表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】灼熱の魔女様の楽しい温泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の温泉帝国を築きます~【書籍化+コミカライズ】  作者: 海野アロイ
第13章 魔女様の強烈防衛戦! 禁断の大地が活性化してきたと思ったら、女王様、魔王様入り乱れて暴れます!
272/352

272.魔女様、とってもエコな新技術で凱旋盗を圧倒。さらには、ドレスに無茶ぶりプロジェクトも始動させます。さぁ、お次は温泉で慰労パーティだよっ

「ふ、ふざけるなぁああああ!」


 私が氷まで溶かしてしまったので、激昂する凱旋盗の人。

 こちらはというと、頭の芯までしゃっきりとして抜群に調子がいい。


 今なら熱失神を放っても大丈夫な気がする。


「こうなれば最大出力だ。この体が崩れようと構うものか、貴様の、自分自身の技を食らうがいい!」


 凱旋盗の人はそういうと、大きく息を吸い始める。

 彼女の胸が大きく膨らみ、そして、彼女の背後には禍々しい色の渦巻きが出現。


「ひぃいいいい、なんか出てきよったでぇええ!?」


「ちょっとぉおお、さらなる化け物を投入してくるとかありなん、それ!?」


 メテオたちが驚くのも無理はない。

 彼女の背後には巨大な女の人の顔が現れたのだ。


 それも普通の顔じゃない。

 ところどころがひび割れていて、まるで遺跡の石像のような雰囲気。


 しかも、私はその顔に見覚えがあった。


 その顔はさっき私が夢の中で見た、「私」の顔だったのだ。

 その髪の毛には赤い筋が浮かび上がり、凱旋盗の人そっくりのヘアスタイル。


 ひび割れている顔を見ているとなんだかすごく悲しい気分になる。

 なぜだかわからないけど。


「喰らえ、超高温破壊砲プラズマバースト!!」


 私の気分などお構いなしに、彼女はこちらに向かって高熱の光を放ってくる。

 その技は先ほど私が気持ちの悪い虫をやっつけた、あの口からの怪光線だった。


 なるほど彼女は私の使った技をコピーしちゃう人だったらしい。


 しかし、このまま直撃を許すわけにはいかないよね。

 私はへっちゃらだろうけど、せっかく作った建物が壊れるし、再び汗びっしょりになるのは勘弁してほしいし。


 そんなわけで私はふっと力を抜いて目を閉じる。

 もはや熱鎧すらいらない気分なのだ。



「でぇえええ、無抵抗なん!?」


「こんなところで非暴力に目覚められてもぉおおっ!?」


 メテオとクエイクは驚きの声を出すけど、決してあきらめたわけじゃない。


 じゃあ、何かというと、凱旋盗の人が放った熱を真っ正面から受け止めようという腹積もりなのだ。


 ごがぁああああああああ!


 まるで冗談みたいな音を立てて、こちらに向かってやってくる熱の塊。

 これまでの私なら体をこわばらせて、身構えてしまうだろう。


 だけど。



「ふぅ、気持ちいいい……」


 今の私は十分にリラックスしていた。

 ととのったことによって、余計な緊張を手放すことができたのだ。


 そして、この体を包む熱が、私の中に染み込んでいくのを観察する。

 私の体の、魂の真ん中に降りていく、そんな様子をイメージしながら。


 熱いとか、寒いとか、そんなんじゃない。

 熱は命の表れで、私はその母体なのだ。

 そして、それがただただ帰っていく、そんなイメージを。


 結果。


「き、消えたぁああああ!? いや、吸い込んだんちゃう!? 」


「うっそぉお、そんなんあり!? どういう化け物!?」


 勘の鋭い猫人姉妹の言うとおり、私は凱旋盗の人が放った熱を体に取り込んでしまったのだ。

 どうしてそんなことができたのか、それはわからない。

 わからないけど、私ならできるという確信があったのである。

 ふぅむ、恐るべし、「ととのう」ってすごい。


「ふふふ、あんたの熱は美味しく頂きました!」


 大泥棒に対して、盗んでやったと小粋なことを言う私なのである。

 とはいえ、熱の吸収にはまだちょっと甘いところがあったようだ。

 体の一部が少しだけ火照っているのを感じる。


「えいやっ!」


 そういうわけで、私はその一部を上空に発射。

 

 ちゅどかぁあああん!!


 などと、妙に大きな音を立てて、空一面に大きな煙が広がっていくのだった。

 なんでいちいち爆発するんだろうか。不思議だ。


「な、な、なんだ、吸い込んだだとぉ!? そんなことが許されるとでもぉおおおお!!」


 凱旋盗の人はなおもこちらに向かって攻撃を仕向けてくる。

 もはや彼女の背後の顔はなくなっていて、その髪の毛は元に戻っていた。

 それにもかかわらず、抵抗するなんて往生際が悪いというか。


 彼女の眼は血走っていて、明らかに正気を失っているようにさえ思える。

 顔色だって良くないし、首からほっぺたにかけて大きなアザがあるし。


「……ん? アザ?」


 ここで私はぴんときたのである。

 そう、アザと言えば、うちの村に来た当初の誰かさんも顔にアザがあったのだ。

 彼女はそのあざが一生取れないとか悩んでいたけど、それは呪いによるものだった。


 呪いというのは恐ろしいもので、正気を失わせたり、やたらと攻撃的にさせたり、人の人生を狂わせるものなのだ。

 あの凱旋盗の人が凶行に走ったのも、呪いのせいだったのかもしれない。


 呪いならば解決するのは簡単だ。


「メテオ、あんたのおかげで、この勝負、勝ったよっ!」


 私は空間袋を構えると、あるものが出てくるように念じる。

 それはメテオの呪いをかき消した、私の大好きなアレである。


 さぁ、これでキレイさっぱりしちゃいなさいっ!


 どどっどどどどっどどどおおおおおお!!!


 私は空間袋に入っている温泉水をありったけ凱旋盗にぶち込むのだった。



「な、なんだ、この水は!? くそ、力が抜けて、こ、こんなところでぇええええ」


 凱旋盗は迫りくる水にもだえ苦しみ、悲鳴をあげる。

 うぅう、ごめんね、本当はお湯につけてあげたいんだけど抵抗されるだろうし。


 あなたが改心したら、温泉に一緒に入ってあげるから我慢しなさい。


「お、お湯攻撃ぃぃぃいいいい!?」


「ひぃいい、変な煙が上がってるけどぉお!?」


 凱旋盗からはしゅわぁああっと水蒸気が吹き出し、まるで高温で熱したヤカンのような雰囲気。

 ふぅむ、どうやらこれが呪いの解けるサインなんだろうか。


 私はお湯ちゃんに祈りを込めながら、ありったけのお湯をぶつける。

 彼女の呪いが解けて、改心しますように。



「ぐ……みごとだ……」

 

 一分後。

 凱旋盗の顔から、例のアザは完全に消えてしまう。

 思った以上にみずみずしい肌をした、お姉さんが誕生したのであった。


 ふふふ、うちの温泉の凄さを思い知ったかしら。


「しょ、ユオ様の勝利ぃいいいいい!」


「凱旋盗を温泉パワーでやっつけたぁあああ!」


 そんなわけで私の勝ち名のりとなるわけなのである。

 自分の力が奪われたと思った時は正直焦った。

 だけど、なんとかなったし、今回の戦いは力を受け入れるいい機会になったのかもしれない。

 

「灼熱よ……すまなかったな。せっかくの街を……」


 凱旋盗の人は闘技場の床にうずくまったまま、謝罪の言葉を口にする。

 彼女の顔からは毒気がすっかり抜けて、いい感じになったと思う。

 ふふふ、謝ってくれたのなら少しは許してあげようかしら。


「まぁ、あんたも呪われてたんだし、多少は大目に見てあげるわ」


 私は彼女に右手を差し出す。

 決着はもう着いたのだし、これで終わりと言っていいだろう。

 さぁ、古文書のありかを聞きださなければ。


「ぐ……、そうもいかんのだ。……契約は絶対なのでな」


 彼女が力なく笑うと、その皮膚がぼろっと崩れていくのが分かる。

 ひぇえええ、どうして!?

 温泉が肌にあわなかったとか!?


「灼熱よ、感謝する。それと、サンライズ、やっと、わかったぜ。……欲しがるだけではいつまでも足りないままだということが」


 彼女の瞳から急激に光が失われていき、まるでうわ言のようなことを話し始める。

 ちょっと待ってよ、さっきまですっごく元気だったじゃん。

 

「リリ、エリクサー、この人、やばいよ! どうにかできない!?」


 このままじゃまずい。

 こちらに回復係の二人を呼び出すも、二人は悲しい顔をして首を横に振る。

 回復魔法をかけても、回復薬を塗っても一切の手ごたえがないのだ。


 凱旋盗の人はまるで泥人形から一気に水が抜かれていくように、ひび割れていく。

 ひぇええ、もしかして、この人、呪いが本体だったとか!?


「……せい、おうにきをつけろ…」


 彼女はかすれた声でそう言うと、まるで土人形のようにボロボロになってしまうのだった。

 どういうわけか、彼女の胸元からは大きな魔石が出てくるのみで、あの凱旋盗の人はいなくなるのだった。


 ちょっとぉおおお、せっかく戦いからの友情が始まりそうな展開だったのに。


 不覚にも涙が出そうになる。

 いったい、全体、この人は何だったのか。

 温泉で崩れる体質なんてあるんだろうか、なんて思いながら。



「こいつは……ゴーレムだな……」


 私がおたおたしていると、ドレスがぽつりとつぶやく。

 ゴーレムといえば、レミトトさんのところで見たものもそうだった。


 っていうことは、彼女は作り物だったということだろうか。

 あんなに生き生きとしていたっていうのに。



「……おそらく、わしらが殺した後、何者かによって作り替えられたんじゃろうな」


「そんなことができるのは……あのババアぐらいか?」


「姉上、いくらなんでも師匠をババアというのはいかんぞ。そもそも自分も百歳近いのに。それにこういうのが好きなのは他にもいるだろう。聖王とか」


「あんの極悪ババアか……」


 村長さんやイリスちゃん、あるいはイシュタルさんたちは何やら難しい顔をして話し合っていた。

 ふぅむ、なるほど、ゴーレムだったのか。


 ってことは、この魔石が凱旋盗の本体ってことになるのかな?


 よっし、決めた!



「ドレス、あんた、この凱旋盗の人を修理してほしいの」


「ひぃいいい、これを!? 修理!?」


 私は泥人形の中から、凱旋盗の人の魔石を取り出すとドレスに見せる。

 ドレスはびっくりしたような声を出す。


「大賢者のレミトトさんって人が協力してくれるかもだから、頑張ってみようよ」


「大賢者!? レミトト!? へ? それって、おとぎ話の人だろ?」


 目を白黒させるドレス。

 そっか、レミトトさんっておとぎ話に出てくる人なんだ。


「その人、生きてるよ」


「はひゃっ、生きてる!? や、やれって言うのなら、やりますけども? でぇえええ」


 そんなわけで凱旋盗の人を復活させるプロジェクトをドレスに任せる私なのであった。


 いい子ぶりたいわけじゃないけど、彼女は改心した素振りを見せたのだ。

 生き返るなら復活して欲しい。

 それに最後のメッセージみたいなのもよくわからなかったわけで、このままじゃ古文書が手に入らない。 



「ほんなら、この勝負、禁断の大地の勝利ぃいい!」


「灼熱の魔女様にかなう奴なんておらんわぁああ!」

 

 凱旋盗の人をどうするか決めると、メテオとクエイクが大きな声でアナウンスをする。

 すると、どうだろうか、いつの間にか観客たちは席に戻ってきていて、大きな声で声援を送ってくれるではないか。


 あわわ、顔を隠しようがないよ。ひえぇえ。


 とはいえ、それでもいいかな、なんて思う自分がいるのも事実。

 怖がられるのは好きじゃないけど、自分の熱の力が少しは好きになったというか。

 この力は平和のために使っていこうという思いを新たにするのだった。


「ユカさまぁあああ! おめでとうございます!!」


「ありがとぉおおおおおお!」


 観客の皆さんは無茶苦茶な笑顔で私たちの健闘を讃えてくれる。

 頑張った甲斐があったとでも言うべきなのかな。



 さぁて、祝勝会もかねて温泉パーティをするよっ!

 ぐふふ、汗を落として、みんなですっきりしちゃおうじゃないの!



◇ 聖王アスモデウス様、怒りに任せて城を破壊する


「な、な、なんだぁああああ! なぜあれを吸い込めるぅううううう!?」


 聖王国のアスモデウスは映し出された映像に向かって絶叫する。

 それもそのはず、とんでもない熱量をユオがすべて吸い込んでしまったのだ。


 しかも、しかもである。


 彼女は茶色い虫型のモンスター、魔王虫コックローチを奇襲用に用意していたのだが、ユオが上空に発したエネルギー波によって駆逐されてしまったのだ。

 万が一、凱旋盗が敗れた場合には、上空から降り注ぐはずだった超高額なモンスターである。

 しかし、その計画も未然に防がれてしまった。

 

「おんのぉれぇええええ!」  


 怒りに駆られたアスモデウスは玉座をボロボロに破壊する。

 それにも飽き足らず、強力な魔法を発して城の壁に穴をあける始末である。


 部下たちはその怒りが静まるのを待っていることしかできないのだった。

 彼らはアスモデウスの後ろに真っ黒い渦が現れるのを垣間見る。


 それは凱旋盗の後ろにあったものよりも、遥かに大きく、そして、邪悪な色に満ちたものだった。



◇ 一方、その頃、レミトトさんは


「ひぃいいい、あれを作ったのは私じゃないぞぉおお!?」


 一部始終を見守りながら、イリスの邪推に震え上がるのだった。



【魔女様の発揮した能力】

熱吸収(初級):敵の発した熱を吸収する魔女様らしい大らかな技。吸収した熱は再利用することもできるので、非常にエコである。まだまだ初級であるため、単純な熱しか吸収できない。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「未だに初級のスキルが出てくるの?」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークをいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

メイドさんの活躍する新連載スタートです! 下のURLをクリックしたら見られます

https://ncode.syosetu.com/n0699ih/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

書籍版第三巻が発売中です。
l017cqekl6nkc64qf50ahkjj6dry_vk2_dc_ix_7qao.jpg

コミカライズ版第1巻が発売中です。

g2opjx6b84b9kixx3rlfe0tedyf_1b5q_dc_iy_2tr1.jpg
― 新着の感想 ―
[良い点] 読み止まって此処まで読んだ感想。一人一人個性がはっきりしてるから久しぶりに読んでも忘れない。素晴らしい。 [一言] あれで初級だと...!? どこぞの極意初級って事!? すんごいね!
[良い点] 相変わらず話のテンポが良いですね。 しばらくの間読めなくてかなり話数が積まれ出ましたが、サクサク読めます。 [気になる点] 前々から熱を与えるだけじゃなく、一定に保てる様に調整したり、温め…
2022/07/23 21:26 ひきこもり納豆
[一言] ……熱その物しか吸収できないから初級? つまりさらに上のランクだと分子運動とかエントロピー的な物を制御できるやつでは? ……それ普通に神とかの類よりよっぽどヤバいんですけど?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ