どうするか」
私はかまどの前に立ち、熱を発するように手をかざす。
しかし、ここで変に気合を入れちゃダメなのだ。
他のみんなが気持ちいいって思える温度にしなきゃいけないわけで。
「みんな、私と手をつないでくれる?」
そこで考えたのが、みんなと手をつなぐこと。
こうすることで、私以外の人の温度の感覚を読み取ることができるんじゃないかと思ったのだ。
外の水風呂でスタンバイしていたカルラにも来てもらう。
彼女も私と似たような体質だけど、ひょっとすると熱空間の熱なら気持ちよく感じてもらえるかもしれないし。
「じゃあ、今からゆっくり温度を上げていくから、気持ちいいか熱すぎるか感じてみてね」
「わかったで!」
「りょーかいなのだ!」
「いい感じですよ、ご主人様」
皆の元気な声を聞いて心の奥がほぐれるのを感じる。
やっぱり、気心の知れた友達って最高だね。
「それじゃ、始めるよ……」
私は目を閉じて、ゆっくりと息を吐く。
まずは私自身に意識を集中。
そして、空いている方の手でじっくりじっくりと熱を与えていく。
かまどが温まり、そして、じんわりと熱を発し始める。
十秒ほどすると、手のひらを通じて、みんなの体温が伝わってくる。
心地いいのか、それとも悪いのか、それとも物足りないのか。
私は独りよがりにならないように彼女たちの反応を見ながら、最高の温度を探すのだった。
そして、ある一定まで温度が上がった時、私の手のひらにひときわ鋭い感覚が伝わってくる。
皆の脈拍が安定し、しかもそれでいて心地よいという絶妙な感覚。
自分がこの世界に生きていることに感謝できる感覚。
「これだ! こういうのを味わってほしかったんだよ!」
思わず飛び跳ねてしまう私である。
そう、私はついに温度調整を終えたのである!
もちろん、温度の感覚は人によって違うから、これが完璧ってこともないだろう。
だけど、万人受けする温度を発見できたのだから、とっても嬉しい。
あとは温泉リゾート中にこれを配置しちゃえば、旅人の皆さん、大喜びしてくれるはず。
「くふふふ、温泉と並ぶ名物の完成やな。絶対に儲かるでぇ! 」
「せやなぁ、この熱空間用のグッズとかも売り出したらええかも!」
メテオとクエイクはさすがに商売人である。
すぐさまどんなビジネスを展開するか考え始めているようだ。
「ふいぃいいいい、さいっこぉおおなのだぁ!」
「ご主人様ぁ、この温度、肩こりに効きますねぇ」
でっかい組の二人も大満足である。
ふむ、肩こりに効いたってことは、この熱空間も血行促進に一役買ってくれるかもしれない。
うしし、楽しみである。
どことは言わないけど、大きくなってくれるはず! どことは言わないけど。
と、まぁ、そんなこんなで私の村の新名物が完成したのであった。
メテオは大型化したものをリゾートに導入するべく予算を確保。
クレイモアはこれのおかげで温泉の新名物のアイデアが浮かびそうだと喜んでいる。
「ユオ様、話は聞きましたよっ! 血行が改善するのってこれですか!」
そして、私のズッ友であるリリも目をキラキラさせて現れる。
真偽不明ながら、とりあえず、ぐっと親指を立てる私なのだった。
よぉし、村をもっともっと発展させていくよっ!
◇ 冒険者たちの会話
「聞いたか? 魔女様が今度、めちゃくちゃ熱い部屋をリゾートに入れるらしいぞ?」
「めちゃくちゃ熱い部屋? なんだそれ? 拷問部屋か何かか?」
「いや、それがな、気持ちいいらしい。剣聖のクレイモアがでっかい声で話してたから小耳に挟んだんだけどよ」
「き、気持ちいいのか? ふぅむ、何だかよく分からんが気になるぜ……」
クレイモアやメテオの話を聞いた冒険者たちは、口々にユオの新しいサービスについて話し合うのだった。
もっとも、体験するまでは一体何のことかわからない代物ではあったが。
【魔女様が発揮した能力】
熱感知:手をつないだ相手の熱についての感覚を繊細に感じる能力。感覚の動きまでつぶさに感じることで、適温を見つけ出すことが可能。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「ついに、作りやがった……」
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