270.魔女様、灼熱のスキルを奪われる!? しかし、どういうわけか見切っちゃってます。一方、その頃、ララはとある場所を目指します!
「灼熱の魔女よ、残念だったな、お前のスキルは俺が奪った!」
そうこうしていると、凱旋盗は大きな声で何やら物騒なことを言い出す。
私のスキルを取ったとか、どうのこうの。
「おぉっとぉおお、負け惜しみみたいなこと言い出したでぇ?」
「モノと違って、他人様のスキルが簡単に盗めるかっちゅうねん! このアホンダラ、どつきまわしたるぞ!」
すかさず、茶化すメテオとクエイク。
どっちかというと、クエイクの方が口が悪い。
観客席からも笑い声があがる。
そりゃそうだよね、スキルは神殿で授かった固有のもののはず。
盗み出せるはずがないのだ。
とはいえ、盗んでくれるのなら、それはそれで嬉しい部分もある。
だって、そのおかげで灼熱の魔女だなんて勘違いされているわけだし。
ま、盗めるなんてことはないだろうけど。
「笑っていられるのも、今のうちだぜ?」
凱旋盗の人はそう言うと、顔を覆っていた包帯をばばっとはぎとる。
これまでぐるぐる巻きにして隠していたため、どんな顔をしているのか知らなかったのだ。
「げ……女の人だったんだ……」
私の目の前に現れたのは、魔族の女性だった。
年齢は分からないけれど、紺色の髪の毛に凛とした顔立ちでかっこいい雰囲気。
スレンダーな体型だし男の人だとばかり思っていたよ。
彼女の顔には青いあざのようなものが複数ついていた。
「ありゃああ、凱旋盗は女やったんかいいい!?」
「うっそぉおお、ほんまに!?」
メテオたちのアナウンスもあって、観客たちもざわざわし始める。
確かに意外だよね、自分のこと「俺」って呼んでたし。
「もう一度言おう、貴様のそのスキルは俺たちが奪い取った! お前はもう一切の技が使えない!」
彼女は私を指さして、まるで宣告するような振る舞いをした。
時間を稼いでいるわけでもなさそうだし、そのフリに一体、どんな意味があるんだろうか?
私がのんきにもそんなことを考えている時だった。
「……神よ、約束は果たした。力を授けてくれ」
彼女は敬虔な信徒みたいなことを言い出す。
すると、どうしたことか彼女の後ろに黒い渦巻きが発生したのだ。
それはあの魔族のベラリスがまとっていたものによく似ていた。
しかし、もっと不吉な色をしているようにも見える。
「な、なんやあれ!? 凱旋盗に黒いもんがまとわりついてるでぇっ!?」
メテオの言うとおり、毒々しい黒い渦は彼女を包みこむ。
特に謎なのが、凱旋盗の人の髪の毛をたっぷり覆い隠していることだ。
な、なんなの? 頭部を守る魔法にしちゃ奇抜過ぎない?
「……ふふふ、貴様、この髪に心当たりがあるだろう」
そして、数秒後、黒い渦を抜けて彼女は現れた。
その姿を見て、絶句する私。
なぜなら、彼女の髪の毛に赤い筋が浮かび上がっていたからだ。
その筋はまるで生き物のように揺らめいていて、炎のように赤い。
その色を見ていると、私の鼓動がどういうわけか速くなる。
しかし、一つだけ問題があった。
「……ぜ、全然、知らないんですけど?」
そう、そんな奇抜なヘアスタイルに心当たりなど全くなかったのだ。
見たことなどこれっぽちもないし、羨ましいとも思わない。
強いて言えば、エリクサーとかカルラの髪の毛に似ているけど、あんなふうに禍々しくないし。
私を誰かと勘違いしてるとかだろうか。
ひぇええ、気まずいなぁ。
それに、この人、試合中に髪の毛に色を付けたりとか何がしたいわけ!?
私を混乱させようという算段なんだろうか?
謎が謎を呼び、たじろいでしまう。
「あ、あっ、あっ、あれはっ!? あれは、うっしょぉお!?」
「み、見覚えがありゅやつやぁん!!?」
しかし、メテオたちは何だか驚き焦った声をあげる。
ふぅむ、あの子たちはあのヘアスタイルに心当たりがあるようだ。
……なんで?
「灼熱の力を身をもって思い知るがいい、いでよっ、熱円!」
彼女の話には続きがあった。
しかもそれは、より信じられない方向で。
彼女が手をかざすと、真っ赤な円が発生。
ふぃぃいいいん………
私の身長と同じぐらいのサイズのそれは、私の隣を通り過ぎると観客席の下の超硬質レンガの壁に穴をあけ、外側にまで貫通する。
その威力はまさに、私の放つ熱円そっくりだった。
しかも、それだけじゃない。
熱かったのだ。
その熱の円が私のそばを通り過ぎるとき、明らかに熱を感じたのだ。
私は自分の技をいくら放っても、熱いなんて感じたことは一度もない。ちょっと涼しいぐらいである。
それなのに、なぜ!?
「うっそ、これって……!?」
まさか本当に私のヒーターのスキルを奪われちゃったわけ!?
とにかく、凱旋盗が出した熱円は本物だった。それは確かだと思う。
やばいよ、これ。
私の能力を持ってる奴が暴れちゃったら、この会場がめちゃくちゃになっちゃうじゃん。
私は闘技場に立った時点で、一応の覚悟は決めている。
だけど、観客の皆さんが巻き添えになったら非常にまずい。
「……観客のみなさぁん、ちょっとした異常事態の発生やで。ゆっくりと立ち上がって、非常口から外に出てくださいねぇ。凱旋盗、今はちょっとタンマや! ちょい待ちやぁ!」
「避難中に人を押したら殴るでホンマ! ほら、はよう行って!」
混乱する私をよそに、素早い対応を見せたのはメテオとクエイクだった。
彼女たちは観客を冷静に避難口へと誘導する。
「へっ、勘のいい猫人どもめ」
凱旋盗の人は観客たちが避難するのを待ってくれていた。
もっと無法者かと思ったけど、かなり意外だ。
残っているのは、私と凱旋盗、そして、応援席にハンナやイリスちゃんたちという状況。
さきほどまで騒がしかった闘技場がしぃんと静まり返るのだった。
「次はお前をぶった切ってやる! 喰らえっ!」
闘技場が静まり返ったのを確認すると、再び戦闘開始だ。
凱旋盗は私に向かって熱視線を飛ばす。
「はうわっ!?」
幸いなことに追いかけてくる奴ではないので、なんとかかわすことができる。
なぜ避けられたかって?
それは分からない。
熱視線はかなり速いはずだけど、私のよりも遅い気がしたのだ。
それに、なんとなくこっちの方向に来るって分かったし。
そしたら、なんとなく体が動いたのである。
しかし、これって当たったら死ぬ奴でしょ。
自分の技ながら、あっぶな!
熱視線が到達し、がががががっと、空になった観客席に亀裂が入る。
あわわ、お客さんを避難させて本当に良かったよ。
「でりゃっ! ……あれ?」
対する私は防御するために熱の壁を出してみようと試みるも、まさかの不発。
熱の盾どころか熱鎧も、うっそぉおお、使えてない!?
額に汗が流れてくる。
これは間違いなく、奪われている……?
「あぁっとぉおお、ユカ様、ピンチっぽいでぇええ!?」
「せやけど、ユカ様ならやってくれる! ぜったいに!」
ほぼ無人の闘技場にも拘わらず、メテオとクエイクのアナウンスは続行するようだ。
観客と一緒に逃げちゃってもいいと思うのに、律義な二人である。
とはいえ、私は彼女たちの言葉を受けて、少しだけ冷静さを取り戻す。
そうだよ、私ならやれる。
どこかに逆転の糸口があるはず。
私は猛烈な勢いで飛んでくる熱視線をしゅばばっと避けながら、凱旋盗に一矢報いる方法を探し始めた。
◇ イリスとサンライズ、ユオの窮地を探ります
「なんということだ……」
ここはユオを応援するための応援席である。
禁断の大地の面々は大いに困惑していた。
凱旋盗が「スキルを盗む」と宣言し、事実、ユオの技を盗んでしまったからだ。
スキルを盗む、特に灼熱の魔女の技を使うなど、あり得ない。
例え技を真似したところで、体がもたないはずだ。
そう笑っていた女王イリスであったが、髪の毛に赤い模様が浮かんでいる様を見て驚愕してしまう。
さらに凱旋盗の放った技は明らかにユオの得意とする技の熱円である。
彼女自身、その技を見たからこそ、ただのモノマネではないことが分かる。
しかし、若干の違和感があることも否めない。
以前、彼女たちが相対した凱旋盗はこんな規格外の能力は持っていなかった。
スキルが進化することも往々にしてあるが、それにしても飛躍し過ぎている。
まるでこの世の理を捻じ曲げたかのような技なのである。
「イリス、あれをどう見る?」
「はうわっ、しゃ、しゃんらいずしゃま! ……でなくて、サンライズではないか。貴様、久しぶりだと言うのに、何だその言葉は……」
頭をフル回転していたところに、突然、サンライズが話しかけてきたのだから、イリスは驚きのあまり前につんのめる。
まるで10代の乙女のような反応をしてしまうのだった。
「イリスは相変わらず小さくてかわいいのぉ」
「ぐむむっ……」
「それで、あれをどう思う? わしらが戦ったやつと同じとは思えんが……」
焦るイリスを前に、サンライズは今日も平常運転である。
年を取って神経が図太くなったのもあるが、この男、昔から色々と鈍感なのであった。
「凱旋盗の顔は前に会ったやつと同じだ。しかし、声も喋り方も明らかにおかしいし、あんなアザは顔になかったはずだ。奴の技はユオの技そのものだが……」
イリスは自分の分析をある程度まで喋ると口ごもってしまう。
結論を言おうにも、まだ確証はもてないのだ。
「……あれが本当にスキルを奪っているかは分からない、じゃな?」
サンライズは敢えてイリスの思考を読んで、言葉の続きを口に出す。
イリスは彼の勘の鋭さに憮然とした表情を浮かべるも、「そうだ」と頷くのだった。
凱旋盗がユオのスキルを使っているのは事実と認めるとしても、ユオがスキルを使えないのは明らかにおかしい。
何らかのからくりがあるに違いないと、二人は踏んでいた。
「幻術か心理誘導か、何らかの仕掛けでもってユオの力を制限している可能性が高い。もしも、私がユオとやり合うなら、そうするだろう。あんな化け物と真っ向勝負など誰がするか」
「逆に言えば、気づけば戻るということじゃな」
イリスとサンライズは冷静な口調のまま、事態を分析する。
「こりゃあ厄介じゃのぉ。……しかし、ユオ様ならなんとかしてくれるじゃろう。ほれ、あの目から出る殺人光線をさくさく避けとるぞい。すごいのぉ、わしでも避けられるかのぉ」
闘技場で回避し続けるユオを見て、サンライズは顔をほころばせる。
彼はユオの勝利を感じていた。
根拠はないが、長年の経験から負けるはずがないと確信していた。
そもそも、能力が本当に失われているのなら、敵の攻撃を避けられるはずがない。
サンライズはそう見ていたのだった。
「ふっ、ずいぶん、あの小娘を買っているのだな。まぁ、気持ちは分からんでもないが」
ユオが窮地に追い込まれているにも関わらず、イリスは少しだけ温かい目をしている。
もしも、彼女たちの分析が正しいのなら、ユオに勝ち目はある。
「ユオよ、気づくのだ……」
イリスは拳にぎゅっと力を入れるのだった。
◇ ララ、あることを確かめに走ります!
「”疾走”れ、シュガーショック!」
一方、その頃、ララはリリの操るシュガーショックに乗って走っていた。
凱旋盗の髪の毛の色が変わった時に、彼女はいち早くユオの異変に気づいたのだ。
彼女はユオのピンチを切り抜けるべく、村のとある場所へと向かう。
猛烈な速さの中、二人はシュガーショックの背中をぎゅっと握りしめるのだった。
【魔女様が発揮した能力】
熱回避(半自動):攻撃の熱を察知し、自分に到達する前に回避する能力。身体能力を魔女様の内側にある熱が自動的に補助し、軽やかな回避術を可能にさせる。魔女様は「なんだか避けられた」程度にしか思っていない模様。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「魔女様、あの髪の毛に見覚えないんかい……」
と思ったら
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