266.聖王国の受難:聖王アスモデウス様、ほくほく顔で村の崩壊を眺めようとするも、まさかの事態に怒り心頭。しかし、最後の望みは捨てません!
「聖王様! 禁断の大地の連中の崩壊する様をご覧ください!」
「くるしゅうないぞ」
ここは聖王国。
モンスターとの共存を旗印にしている国家である。
その宮殿のひときわきらびやかな椅子に腰かけた女は、魔道具によって投影された映像を眺めてほくそ笑んでいた。
聖王の名前は複数存在するが、ここ百年ではアスモデウスを名乗っていた。
魔物さえも慈しむ聖なる王者として、この国に君臨する存在である。
彼女の聖王国は禁断の大地を乗っ取るために、魔族のとある勢力と共闘し、凱旋盗に魔物を供与していた。
「禁断の大地の連中には煮え湯を飲まされてきたが、それももう終わりだ」
聖王の外見は息を吞むほどの美女である。
しかし、その本質は目的のためならば手段は問わない、凶暴な女だった。
彼女の目の奥は緑色に光り、尋常の存在ではないことを予感させる。
「ははっ! 凱旋盗に与えた魔導巨兵と我が魔獣使い軍団が必ずや敵を殲滅してくれるでしょう! 魔導巨兵はいい始動試験になりそうです」
聖王の配下の男はひざまずいて、祝いの言葉を投げかけた。
彼らの計画には魔導巨兵の運用試験も含まれていた。
今回の戦いで弾みをつけて、ならず者国家の主要人物や犯罪者に売りさばこうと思っていたのだ。
「これで、災厄の六柱のうちの2つが手に入ります!」
「調べによると、禁断の大地には魔石喰らいのラヴァラガンガと、罪の精霊セブンシンズが封印されているとのこと!」
彼らの目的はユオの村にあるダンジョンに眠るモンスターだった。
そのダンジョンには災厄の六柱と呼ばれるモンスターが眠っているはずであり、聖王はそれらを復活させたいと考えていたのだ。
もっとも、彼女たちは知らない。
災厄の六柱はとっくに復活して、ユオの『村人』になりさがっていることなど。
「これで我々が四柱の災厄を抑えることになる。ふははは、我々が一番乗りだな」
「その通りです! これが叶えば、リースの女王や他の魔王など取るに足らないものになるでしょう!」
「ふははははは! その通り! もっとも、リースの女王など、もはや過去の遺物にしかすぎんがな。あんな薔薇女なぞ、ゴミ当然にしてくれよう!」
「わははは! まったくです!」
女王とその配下の者たちは機嫌よさげに大声で笑う。
きらびやかな宮殿の中に彼らの邪悪な笑い声がひびくのだった。
「さぁ、愚か者どもの末路をご覧ください!」
彼らはユオ達の村が崩壊していく様子を見物しようと目論んでいた。
禁断の大地の勢力は彼らの覇権を邪魔する勢力である。
魔物に襲われて崩壊しようが全くもって心が痛まないのだ。
しかし、数分後、その笑顔はかちこちに凍り付くことになる。
「ひぎゃああああ! なんだこの植物は!? からみついて離れないぞぉっ!」
「魔導巨兵が凍ってるぞぉおおお!?」
「うわぁああ、金髪の化け物女がこっちに来たぁあああ!!」
凱旋盗のところに派遣していた部下たちが阿鼻叫喚の中でのたうち回っているのだ。
いずれも黒い仕事ばかりをしかけてきた歴戦の魔獣使いである。
にもかかわらず。
彼らはララたちの攻撃に何の反撃もできずに次々と吹っ飛ばされていく。
彼らの操っているのはそんじょそこらの化け物ではない。
一体辺り数億ゼニーの出費をもって復活させたモンスターである。
こんなところで簡単に撃破されていいものではないはずなのに。
「なんだあの金髪の女は!? 」
「あ、あ、あの女はパズズを撃退した女の一人ですっ! ここでも出張ってくるとは!?」
聖王の部下たちは目を見開いて、感嘆の声を漏らす。
にわかには信じがたい光景が目の前で繰り広げられており、聖王に忖度する暇もなかった。
「おいおい、クレイモア、殴るときは顔じゃなくて腹を狙えよっ! 傷が残っちまうだろっ!」
「でえりゃあっ、なのだっ!」
「よぉっしゃあああ! 高級素材ゲットだぜっ! うしし、メテオにはやんねぇぞっ」
さらに腹立たしいのは、ドワーフの女が戦い方を指揮し、魔導巨兵を次から次へと最小限の損傷で倒してしまうことだ。
「よぉっしゃ、運んじまうぞっ。じいさんたちも根性見せろっ!」
「オーライ、オーライ! こっちに引きずるぞっ!」
彼女と彼女率いるドワーフの面々は満面の笑みで魔導巨兵を運んでいく。
その様子はまるで集団で狩りを楽しんでいるかのように映る。
「な、なんて大胆な奴らだ……」
「くそっ、これだからドワーフは嫌いなんだ」
さきほどまで得意顔をしてきた部下たちは怒り心頭の表情。
ついで、魔導巨兵が素材としてしか見られていないことを知ると顔面蒼白となってしまう。
彼らは魔物を倒したそばから運び出すなど、貪欲な人間がいるとは思ってもいなかったのだ。
「な、な、なにをやっているのだっ!? せっかくの魔導巨兵だぞ、貴様らの部下は無能なのか!」
「ひ、ひぃいい、申し訳ございません!」
当然、面白くもないものを見せられて怒り狂う聖王である。
本来であれば、禁断の大地の村が一方的に壊滅する様子を見るだけだったはず。
美しい彼女の額に、怒りの青筋がたつのだった。
それを見た部下は床に頭をこすりつけるほどの勢いでひれ伏す。
「ふくくく……、聖王様、ご安心を! これはただの囮でございます!」
しかし、部下の一人であるハマスは不敵に笑う。
聖王国の魔獣使いたちの狙いは別のところにあるというのだ。
「囮だと!? ハマス、貴様、どういうことだ!?」
聖王はハマスをにらみつける。
彼女の緑色に光る瞳は、ハマスの心を恐怖させる。
だが、それでもハマスは考えを揺るがすことはない。
ハマスには確信があったのだ。
彼女は先日のドワーフ王国の侵略の際に、クレイモアやハンナの力を直で味わっていた。
それがゆえに、力で押しつぶすのは難しいかもしれないと感じていたのだ。
そこで彼女は奥の手を用意していた。
それは禁断の大地の人間を一人残らず駆逐してしまう、まさしく悪逆非道な攻撃である。
彼女は不敵な笑みを浮かべたまま言う。
「今、あの村の上空には黄金蟲ギギラスが飛んで、アレの準備をしております。聡明なる陛下ならば、その意味はお分かりかと!」
などと、自信たっぷりに。
「ギギラスだとぉっ!? なるほど! ふははははは! それならば何の心配もいらぬ! 禁断の大地の蛮族どもよ、せいぜいかりそめの勝利に酔うがいい!」
聖王は黄金蟲の名を聞くと、安心しきった表情をする。
それにつられて部下たちもほっと胸をなでおろし、「ふふふ」と邪悪な笑みを浮かべる。
「許さんぞ、剣聖どもよ! 死んで私に詫びるがいい!」
ハマスは自分に恥をかかせてくれたクレイモアたちをにらみつけるのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「ハマスさん、現場にいてほしかったなぁ」
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