269.魔女様、凱旋盗と最終戦を始めます! 開始早々、思わぬものを提示され、とんでもない衝撃を喰らう
「お前が灼熱の魔女、ユオ・ヤパンだな? 記念に握手をしてくれ」
試合開始前のことだった。
凱旋盗の人は殊勝にも私に握手を求めてくる。
「ユカ・ゲェンよ」
その手はあちこちに包帯が巻かれていて、少しだけ痛々しい。
私はあまり力を入れずに握手をしてあげることにした。
とはいえ、私たちの空気が和やかになるなんてことはない。
私と凱旋盗はにらみ合いながら、やや離れた位置に向き合うように立つのだった。
「それでは開始ぃいいいいいっ!」
そして、メテオの高い声が闘技場に響く。
観客の声が闘技場にわぁっと広がる。
「てりゃっ!」
次の瞬間、私は目の前の人物に熱失神を発動。
バトル展開の面白さがなくて悪いけど、これにて終了。
クレイモアさえ卒倒させる技なのだ、たぶん、きっと大丈夫なはず。
「……ふふ、甘いぜ。その技は知っている」
しかし、目の前の凱旋盗の人は首をこきこきならすのみである。
すなわち、私の熱失神が効いていないという状況。
もちろん、めちゃくちゃ無理をしているって可能性はあるだろうけど、包帯のおかげで顔色が読めない。
ふぅむ、これが使えないとなると別の技にするしかないよ。
熱円?
口から出すやつ?
追尾する熱視線?
どれもこれも危険な技なんだよなぁ。
死なない技を探すのが難しい。
適度に蒸し焼きにする技とかないんだろうか。
「いやぁ、あんたには驚いたぜ、禁断の大地に街を作り出すなんてな。ここはまるであの本に書いてあったような街並みじゃないか」
戦いの最中だというのに、凱旋盗の人はペラペラとしゃべり始める。
相手は極悪な犯罪者だ。
普段の私なら、聞き入ることはないだろう。
しかし、奴は私のあの本のことを知っているかのような口ぶりなのだ。
これは明らかに異常なことだよね。
ちなみに例の古文書は私の宝物であり、懐にある空間袋にずっと入っていた。
つまり、凱旋盗に盗まれたわけじゃない。
「……なんで、あんたがそれを知ってるわけ?」
間合いを取りながら、思わず聞き返す私である。
これは別に敵のペースに乗せられているわけではない。
だって、盗賊が私のおじいさまの古文書を知ってるってありえないでしょ。
そりゃあ聞きたくなっちゃうよね。
いや、聞いとかなきゃいけないでしょ。
「何十年も前の話だ。俺はこの村に盗みに入ったのさ」
「な、なんですって!?」
「使えそうなものはあらかた頂いたが、あのボロボロの本はさすがの俺もいらなかったんで置いていった。そしたら、驚いたぜっ! まさかあの本どおりの街並みを作る奴が現れるなんてなぁ!」
この男、私が思っていた以上の悪党だったらしい。
すなわち、私のおじいさまのコレクションを盗み出していたのだ。
「もしかして、温泉関連の不思議なグッズとか盗んじゃってるんじゃないでしょうね!?」
私の頭には不吉な予感が交差する。
そう、この男は非常に貴重なものを盗んだ可能性があるのだ。
「ふははは! 盗んださ、黄色いアヒルも、黄色い桶も、そして、美しい景色の描かれた他の古文書もなぁっ!」
高笑いする凱旋盗。
愕然とする私。
「ほ、他の古文書……!?」
そう、奴は言ったのだ。
私の持っているもの以外にも、古文書が存在することを!
「なぁんですってぇえええ! それ、うちから盗んだものでしょ! あんたのものは私のものよっ! 返しなさい! そしたら、全部チャラにしてあげるわ!」
思わず絶叫してしまう。
我を忘れるとはこのことだろうか。
凱旋盗が「新たなる」古文書を持っていると知り、私の内側に猛烈なショックが走ったのだ。
早くその古文書を読んでみたい。
こんな奴と戦ってる場合じゃない。
そんな思いが沸々と湧いてくる。
もっとも最後のチャラにしてあげるは口が滑り過ぎたとは思うけど。
「そうかい、俺に打ち勝つことができたら、欲しいものの在りかを教えてやるよっ! ユオ・ヤパン! 死ねぇええ、【血獄の千本】!」
凱旋盗の人はそういうと、いきなり空中に猛烈な数の刃を出現させる。
一つ一つに赤い血液みたいなのが滴り、どう見ても悪趣味である。
刺さると痛そうである。
「おぉっとぉおお、睨み合い状態から先手を打ったのは凱旋盗やぁあ!」
「当たったら痛そうやでぇええ! 当たるとは思えへんけどぉおお!」
メテオたちの解説が終わらないうちに、奴はこちらに剣を飛ばしてくる。
うぅ、こういうの嫌だなぁ。
そんなわけで私は熱鎧を発動。
私の周りを高温の熱で覆うことで、どんな攻撃も通さない技である。
剣ぐらいなら、なんとかなるはず。
ぶしゅんっ、ぶしゅんっなどと音を立てて剣はどんどん消えていく。
よぉし、大丈夫だね。
うふふ、それじゃあ、もう一つの古文書のためにも頑張っちゃおうかな?
温泉リゾートについての新しいアイデアとか得られるかもしれないし!
「余裕だな! 貴様のスキルは、物を温めるスキル! そうだろう?」
「そ、そうだけど……?」
奴は剣を飛ばしながら、なおも問答を続けるつもりらしい。
私は彼を殺さずに勝つ方法を考えていたため、素直に返事をしてしまった。
「ふははは! お前のような、持てる者は知らないだろう! 俺たちのような、弱者の怨念を! 奪われることしか知らない俺たちの恨みをっ! 【滅びの掌】!!」
彼の背後には巨大な石の手のひらが出現し、私にどかぁっと飛んでくる。
ちょっとぉお、こんなので叩かれたら……別に痛くはないけどさ。
「あぁっとぉおお、凱旋盗、頑張ってるけど効果なさげで涙目!」
「無駄無駄無駄無駄ぁああああ!」
メテオとクエイクは相変わらず煽りたっぷりのアナウンスである。
気持ちはわかるけど、相手をくさしてばっかりでいいんだろうか。
しかし、確かにその通りで、凱旋盗はさっきから無駄な攻撃ばかりを当ててくる。
いろんな技が使えるらしいけど、別に痛くも痒くもないのである。
ひょっとして、何かを企んでいる?
ふぅむ、熱失神をもっと強力にしたバージョンを放ってみようかしら。
◇ 凱旋盗さん、内心、めちゃくちゃほくそ笑む
ふははは!
何もかもが思い通りだ。
身体への接触。
報酬の提示。
名前の確認。
スキルの確認。
攻撃を敢えてくらう。
5分以上の対峙。
……条件が全てが揃ったぞ。
灼熱の魔女よ、刮目してみるがいい。
貴様の技を盗ませてもらうぞっ!
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「次なる古文書はどこの地方!?」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークやいいねもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。






